建設DX×住宅マーケティングで、バリューチェーンを拡大!スタートアップ2社がタッグを組み巨大産業の変革に挑む
買い手:株式会社アンドパッド
売り手:株式会社コンベックス
公開日:
2024年4月、住宅・不動産業界に特化したマーケティングオートメーションツール「Digima(デジマ)」を運営する株式会社コンベックスは、クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を運営する株式会社アンドパッドにグループジョインしました。
M&Aクラウドのアドバイザーを通じて出合い、成約に至った両社。どのようにして成約に至り、現在どのような協業を行なっているのでしょうか。アンドパッド取締役CFOの荻野泰弘氏と、コンベックス代表取締役の美里泰正氏にお話を伺いました。
プロフィール
慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社マクロミルにて財務経理本部担当執行役員として、東証一部上場企業の財務全般に携わる。その後モバイル系ベンチャーの取締役CFOを経て、株式会社ミクシィにて企業買収、合弁会社設立等、投資全般を担当。同社取締役CFO就任後は2度の資金調達、グローバルオファリングを実行。米国金融専門誌「Institutional investors」が選定するBest CFOを2年連続で受賞。2020年より株式会社アンドパッドに取締役CFOとして参画。
大学卒業後、不動産デベロッパーに10年間勤務し、営業部隊の責任者、販売子会社の代表取締役に就任。その後、非効率な営業活動を改善したいという想いから、2005年12月に株式会社コンベックスを設立。10,000人以上のセールスパーソンを分析したノウハウをもとに、営業支援システム「TELE-ALL-ONE」、セールスマーケティングツール「Digima」の開発、導入支援を行う。
戦略的に重要なミッシングピースの出合い
――まず、アンドパッドの事業内容を教えてください。
荻野:当社は「幸せを築く人を、幸せに。」というミッションのもと、建設現場の効率化から経営指標の見える化・改善までをワンプラットフォームで一元管理できるクラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を提供しています。
建設業は、日本のGDPを支える巨大産業であるにもかかわらず、就業者の高齢化が進み、人材確保が難しくなっているのが現状。そこで、テクノロジーによって業界全体の生産性を上げ、働く人に誇りを持ってもらうことを目指しています。
――M&Aを検討するようになったのはいつごろからですか。
荻野:M&A戦略を対外的にも打ち出し始めたのは2022年。「FY22 Second Act」を発表した時期でした。非連続な成長を目指すために掲げた「6つの戦略」の中に、「M&Aおよび資本提携を通じた新サービスおよび新規事業の創出」を明記しました。
M&Aクラウドのプラットフォームで買収意向を公開したのも、ちょうどそのタイミングでしたね。同時に、M&Aクラウドのアドバイザーにも希望領域を伝えて、ソーシングを依頼しました。私自身、多方面で経営者とのつながりは持っているのですが、自分ではリーチできない“ご縁”に期待をしてのことでした。
――そして、アドバイザーから紹介されたのが、コンベックスだったということですね。
荻野:まさに、私たちが求めていたミッシングピースだと感じましたね。先ほど言及した「6つの戦略」の裏に、5×5で構成された「25マスの戦略マップ」があるのですが、そのマスの一つが「住宅領域におけるお施主様との接点の最大化」だったんです。コンベックスのサービスがあれば、お施主様との接点をカバーできるなと思い、ぜひ話を聞きたいと答えました。
――改めて、コンベックスの事業内容を教えてください。
美里:住宅・不動産業界向けのマーケティングオートメーションツール「Digima」を開発・提供しています。簡単にいえば、お施主様の展示会来場を促進し、成約に至るまでの営業プロセスをサポートするシステムです。
最大の強みは、One to Oneコミュニケーションを前提に設計されたプロダクトであること。住宅は高額商材だからこそ、お施主様の対応を個別化した方が反応に結びつきやすい。そこで、電話やメール、SMS、LINEといったマルチチャネルと連携させ、お施主様との一対一のコミュニケーションを深められるような設計にしています。住宅・不動産業界でマーケティングの自動化を打ち出すツールは多数ありますが、One to Oneの世界観に基づいてマルチチャネルで対応できるものは、「Digima」が唯一のはずです。
――なるほど。「ANDPAD」は家を“建てる”工程、「Digima」は家を“販売する”工程を支援するツールだと思いますが、どのようなシナジーを想定できるのでしょうか。
