赤字でも売れる?過去20年間の赤字M&Aまとめ
公開日:2021年11月9日 最終更新日:2022年5月9日


「赤字でもM&Aすることは可能なのか」という問題は、売り手企業の経営者はもちろん、買い手側となる企業も懸念する点かと思われます。
今回、過去20年間の 約3,000件超のM&Aのうち、赤字のM&Aに焦点を絞って動向を調査・分析しました。
目次
時価総額TOP400社の赤字M&A件数
実際に営業利益が赤字の会社を買収するケースはどれほどあるのでしょうか。
時価総額が2021年6月20日時点でTOP400位の企業を対象に、過去20年間のM&Aのうち、営業利益が赤字の企業を買収した案件がどれほどあるのか調査しました。
* EBITDAとは、企業が営業活動から生み出すキャッシュの近似値としてM&Aの際にはよく利用される。利用方法としては対象企業の企業価値がEBITDAの何倍かを示す値を「EBITDA倍率」として求めることが多い。例えば、EBITDA倍率が5倍のとき、対象企業の業績が一定であれば、その対象企業が稼ぐ営業キャッシュの5年分に相当する額が企業価値であると考えることができる。
時価総額TOP400社(2021年6月20日時点)による過去20年のM&A(n=2,973件)のうち、ターゲット企業の財務情報が判明している513件を全体としました。
513の案件のうち74件で 14.4%が、買収先の企業の営業利益が赤字になっているM&Aでした。またEBITDA(利息、税金、減価償却費および償却費控除前の収益)が赤字であるものは全体の5.2%で27件でした。
EBITDAが赤字であるM&Aは、上場企業に対するTOBでの買収が8割近くとなりました。 M&Aにおける情報の非対称性や被買収企業のコーポレートガバナンスの観点などからEBITDAが赤字である非上場企業のM&Aにはまだまだハードルがあるものと考えられます。
取得価額や、EBITDA倍率に注目し、以下のようにまとめました。
全体 |
会計数値が判明しているもの |
ターゲットが営業黒字 |
ターゲットが |
ターゲットのEBITDAが負 |
|
M&A件数 |
2,973 件 |
513 件 |
439 件 |
74 件 |
27 件 |
取得価格中央値(億円) |
– |
61.4億 |
120.4億 |
50.3億 |
27.3億 |
EBITDA倍率中央値(百万円) |
– |
3.21 |
3.24 |
1.78 |
– |
表の赤字表記から、 対象が営業赤字の場合、買収価額は営業黒字の場合と比べ半分以下になることが傾向として分かります。
ターゲット企業が営業黒字である場合の買収価格(中央値)は約120億円ですが、営業赤字である場合の買収価格は1/2以下の約50億円となります。
ターゲット企業が営業黒字であればEBITDA倍率(中央値)は3.2倍の価格がつきますが、営業赤字の場合は約1.8倍になります。
営業赤字M&A
営業利益が赤字の企業をM&Aで買収した74件の案件を対象に、買い手と売り手の特徴や買収価額について調査しました。
買い手と売り手の特徴
どの業種が赤字M&Aに積極的なのか探るため、買い手と売り手でその業種ごとに割合を表で示すと以下のようになります。
買い手 |
売り手 |
|
製造業 |
39.4% |
32.9% |
金融業 |
19.7% |
14.3% |
化学・医療 |
9.9% |
11.4% |
小売業 |
7.0% |
7.1% |
運輸業 |
7.0% |
5.7% |
情報通信業(IT) |
1.4% |
11.4% |
その他 |
15.5% |
18.6% |
計 |
100.0% |
100.0% |
製造業による製造業の赤字M&Aが最も多く、次に金融業、化学・医療と続く結果になりました。
情報通信業(IT)が買い手では少ないものの(1.4%)、売り手としては大きく増加する(11.4%)ところが特徴となりました。 同業種間のM&Aが多い中、情報通信業は電気機械器具製造業や金融業に買収されるケースが多いことが分かりました。 情報通信業(IT)は業種問わず買収の対象となっていることが分かります。
買収価格分析
赤字M&Aについて、対象企業(買収先企業)のEBITDAがマイナスの場合と営業利益が赤字の場合に分けて、分析しました。
対象企業の売上高と買収価額に関係性があるのか調べるため以下のようなグラフを作成しました。
グラフから、 赤字M&Aの場合、買収価格には対象の売上高に依らない上限が存在することが分かりました。EBITDAがマイナスの場合の買収価格では200億円、営業赤字の場合では300億円が上限となります。
他にもグラフから、以下のような事柄がいえます。
- 買収対象企業が営業赤字でもEBITDAがプラスであれば、売り上げと買収価格に一定の相関が見られる
- 買収対象企業の売上高が500億未満の場合、売上高と買収価格に明確な相関は見られない。
営利赤字で、売上の何倍で買ってもらえる?
