M&Aで事業承継補助金を申請する4つのポイント|対象者や募集要項も解説
公開日:2021年2月26日 最終更新日:2023年1月23日
目次
事業売却時にも事業承継補助金は受け取れる?
事業承継補助金は、事業を引き継ぐ人(承継者)の承継後の取り組みに必要な資金を中小企業庁が支援する補助金です。事業売却をした人や事業を引き継がせる人(被承継者)が受け取るわけではありません。
事業承継補助金には、経営者交代による後継者承継支援型と、M&Aによる事業再編・事業統合支援型の2タイプがあります。
事業承継補助金は、2017年度以降、毎年募集が行われており、2020年(令和2年度)の公募期間は3月31日~6月5日でした。2021年度(令和3年度)については、中小企業庁は概算要求で事業承継補助金を盛り込んでいることから、2021年度も公募は行われる見通しです。
そこで、2020年に公募された事業承継補助金の公募要項をもとに、事業承継補助金について解説します。
事業承継補助金の種類は2つ
事業承継補助金は、事業承継の形態によってⅠ型:後継者承継支援型(経営者交代タイプ)とⅡ型:事業再編・事業統合支援型(M&Aタイプ)の2種類があります。
事業承継補助金を申請する際には、どちらか当てはまるほうで申請しますが、事業承継のタイプによって補助金の上限額が異なります。自分がどちらに当てはまるかは、事業承継補助金公式サイトの「申請類型早わかりフローチャート」で確認できます。
1:後継者承継支援型(経営者交代タイプ)
後継者承継支援型は、経営者の交代後に、事業の承継者が、ビジネスモデルの転換による市場創出・新市場開拓・新規設備導入による生産性向上などを行った場合にその費用を支援するものです。
補助上限額は225万円で、必要経費の2分の1以内となります。また、事業転換(少なくとも1つの事業所又は事業の廃業・廃止)に伴う経費がある場合は補助上限額が225万引き上げられるため、補助上限額は450万円となります。
さらに、ベンチャー型事業承継枠または生産性向上枠の条件を満たす場合は、審査により上限枠が引き上げられる可能性があります。
2:事業再編・事業統合支援型(M&Aタイプ)
事業再編・事業統合支援型は、事業再編・事業統合など、M&Aをきっかけとして経営革新・事業転換に取り組む方に、新たな取り組みを行う費用を補助するものです。
補助上限額は450万円で、必要経費の2分の1以内となります。また、事業転換(少なくとも1つの事業所又は事業の廃業・廃止)に伴う経費がある場合は補助上限額が450万円引き上げられるため、補助上限額は900万円となります。
さらに、ベンチャー型事業承継枠または生産性向上枠の条件を満たす場合は、審査により上限枠が引き上げられる可能性があります
M&Aタイプの事業承継補助金のポイント4つ
ここでは、M&Aで企業を買収した企業経営者が、事業再編・事業統合型タイプの事業承継補助金を申請する際に知っておきたい知識について解説します。
1:補助金を活用できるM&A手法は?
事業再編・事業統合支援型の事業承継補助金は、合併・会社分割・事業譲渡・株式交換・株式移転・株式譲渡等のM&Aによる事業承継も対象です。
事業再編・事業統合等のM&Aをきっかけとした経営革新や事業転換などの新しい取り組みを行う場合は、補助金を申請できます。
①合併
A社とB社が合併し、合併後に経営革新などの新たな取り組みを行う場合、新たな事業にかかわる費用が事業承継補助金の対象となります。合併による経営革新を計画している場合は、事業承継補助金の申請ができます。
②会社分割
A社の一部であるX事業をB社へ分割する場合、吸収分割という扱いになるため、事業承継補助金の対象となります。事業の一部を分割して承継することを計画しているのであれば、事業承継補助金を申請できます。
③事業譲渡
A社の一つであるC事業をB社へ譲渡する場合、事業譲渡という扱いになるため、事業承継補助金の対象となります。事業の一部を譲受して承継することを計画しているのであれば、事業承継補助金の申請ができます。
④株式交換・株式移転
A社がB社に対し株式交換による買収を行った場合、買収後に経営革新や事業転換などの新しい取り組みがあれば、新たな取り組みが事業承継補助金の対象となります。
株式移転による事業承継があった場合も、承継後に経営革新や事業転換などの新たな取り組みがあれば、事業承継補助金の対象となります。
⑤株式譲渡
B社がA社へ株式を譲渡する形で事業承継を行った場合、事業承継後にA社で経営革新や事業転換などの新しい取り組みがあれば、新たな取り組みが事業承継補助金の対象となります。
2:事業承継補助金の対象者は?
事業承継補助金の対象者は、国内で事業を営む者であること、地域経済に貢献している中小企業者等であること、法令順守上の問題を抱えていないなどの条件を満たす承継者です。事業を引き継がせた被承継者は対象ではありません。
なお、申請時点でM&Aによる事業承継が完了していない場合は、補助対象となる承継者の代表者には「3年以上の経営経験」「同業種での6年以上の実務経験」「創業・承継に関する一定の研修等の受講」のうちいずれかの条件を満たすことが求められます。
3:事業承継の要件は?
事業承継補助金の対象になる事業承継の要件は、指定期間に事業の引継ぎが行われたことです。参考までに、2020年の要件は、「2017年4月1日から補助対象事業期間完了日または、2020年12月31日のいずれか早い日」でした。
4:補助金が上乗せされる「ベンチャー型事業承継枠」「生産性向上枠」とは?
