【ランドコンピュータ×インフリー】社員の将来を見据え、創業社長が下した決断。豊富な受託実績を武器にDXの最前線で戦う2社が、ベストパートナーを見出すまで
買い手:株式会社ランドコンピュータ
売り手:株式会社インフリー
公開日:
基幹システムを中心としたシステムインテグレーション・サービスを主軸に、近年はクラウドサービスを主とするパッケージベースのSI事業にも注力中の株式会社ランドコンピュータ。同社は2021年4月、基幹システムパッケージSAPの導入コンサルティングおよびアドオン開発を手掛ける株式会社インフリーの全株式を取得し、子会社化しました。本件は、M&Aクラウドのプロフェッショナル部隊、M&A Cloud Advisory Partners(MACAP)の支援により、成約に至った案件です。システム開発業界において、共に長い歴史と実績を持つ両社が今、なぜ手を組み、何を目指すのか、ランドコンピュータ 代表取締役社長の福島 嘉章氏(写真左)、同 取締役 経営管理本部長 奥野 文俊氏、インフリー 取締役の脇 和幸氏(写真右)に語っていただきました(写真中央は、ランドコンピュータ 代表取締役会長の田村 秀雄氏)。
プロフィール
1969年生まれ。三井東圧化学株式会社(現・三井化学株式会社)を経て、2014年にランドコンピュータへ入社し、執行役員営業本部長就任。同年6月に取締役営業本部長。2018年6月に代表取締役社長に就任。
1971年生まれ。2009年2月にランドコンピュータへ入社し、同年4月経理部長就任。2015年4月に執行役員経営管理本部長。2019年6月取締役経営管理本部長就任。
1968年生まれ。短大卒業後フリーターを経てソフトウェア開発会社に就職。プログラマ、システムエンジニアとして経験を積み、1997年にフリーランスエンジニアとして独立。2001年にSAP事業を中心としたインフリーを創業、代表取締役に就任。2021年4月、同社がランドコンピュータの子会社となったのに伴って代表を退き、現在は取締役として引き続きインフリーの運営に携わる。
社員の一言から考え始めた、自身の「引退後」。誰もがハッピーになれる選択とは?
――インフリーさんの事業内容からご紹介ください。
脇:基幹システムパッケージ「SAP」の導入コンサルティングとアドオン開発を手がけています。2001年に創業して以来約20年、SAPエンジニアを育成しノウハウを積み上げてきました。
――「M&Aクラウド」には2020年6月に登録いただきました。ご登録の背景をお聞かせいただけますか?
脇:一つには、近年の市場の変化に対応するため、技術の幅を広げる必要を感じていたことがあります。SAP導入に伴うアドオン開発は、かつてはSAP独自の言語でなければ行えなかったのですが、最近はDXの流れの中で、Javaなどオープン系の言語でも対応できるようになり、競争環境が変わってきているのです。
SES事業がメインである当社の武器は、何といっても人材です。新卒を採用し、SAP関連の開発からコンサルティングまでマルチに対応できる人材へと育て上げる教育体制を通じ、これまで取引先の信頼を獲得してきました。この実績をベースに、これからは新たにオープン系の開発ノウハウを持つ人材も増やしていくためには、まずはオープン系を得意とする別会社をM&Aし、仲間に迎え入れる手もあるのではないか――そうした考えで「M&Aクラウド」にたどり着きました。
――ということは、当初はむしろ買い手の立場でパートナーを探されていたのですね。
脇:はい。「当社でも買えそうな会社があるかな」と思いながら、売り手企業を検索しているうちに、ふと「逆に当社を売却するとしたら、いくらくらいで売れるのだろう」と興味がわいてきたんです。
創業から約20年、変化の激しい業界の中で舵取りを続けてきましたが、気づけば私ももう50歳を過ぎています。社員から「脇さんの引退後は、会社はどうなるんですか?」と尋ねられたことをきっかけに、会社と自分の今後について、思いを巡らせ始めた時期でもありました。さらに、プライベートでは、一昨年、待望の子どもが生まれて父親となり、家族について考える割合もぐっと増えたところでした。
いずれは社内の誰かに後を託せればと思い、何人かに話を振ってみたりもしたものの、前向きな回答はありませんでした。ちょうど新型コロナの感染拡大が深刻化し、先行き不透明な市場環境だったことも重なり、「このあたりで大きな資本の中に入った方が、社員にとっても、自分にとっても、家族にとってもハッピーなのでは」という気持ちが大きくなってきたのです。そこで、「M&Aクラウド」にも売り手として登録し、ジョイン先を探す方向に切り替えました。
――ご登録後すぐに、MACAPから連絡し、ヒアリングさせていただいた後、アドバイザリーサービスを利用いただくことになりました。
脇:担当の三浦さんが非常にスムーズにリードしてくださったので、私もあまり構えることなく、初めてのM&Aというものに臨むことができました。最初のヒアリング後、日を置かずにアプローチ先の候補をピックアップしてださり、やりとりも丁寧で、「この方なら安心してお任せできる」と感じました。
――ジョイン先となる会社に関しては、どのような希望をお持ちでしたか?
