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マルチプル法による企業価値算定で使う指標を解説|メリット・デメリットも紹介


公開日:2021年4月23日  最終更新日:2022年11月18日

マルチプル法とは

M&Aや投資にあたって重要なのが、対象企業の企業価値を適切に算出することです。今回は、企業価値を算定する手法の1つ、マルチプル法(類似会社比較法)についてご紹介します。

マルチプル法とは、バリュエーション(企業価値評価)手法の1つです。マルチプル法は、対象企業と、業界や会社規模など類似した上場企業の価値を相対的に評価するアプローチです。

DCF法との違い

DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)は、対象企業が将来生み出すと期待されるフリーキャッシュフローを、現在価値に割り引いて企業価値を算出する方法です。

なお、フリーキャッシュフローとは、事業で稼ぎ出した営業キャッシュフローから、現事業の維持に必要な投資キャッシュフローを差し引いたものです。フリーキャッシュフローが潤沢な企業は、事業拡大や借入金返済、株主還元などに自由に使えるキャッシュが多いといえます。

DCF法が基本的に対象企業の成長に着目して企業価値を算出するのに対し、マルチプル法は対象企業の企業価値を類似企業との比較で算出する点で違いがあります。

マルチプル法を行うメリット

マルチプル法は、DCF法よりも計算式が簡単で、かつ類似企業と相対的に比較する手法であり客観性の高い評価が得られるので企業価値算定の手法としてよく使われます。ここでは、マルチプル法のメリットを2つご紹介します。

比較的容易に算出できる

マルチプル法の大きなメリットは、DCF法など他の企業価値評価手法よりも比較的容易に算出できることです。

企業価値は、類似した上場企業を選定して評価倍率(マルチプル)を割り出し、この倍率を対象企業の価値に掛け合わせて求められます。評価倍率の指標には、EV/EBITやEV/EBITDA、PERやPBRを使いますが、それぞれの内容については、後ほどご紹介します。

相対比較なので客観性を担保しやすい

マルチプル法は、業界や会社規模などが類似した上場企業と比較して対象企業の価値を評価する手法です。株式市場の多数の参加者による価値評価を経た企業と対象企業とを相対比較することになり、ある程度客観性を担保しやすいと言えます。

対してDCF法は、対象企業の将来のキャッシュフローを予想した上で、ある程度裁量を持って決定できる割引率に基づき現在価値に引き直して企業価値を算定する手法です。

つまり、DCF法で算出した企業価値は絶対評価であり比較対象がないため、将来のキャッシュフロー予想のもととなった事業計画や、現在価値に引き直すための割引率が信頼性に乏しい場合には、算出される企業価値が信頼性に欠ける可能性があります。

マルチプル法で使われる指標4つ

ここからは、マルチプル法を算出する際に使われる指標(評価倍率)についてご紹介します。企業価値を評価するために、指標の意味を知ることはとても重要です。評価倍率について、しっかりと理解しましょう。

1:EV/EBIT

EBITは「Earnings Before Interest and Taxes」の略語で、「税引前当期純利益+支払利息−受取利息」という計算式で表されます。つまり、EBITは「税引前当期純利益に支払利息を加え、受取利息を除いたもの」となり、純利益から利息の影響を除くことで、企業が事業で獲得した利益をより正確に把握することができます。

例えば、借入金で大規模な設備投資を行った企業を対象企業の類似企業としてベンチマークする場合、当該企業には多額の支払利息が発生して純利益を押し下げているため、純利益をもとに算出するPER(後ほど詳しく説明します)は高倍率となってしまい、その倍率をもとに算定した対象企業の企業価値は妥当性を欠いてしまいます。

そのような場合、支払利息による影響を除いたEBITをマルチプル法に用いることで、より実態に則した企業価値を把握、できるようになります。

なお、EBITそれ自体は一企業の「税引前当期純利益に支払利息を加えて受取利息を除いた“額”」でしかなく、異なる企業同士の企業価値を比較する“尺度”(倍率)としては使用できません。そこで、倍率に変換するため、「EV/EBIT」の計算式でEV/EBIT倍率を算出します。

EVは「株式時価総額+純有利子負債」で算出する企業価値の一種です。なお、純有利子負債は「有利子負債−現預金等」で算出します。マルチプル法でEBITを活用する場合は、類似企業のEV/EBITの倍率を算出して、対象企業のEBITに当てはめて企業価値を算出します。

2:EV/EBITDA

EBITDAは「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の略語であり、和訳すると「利息、税金、減価償却費および償却費控除前の収益」のことをいいます。

EBITDAは「税引前当期営業利益+減価償却費」という計算式によって算出します。ひと言で説明すると、EBITDAは「償却前営業利益」であり、EBITから減価償却費を除いた利益として理解するといいでしょう。

償却処理についての考え方は、日本会計基準や米国会計基準、IFRS(国際会計基準)など会計基準ごとに異なるため、グローバル企業のM&Aを検討するときに、償却前の営業利益であるEBITDAを基準とした企業評価が使われます。

なお、EBITDAをマルチプル法で利用する場合も、「EV/EBITDA」で倍率を算出してから対象企業のEBITDAに当てはめて企業価値を算出します。

3:PER

PERは「Price Earnings Ratio」の略語であり、PERは「株式時価総額/当期純利益(あるいは株価/1株あたり当期純利益)」という計算式によって算出できます。

つまり、PERは「株価が、1株あたりの当期純利益の何倍になっているのか」を示します。また、PERは投資回収年数として考えることもでき、類似した企業と対象企業のPERを比較して割安か割高かどうかを判断できます。

4:PBR

PBRは「Price Book-value Ratio」の略語であり、PBRは「株式時価総額/純資産(あるいは株価/1株あたり純資産)」という計算式によって算出できます。

つまり、PBRは「株価が、1株あたり純資産の何倍であるか」を示します。わかりやすく説明すると、PBRが1倍の場合、1株あたりの株価と1株あたりの純資産額が帳簿上は同水準ということになります。PBRが小さいほど株価が割安であると判断できます。

マルチプル法のデメリット

マルチプル法は、ベンチマークする企業の選び方や、算定時期の株式市場の環境などで評価結果は大きく異なります。

ここでは、マルチプル法のデメリットについてご紹介します。

算出時の株式の相場環境に左右される

マルチプル法で比較対象となる上場企業の株価は日々変動します。

マルチプル法で用いる指標、EV/EBIT・EV/EBITDA・PER・PBR、いずれも株式時価総額をもとに算出されるため、株式相場の状況によって、企業価値の算出結果も左右されてしまう可能性があります。

より正確な企業価値を算出するためには、採用する指標を数年来の平均値に設定したり、マルチプル法以外の評価手法も組み合わせるなど、短期の株価変動の影響を受けにくくする工夫が必要になります。

類似企業や指標の選定が難しい

マルチプル法は比較対象となる類似企業が存在することが前提です。また、類似企業が存在しても、比較対象として適切な指標を選択する必要があります。

例えば、IT関連業種や新興企業は、純資産額が少なくても事業の運営が可能なため、PBRは高い倍率になりがちです。

単純に対象企業と企業規模が似ているからといった理由だけで新興企業のPBRを指標としてしまえば、対象企業の実態とかけ離れた企業価値を算定してしまう可能性があります。

マルチプル法について理解しよう

今回は、マルチプル法を算出する際に使われる指標とあわせて、メリットとデメリットについてご紹介しました。

対象企業の適切な企業価値の把握は、M&A成功のために必須です。まずは、マルチプル法への理解を深めてM&A成功への第一歩を踏み出しましょう。

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