決め手となったのは「熱量とスピード感」 製菓・製パンEC×SES企業が描く成長戦略とは

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決め手となったのは「熱量とスピード感」 製菓・製パンEC×SES企業が描く成長戦略とは

2024年10月、製菓・製パン業界に特化したeコマースを主軸としている株式会社cottaは、SES事業をメインとする株式会社TERAZのM&Aを行いました。

M&Aクラウドで出合った両社は、どのように信頼を築き、成約に至ったのでしょうか。cotta・代表取締役社長の黒須綾希子氏と、TERAZ・代表取締役の今中 更氏に話を伺いました。

プロフィール

株式会社cotta 代表取締役社長 黒須 綾希子(くろす・あきこ)

2007年、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に入社し、2010年には製菓・製パン材料の卸業を行う株式会社タイセイ(現:cotta)に転職。事業の低迷を打破すべく、子会社TUKURUを設立し、BtoC向けECサイト「cotta」の立ち上げを手がける。インフルエンサーマーケティングを駆使し、2013年には東証マザーズ(現:東証グロース)に上場。PB商品のシェアを50%に拡大し、会員数は170万人に。2020年にはcottaおよびTUKURUの代表取締役社長に就任し、企業の成長を牽引している。

株式会社TERAZ 代表取締役CEO 今中 更(いまなか・こう)

京都産業大学経営学部卒。2020年株式会社TERAZを設立。2020年以前には、株式会社Branding Engineerにて営業の経験や、フリーランスのエンジニアとして「freee」・「AIトラベル」の案件に携わる。

製菓・製パン業界に特化したeコマース事業を展開

株式会社cotta 代表取締役社長 黒須綾希子氏
株式会社cotta 代表取締役社長 黒須綾希子氏

——はじめに、cottaの事業内容について教えてください。

黒須:cottaは、製菓・製パン業界に特化したeコマース事業を展開しています。製菓材料や梱包資材を中心に約3万点の商品を扱っており、業界でも最大規模となっています。ターゲットとしているのは、全国の製菓店と製パン店と、趣味でお菓子作りやパン作りをしているママたち。全国的に、製菓・製パン店は小規模経営であることが多く、ご家庭ユースも大量発注は望めません。その点に着目して、小ロットで材料や道具を購入できるようにしたことが好評を博し、サービスの特徴にもなっています。

——今回、M&Aを検討された背景や経緯を教えてください。

黒須:当社は長くeコマースに携わってきましたが、ここ最近の物流費、人件費の高騰による影響は見逃せない問題でした。これらは、ある意味当社の脆弱性につながりつつあったのです。その課題感とともに、eコマース以外で自社の柱となる新しい事業を育てる必要性を感じていたため、1年以上前から成長戦略の中心にM&Aを据えていました。その際、従来から不足を感じていたエンジニアのリソース確保に結びつく企業のM&Aも視野に入れていたのです。

——その中で、M&Aクラウドに登録したきっかけは。

黒須:実は、M&Aクラウド自体は数年前から知っていたんです。当時はM&Aのマッチングプラットフォームという新しいM&Aの手法が出てきたなと思っていましたね。今回、M&A戦略を立てたタイミングで登録をしました。

「事業の成長」を最優先で考えM&Aを決断

株式会社TERAZ 代表取締役CEO 今中更氏
株式会社TERAZ 代表取締役CEO 今中更氏

——次に、TERAZの事業内容と特徴を教えてください。

今中:当社は、SES(システムエンジニアリングサービス)事業をメインとし、一部受託開発なども行なっています。メインのSES事業では、フリーランスのエンジニアが多数登録していることから、幅広い領域の技術的課題に対応可能となっています。また、私自身がSE出身ということもあり、登録時のフィルタリングは厳しく、選考倍率も高い。それにより、開発レベルを含めてサービスの質を担保できていることが強みです。

——その中で、なぜM&A検討に至ったのでしょうか。

今中:2020年に創業し、順調に成長を続けてきましたが、前期の成長率は横ばいにとどまりました。その要因となった課題をクリアし、より強いチームを作らなければ今後の成長は見込めないと判断したことがきっかけです。