上でも触れたとおり、事業承継補助金は原則として補助対象経費の2分の1以内の額を補助する制度で、後継者承継支援型(経営者交代タイプ)の補助上限額の合計は450万、事業再編・事業統合支援型(M&Aタイプ)の補助上限額の合計は900万円です(原則枠)。
しかし、別途「ベンチャー型事業承継枠または生産性向上枠」の要件に該当する場合は補助率が3分の2まで引き上がり、後継者承継支援型は600万円、事業再編・事業統合支援型は1,200万円が補助上限額となります。
なお、補助上限額はあくまで審査を通過した場合の上限であり、必ず満額が補助されるわけではないことに注意が必要です。
ベンチャー型事業承継枠・生産性向上枠の要件は以下のとおりです。
生産性向上枠の要件
2020年の生産性向上枠の要件は「承継者が2017年4月1日以降から交付申請日までの間に本補助事業において申請を行う事業と同一の内容で『先端設備等導入計画』又は『経営革新計画』いずれかの認定を受けていること」でした。
ベンチャー型事業承継枠の要件
ベンチャー型事業承継枠は、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 新商品の開発又は生産、新役務の開発又は提供、もしくは事業転換による新分野への進出を行う計画であること
- 事務局が定める期間において従業員数を一定以上増加させる計画であること
- 補助事業実施期間内において補助事業に直接従事する従業員を1名以上雇い入れた事実が確認できること
事業承継補助金の申請前に確認すべき3つのポイント
ここでは、事業承継補助金を申請する前に事業承継者が確認すべきことを解説します。なお、本項目は2020年の公募にもとづいて記載しています。最新の内容については、各年度の事業承継補助金公式サイトで確認するようにしてください。
1:承継形態や事業内容
事業承継補助金は、「後継者承継支援型」と「事業再編・事業統合支援型」の2つの申請類型があり、補助率や上限額に差があります。どちらの申請累計で申請できるかは、申請する年度の事業承継補助金公式サイトの「申請類型早わかりフローチャート」で確認できます。
対象となる事業内容の例としては、「新商品の開発又は生産」「新役務の開発又は提供商品の新たな生産又は販売の方式の導入」「役務の新たな提供の方式の導入」「事業転換による新分野への進出」があげられます。
これらの事例以外でも新たな事業活動による販路拡大・新市場開拓・生産性向上など、事業の活性化につながる取り組みが対象となります。
2:補助対象となる経費
補助対象となるのは、交付決定日以降、補助事業期間内に承継者が契約・発注し、支払いをした経費です。経費は事業を継続するための事業費と、廃業のために必要な廃業費に分類されます。
事業費として認められるのは、人件費・店舗等借入費・設備費・原材料費・知的財産権等関連経費・謝金・旅費・マーケティング調査費・広報費・会場借料費・外注費・委託費です。
そのほか廃業費として、廃業登記費・在庫処分費・解体・処分費・原状回復費・移転移設費用も対象となります。
ただし、M&Aの仲介手数料、デューデリジェンス費用、コンサルティング費用などは補助対象にはなりません。
3:公募期間
事業承継補助金は会計年度ごとに実施されるため、各年度の公募期間内に申請する必要があります。参考までに、2020年度の公募期間は3月31日~6月5日、申請期間は4月10日~6月5日、交付決定が7月でした。
交付決定日前に発生した経費については、補助対象とはならないため注意してください。また、期間を過ぎると申請できませんので、事業承継補助金事務局のホームページなどをチェックすることをおすすめします。
事業承継補助金の申請に必要な書類と申請方法
補助金交付までには、事業承継補助金の公募要領発表後に、その全体像を理解することから始まり、認定経営革新等支援機関へ相談・gBizIDプライムの取得・交付申請といったステップがあります。ここでは、申請に必要な書類と申請の流れについて解説します。
必要となる書類
事業承継補助金の申請には、各年度の事業承継補助金ホームページからの「認定経営革新等支援機関による確認書」のダウンロードと、認定経営革新等支援機関の押印が必要です。
また、承継者・被承継者である法人の代表または個人事業主の住民票も必要です。
そのほか、法人の場合は、承継者・被承継者それぞれの「履歴事項全部証明書」・「確定申告書(別表一、別表二、別表四)」・「確定申告書の基となる決算書」、個人事業主の場合は、「確定申告書B第一表、第二表と所得税青色申告決算書」が必要です。
申請の流れ
事業承継補助金の申請にはgBizID(GビズID)プライムのアカウントが必要です。
gBizIDプライムとは、企業から申請する必要のある複数の行政サービスを、ひとつのアカウントで利用可能にする認証システムのことです。アカウントの発行には通常2~3週間かかるため、早めの手続きをおすすめします。
gBizIDプライムのアカウントができたら、事業承継補助金ホームページで申請マイページを開設します。申請マイページのフォームに必要事項を入力し、事前に用意した必要書類のファイルを添付して提出します。
審査結果は、中小企業庁や事務局のホームページで公表されるほか、申請者全員に対し、事務局から申請マイページを通じて、採否結果が通知されます。
まとめ
M&Aを契機に経営革新や事業転換などの新たな取り組みを行った場合には、事業承継補助金の「事業に伴う経費」の対象になる場合があります。
M&Aの仲介手数料・デューデリジェンス費用・コンサルティング費用など、M&A自体にかかる費用は補助対象になりませんが、事業承継の要件や補助金の対象についてよく理解したうえで申請を検討するのもいいでしょう。