米国と日本のスタートアップがタッグを組み、日本のマーケティングAI市場開拓へ
買い手:MoBagel Inc.
売り手:株式会社トリックトラック
公開日:

2024年11月、AIプラットフォームとAIを活用したソリューションを提供する米国企業MoBagel Inc.は、子会社であるSolve AI株式会社を通じて、ECマーケティングプラットフォームを運営するスタートアップ、株式会社トリックトラックとのM&Aを実施し、グループ子会社としました。
「事業シナジーをすり合わせるために、何度も打ち合わせを重ねた」という両社。成約の決め手とは何だったのか。MoBagelのCEOであるアダムス・チュン氏と、Solve AI 代表取締役 西川浩司氏、トリックトラック創業者の佐々木貴博氏にお話を伺いました。
プロフィール
台湾大学の博士課程で情報科学、MITで統計・データサイエンスを学ぶ。NTUやNCCUで教鞭を執り、SalesforceやMicrosoftなどの国際会議でAIに関する講演も行う。Berkeley Startup Acceleratorの卒業生で、MVP Top 100 Outstanding Managerに選出。2015年にMoBagelを設立。MoBagelは米国・日本の著名ファンドから2,100万ドル超の投資を受け、台湾科学技術省の「最も注目すべきスタートアップTOP10」に選出。Fortune 500を含む11,000以上のブランドにAI導入を支援し、GartnerのAI/MLプラットフォーム主要企業に5年連続で選ばれている。
経営コンサルティング会社、総合商社を経て、Sunbride Solutionsでは海外ITスタートアップの日本展開や大手IT企業への新規事業やマーケティングに関するコンサルティングに従事。フランスの通信会社Orangeの日本支社でスタートアップ・アクセラレータープログラムOrange Fab Asiaを立ち上げ、国内外200社以上のスタートアップを支援。2023年にSolve AI株式会社を設立。
2005年よりインターネット系広告代理店で勤務。2009年には、同社営業部長を務めながら社内にて通販事業を立ち上げ、通販事業の責任者を兼務。総合的なキャリアアップを目指し、2018年に独立し株式会社トリックトラックを設立。 現在は株式会社オメガドライブの代表取締役として、広告代理業、広告運用事業、生成AI事業、メディア事業を行っている。
成長ビジョンを考えれば、融資よりもM&Aだと気づいた

——まず、トリックトラックの事業内容を教えてください。
佐々木:Webを中心とした広告代理店として、アフィリエイトサービスプロバイダー(ASP)事業、広告運用事業などを展開しています。事業の中心である成果報酬型のASPサービス「トリックトラック」。アフィリエイト(成果報酬広告)と呼ばれる広告配信手法を用いて、広告主とアフィリエイターを、「トリックトラック」を仲介する事で、両社のWeb広告事業による収益を最大化出来る環境を提供しています。
——トリックトラックを立ち上げた経緯は。
佐々木:私自身がかつてWeb広告代理店で12年ほど従事しており、2018年に起業をしました。また、前職で通販事業を立ち上げた経験から、特にEC事業者の課題解決に強みを持っており、売上の9割以上がEC事業者となっています。
——今回、M&Aを検討するに至った理由は何だったのでしょうか。
佐々木:端的にいうと、「トリックトラックをさらに成長させたい」というのが大きな動機でした。当社は小規模な組織でしたし、アフィリエイトASPでは他社サービスと差をつけるのもなかなか難しかったので、組織内の人材育成の体制を強化しつつ、サービスにも差別化できる要素を加えたいと思っていたんです。
当初は、銀行から大型融資を得てそれらの分野に投資していこうと考えていましたが、たまたま知人から「M&Aによって、求めるリソースを有している企業にジョインする方法もあるのでは」という助言をもらい、確かに、その通りだなと。
——M&Aクラウドを知ったきっかけは。
佐々木:M&Aを視野に入れて動き始めたころに、M&AクラウドからDMをもらったんです。初回の打ち合わせで、担当者が当社の事業内容を丁寧にヒアリングし、寄り添う姿勢を見せてくれたのが好印象だったので、利用することにしました。
——続いて、MoBagelの事業内容を教えてください。
アダムス:当社は、2015年にアメリカで設立されたスタートアップです。AIを活用したデータ分析やその他ソリューションを提供しているのですが、単にシステムを導入してもらうだけでなく、システムに関わるワークフローの改善も含めてサポートしているのが大きな特徴です。
西川:現在は、アジア圏を中心に世界で約11,000社の顧客基盤を有しており、日本でもソフトバンクや富士通といった大企業と協業関係を結んでいます。
——今回、M&Aを検討した背景は。
アダムス:日本市場での事業展開を加速することが、主な目的でした。以前、ある台湾企業からデジタルマーケティング事業を譲受した際は、当社のAIサービスを活用することで、従業員規模と社風を保ったまま、約3年で顧客数を6倍、収益を10倍に伸ばしたという実績があり、日本でも同様の成功例を作ってマーケットシェアを拡大したいと考えたんです。
——では、なぜM&Aクラウドの利用に至ったのでしょうか。
アダムス:当初は別のM&Aマッチングサービスなども利用しつつ、2年間で計300社ほど候補企業と面談を行っていました。ただ、候補企業の質がさまざまで信頼関係も構築しづらく、なかなか求める企業に出合えなくて。
「日本でのM&Aはもう無理かもしれない」と諦めかけた時、M&Aクラウドを知ったんです。買い手企業も売り手企業も信頼度の高い企業がスクリーニングされていたため、それまでよりも良い出合いを期待できそうだと感じました。
成約の鍵は、事業シナジーの綿密なすり合わせ