脇:やはり、社員を大切にしてくれる会社ですね。特に、当社と同様に人材育成に注力している会社であれば、社員も馴染みやすいのではないかと考えていました。
パッケージベースSI拡大のドライビングフォースに! 待ち望んでいた仲間の出現で、スピーディーに社内合意
――ランドコンピュータさんは、2020年3月に「M&Aクラウド」に記事掲載いただきました。
福島:売上高100億円の早期達成を目指す中期経営戦略を掲げる当社にとって、M&Aは重要課題の一つです。奥野君が担当してくれていますが、彼は他業務もいろいろ抱えている中、ソーシングルートは社内外含め、できるだけ多く確保しておきたいところです。「M&Aクラウド」は大手仲介会社などに比べて初期費用がかなりリーズナブルで、これなら試してみてもよいのではと判断しました。
奥野:記事掲載することで、「M&Aに積極的に取り組んでいる」ことを広くアピールすることになり、広報・IR面の効果も見込めると考えました。実際、掲載後はM&A仲介会社から頻繁に連絡が来るようになり、情報収集しやすくなったと感じます。
ただ、この業界は今、完全に売り手市場です。情報収集すればするほど、今の状況下でよい売り手に出会うことの難しさも感じました。そんなときに三浦さんからご連絡いただき、しかも当社が取り組みを強化したいと考えていたSAPを専門にする会社と聞いて、非常に興味を持ちました。
――2020年10月、脇さんと奥野さんの初面談を設定させていただきました。脇さんのランドコンピュータさんに対する印象をお聞かせください。
脇:実はあまり存じ上げなかったのですが、人材育成に非常に注力されていることを知り、親近感を覚えました。
――ランドコンピュータさんは、もともと学校が母体だそうですね。
福島:はい。企業が学校運営を始めた例はたくさんあっても、学校法人を母体として企業を設立した例は、業界でも当社くらいでしょう。創業以来50年間、エンジニアリングの会社として発展し続けてくることができたのも、教育を重視する伝統の中で、社員一人ひとりが技術を磨き続けてきたおかげだと自負しています。特に社員の資格取得には力を入れており、各部門の業績同様、資格取得状況も綿密にマネジメントしています。
――奥野さんはインフリーさんに対して、どのような印象を持たれましたか?
奥野:企業のITインフラの入れ替えが一斉に発生し、SAP ERPシステムのメインストリームサポートの期限が到来する2027年問題もある中、当社でもSAPには以前から注目し、導入およびアドオン開発に取り組んできました。ただ、現場の対応力にはまだまだ成長の余地があり、起爆剤を求めていたところだったのです。ですから、三浦さんからインフリーさんを紹介いただいた時点で、まず「よいタイミングで、よいお話を頂いたな」と思いました。しかも、脇さんにお会いしてみると、本当に真面目な、信頼できるお人柄です。面談後、すぐに役員会議に諮り、その場でGoがかかりました。
福島:インフリーさんの場合、当社がもともと持っていた戦略の中で、連携していくビジョンが描きやすかったですね。
当社は長年、主に金融業界のクライアントを対象に、業務現場に対する知識を深め、個々の現場に最適なシステム開発のノウハウを磨いてきました。一方、最近ではDXの流れを受け、より幅広い業界、幅広い企業規模の会社で、システム導入の動きが広がってきました。こうしたニーズに応えているのが、手軽に導入できるパッケージ製品です。当社でも近年は、「パッケージベースSI」の領域に力を入れており、2021年3月期は、コロナの影響で全体的には苦戦した中でも、この領域に限っては20%の伸びを示しています。
SAPに関しても、当社でもすでに案件を手がけていたものの、コンサルティングまでできる人材はまだ育っておらず、一気に市場を攻略していきたい思いがありながら、リソース不足がネックとなっていました。ここで、SAP専門に20年の実績を持つインフリーを迎えることができたら、強力なドライビングフォースになるはずです。当社のニーズに本当にぴったりした話をいただけて、ラッキーだと思いました。
――その後はデューデリジェンスもスムーズに進み、年末には福島社長も交え、食事の場をセッティングさせていただきました。
福島:脇さんは私と年も近いと聞いていましたし、純粋にどんな方なのか知りたい、一度お会いしてお話ししてみたい気持ちがありました。20年にわたって経営の最前線に立ってきた方だけに、きっと独自のスタイルをお持ちだろうというイメージがあり、私としては少し構えていたところもあったのですが、お会いしてみると本当に物腰柔らかで、誠実そのもの。「なるほど、このお人柄があってこそ、取引先からの信頼を積み重ねてこられたのだな」と納得しました。
――どんな話をされたのですか?
