M&Aは事業承継コンサルティングの一手段に過ぎない
公開日:2017年6月19日 最終更新日:2017年6月19日
売却を検討する場合、仲介業に依頼するか、売り手FA(ファイナンシャルアドバイザー)に依頼するかの2種類が存在します。仲介とは、買い手と売り手の間に一人が立ちマッチングを行う形態で、FAは買い手と売り手の双方に一人ずつアドバイザーが立って交渉をする形態です。詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
両方の業務を良く知る、合同会社パインストリートコンサルティングの大門代表にそれぞれのメリット・デメリットを話していただきました。
目次
M&Aは事業承継の一手段に過ぎない
前川
現在行っている事業と他社との違いについて簡単にご説明ください。
大門
M&Aのアドバイザーをやられている会社は基本的にM&Aの専業会社だと思います。しかし、弊社は事業承継の選択肢の一つにM&Aがあるだけだという考えを持っており、事業承継全般のコンサルティングを行っています。
具体的には親族承継をするという選択肢であれば、手続き上のコンサルティングだけでなく、承継者への教育もできる限り支援しています。仮に親族承継ができない場合であればM&Aの選択肢を説明し、M&Aアドバイザーとして成約までコンサルティングを行います。
親族に会社を承継するのか、第三者に承継するのか、結果的に誰に会社を任せるのかの違いだけなので、本質は同じであり、アプローチの仕方もほぼ同じです。
現在の中小企業M&A市場の中心は財務的な問題がなく、売上規模も比較的大きい、皆さんがすぐに買いたくなるような会社ですが、中小企業のほとんどは赤字体質が抜けきれない企業や財務体質に問題のある企業が大半です。このような中小規模の案件はたいていのM&A専門会社はやりたがらないのが実情です。弊社はこのような会社に対して時間をかけて、事業再生を行い、事業承継もしくはM&Aのお手伝いをしています。
仲介業とFA業のメリット、デメリット
前川
御社の特徴として、仲介業ではなく売り手のFA(ファイナンシャルアドバイザー)をメインでやられているというのも特徴だと思いますが、それぞれのメリット・デメリットを教えてください。
大門
欧米では売り手のアドバイザーまたは買い手のアドバイザーがそれぞれに別についているFAが一般的ですが、日本の中小企業M&Aでは仲介方式が一般的になっています。仲介方式のメリットは買い手と売り手を同時に持っているので、スピードも速く、マッチング機能が優れているため、基本的には成約率が高くなる傾向があります。日本の中小企業M&Aのマーケットの成長は、仲介方式が支えてきたといってもよいと思います。
しかし、デメリットとして、本当の意味での中立の立場を貫き通すのはかなり難しいという点があげられると思います。以前勤めていたメガバンクでM&Aの仲介的な場面(売り手と買い手の双方のFAを受けた)に立ち会った経験がありますが、もともと買い手と売り手の利益は相反するものなので、両社の最大利益を追求した上で、双方納得する形にするのは実質的には不可能であり、調整に非常に腐心したことがあります。
弁護士と検事とが同じ人で裁判を行っているとイメージをすればわかりやすいと思います。弊社は事業承継を行わんとするクライアント様のコンサルタントですので、クライアント様の最大利益追求のためにも、基本的に売り手FAとしてM&A案件に関与します。
一方、FAにもデメリットがあります。売り手FAの持つネットワークが案件成約の大きな鍵となるので、FAの持つネットワーク次第では成約まで必要以上に時間がかかったり、売り手に相応しい買い手の発掘ができないこともあります。ただし、それが唯一のデメリットだとは感じていますが、近年M&Aクラウドのようなマッチングプラットフォームも出始めたので、今後このようなデメリットも少なくなるのでは!?と期待しています。
事業承継の最後の砦が「M&A」
前川
御社の事業承継コンサルティングはどのようなことを行っているんですか?
大門
まずは現状認識をすることです。弱点はどこなのか、強みは何なのか、整理しなければならないものは何か、事業資産や税金はどのくらいなのかをマッピングしてコンサルティングしています。より継ぎやすい会社に、より売りやすい会社にするのが弊社のコンセプトです。
前川
事業承継の相談はいくつくらいの年齢の方が相談に来るんですか?
大門
60歳を過ぎた方がほとんどです。去年の暮れに中小企業庁から事業承継ガイドラインが出ました。中身を簡単に説明すると、60歳を過ぎても事業承継を考えていないのはまずいよという内容です。つまり、国としても事業承継問題に危機感を感じているということです。
昔であれば、事業承継は親族か社員が承継しなければ廃業の選択肢しかなかったが、現在ではM&Aの選択肢が少しずつメジャーになっています。親族、社員が承継しなかった場合の最後の砦としてM&Aを考えるのが良いと思います。
前川
承継者への教育というのはどのようなことを行っているんですか?