——初回面談における、互いの印象を聞かせてください。
アダムス:佐々木さんは誠実な方だという印象を受けました。それまでに面談した候補企業は、日本における当社の知名度がまだ低かったからか、会社情報を提示するのを渋ったり、逆に事業実績を大きく見せようとしたりする傾向があったんです。ところが、佐々木さんは当社が求める情報を隠すことなく提供してくれた。互いに率直な意見交換ができたのは、良い兆候だと考えました。
佐々木:会社情報も事業実績も、いずれは明らかになってしまうものなので、最初からネガティブな側面も含めて正直に話すことを意識していました。
ただ、私がそのように心を開いてコミュニケーションできたのは、アダムスさんと西川さんが私に良くしてくださったからかもしれません。M&Aに向けて活動する中で、他の企業とも何社か面談をしたんですが、高圧的な態度を取ったり、ビジネスライクな姿勢を徹底したりする方が多くて。その点、お二人は自然体で接してくださったので、私もカジュアルにかつフラットに話せたような気がします。
——その後、どのようにディールを進めていったのでしょうか。
アダムス:初回面談から手応えはあったものの、当社は佐々木さんに納得してもらえるだけの明確な事業シナジーを示せていませんでした。だからこそ、何度も面談を重ね、MoBagelのAIソリューションによって、トリックトラックの組織と事業をどのように成長させていけるか、綿密にすり合わせていきましたね。
佐々木:事業シナジーのすり合わせだけでも5回以上、面談したのではないでしょうか。それだけ時間をかけたからこそ、Web広告においてAIがどのような価値を持つのか、私にもだんだん見えてきました。特にASPサービスが用いるツールは、20年ほど枠組みが変わっていない分、むしろAIによって大きく変化する余地があるはずだと感じるようになったんです。
——最終的に決め手となったポイントは。
アダムス:トリックトラックと面談を重ねる中で、その事業推進力にも大きく惹かれるようになりました。トリックトラックは、創業6年目で年商50億円を突破するという素晴らしい実績を残しています。このエネルギーは、スタートアップである当社のスピード成長に欠かせないと感じましたね。スタートアップにとって最も重要なことは、スピード感のある成長だと考えており、トリックトラックのエネルギーこそ、私たちが成長するために取り入れるべきだと思いました。
佐々木:MoBagelの事業ビジョンへの理解も深まり、M&Aによって一緒になった後、トリックトラックが成長していく姿をだんだん想像できるようになりました。それが、最終的な決め手となりましたね。
日本市場でのシェア拡大に向け、大きく踏み出した一歩

——今後の展望や目標を教えてください。
アダムス:日本における顧客拡大を目指します。先ほど言及したように、当社のAIソリューションは、日本を代表するいくつかの大手企業に既に導入してもらっていますが、日本市場にはまだまだ大いに開拓余地があります。
今回譲り受けたトリックトラックは、日本のアフィリエイトマーケティング市場において1%強のシェアを持っています。まずはトリックトラックでのAI活用を進めることで、同社のマーケットシェアを2倍、3倍、さらには10倍に伸ばしながら、当社のAIソリューション活用事例も増やしていきたいと考えています。
佐々木:私はM&Aを機にトリックトラックの代表を退任し、新たな会社で広告運用や生成AIに関わる事業を開始する予定です。トリックトラックの今後の方針に口を出せる立場ではありません。ただ、アフィリエイトASPの事業を客観的な視点で見てもらい、MoBagelの強みを生かしながらその課題を解決していってもらえれば創業者としては嬉しいですね。
——今回、M&Aを機に創業者の佐々木さんは退任されますが、懸念点などはなかったのでしょうか。
アダムス:確かに、それは一つの懸念事項でした。ただ、当社は以前、企業全体ではなく事業単位で譲り受けた経験があったので、今回も問題ないはずだと考えました。
西川:あとは、成約する前にトリックトラックの営業マネージャーや現場の方々に会う機会を設けてもらったのもよかったですね。互いの距離が縮まるきっかけにもなりましたし、みなさんとても前向きな方で、一緒にやっていけそうだという期待が高まりました。
佐々木:当社メンバーが、アダムスさんや西川さんをどのように感じるかについては、もちろん私がコントロールできるものではありません。それでも、誰もが私と同じくポジティブな印象を持ったらしく、それが成約につながる一つの要素となりましたね。
——最後に、M&Aクラウドのサービスを利用した感想を教えてください。
佐々木:担当者が途中で代わった時には不安もあったんですが、最後まで変わらず寄り添って対応してもらえたことがありがたかったです。こまめに状況確認の連絡をしてくれましたし、時間帯を問わずすぐにレスポンスを返してくれて、私の方が申し訳なく思うほどでした。とはいえ、このように細かくスピーディーに対応してもらえたからこそ、スムーズに成約に至れたのだと感じています。
西川:確かに、ディールをスピーディーに進められたのは、M&Aクラウドの担当者のおかげですね。こちらがお願いする前から、先回りして佐々木さんにデータを依頼してくれたこともあり、とても助かりました。
アダムス:日本には、素晴らしい技術や実績を持ちつつも、後継者問題に直面している企業がたくさんあり、そのうちの多くが、新しい経営者に引き継ぐことで事業をさらに成長させたいと望んでいると聞きました。一方で、そのような日本企業に魅力を感じる海外企業も多いですが、海外企業も利用しやすいM&Aサービスはなかなかないのが現状です。
今後、M&Aクラウドにより多くの日本企業と海外企業が集まり、当社とトリックトラックのようなM&Aの成功事例がたくさん生まれることを願っています。