医療・介護DXサービスを海外へ! シンガポール企業とのM&Aで、大きな一歩を踏み出す

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医療・介護DXサービスを海外へ! シンガポール企業とのM&Aで、大きな一歩を踏み出す

2024年10月、医療・介護のDXサービスを提供する株式会社カナミックネットワーク(東証プライム:3939)は、シンガポールのERP導入コンサルティング企業であるThe World Management Pte. Ltd(以下、TWM)の株式を取得し、完全子会社にすることを発表しました。

「当社がシンガポール進出を決定した直後、タイミングよくTWMと出会った」というカナミックネットワーク。成約の決め手と今後の展開をカナミックネットワークの代表取締役社長 山本拓真氏にお話を伺いました。

プロフィール

株式会社カナミックネットワーク 代表取締役社長 山本 拓真(やまもと・たくま)

大学卒業後、2000年に株式会社富士通システムソリューションズ(現・富士通株式会社)へ入社。2005年、株式会社カナミックネットワーク取締役に就任。2014年から代表取締役社長。2018年東証1部上場。厚生労働省「ICTを活用した地域包括ケアシステム調査研究委員会」事務局、総務省「医療・福祉情報サービス展開委員会」委員、総務省「クラウド・センサーの医療・介護分野における利活用に関する懇談会」構成員、総務省「クラウドセキュリティ研究会」部会構成員などを歴任。

海外での事業展開を見据え、M&A活動を開始

株式会社カナミックネットワーク 代表取締役社長 山本 拓真氏
株式会社カナミックネットワーク 代表取締役社長 山本 拓真氏

——まず、カナミックネットワーク様の事業内容を教えてください。

山本:当社は、医療・介護向けの業務支援クラウドサービスを提供しています。医療・介護 情報共有システムとしては、国内でもトップクラスの導入実績があり、最大の特徴は、「点」ではなく「面」のソリューションであること。介護領域内だけでなく、医療や自治体とも連携でき、多職種・他法人間でスムーズに情報を共有することが可能です。家族や介護従事者、医療従事者、自治体担当者など、一人の被介護者・患者に関わる全ての人のつながりをITで可視化できるソリューションだといえます。

——M&Aを検討したきっかけは何だったのでしょうか。

山本:海外での事業展開に向けて、本格的に動き始めたことですね。当社は中国の大連に拠点を構えていますし、ベトナムのハノイとダナンには子会社である株式会社Ruby開発の協業パートナーがいますが、どちらも日本市場向けのシステム開発がメインです。そこで次は、当社の介護・医療向け業務支援クラウドサービスをさらに展開することを目的に、海外に進出したいと目論んでいました。

実は、意外かもしれませんが、経済大国のアメリカや福祉先進国の北欧などでも、医療・介護領域の業務効率化は進んでいません。おそらく同領域の関心が、専門職の技術向上や機器の開発などに集中しているためでしょう。だからこそ、人材不足という必要に駆られて業務支援サービスが発達してきた日本に、そして中でも医療・介護・自治体の業務支援を網羅できる当社に、勝ち目があるはずだと考えました。

では、まずはどの地域やどの国に進出すべきか。欧米だと時差が大きく、事業管理の難度が高い。オーストラリアは時差が少ないが、周辺諸国への進出が難しい。そこで目を向けたのが、時差も少なく、多国展開を目指せる東南アジアでした。中でも、日本と同程度以上に経済が発展しており、医療・介護の質が高く、かつ高齢化問題に直面しているシンガポールであれば、当社サービスを浸透させられる余地があるだろうと見当をつけたのです。

とはいえ、いきなり当社単独で事業を開始したとしても、現地の市場開拓は難しいもの。そこで海外進出の一つの手段として、現地企業とのM&Aを検討し始めました。

40年超という社歴から感じた、仕事に向き合う姿勢

——その後、TWMとはどのように出合ったのですか。

山本:当社のM&A戦略を様々なM&Aエージェントに伝えた際、50件を超える案件が寄せられたんですが、そのうちM&Aクラウドの担当者から紹介されたのがTWMでした。案件情報を一通り見て、「まさに当社にピッタリの企業だ」と感じましたね。

——改めて、TWMに惹かれたポイントを教えてください。

山本:TWMは、シンガポールでSageやSAPといったERPの導入コンサルティングを行っている企業です。医療・介護事業者を含め1,000以上のプロジェクト実績があり、将来的には当社サービスのクロスセルなど、営業面での連携が期待できることが第一のポイントでした。

