首都圏で緊急事態宣言が明けた直後の2020年5月27日、M&Aクラウド主催のオンラインセミナー「この状況下だからこそ、上場企業の社長に聞いてみた『ぶっちゃけ、いまM&Aしますか?』」が開かれました。
新型コロナウィルス感染症の拡大により、リーマンショック以上と言われる経済危機の中、先行き不透明な日々が続いています。
目下のM&A市場において、買い手は現状をどのようにとらえ、戦略を描いているのか――。オンラインM&Aプラットフォーム「M&Aクラウド」に掲載中の買い手企業の中から、今回は株式会社カオナビの柳橋代表と株式会社スマレジの山本代表のお二人をお迎えし、コロナ直下のM&Aの今とこれから、リーマンショックや東日本大震災時の経験などについて、語り合っていただきました。
パネリスト
山本 博士氏(株式会社スマレジ 代表取締役)
2003年よりITエンジニアとして多数の業務システム開発に従事。これまで関与した開発は、金融・通信・物流・保険・製造・サービスなど多岐に渡り、アプリコンテスト審査員や書籍執筆なども経験。 複数の業種をまたいだ業務知識を持ち、過去の経験を裏付けつつも既成概念にとらわれない斬新なアイディア立案を得意とする。2011年 株式会社プラグラム代表に就任後、過去ドラッグストア向けPOSシステムを開発した経験を元に、クラウド型POSレジサービス「スマレジ」を立ち上げる。2019年2月東証マザーズ上場。
柳橋 仁機氏(株式会社カオナビ 代表取締役社長 CEO)
2000年、東京理科大学大学院修了。アクセンチュアに入社し、業務基盤の整備や大規模データベースシステムの開発業務に従事。その後、アイスタイルで人事部門責任者として人事関連業務に従事した後、2008年にカオナビ設立。2012年よりクラウド人材マネジメントシステム「カオナビ」の事業を本格的に開始し、現在は業界シェアトップクラスのサービスに成長させている。2019年3月東証マザーズ上場。上場後に「カオナビ NEXT FUND」を立ち上げ、新しいサービスや技術を有するスタートアップを支援している。
モデレーター
及川 厚博(株式会社M&Aクラウド 代表取締役CEO)
2011年在学中にマクロパスを創業し、オフショアでの受託開発事業を4年で年商数億円規模まで成長。事業売却をした際に、企業価値の算定と買い手探しには大きく悩まされた。これらの課題をテクノロジーの力で解決したい想いから、M&Aクラウドを設立。
村上 祐也(株式会社M&Aクラウド アドバイザリー事業部 部長)
東北大学を卒業後、東京大学大学院へ進学。新卒で野村證券へ入社。 野村證券ではインベストメント・バンキング部門に所属し、M&AやIPOを含むファイナンス等の提案やエグゼキューションに従事。M&AクラウドではM&Aアドバイザリー事業部の責任者を務める。
オンラインセミナーの様子
トピック① 不況時のM&Aについて
リーマンショック後のM&A件数は漸減、新領域を仕込んだIT大手も
まずは僕の方から、過去の不況時のM&Aの状況について振り返りたいと思います。
2008年のリーマンショック前後の状況を見ると、このグラフのようにM&A件数は明らかに落ちています。注目したいのは、2008年にガクンと底になったわけではなく、2011年にかけてゆるゆると落ちていくんですね。恐らく今回のコロナショックでも、一番底はまだ先なのかなと思うので、譲渡を考えている人は早めに動かれたほうがよいかと思います。
リーマンショック当時の傾向としては、TOBが急増したことも挙げられます。パナソニックの三洋電機買収といった大きなニュースがあったのもこの時期です。大型の同業同士の事業再編、子会社の譲渡、ポートフォリオの整理などがかなり活発に行われました。
次にWeb業界のM&A動向を見ていくと、IT大手はまさにリーマンショック時に、その後M&Aでグッと伸びた領域の仕込みをしています。
楽天は、ネットバンクのイーバンクを買って決済領域に参入し、これが今の楽天の強いフィンテックにつながりました。ちょうどITバブルがはじける前に調達して、かなり現預金もあった中で大きな決断を行い、次のグロースを生み出したといえます。
GMOも、同じくキャッシュ比率がかなり高い時点でイノベックスを買い、Webマーケティングを強化しました。この時期、GMOはこれ以外にも積極的に買収を行っていますし、サイバーエージェントもいろいろ買っています。
不況の後というのは、やはり買い手にとってはかなりのチャンスだなと見て取れたところで、参加者の皆さんからの質問をお受けしたいと思います。
Q&Aタイム①
コロナ後の成長に期待できれば、IT事業の買収は検討可
今後1~2年不況となることが想定されるので、今売るか、景気の回復を待ってから売却するかで迷っています。判断する上で気をつけるポイントはありますか?
