会社を売却するには?必要な書類を含めて具体的な手順や留意点について解説
公開日:2022年1月31日 最終更新日:2022年11月18日
株式譲渡は、M&Aの手法の中でもシンプルな手続きです。ただし、譲渡の目的物となる株式が、譲渡制限付株式であるか否かによって手続きが異なります。本記事では、これらの違いについて解説しながら、株式譲渡における留意点を解説していきます。
目次
会社の売却とは
会社の売却は、言い換えると、会社の支配権の移転を意味します。近年、後継者不足の問題に伴った事業活動の継続、従業員雇用の維持、事業の拡大の問題を解決する方法として用いられることが増えています。
会社の支配権を移転する方法はさまざまありますが、その中でも本記事では、比較的手続きが単純といわれている株式譲渡について解説をします。
株式譲渡の定義
株式譲渡とは、会社法によって特段その定義があるわけではありませんが、一般的に売却する会社の株式を相手方に譲渡することです。
M&Aの文脈でいう株式譲渡は、対象会社の支配権の移転を目的にしますので少なくとも対象会社の議決権の過半数が必要となります。
株式の譲渡のみで支配権の移転が可能なので、他のM&Aの手続きと異なって比較的単純となります。
なお、譲り渡す株式の帳簿価格が譲渡会社の総資産額の20%を超え、譲渡後に子会社でなくなる場合、譲渡会社は株主総会を開催しなければいけません。
事業譲渡の定義
会社法に特段定義が定められているわけではありませんが、一般的に事業譲渡とは、事業目的のために有機的に一体として機能する財産の全部又は一部を相手方に譲り渡して、その財産によって営んでいた営業活動を引き継いでもらうことを事業譲渡といいます。
事業譲渡は、会社分割等の組織再編行為とは異なり、通常の取引行為として位置づけられています。
事業に関する個別の権利義務関係が包括的に移転されるわけではなく、各債権者から事業譲渡について承諾を得てそれぞれ引き継がれます。そのため、会社分割と比べて比較的手続きが煩雑になる可能性がるでしょう。
また、譲渡の目的物となる事業が、譲渡会社の事業の全部であったり、重要な一部である場合は、譲渡会社は株主総会を開催する必要があります。
会社売却の利点
会社売却は、その会社が抱えるさまざまな問題点を解決する手段になります。
昨今、中小企業では経営者の高齢化に伴って後継者の不足が問題になっており、事業を引き継ぐ者がいないという問題を抱える会社が多くあります。事業として黒字でも、後継者が不在のため黒字で倒産する会社も少なくありません。
そこで、会社を第三者に売却して新たに経営をしてもらうことで、売却後も従業員の雇用の維持や事業活動の継続、そしてさらなる事業の拡大に繋げることができます。
また、その他にも、アーリーリタイアや創業者利潤の獲得、ノンコア事業の売却による経営の選択と集中といった利点もあります。
会社売却(株式譲渡)に際しての事前チェック項目
株式譲渡に際して事前に確認することとしては、譲渡の目的物である株式が上場しているか、それとも譲渡制限が設けられている株式なのかで異なります。
譲渡制限とは、その株式を譲渡する場合、譲渡することにつき一定の機関で承認を得なければならないという株式のことです。承認機関は、株主総会または取締役会を設けている会社は取締役会になります。中小企業の多くは、この譲渡制限を定めています。
一方で、上場されている場合は、譲渡制限が定められておらず、譲渡者は機関の承認なく自由に売却することができるのです。
会社売却(株式譲渡)の手順
上場している株式の場合は、TOB規制(株主の公平性を保つためにある公開買付けの規制)に該当しない限り自由に売却ができるため手順は単純ですが、譲渡制限付株式の場合は注意が必要です。手順としては大きくわけて5つです。
まず、譲渡者は、その譲渡する株式を発行する会社に対して譲渡することについての承認請求をします。通知を受けた会社は、承認機関で株式譲渡の可否について決定し譲渡者に通知します。
仮に承認しない場合は、株主総会または取締役会設置会社の場合は取締役会で、会社が買い取る旨または別の買取人を指定します。一方で、譲渡が承認された場合、譲渡者は譲受者との間で株式譲渡契約を締結し、株主名簿の名義書換して手続きは完了となります。
会社売却(株式譲渡)の際に必要となる主な書類
上場している株式であれば、株式譲渡契約書がメインとなる必要書類になりますが、譲渡制限が付加されている株式の場合は、以下のような書類を用意する必要があり、やや多くなります。
- 株式譲渡承認請求書
- 取締役会議事録
- 株式譲渡承認通知書
- 株式譲渡契約書
- 株式名義書換請求書
- 株主名簿
- 株主名義記載事項証明書
さらにこれらの書類に加えて、譲渡の承認機関が株主総会である場合は、株主総会の招集通知や株主総会議事録等が必要です。また、承認機関が取締役会であれば、取締役会議事録等が追加で必要となります。
会社売却(株式譲渡)における留意点
株式譲渡において留意するべき点は主に2つあります。
1つ目は、株式譲渡に伴う税務の問題です。株式を譲渡するとその譲渡益は課税対象となります。譲渡益に対して所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%で、合計20.315%が課税されます。
2つ目に留意するべき点は、譲渡する株式を発行している会社が株券発行会社である場合です。この場合、株式を譲渡するときは、株券も一緒に交付する必要があります。株券がない場合、株式譲渡の効力が認められない場合があるので注意が必要です。
まとめ
ここまでご覧いただいた通り、株式の内容に譲渡制限が付されているかで、用意する書類や留意するべき点が異なってきます。しかし、株式譲渡は、対象となる株式を譲渡するかたちになりますので、事業譲渡や会社分割と比べてM&Aの手続きが単純です。
株式譲渡を選択すると、手続きをシンプルにでき、迅速に経営の支配権を第三者に移転することが可能になります。