M&A案件においては、PSR(買収価額÷対象企業の売上高)が一つの指標として見られることがあります。今回はこのPSRを用いて、赤字M&Aにおける赤字企業は売上の何倍の値段で買ってもらえるのかを調査しました。
結論として、多額の投資が必要になる 医薬・バイオを除いて、買収価額は対象企業の売上高よりも低くなる結果となりました。
買収対象企業が営業赤字であるM&A案件に関して、PSR(買収価額÷対象企業の売上高)を算出し、業種ごとにその中央値を算出したところ、ほぼ全ての業種でPSRが1を下回りました。
ただし、医薬・バイオ関連の場合のみ、営業赤字の場合でもPSRは1倍を大きく上回る結果となりました。医薬・バイオ関連の企業は多額の投資が必要になるため赤字になるケースが多いです。その中でも 医薬・バイオ企業の事業領域の将来性が買われ、売上と比較して高値でM&Aが実行される場合があるようです。
EBITDA赤字M&Aの買収目的
対象企業が赤字であるにもかかわらず、M&Aで買収するのには必ず理由があります。赤字M&Aにおける買収理由について深掘ります。
23件のEBITDA赤字のM&Aについて、適時開示を基にM&Aの目的を調査、分類し以下のグラフにまとめました。
買収先の技術ノウハウ獲得・チャネル獲得・ブランド獲得が上位を占める結果となりました。
買い手がなぜM&Aを手段として選択したのかという点においては、 市場環境の変化(需要の変化、競合の台頭)を背景にしたものが23件中15件でした。
対象企業が赤字でもその独自ノウハウを自社に取り込むことで、主力事業の強化を図っていることが、適時開示から読み取れることの傾向から分かりました。
適時開示における、買収後に見込んでいるシナジー効果の詳しい説明についても分類し集計したところ以下のような結果となりました。
赤字でもM&Aできる被買収企業の特徴
今回調査した適時開示から、赤字でもM&Aの対象となるような企業として以下のような5つの特徴をまとめました。
対象企業が安定資金を必要とした状態
市場環境やニーズの変化から対象企業の売上が伸び悩んでおり、対象企業による自己投資だけでは更なる成長が難しいと判断されているケース
買い手と売り手が以前から協力関係
M&Aに移る以前から協業関係や資本提携を進めており、経営者同士ですでに関係が構築されているケース
売り手の財政再建・改善を見込む
買い手が、買収後のシナジー効果で売り手の売上向上を見込んでいるケース
売り手からの打診
売り手からの打診も多数存在。買い手が協議の末、打診に応じ、M&Aの話が進むケース
EBITDAが負のM&Aはほぼ全てが完全子会社化
買い手が完全子会社化による意思決定の迅速化、経営基盤の一体化を重視するケース
まとめ
「赤字でもM&Aすることは可能なのか」という問題に対して過去の赤字M&Aをもとに調査・分析しました。
時価総額TOP400社(2021年6月20日時点)による過去20年のM&A(n=2,973件)のうち、ターゲット企業の財務情報が判明している513件を全体とし、そのうち74件で14.4%が、買収先の企業の営業利益が赤字になっているM&Aでした。
対象が営業赤字の場合、 買収価額は営業黒字の場合と比べ半分以下になる傾向がありました。
買収対象企業が営業赤字であるM&A案件に関して、 対象企業の年間売上よりも低い価額でM&Aが実行されるケースが多いです。
買い手企業は、 対象企業が赤字でも、その独自ノウハウを自社に取り込むことで、主力事業の強化を図っていることが、適時開示から読み取れる傾向としてありました。
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