私は専門家ではないので難しいですが、先ほどのリーマンショック前後のグラフがすごく示唆に富んでいるなと思います。バリュエーションが下がっていくにもタイムラグが出るだろうというところですね。今回のコロナを受けて、「半年後を狙っている」と言っている知り合いもいたりしますので、それも参考にしてもらえればと思います。
今の質問に関連して、もしコロナで売上がガクンと下がったばかりの会社から打診が来たらどうするか、山本さんはいかがですか?
これは業種による違いも大きいと思いますが、僕らの場合はITなので、コロナ後の伸びが期待できるかどうかを見ると思います。たとえば、クラウド化の進展によって成長可能性があるとか、世の中の潮流に沿ったビジネスであれば、検討の余地はあります。
M&Aの買い手として質問です。不況時にチャンスという一方で、直近のバリュエーション価格、VCの共同売却権などの理由で譲渡希望価格が相当高ぶっていると感じています。そのような環境下で割安で買うポイントはありますか?
そうですね。その状況でバリュエーションを下げにいくのは難しいので、純投資案件であれば、手を出さない方がよいかもしれません。事業シナジーが見込める相手先であれば、こちら側の事業ノウハウを提供することを交換条件に、バリュエーションを相殺させる手はあるかと思います。
シナジーがないと、なかなか手を出せないというのは当社も同じです。「AIの開発してます、だからハイバリュエーションなんです」といった話が来ることもありますが、AIだから買いたいとはならないですね。やはり、僕らが求めている技術かどうかです。
トピック② いま、ぶっちゃけソーシングはどうなっているか?
これから本格化する、店舗ビジネスへのコロナ影響
最近のコロナ影響下で、M&Aに関する相談を受ける機会は増えていますか?
「カオナビ NEXT FUND」での話ですが、会社に対する申し込みは減りました。これは恐らく、今、事業会社に行っても忙しくて相手にしてもらえないという懸念があるのかなと思います。VCへの申し込みはすごく増えたとも聞いていますし、今から事業会社に行くより、VCや金融機関に行った方がいいと判断した人が、4月、5月は多かったのかもしれません。
山本さんはいかがですか?
ぼちぼち増えてきてはいます。
飲食店のオーナーさんからお話が来たりもしていますか?
店舗さんのお話は、直接来てはいませんが、いろいろと聞いてはいます。店舗ビジネスの中でも、インバウンド関連やイベント関連などは早くからコロナの影響を受けましたが、一般の飲食店に影響が出てきたのはもっと後ですよね。3月までは売り上げがちゃんと立っていたけれども、4月からはほぼ0になったというお店が多く、4月末の支払いをどうしようという声は随分聞きました。その後、結局GW後も緊急事態宣言が延長されたので、5末の支払いができるのか、仮にそこを生き延びたとしても、6末はどうなるか。このところ株価は戻ってきたとはいえ、実態はまだまだ厳しく、この夏ぐらいまでにもう一つ底が来るのではと危惧しています。
シナジーの“ひらめき”を生む、フリートークが大切
次はいよいよ「ぶっちゃけ、いまM&Aしますか?」というところです。柳橋さん、お願いします。
マイナー出資であれば、常時判断はできると思いますが、今、M&Aを一気に意思決定できるかというと難しいですね。よほど強いシナジーがあって、バリュエーションも納得できる案件でなければ、手は出せないというのが正直なところです。バリュエーションの動向について、もうちょっと様子を見たい気持ちもありますし、うちはコロナの影響は比較的受けにくい業種とはいっても、やはり在宅勤務対応などでいろいろ忙しく、時間の余裕がない面もあります。
シナジーは、売り手の側からはなかなか見えにくい部分もあると思うのですが。
シナジーって、買い手の頭の中で思い描くものですからね。売り手からは見えにくいんだな、というのは実際感じますし、僕自身、売り手の立場だったら見えないだろうなと思います。
そんな中、どんなふうに話を持ってきてもらえると、シナジーを検討しやすいですか?