荻野:単純に言うと、バリューチェーンの拡大ですね。つまり、住宅領域における「ANDPAD」の主戦場はお施主様が工務店に住宅を注文してからですが、その前の住宅購入に至るまでの“川上”のプロセスもおさえたい。それを握っているのが「Digima」だったというわけです。
「代表を辞める気はない」その思いを受け止めた、コミット型M&Aという選択肢
――アドバイザー経由でアンドパッドからの打診を受け、美里さんはどのように反応されたのでしょうか。
美里:第一声は、「M&Aはしないと思いますよ」でしたね(笑)。というのも、当時は「M&A=代表が退くもの」というイメージを持っていたんです。経営者としてやる気は十分、組織やプロダクトもようやく整ってきていたので、「むしろ単独でIPOする」というスタンスでいました。
とはいえ、シェアをさらに広めるにあたり、「ANDPAD」と一切連携しないというのも現実的ではありせんでした。建設業界のプラットフォーム化が進む中、アンドパッドがカテゴリーリーダーとしてのポジションを確立していたため、多くの顧客から「プロダクトを連携して欲しい」と言われていたんです。そのため、ひとまず「話だけは聴きます」と、担当アドバイザーを通じて返答しました。
そして迎えた初回面談で、始まって早々「代表を辞める気はない」と宣言したわけです。すると逆に、荻野さんから「一緒に経営しませんか」と提案を受けて、「あ、そういうパターンもあるんですね」と。自分が代表としてコミットし続けられると知って、提案を前向きに検討できるようになりました。
荻野:オーナーシップを持ち続けてもらって一緒に経営するパターンとそうでないパターンの両方を視野に入れていますが、美里社長とお会いしたときは、最初の数分で「一緒に経営したい」と直感したんですよね。
経営者の格というのは、長時間話さなくても、第一印象でほとんどわかります。美里社長からは、経営者として背負ってきたものの大きさ、経営者としての圧倒的な生き様が感じられました。
とはいえ、経営には正解がなく、様々なスタイルがある。いかに尊敬できる経営者でも、目指すベクトルや熱量が同じでなければ、一緒に経営はできないので、美里社長と話す中でその確認をしていきました。そして最終的に、「オーナーシップを持ってグループに参画してもらいたい」という結論に至ったというわけです。
成長戦略型M&Aをすれば、現世でミッションを実現できる
――初回面談後、わずか2カ月で意向表明に至ったと伺いました。
荻野:初回面談から間もないタイミングで、美里社長が「もしM&Aを選択するなら、アンドパッド以外に考えていない」と言い切ってくれたんですよね。
美里:とはいえ、そもそもM&Aを選択するかについては、顧客のためになるのか、メンバーのためになるのか、最後に自分自身がワクワクするか?という順番で、慎重に検討を重ねました。
まず、顧客にとっては間違いなくプラスになるだろうと考えました。私たちは「世界中に、良縁を。」というミッションが示す通り、顧客が出会うべきお施主様と接点を持ち、その絆を深められるようにサポートをするのが目標。つまり、住宅の受注だけでなく、その後のアフターフォローまで一貫して顧客を支援できる状態を理想としていました。ただ、その理想を叶えるには正直なところ、「来世での実現になりそうだ」と思い始めていましたが、カテゴリーリーダーかつプラットフォーマーのアンドパッドと連携することにより、現世でその夢を叶えられる可能性が出てきたわけです。
また、アンドパッドは、建設業界の中で最もグロースしている企業なので、メンバーの成長にもつながるはず。メンバーも最初は戸惑うかもしれませんが、最終的には前向きに捉えてくれるだろうと自信を持つことができました。
そして最後に吟味したのが、私自身の思いです。いろいろ考えを巡らせた結果、残りのキャリアでは、自分単独ではなく、アンドパッドの優秀な経営陣と一緒に経営していきたいと思いました。その挑戦に、ワクワクしたんですよね。
――顧客にもメンバーにも自分にもメリットがあると確信したうえで、意向表明に至ったということですね。その後、成約に至るまでにはどのような論点があったのでしょうか。
荻野:最も大きな論点は、やはりバリュエーションです。M&Aは、両社の未来をかけた選択。その未来の計画の土台となるのがバリュエーションなので、各社員の営業生産性から顧客の単価、チャーンレート(解約率)まで、様々な要素を細かく計算して、緻密に数字を作り上げていきました。
また、「Digima」を導入している企業はもちろん、「Digima」を解約した企業や、「Digima」の競合商品を導入している企業までインタビューを行いました。インタビューを行なったのは、コンベックスさんが顧客をいかに大切にしているか、顧客からいかに愛されているかを確認するためでした。私自身もインタビューに同席して確認を進めた結果「Digma」が多くの方から愛されていると確信しましたし、両社が一緒になった後に顧客の喜ぶ顔が思い浮かんだことが、成約の決め手になりました。