福島:家族の話や出身地の話など、とりとめもない話ばかりでしたが、やはり実際に顔を合わせてお話しすることで得られるものは大きいですね。この方なら、当社の課題も包み隠さず共有し、前向きな姿勢で連携していけると感じました。帰宅後すぐ、まだ酔いも冷めないままに、奥野君に「ぜひ脇さんと一緒にお仕事したい」とメールしたのを覚えています。
脇:私にとっても、福島社長と直接お会いできたことは大きかったです。大会社の社長でありながら、とてもフランクなお人柄で話しやすく、安心しました。
――脇さんは今回、自身で創業され、20年間先頭に立って経営してきた会社を譲る決断をされました。迷いを感じた場面はありませんでしたか?
脇:それはありました。「社長を辞めようと思っている」という話をすると、周囲の反応はさまざまで、家庭に重きを置いている人からは「それが正解だろう」と言われる一方、仕事に賭けている人からは「まだ続けた方がよいのでは」と言われます。相談するたびに、心が揺れ動きました。
コロナの影響が思ったほど大きくなかったこともあり、自分でも「もう少し社長として続けてみたい」という気持ちになることもありました。ただ、IT業界の変化のスピードは、これからどんどん速くなっていきます。後継者のあてもない中で、いつまで社員と家族を守り続けていけるか――そう考えると、次第に「こんなよいご縁に恵まれた今こそが、会社への関わり方を変えるチャンスでは」という方向に思いが傾いていきました。大きな決断でしたが、自分なりに考え抜いて結論を出せたと思っています。
エンジニア一人ひとりに、より大きなチャンスを提供できる未来へ
――3月末に契約締結され、4月から新体制に移行されました。インフリー社員の皆さんの反応はいかがでしたか?
脇:思った以上にすんなりと受け入れられ、少し拍子抜けするほどでした。ランドコンピュータさんから「業務はこれまで通りに続けてほしい」と言っていただいており、それを社員にも伝えたことで安心感が生まれたのだと思います。7月からランドコンピュータさんのオフィスに移転することについても、「広くなるのは嬉しい」と歓迎する声が上がりました。
4月1日に発表したので、新入社員にとっては、出社初日に会社の体制変更を告げられることになりました。当然驚いていましたが、大会社の仲間になり、チャンスが広がったことは、ポジティブな驚きだったようです。若い世代ほど、今回の変化をプラスにとらえているようで、私も嬉しく思っています。
――新体制になったことで、具体的にはどんなチャンスが広がったのでしょうか。
脇:会社として、目の前の業務を回していくだけでなく、5年後、10年後の事業展開を見据え、領域拡大に向けた準備ができるようになったことが大きいですね。インフリー単体だったときは、そのような挑戦をしたい思いはあっても、なかなか余裕が持てなかったので。
SAPは、今では従来の基幹システムパッケージとしての枠を越え、営業など周辺領域もカバーするようになっています。さらに、企業向けだけでなく、サッカーの試合分析など、多彩な用途に向けた製品が開発されています。当社ではまだ基幹システムの取り扱いが中心になっていますが、SAPの知見を持つエンジニアとして、挑戦できる領域は大きく広がっているのです。こうした中で、社員一人ひとりが自分の志向に合ったキャリアを築いていけるよう、当社としてもさまざまな機会を提供していきたいと考えています。
――最後に福島社長、今後のインフリーさんとの連携に向けて、改めて意気込みをお話しください。
福島:インフリーさんには、SAPの導入コンサルティングとアドオン開発で長年築いてきたノウハウがあり、ランドコンピュータでは、Javaなどオープン系に強い技術者を豊富に抱えています。両者を掛け合わせることで、インフリーさんのクライアント先に対しても新たなアプローチが可能になりますし、当社の急成長領域であるパッケージベースSIの顧客基盤に対しても、より上流から入り込んでいくことができるでしょう。教育面でも、両社のノウハウを融合し、これまで以上にマルチな能力を持つ人材を育てていきたいですし、採用面でも協力していけると考えています。
今はまだインフリーさんのオフィス移転の準備などがあり、新体制の構築が本格化するのはこれからです。両社の連携でお互いにどれだけパワーアップしていけるか、私自身、非常にワクワクしています。当然、それぞれの歴史があり、企業文化があるので、一朝一夕に融合できるとは思っていませんが、言うべきことは率直に言い合い、目線を合わせて進んでいける関係をつくっていきたいですね。
幸い、両社は、エンジニアが意欲的にキャリア開発していける環境づくりを一番に考えるという、企業経営の根本の部分で一致しています。DXで市場が広がる中、社会のニーズを先取りしながら、常に尖った技術を提供していけるプロ集団として、力を合わせて発展していきたいと思います。
――福島さん、奥野さん、脇さん、本日はありがとうございました。
=======
本ページに掲載している情報には、M&Aが成立するに至る経緯に加え、インタビュー時点での将来展望に関する記述が含まれています。こうした記述は、リスクや不確実性を内包するものであり、環境の変化などにより実際の結果と異なる可能性があることにご留意ください。