事業内容全般に関して雑談している中で、僕がふとひらめくようなケースが多いので、フリートークの形でいいと思います。シナジーって、そんなにカチッと論理立てて見つけられるものでもないと思うので。実際、「Aの事業がカオナビさんとシナジーあります」といって説明してもらった後、最後にBの話をちょっと聞いたら、むしろそっちに興味がわいたという展開が結構あります。
シナジーに関して、スマレジさんはいかがですか?
当社は、この夏に予定しているサービスのバージョンアップに合わせて、「アプリマーケット」のオープンを計画しています。「スマレジ」は、アクティブで2万店くらいのユーザーを抱えているので、「アプリマーケット」はこのユーザー層、つまり飲食店や物販店に向けたソリューションをお持ちの方に集まっていただき、自由に販売いただく場にしていきます。
M&Aの検討も、今はこの構想の実現に向けたパートナーを迎えることを主目的に据えていて、シナジーもこの枠組みの中で考えていきます。たとえば、「BtoB向けのITソリューション」というようなくくり方でソーシングしてしまうと、検討時の焦点もぼやけがちになりますよね。「アプリマーケットの活性化」という明確な目的があることで、検討もスムーズに進められるかなと思います
いいソーシングには、“走り回る”人材が不可欠
ソーシングについては、うちはこの1年くらい取り組んでいる中で、まだまだ課題が大きいと思っています。だから、ここでちょっと宣伝させていただくと、うちにソーシング担当として来てくれる方がいれば、ぜひお願いしたいです。一年中、北海道から沖縄まで、旅をしてくれていいので、いい案件を見つけてきてください(笑)。
CVCを組成してガンガンやっている会社さんなどは、ソーシングに対する命のかけ方が全然違う。話を聞く限り、やっぱり人が潜入していって見つけるケースが多いのかなという印象です。今、僕たちは、Web上で「カオナビ NEXT FUND」に応募してもらっていますが、それだとシリーズBだったり、2回目以降の話しか来ないんですね。 IT業界はちょっと軌道に乗り始めるとバリュエーションが一気に上がり、手が出せないところまで行ってしまうので、できるだけ最初のタイミングで買いたい。そのためには待っていてもだめで、能動的に走り回る人が必要だなと感じています。ちなみに、M&Aクラウドさんにも実際に掲載をしていますが、案件のクオリティは高いと思っています。
弊社でM&Aがうまいと思っている会社さんの話を聞くと、「アポイント目標」とか営業みたいな言葉が出たりしますからね。そういうところは重要なのかなと僕も思います。
CVCとかベンチャーキャピタルも含め、資金を出したい企業が多い中で、自分から声を上げなければいい案件は来ないというのは、確かにそうですよね。僕らでいえば、アプリマーケットやりますとか、顧客基盤を開放しますとか、目に見えるメリットをアピールしていくことが必要だと思います。
M&A戦略・スキームには、コロナショックの影響なし
次のテーマは、「withコロナが前提となる経済の中で、どういった業界・企業に関心を持っていますか?」というところですが、特に注目されている業界はありますか?
バリュエーションが下がったらいいなとは思いますが、コロナで戦略が変わることはないですね。今まで通りの目線で探していく感じです。
たとえば、コロナの影響でキャッシュがなくなっちゃったけれども、状況が落ち着けばまた伸びそうな会社で、経営チームも残りますという案件があったら、検討されますか? 今、M&Aクラウドに入ってきている中では、そういう案件も多いのですが。
もちろんウェルカムです。
うちも全然ありです。事業シナジーは欲しいですが、基本的には検討できます。
ありがとうございます。この1年、今までVCから「とりあえず掘ってくれ。Jカーブしてくれ」と言われて経営してきたスタートアップにとっては、コロナ前のWeWorKショックもあった中で、急に「黒字にしないと、バリュエーションがつけられません」といわれる環境に変わってきた気がしています。参加者の皆さんの中にも、そんな感触をお持ちの方がいらっしゃるかと思うので、前向きな回答を頂けてよかったです。
リモートワーク普及の影響大? 気になる不動産業界の動向
次のテーマは、「withコロナが前提となる経済の中で、どういった業界・企業に関心を持っていますか?」というところですが、特に注目されている業界はありますか?