美里:私は、荻野さんの一言で腹を決めましたね。M&Aにおいて、買い手はできるだけ安値を、反対に売り手は可能な限り高値をつけようとするのは当然のこと。その溝が100%埋まることはないので、どこかで折り合いをつけなければいけないとわかってはいたんですが、その決心がなかなかつかなくて。
そんなときに荻野さんが、「コンベックスのグループジョインを、“正解”にしていくことに注力したい」と言ってくれたんです。荻野さん自身、もともと在籍していた企業がM&Aされ、その先でCFOになったという経験の持ち主。M&Aされる側の気持ちをわかっている方の言葉だったからこそ、顧客やメンバーを幸せにするためのアクションこそが何よりも大切だと、素直に納得することができました。
PMIのリアルな課題を乗り越え「PMI最先端企業」に
――成約後、PMIはどのように進められましたか。
荻野:まず、カルチャーフィットについては、時間がほとんどかからなかったですね。とにかく高みを追求するという、グロースに情熱を傾ける文化がもともと共通していたんです。そもそもデューデリジェンス(DD)の段階で、コンベックスの一部社員にマインドセットや目標、課題意識、キャリアパスについてインタビューしていたので、カルチャーフィットの見込みは立っていたともいえます。
美里:あと、互いに建設業界・住宅業界に対する課題意識や思いが強く、共通言語が多かったのも有利に働いたと思いますね。
関連するエピソードがあるのですが、グループジョインを発表する前日に「Digima」のカスタマサクセスチームが社内のミーティングで、たまたま「ANDPAD」とプロダクト連携して顧客貢献度を上げたいと進言していたらしいんです。
つまり、最も近くで現場を見ていたメンバーは、顧客の現場業務が分断されていることを見抜いており、プロダクト連携の必然性を理解していたということです。だからこそ、驚くほどすんなりと連携を受け入れられたのだと思います。実際には、システムよりも先に会社が連携したわけですが。
一方で、レギュレーションの面では、本当に苦労しましたよね。
荻野:特に「顧客基盤の共有」は、言うだけなら簡単ですが、実際に行うとなるとかなり難しいんです。たとえば、お施主様のデータは個人情報なので、何の断りもなしに「ANDPAD」と「Digima」の間で連携させることはできません。顧客企業の情報もまた然り。BtoB企業同士が営業連携できるようになるまでの道筋は、相当長いといえます。
そこで、個人情報や顧客情報に触れない範囲でのシナジー創出からスタートしました。まず、成約後4、5カ月で、「ANDPAD」と「Digima」のシステムを連携。個人情報を除いて、互いに価値のあるデータをAPI連携できるようにしました。そして営業面では、互いに勉強会を開き、ノウハウやナレッジを交換するという人的交流を進めています。
美里:現在、成約から約半年が経過しましたが、単独で「Digima」のプレゼンができるアンドパッド社員も出てきているんですよ。数カ月後には、本格的なクロスセル体制が整う予定です。
荻野:今回のM&Aを通して、手前味噌ながら、“PMI最先端企業”になれたと感じています。先ほど言及した通り、レギュレーション面では様々な課題に直面しましたが、BtoB SaaSの上場企業にヒアリングするなどして、PMIの論点やその対処法を学び、一つひとつ乗り越えてきました。今ではPMIの本を書ける自信すらあります(笑)。
美里:ノウハウが溜まったので、安心して今後も新しい仲間に加わって欲しいということですよね。
――最後に、当社のアドバイザリーサービスを利用した感想を教えてください。
美里:担当アドバイザーには、感謝しています。IPO後の実情やM&Aの情勢についてよく質問したのですが、当日中に資料が来るくらい、レスポンスが早かったです。迅速にM&Aを決断し、意向表明を出せたのは、彼のおかげだと感じています。
もう一つありがたかったのは、メンタル面のケア。私にとって、M&Aは初めての経験なので、実務的には対応できても、精神的に消耗する場面が多かったです。まず、通常業務とディールを並行させることにも苦労します。ディールにおける間違いが許されない緊張感の中で、シナジーを見積もり評価額のギャップを埋めていく業務は心理的な疲れも溜まりました。
そんなときに、彼がささいな相談ごとから雑談まで話し相手になってくれて、気持ちが楽になりました。また、逆に決断しなければならないときには背中を押してくれて。私の自己肯定感を上げつつ、意思決定を下支えしてくれた存在でした。
荻野:私もこのM&Aは、担当アドバイザーの思いがあったからこそ成約に至ったのだと感じます。たとえば人材紹介では、企業側の報酬がどれだけよくても、人材がどれだけ優秀であっても、担当アドバイザーが両者が幸せになることを確信していなければ、両者を結びつけようとはしませんよね。今回の件も同じで、担当アドバイザーが「この2社は絶対に一緒になるべき」と強く深く信じ続けてくれたからこそ、実現したんだと考えています。改めて「両社の未来を信じてくれてありがとう」と伝えたいですね。