大門
承継者の能力で何が足りないのかは十人十色なので、教育の内容は個々で違います。しかし、承継で一番大切にしなければならないことは、現在の会社の価値と未来への希望を共有することであり、そのお手伝いをさせていただいております。
2年間の再生コンサルティングを経て売却へ
前川
売り手FA業務を行う上で重視しているものは何ですか?
大門
クライアントの最大利益を一番大切にしています。M&Aは将来像を考えなければなりません。なぜ会社を売却しようとしているのか、人によってそれぞれですが、もしかするとM&A以外の選択肢の方がいい場合もあります。クライアントと二人三脚で歩んでいくことを重視しています。
前川
M&A業務を行ってきた中で一番印象深い経験は?
大門
M&A案件のクロージングは1年にそう何本もできるものではないので、どの案件も思い入れがありますが、最も印象に残っているのは独立間もない頃に扱った事業再生から売却にいたった案件です。事業再生はタイミングが難しく、ともすれば早く畳んでしまった方が、傷が浅く済むケースもあります。
本件の場合、社長様の「雇用の継続」と「自分の作った事業を残したい」という想いが強く、その想いを汲む形で資金繰りやステークホルダーの調整まで約2年間再生のお手伝いをし、最終的には売却まで漕ぎつけたものです。ディールサイズは小さい案件でしたので、弊社としての実入りは正直大きくありませんでしたが、他社様では取り扱えない弊社のエポック的案件だった思います。
事業承継のM&A相談先のススメ
前川
最後の質問になりますが、事業承継によるM&Aを検討している経営者に一言お願いします。
大門
事業承継にはいろいろな選択肢があります。十分に検討して、M&Aという気持ちになったら早めに専門家に相談してほしい。M&Aの専門家はたくさんいますので、いろいろな人に会って信頼できるアドバイザーをご自分の目で確かめ依頼されるのがいいと思います。
M&Aの専門家以外にも、メイン行等で信頼できる銀行さんに相談するのもいいと思います。最近は事業承継問題の解決が喫緊の課題となっているので、昔言われたように、むやみに融資を引き上げるようなことはないと思います。銀行の幅広いなネットワークを使えるケースもありますし。
また、顧問税理士に相談するのはあまりお勧めしません。彼らは会社が売却されれば顧問先でなくなる利害関係者です。他にも腹心の部下や家族も利害関係者ですので、まずは慎重に対応されるのがよろしいかと思います。
前川拓也
株式会社M&Aクラウド 代表取締役CEO
大学時代に建設会社を運営していた父から「会社を継いでほしい」と相談されたが、承継しなかったことで会社は廃業になってしまった。その後、新卒でホクレンの業協同組合連合会に入会、てん菜事業本部の管理部門として100億円規模の収支計画を策定。ホクレン退会後、28歳で農家と飲食店をつなぐeコマースサービスmoremoreを立ち上げる。自分が初めて経営をする立場になって、父の会社を承継しなかったことに後悔の念に駆られる。moremoreのバイアウト後、2015年12月に株式会社M&Aクラウドを設立し、代表取締役CEOに就任。M&Aの情報格差の壁を壊し、M&Aをもっと身近なものにすることで事業承継問題の解決に取り組んでいる。
大門祐一郎
合同会社パインストリートコンサルティング 代表
1966年生まれ。1989年日本興業銀行入行。主に大企業営業に従事、ゼネコン、サブコン、不動産をはじめ電力、鉄道、ホテル、流通、メディア通信、人材総合会社、第三セクターなど多岐にわたる業種を担当。特に事業再生業務の経験が豊富で、3行統合後に移籍したみずほコーポレート銀行では再生専門部署に配属され、多数の再生案件に関与。その後外資系不動産運用会社を経て、中堅中小企業を主な顧客とする大手専門商社に入社。クレジットリスク管理、並びに取引先中小企業の再生・提携(M&A)業務を手掛ける。これまで大企業から中小企業まで数多くの企業様の問題解決に立ち会うことで培ってきた「コンサルティング力」をベースに中小企業の経営者様の最後にして最大のお仕事である「事業承継」のお悩みに総合的に対応するコンサルティングサービスを提供することを目的に、2014年パインストリートコンサルティングを設立。東北大学法学部卒業。