僕は、不動産業界がどう変わっていくのか興味津々です。在宅勤務が進むと、オフィス需要が縮小して価値が下がるという人もいれば、 ソーシャルディスタンスを守るために、逆に必要面積が広がって需要が増えるという人もいる。どちらも確からしく聞こえるけれども、実際どうなるのか。
そもそも企業はオフィスに賃料を払って入居するのか、それともレンタルオフィスやシェアオフィスがもっと普及していくのかという観点もありますよね。今の東京一極集中状態が分散化していく可能性もあるかもしれない。そういうところで新しいビジネスが出てきそうな予感もあります。
オフィスのニーズは確かに変わるでしょうね。うちの場合、もともと仕事はすべてG Suite上でしていたので、来客対応さえオンライン化できれば、そもそもオフィスに集まる必要はなかった。今回改めてそれに気づかされました。ちょっと遅かったのが、ちょうど東京オフィスの拡大で、新オフィスを契約したところだったんです。キャンセルできなくて、そのまま移転しましたけれども。
実は、うちも12月に広いところに引っ越す予定なんです。それもあって、オフィス事情には興味があります。
ただ、東京なんかは人が密集しているからこそのメリットって大きいですよね。今の時期は、東京に行っても人と会いづらい状況ですが、本来人は動くものですし、狭い範囲にたくさんのモノが集積しているのが大都市のよさですから。そういう意味では、特に価値は下がらないような気もします。
今のお話を聞いていて、一つ思い出したんですが、今回のコロナの中で、行政の情報システム化が相当遅れていたのかなと感じました。リモートワークが推奨される中で、ハンコ文化が話題になりましたが、要するにまだまだ紙の文化が残っている。
民間同士であれば PDF とかメール、クラウド上のやりとりに置き換えていけても、役所関係の手続きでは、いまだに紙とハンコが求められるんですね。それがなくなれば、プリントやスキャンのためにオフィスに行く必要もなくなるでしょうし、まだまだテクノロジーの力で変えていける余地がありそうだなと。SIerやソフト開発会社にとっては、チャンスの大きい領域かなと思います。
Q&Aタイム②
Webツールの導入で見えてきた、新しい働き方とIR活動
Web面談で意思決定までできるものでしょうか?
うちは今はやっています。採用に関してですが、4月に入ってすぐは「コロナが明けてから最終面接しよう」といった話もありましたが、そんなことも言っていられなくなったので。
Web面談の導入で逆に効率化できたとか、新しい気づきはありましたか?
コミュニケーションはWebでも取れるので、職種にもよりますが、リモートワーク前提の業務体制にするのもありだなと分かりました。そうすると、採用も全国規模でできますよね。普段はリモートで、年に1度くらい東京に集まってもらうといった形もいいなと思っています。
地方の案件にもアプローチしやすくなりそうですね。
それは確かにあるでしょうね。
うちはM&A案件で面談までいったものはまだ少ないのですが、逆に投資を受ける立場でいうと、IR活動をこれを機にオンライン化していこうとしています。今までは決算発表時に機関投資家さんを1軒ずつ回って説明していましたが、今回からはオンラインでの一律配信でいこうかと。1対1で説明していると、そこでしかしゃべらない内容が出てしまうこともあるので、フェアディスクロージャーの観点からもむしろよいのかなと思っています。
ウェビナーでの決算発表は僕も今回やりましたが、反応が分からなくて、少しとまどいました。でも、それも慣れの問題なのかもしれませんね。
トピック③ この状況下のM&Aでは売り手企業のどういったところを見るか?
注目ポイントは、キャッシュフロー・人・サービスの完成度
今度は売り手を見る際の観点に関して、まずは「コロナショックによる影響を受けてキャッシュアウトしそうなベンチャー企業のどこを見ますか?」という質問です。皆さん、関心の高いところかと思いますが、柳橋さんはいかがですか?
キャッシュポジションとキャッシュフローは必ず最初に見ますが、その次ということですね? やはり事業シナジーになるのかな。
ちなみに、現社長は抜けるという場合でも、M&Aを検討されますか?