また、企業規模もちょうど良かったですね。当社にとってのM&Aは、買い手側が売り手企業を配下に置くだけではなく、あくまでパートナーシップを結ぶものという考え方です。互いにスモールスタートし、助け合いながら徐々に成長していくのを理想としていたため、あまりにも規模が大きい企業とのM&Aは難しいと考えていました。その意味でTWMは、当社の求めていたサイズに合致していたんです。

そして、何よりも魅力に感じたのは、1980年創業という社歴の長さ。企業を10年間維持するだけでも大変だといわれる中で、40年以上事業を続けられているのは、会計・人事などの基幹システム導入という、企業にとってなくてはならない仕事に従事しているからでもあるでしょうが、その上で誠心誠意顧客に向き合い、真面目に仕事に取り組んでいるからこそだと感じたのです。IM(企業概要書)を見ただけでも、経営者と社員のひたむきな姿が想像でき、顧客から愛されているのだと感じましたね。

オーナーは引退も、それでも自社のさらなる成長を望んでいた

——初回面談でのTWMの印象はいかがでしたか。

山本:想像していた通り、オーナーの人柄が良かったです。私自身、スタートアップのメンタリングやM&Aの交渉で経営者とたくさん面談してきたので、初対面でもある程度どのような人かは見当がつきます。TWMのオーナーは、話している内容が実績データと一致しており、嘘をつかずに誠実に対応してくれているのがわかりました。また、顧客は紹介が多いと聞き、それだけ真摯に仕事に取り組む企業なら信頼できると思いましたね。

——一方、TWMからはどのような要望があったのでしょうか。

山本:オーナーが高齢で引退する前提だったこともあってか、「残った社員をどのように大切にしてくれるか」と問われることが多かったですね。一方で、言葉の端々から、「せっかく一緒のグループになるのなら、現状を維持するのではなく、むしろもっと成長していきたい」という思いも垣間見えました。

結果的に、当社の経営力や資本力を活用すれば、さらに自社を成長させられるイメージをTWMに持ってもらえたからこそ、M&Aの交渉を前に進めることができたのだと思います。

——国を跨いだM&Aだからこそ、気をつけたポイントはありますか。

山本:やはりDD(デューデリジェンス)です。LOI(基本合意書)を取り交わすまでは、経営者の印象とIMをベースに判断しますが、それらの情報が必ずしも正しいとは限りません。特に東南アジアのクロスボーダーM&Aについては、予想外のリスクが発覚した事例も数多く見聞きしていました。シンガポールは法律が厳格なので、リスクは比較的低いと予想していましたが、念のため財務・税務・法務のデューデリジェンスには力を入れましたね。

全てに目を通した上で何の問題もないと確認できた時は、安心しました。逆にいえば、全体に目が届く規模の企業だからこそ、うまくいったということでもあります。相手の企業規模が大きすぎれば、DD自体に大きなコストがかかりますし、多少の齟齬は見落としてしまう可能性が高いですから。

シンガポールでの事業展開に向け、段階的にシナジーを創出

——今後の目標を教えてください。

山本:最終的な目標は、TWMのERP導入コンサルティングサービスに、当社のクラウドサービスをかけ合わせ、シンガポールで拡販していくことです。とはいえ、当社サービスを言語面でも法律面でもローカライズする必要があるので、これは中長期的な視点の施策となります。

その代わり、直近では、TWMを通してシンガポールのシステム開発案件を獲得し、当社の大連拠点や子会社のRuby開発に依頼することを検討しています。円安の状況下だからこそ、より高単価な海外の仕事を当グループのエンジニアに渡してあげたいんです。実際、この計画を話したところ、Ruby開発の一部メンバーが英語のプレゼン練習をランチタイムに始めるなど、前向きな変化が生まれつつあります。

——M&Aクラウドを利用してみて、いかがでしたか。

山本:今回は、当社のFA(ファイナンシャル・アドバイザー)としてM&Aクラウドの担当者についてもらったのですが、当社と同じ視点で考えて行動してくれるのがありがたかったですね。会計や法律の専門的な知見があり、M&A経験も豊富だったので、当社側の疑問点を同じように疑問に思ってTWMに確認してくれたんです。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、そうではないアドバイザーもたくさん見てきたので、どれだけ貴重な人材かよく理解しています。

また、TWMとのやり取りもスムーズに行ってくれた印象があります。特にデューデリジェンスは、譲渡企業に大きなストレスがかかるので、当社からの些細なコミュニケーションミスも交渉決裂につながりかねません。担当者は、TWMの状況や感情をふまえて、同じ質問でも言い回しを工夫したり、書面からインタビューに切り替えたり、譲渡企業側のFAに根回ししたりと、伝え方を様々にアレンジしてくれました。このように細やかなコミュニケーションの使い分けが、成約の土台となったのだと思います。

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