自分たちだけで課題を解決して事業を伸ばしていけるのであれば、それは一番いいことではあるのですが、私自身、事業を4年間やってきた中で、経営面での課題を感じていました。そのうえで、「事業の成長」を最優先で考えて動くことが、私にとっても社員にとっても一番いい結果につながるのではないかと考えました。それがM&Aという選択肢だったわけです。

——なるほど。具体的にはどのような企業を求めていたのでしょうか。

今中:SES企業だと同業を求められると思われがちですが、私の場合は特殊なオーダーで、SESとは異なる領域の企業とグループになりたいという意向を持っていました。これまで事業を成長させてきた身として、さらにはこれから社員に対しても責任を持ってやっていくことを考えると、いきなり私が抜けて事業を他の人にまかせるという選択肢はない。課題でもある経営の機能を強化していただける企業と一緒になり、さらに事業を成長させたいと考えていました。

面談後30分で即オファー、決め手は「熱量とスピード感」

——今回は、cottaがTERAZにスカウトを送ったことが出合いのきっかけとなりました。TERAZにスカウトを送られたきっかけは。

黒須: M&Aを検討するようになってから、他のM&A仲介会社からも提案をしてもらっていたのですが、元々業種を絞らず見ていたので、なかなかピンとくる企業を見つけられなかったというのが正直なところだったんです。そんなとき、M&Aクラウドのスカウト機能(買い手企業が自社の買収ニーズにマッチしそうな売り手企業へ直接メッセージを送ることができる機能)の存在を知りました。

使ってみると、AIで自動で売り手企業をリスト化してくれて、想定されるシナジーが表示されるので、「ここは違う」「ここはいい」と自身で選択肢を広げやすかったんです。TERAZさんはそのリストの中で見つけた企業のひとつでした。

——cottaからスカウトを受け取ったときの印象はいかがでしたか。

今中:全く違う領域の企業がスカウトをくださったっていう印象でしたね。 SES以外という、まさに自分が求めていた領域の企業だったので、すごく興味がありましたね。すぐに話を聞いてみたいと思い、即レスで返信しました。

黒須:本当に、見落としてしまうぐらいの即レスでした(笑)。

——初回面談時のそれぞれの印象はいかがでしたか。

今中:黒須さんが、私の話を興味を持って聞いてくださったと覚えています。お話を伺っていくと、当社側のニーズにとてもフィットした企業であると印象を持ちました。

黒須:初めて会ったにも関わらず、今中さんが抱えている課題感までお聞きすることができました。それに対し、私たちが支援できることがある、そこからシナジーが生まれると感じたのが初回面談です。特に、今中さんから自分の強みと弱みを率直に語ってもらえたのが印象的でしたね。マイナス部分は隠しておきたいものですが、それを明確に提示できる人は信頼できる。これが彼に対する好印象の根拠にもなっていたと思います。その後、当社の会長とSES事業に知見のある顧問、ボードメンバー1名を加えて、2回目の面談を実施することになりました。

今中:当社の出していた条件は、わがままな部分もあったと自覚しています。SES事業とは異なる領域の企業と一緒になりたい、けれど経営的な部分は支援してほしい。でもそれが、cottaさんとフィットしました。2回目の面談後、すぐに黒須さんからオファーを考えているとの連絡があり、その決断力、スピード感に驚かされました。

黒須:2回目の面談を終えて、30分後にはオファーの連絡をしましたね。そういった即時判断がしたかったから、会長含め面談に参加するメンバーを厳選したのです。それ以外にも、今中さんの要望は全てクリアできるよう努めました。

——最終的な決め手となったポイントを教えてください。

今中:ここまで売り手側のことを考えて動いてくれる企業はない、そう感じてぜひ一緒にという気持ちが定まりました。決め手となったのは、cottaさんの持つスピード感、熱量でした。

実は、他社のアドバイザー経由で1社並行して検討をしているところがあったんです。なので、正式な返答まで1カ月間だけお時間をくださいと、黒須さんにお伝えをさせていただいていたんです。その期間中にも黒須さんからいろいろとお話をいただいて。