それはちょっと嫌だな。そういう意味では、キャッシュの次はやっぱり経営陣かもしれないです。経営陣の考え方とか裁量。M&Aのタイミングで「社長辞めます」と言われると手を出しにくいので、1~2年は残ってもらう形がいいですね。
人の部分は大きいですよね。一緒にやれたら一番嬉しいです。サービス自体はだめになる可能性があったとしても、その人自身が欲しかったら、無理やり進めることもあるかもしれません。
他に当社にとって大きいのは、サービスの完成度合いですね。まだローンチしてないとか、ローンチはしていても収益の見通しが立っていないとなると、やはり難しい。大きな事業計画を書いてくれるのはいいんですけど、ある程度形になっていないと、こちらもかなりのリソースを取られてしまうので。サービスの完成度合いと金額見合いみたいなところはあるかなと思います。
買収資金以外に、成長資金も考えなければいけないということですよね。そうすると、シードとかシリーズAみたいな、スタートアップでいうとプロダクトがマーケットフィットしているかどうか分からない、メディアだったらPVしかないようなものには、山本さんは手を出しづらいですか?
サービスの観点だとそうですね。あとは人の部分、先方の経営者と IT エンジニアのスキルセットで見るかな。今、ITエンジニアを獲得するのも結構大変なので。いいエンジニアがいるのであれば、それなりのメリットはあると思います。
売り手経営者に求めるのは、ビジョンの親和性と素直さ、ピッチスキル
いいエンジニアかどうか、山本さんはどこで判断されますか?
難しいですが、僕自身、ITエンジニアを10年ぐらいやっていたので少しは分かりますし、会社としての採用基準も設けています。テストをして地頭を見るのと、持っているスキルセットの情報を総合して、ある程度の評価はできます。
経営者についてはどこを見ますか?
その人の思い描く未来をどれだけ僕たちと重ね合わせることができるか、そこが大きいと思います。あとは、素直であってほしいですね。
僕が見たいのは、いわゆるエレベーターピッチですね。最初の5分、10分で、会社や事業のエッセンスを凝縮して伝えられる人かどうか。僕自身が最初に起業した時にそれをとことん要求されたので、そういう頭になっているのかもしれないですね。
弊社でも経営者の方を支援させていただいていますが、ピッチ能力は人によってだいぶ差があるなと感じます。
トップラインが伸びていれば、変動費由来の赤字は“あり”
では、次の質問、「赤字企業のどこを見ますか?コロナショック前と見る視点は変わりますか?」に移りたいと思います。
これは、やはり赤字の中身ですね。人件費とオフィス費用とか、固定費で赤字になっている場合は厳しいです。一方で、うち自身もそうですが、マーケティングコストとか変動費で赤字を出しているけれども、トップラインが伸びているというのであれば、問題ないです。
次は「コロナ禍ではM&A のスキームをどう考えますか?」という質問です。要は、100%買収せず2段階取得とか、アーンアウトを使うとかですね。
特にコロナだからこういうスキームを活用しようとは考えてないです。もともとアーンアウトも普通に検討していましたし、今後も使っていきます。
それは買収のリスクを減らす目的ですか? それとも経営者のインセンティブ設計のためでしょうか。
やっぱり後者ですね。
山本さんはどうでしょうか。
僕も特にコロナとは関係なく、2段階取得もアーンアウトもありだと思います。アプリマーケットが活性化するとか、「スマレジ」のお客様に対していろいろな店舗ソリューションを簡単に提供できることにつながるのであれば、小額投資でもいいですし、100%買収にはこだわっていません。
Q&Aタイム③
“飛び地”の獲得はあり? なし?
事業シナジーについて、自社の市場の強化か新規領域の獲得か、どちらを期待しますか?
全く違う業界ではなく、近いところであってほしいですね。
たとえば、「スマレジ」には決済機能がないので、クレジットカードとか電子マネーの部分では、今はクレジットカード会社さんと連携しています。そんなふうに、近いけれども僕たちには全く知見がないような領域で、一緒にやったほうがシナジーがあるねという案件があれば、ぜひ検討したいですね。同業ではないけれどもすごく近いところにいる、そして取引先も全く違うという会社があれば、特に魅力的です。
全くの飛び地だけれども、個人的にすごく興味があるという場合はどうでしょうか。
今のスマレジは単一事業なので、いきなり飛び地をやるのは無茶かな。それこそ個人投資になりますね。
自社の市場の強化か新規領域の獲得か、柳橋さんはどうですか?
僕は両方やりたいです。ちょうど5日前(2020年5月22日)に発表した定款変更で、事業シナジー狙いではない、いわゆる純投資もできるようにしたところです。
完全な未知の業界に手を出せるかというと、現実的には難しいところもたくさんあるし、そちらばかり乱発して本業がおろそかになってはいけないと思いますが、本業とはちょっと違うところにも、チャレンジはしてみたいです。
ちなみに、先ほど不動産のところが面白そうだという話がありましたが、他に注目されている領域はありますか?
