日本M&Aアドバイザー協会の代表理事が語る『失敗しないM&A業者の選び方』
公開日:2017年6月5日 最終更新日:2017年6月7日
M&Aはいかに自分に合った仲介業者(アドバイザー)と出会えるかが勝負になるといっても過言ではありません。今回は日本M&Aアドバイザー協会の代表理事でもあり、アルテパートナーズ株式会社の代表取締役でもある大原社長に、M&Aの仲介業について話をしていただきました。
目次
M&Aは決断のスピードが大事
前川
現在行っているアルテパートナーズ株式会社の事業について簡単にご説明ください。
大原
M&Aの仲介業およびアドバイザーを行っていますが、業種に特化はあえてしておらず、全業種に対応しています。私がM&Aで一番大切なことはスピードだと考えています。最短でM&Aを成約させるということではなく、できるかできないかの結論を早く出さなければならないということです。
まず買い手から説明すると、決断を早く出さなければ他の買い手に取られてしまう可能性があります。売り手は時間をかけて交渉してしまうと、売れなかった場合はまたゼロから始めなければならないのでリスクが生じてしまいます。このような理由からスピードが大切だと考えています。また、お客様と入念なヒアリングを行い、ベストな方法を選択していただいているので、結果としてM&Aの仲介ではなく、売り手と買い手が分かれてどちらかのFAとしてつくことが多いです。
前川
スピードが大切とのことですが、買い手が交渉に入れるか入れないのかの決断の速さなのか、仲介業者がその案件を担当できるかできないかの速さか、どちらですか?
大原
買い手の決断の速さですが、仲介業者がその案件を担当できるかできないかは、即答で判断できる仲介業者でなければ話になりません。
前川
中には対応できない案件なのに、専属アドバイザリー契約してしまう仲介業者がいると聞いたことがありますが、実際にこのようなケースはあるんですか?
大原
M&Aの仲介業またはアドバイザー業には国からの資格や免許のようなものはありません。なので、まだまだ割合的には素人のようなアドバイザーが多いことは事実です。しかし、スピード感がない仲介業者が悪いといっているわけではありません。すぐに売れるような案件でない場合はじっくり腰を据えて、長い間担当してくれるアドバイザーに依頼したほうが売却ができる可能性が高まります。
我々が一番早く売却できるパターンはきちんと利益が出ている頃が前提ですが、最近の傾向としては管理も完璧にできているという会社はほとんどありません。
前川
管理ができているというのはどういうことですか?
大原
例えば財務の管理がきちんとできています。契約書を出してくださいといえば契約書がすぐ出せるということです。しかし、経営管理がぐちゃぐちゃだからといって売却ができないということではありません。これはむしろM&Aでは良い条件だと思っています。ビジネスはいいけど経営管理ができていない会社に対して、M&Aをすることで大手や投資家などの経営管理が入ることによって、ビジネスがさらに飛躍することがあります。
いわゆる立ち上げ屋の人たちはビジネスをゼロイチで作ります。仮に店舗経営であれば5店舗10店舗までは拡大できると思います。しかし、拡大すればするほど社員の管理やクレームの管理などに追われ、彼らがやりたい新しいお店の立ち上げ、新商品の開発ができません。そこで大手の企業に会社の株を売却することで経営管理は大手のノウハウを使い、事業拡大はそのまま行うことができるようになることもあります。
多くのM&Aアドバイザーを育て、事業承継問題を解決
前川
日本M&Aアドバイザー協会の事業について簡単にご説明ください。
大原
日本M&Aアドバイザー協会(以下JMAA)は事業承継に代表されるようなスモールのM&Aをどうやって広めていくかを考えた時の一つの方策です。M&Aは都内の大規模の案件だけではなく地方の小規模案件も大いにあります。しかし、大手仲介業者にとっては採算の合わない小規模案件は取り扱えないと思います。
例えば鳥取からの小規模な案件があったとしても交通費や移動時間を考えると仲介業者にとっては利益がほとんど出ません。仲介業者もボランティアではないので利益が出るかどうかは重要です。であれば、そこに住んでる人がM&Aアドバイザーになって地方の小規模案件を担当できるのであれば、M&Aで事業承継問題を解決できるのではないか、というのが始まりです。なので、JMAAではM&Aのアドバイザーの育成を事業としています。
前川
会員はどのくらいいるのですか?