黒須:すでに当社からのオファーは終えている段階でしたが、彼からそれを聞いたとき、この1カ月間が勝負だと思いました。この期間中は、会食をしたり、オフィスに行って私の思いを伝えさせていただきましたし、今後どのように成長していきたいかというお話もさせていただきました。また、経営課題としてナンバー2、いわゆる彼の右腕がいないことが課題だったので、まだ一緒になると決まってないのに、採用の支援もしました。

今中:そこまでやってくださる方は普通いないですよ(笑)。

黒須:私たちとしては、グループインしてほしいと決まっていたので、今中さんが課題にしていることをひとつずつクリアにしていくことを意識していましたね。正式に返事をいただいたときには、嬉しくて思わず乾杯をしたことを覚えています。

得意分野を活かし、グループとしての発展を

——両社のリレーションシップは現在どんな段階にあるのでしょう。

今中:週1回はミーティングを実施し、事業に絡む事柄を共有、整理ができたところです。

黒須:基本合意したタイミングから事業計画が進んでいたので、正式にグループインした10月1日からすぐに実働がスタートしていますね。

今中:経営の自由度は高く維持させてもらっていますし、私たちとは異なる視点からのアドバイスも得られています。いわゆる経営リソースを提供してもらえているので、自社の力になるだけでなく、グループ会社としてcottaさんの力になれるのではと考えています。

——今後のシナジー創出に向けて、どのようなビジョンを描いていらっしゃいますか。

今中:直近の目標は、事業を安定的に伸ばしていくこと。そしてcottaさんのグループ会社の中でも影響力ある立ち位置を築くことです。

黒須:今後自社で予定しているM&Aをはじめとした企業戦略において、TERAZさんの力、本領を発揮してもらいたいです。自社の成長を考えても、DXのリソースは非常に重要。そこにタッチできるのがTERAZさんだと考えています。

直近では、理美容業界に特化したBtoB通販事業を展開するワークス・グループの持株会社GCJG30のM&Aも行いました。理美容業界は、製菓業界と同様にEC化、DX化で遅れをとっている業界であり、この成長シナリオにおいてもTERAZさんが重要になってきます。DX分野では、今後グループを引っ張っていく立場になってもらう予定です。

そのためには、TERAZさんが最大のポテンシャルを発揮できる環境を作り出すのがミッションとなっています。彼らの課題をサポートしながら、得意分野でのびのび業務遂行してもらえるようにしたいと考えています。

M&Aクラウドは「トップが動けるM&A」で活用すべきプラットフォーム

——最後に、M&Aクラウドをご利用いただいた感想をお聞かせください。

今中:今回は、SES企業以外と協業したいという特殊な条件だったので、M&Aクラウドさんとの相性がよかったと感じています。アドバイザーを介すと、その方の発想などに左右されることもあるかもしれませんが、今回はプラットフォームだからこそ、業界など絞らず幅広い企業から打診をいただけました。cottaさんとの出合いにおいて非常に大きな意味を持ったと思います。

黒須:オファーしてから成約まで3週間ほど、その間当社が自由に動ける環境にあったことはとてもよかったと感じます。プラットフォームでダイレクトに繋がったからこそ、本音で話し合えたことが成約に至った大きな理由だと思います。アドバイザーを介していたら、これほどまでにクイックに直接腹を割って話せなかったかもしれませんし、熱意を伝えきれていなかったかもしれない。M&Aクラウドのプラットフォームだからこそ生まれた成約と言えると思います。

——今後、M&Aを検討されている方に向けてアドバイスはありますか。

黒須:また、今回M&Aクラウドを利用して感じたことは、トップが動けるM&Aにおいて、もっとも効力を発揮するプラットフォームだということです。相手企業とダイレクトに話ができるし、トップが出ていれば意思決定もスピーディーになる。介在する人が多いほどそれは難しくなりますから、トップこそが活用すべきM&Aプラットフォームと強く感じました。

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