会社の事業としてではなく、個人でやる前提であれば、僕はスポーツ好きなので、今、コロナで大変な状況に陥っているスポーツビジネスを盛り上げたいという気持ちはすごくあります。
“鉄則”で経済危機に備え、経営者の底力で道を示す
過去の何度かの危機を乗り越えて上場されましたが、今回のコロナショックに対して、経営者として何を心がけるべきでしょうか。
リーマンショック、東日本大震災と経験してきましたが、コスト構造とか収益体質とか、 リセッションが起きても大丈夫なように、安全策を二重三重に講じておく。そこに頭を使いまくるという答えしかないです。
たとえば、特定の顧客に対する売上比率を1%以下にするとか、固定費の2倍以上の固定収益を確保しておき、絶対それ以上固定費を抱えないとか。会社の規定として書いているわけではないですが、僕の中ではここだけは破ったらだめという鉄則があります。このあたりは、僕は感情論とか精神論でやるより、仕組みやルールで決めておきたいタイプです。
リーマンショック当時の当社は、ホームページ制作やシステム受託開発をメインにしていたので、まさに一気に仕事がなくなる経験をしました。なんとか助成金で雇用を維持しながらやっていく中で、「ピンチをエネルギーに変えていくしかない」という思いから、今の「スマレジ」を立ち上げたんです。
今回のコロナでも、「スマレジ」は店舗向けのサービスですから、やはり若干影響はあります。去年まではトントン拍子で、上場もできましたし、消費増税を受けた軽減税率対応の特需もあり、営業しなくても、広告宣伝費をかけなくても、お客様がどんどん来てくれました。その流れが止まり、ハッとなった今こそ、しっかり旗を立て、みんなをリードしていくのが、経営者の仕事かなと思っています。業績がいいときは経営者は何もしなくても回るんですけど、こういうときに意志を強く持ち、物事を推進していくことが、経営者としての醍醐味のような気がします。
環境が厳しいときこそ磨かれる、会社としてのDNA
ちなみに「スマレジ」は不況の時に作ったサービスなので、前金制なんです。 BtoBサービスは末締め翌末払いが当たり前で、お客さんからもそこは突っ込まれるんですが、「うちは前金制です」と言い切っています(笑)。そもそも僕は、掘って大きく成長させるというモデルよりも、不況時でもしっかり、毎年ちょっとでも利益を出していく商売の方が好きなんですよ。
今は資金調達の形がいろいろあると思いますが、基本的には自立してキャッシュを回せるか、商売人かどうかというところも大事ですよね。今回、コロナでいろいろな経験をされた経営者の皆さんは、きっとさらに強くなるんじゃないかなと思います。
前金の話は面白いですね。そういうところが、その会社のDNAだったりしますよね。
リーマンショックの時、僕の友達もホームページの制作をしていましたが、売り上げが一社に依存していたことで、結局、連鎖倒産してしまいました。僕はそれを間近で見ていたことで、とにかく小さい売り上げを積み重ねていこうという自己ルールにつながっています。
黒字だけど経営者が高齢で、後継者が見つからない企業のM&Aは検討されますか?
僕や山本さんみたいに、本業の社長をやっている人にとっては、なかなか厳しいんじゃないでしょうか。
片手間では難しいので、誰か若い人が入ってテコ入れするとか、柱になる人が必要ですよね。逆にメンバーさえいれば、企業をリフレッシュさせるという取り組みも面白いなと思います。
ありがとうございます。時間になりましたので、最後に一言ずついただきたいと思います。
当社は「カオナビ NEXT FUND」を通して、窓口をずっと開放しているので、お話はどんどんください。もちろん「M&Aクラウド」経由でも構いません。あとはソーシング担当、一年中日本を旅行していてもいいので、興味があればぜひ来てください。
「スマレジ」は、店舗向けのPOSシステムとしては、日本一に近いデータ量を持っています。それを活用し、クラウドで業務を効率化していくところに協力くださる方がいらっしゃれば、ぜひお願いしたいと思っています。
もう一つ、これは個人的な話ですが、僕は今、経営大学院で改めて経営を学んでいる最中です。今日聞いてくれている皆さんの中には、その方面の知識が豊富な方もたくさんいらっしゃると思うので、ぜひFacebookなりツイッターなりで連絡いただき、議論をさせてもらえたら嬉しいです。
柳橋さん、山本さん、本日はありがとうございました。