大原
現時点で85社の会員がいます。まだまだ地方全土にアドバイザーがいるわけではないですが、年々数は増えています。
素人アドバイザーとプロアドバイザーの見分け方
前川
日本にはどのくらいの仲介業者またはアドバイザーの方たちがいるんですか?
大原
今日からM&Aアドバイザーをやると決めた瞬間からアドバイザーになれるので、正確な数字はわかりませんが、500人くらいはいるのかなと思います。
前川
その中で素人のアドバイザーとプロのアドバイザーの割合はどのくらいですか?
大原
まともに稼働している業者は2割程度だと思います。残りの8割は初めての方か、口利き(ブローカー)の方だと思います。
前川
素人とプロを見分けるコツは?
大原
「最近成約した案件の話を2,3分で説明してください」と聞いて下さい。その回答が信じられるかどうかです。きわめて抽象的な話しかできなかったり、焦っちゃうような人は素人です。中には守秘義務があるので全く話せませんという人もいるかもしれませんが、それは経験がないせいでどこまで話していいかわからないということの裏返しです。守秘義務(M&Aの秘密保持契約)があっても、相手が特定されない程度の情報であれば説明できます。
仲介業者選びですべてが決まる?
前川
M&Aの仲介業のあるべき姿はどのようであるべきと考えていますか?
大原
まだまだM&Aは黎明期だと考えています。仲介業の中で一番大手の日本M&Aセンターであれ、年間300案件程度です。事業承継問題で廃業してしまう数が年間7万社あるので、日本M&Aセンターの案件数では事業承継問題は解決できません。ただ、案件が小規模になってしまうとM&A仲介手数料が取れませんので、地元に密着して手数料を安く行える仲介業者が増えないといけないと感じています。
前川
M&Aに仲介業者またはアドバイザーが必要な理由は何ですか?
大原
適切な買い手の紹介はもちろん、条件交渉も必要です。M&Aには完璧なひな形のような条件というものはありません。それぞれの会社によって何を大切にしているのか、妥協できない条件は何なのかが一つ一つ違います。想いを共有し、条件交渉を行うにあたって仲介業者またはアドバイザーが必要になります。
前川
M&A成約をするうえで仲介業者選びはどのくらいの割合を占めていますか?
大原
仲介業者選びですべてが決まるといっても過言ではないと思います。大手だからといって安心してはいけません。実績がある会社は実績に伴う実力や歴史が会社にはありますが、大きな案件も行っているので、小さい案件は後回しになってしまうケースがあります。また、会社の実績としてアドバイザー当たりの年間成約数2.5件と出しているケースもありますが、平均値と中央値を勘違いしてはいけません。
実力のあるアドバイザーは年間7〜8件行っており、ほとんどの人は0から1件の成約という実績です。実力のあるアドバイザーが担当者になってくれるのであればいいですが、新人のような担当者が付くこともあります。なので、仲介業者選びも大切ですが、担当者選びも大切です。いろいろなアドバイザーに会い、話を聞いた中でフィーリングの合った、2〜3社に依頼を出すのがおすすめです。
専属契約は3ヶ月で交渉すべし
前川
アドバイザリー契約を締結すると専属契約になり、他の仲介業者に依頼してはダメというのが通常だと思いますが、どのように複数に依頼を出せばいいんですか?
大原
専属契約を外してもらうように交渉してください。外さない限り契約はしませんといえばいいだけです。ただし、本当に力のある仲介業者は専属契約にしなければ契約しないとなる可能性があります。なぜならば紹介できそうな買い手が5件も10件もあるからです。その場合どうすればいいかというと、3か月だけ専属契約にすればいいのです。3ヶ月経っても買い手を紹介できないのであれば、専属契約を続ける必要性はありません。
需要と供給バランスでは今が売り時
前川
最後に会社売却を考えている経営者に一言お願いします。
大原
売却を検討している経営者はここ5年間くらいに売却したほうがいいと思います。なぜかというと、M&Aは今が黎明期で売り手が貴重なので、値段が高くなる傾向があります。日本ではのれん代として実質営業利益の3倍程度が付きますが、小規模M&Aが活発なニュージーランドでは1倍程度しか値段はつきません。つまり日本も今後M&Aが活発化すれば、これに近づいていく可能性が大いにあります。需要と供給のバランスですが、今は需要の方が高いので今が売り時だと思います。
大原達朗
アルテパートナーズ株式会社 代表取締役
日本M&Aアドバイザー協会 代表理事
前川拓也
株式会社M&Aクラウド 代表取締役CEO