技術の継承と地域の発展を目指して、山口県の三代目社長たちがM&Aで描く未来

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    売り手:タナカ機工有限会社(2024)

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技術の継承と地域の発展を目指して、山口県の三代目社長たちがM&Aで描く未来

2024年6月、化学プラントの配管設計・工事を手がけるタナカ機工有限会社は、物流を軸としたロジスティクスサービスを提供するキチナングループ株式会社のグループ会社となりました。

同じ山口県を拠点にしつつも、今回のM&Aに至るまで、直接の関わりはなかったという両社。どのように出会い、どのような思いで成約に至ったのでしょうか。キチナングループの代表取締役社長 井本健氏と、タナカ機工の代表取締役社長 田中努氏に、その経緯と決め手を伺いました。

プロフィール

キチナングループ株式会社 代表取締役社長 井本 健(いもと・たけし)

2009年、新卒で東京の営業会社に入社し、優秀社員賞等を獲得。3年目で総務課長として業務改善に尽力する。その後吉南運輸に入社、倉庫課長、営業課長を経て退職。物流ITベンチャー創業。2017年にキチナングループに再入社し、2020年5月、代表取締役社長に就任。

タナカ機工有限会社 代表取締役社長 田中 努(たなか・つとむ)

立命館大学文学部史学科日本史学専攻卒。教師を志すも挫折。1997年にタナカ機工へ入社。入社後CADに出会い設計業務を開始。配管専用3DCADや最新計測機器等の高効率高品質化を目指した技術導入を経験しながらプラント設計施工の道を歩む。2008年、代表取締役に就任。

「M&Aに対する不信感を払拭した」M&Aクラウドからの電話

(左)タナカ機工有限会社 田中努氏、(右)キチナングループ株式会社 井本健氏
(左)タナカ機工有限会社 田中努氏、(右)キチナングループ株式会社 井本健氏

――はじめに、タナカ機工の事業内容について教えてください。

田中:山口県下関市を拠点に、化学プラントの配管設計・工事を行っています。もともとは、祖父が船の配管工事業を立ち上げたのが始まり。その後、造船市場が縮小したタイミングで海上から陸上の配管へと事業を変え、現在に至ります。

当社の最大の特徴は、安全かつ効率的で精度の高い配管工事を行えること。工事の前段階の準備を徹底することにより、現場での作業量や人材を大幅に削減する、独自の手法を用いています。下関市は、化学プラントが多い土地柄ですが、配管設計・工事を行う同業者が少ないこともあり、長い間独自の立ち位置を維持し続けることができました。

――独自の強みとポジションを持っているにもかかわらず、M&Aを検討するようになったのはなぜですか。

田中:子どもたちが、跡を継ぐ意思を持っていないことが明らかになったんです。ただでさえ人材が集まりづらい業界である上に、当社は小規模なので、後継者問題は深刻でした。そこで、あるM&A仲介会社のダイレクトメールを見て、実際に連絡しました。

ところが結局、具体的な案件の話にもならず、「こんなものなのか」と。それ以降、案内が来ても興味が持てなくて、M&Aに関わるダイレクトメールは中身を見ずに捨てるようになりました(笑)。

――そんな中、M&Aクラウドを利用するようになったきっかけは。

田中:ある日、M&Aクラウドのアドバイザーから、「ダイレクトメールを見てもらえましたか?」と電話がかかってきたんです。案の定、見もせずに捨てていたので、事情を説明して断ろうと思ったら、彼は「具体的な候補先企業があるので、どうか話を聞いてもらいたい」と。半信半疑ながら「これは今までと何か違うぞ」と感じ、彼に来社してもらって話を聞くことにしました。

そこで紹介されたのが、キチナングループさんだったんです。そもそも候補先企業が実在したことにも驚きましたが、宇部市という近隣の馴染み深い土地の企業だったこと、知り合いの会社がグループ会社になっていたことがわかって、ますます驚きました。

ニッチなニーズだからこそ、自分で相手を探したい

キチナングループ株式会社 井本健氏
キチナングループ株式会社 井本健氏

――一方、キチナングループは、物流を中心とするロジスティクスサービスを展開しています。これまでの歩みと現在の事業について教えてください。

井本:当社の原点は、祖父が個人で運送事業を始めたこと。つまり、私も田中社長と同じく、三代目に当たります。第一次産業製品の運送から、化学工業製品の運送に切り替え、同業他社が敬遠するような粉体の運送も積極的に引き受けることで、事業を伸ばしていきました。

その後、運送業界の規制緩和により競争が激化したことを機に、事業の多角化に取り組み始めました。土木事業や培養土の製造事業、ガラス瓶の再生事業など、運送作業が発生する事業を軸に展開していったのですが、それぞれ本業の会社には勝てず、最終的には化学工業製品のロジスティクスサービスに回帰。現在は、化学プラントを中心とするものづくり会社の後方支援を行う企業として、運送の他に人材派遣や製造請負、資材の調達販売、プラント工事などを手がけています。

また、近年は事業強化のためM&Aも積極的に行っており、2020年から2023年までの4年間で合計7社が仲間に加わっています。

――そんな中、どのような経緯でM&Aクラウドに登録することになったのでしょうか。

井本:プラント工事に携わるエンジニアリング事業部の上流工程(設計業務)を強化したいと考えたことがきっかけです。同事業部では、設計業務と現場業務のいずれかしかできない社員がほとんど。現場の仕事をよく理解していながら設計スキルもあり、お客様とスムーズにやり取りができる会社を求めていました。

とはいえ、相当ニッチなニーズだという自覚はあって(笑)。金融機関などからの紹介を待つだけではなく、自分で相手を探しに行った方がいいと考え、M&Aクラウドに登録しました。

また、実際にM&Aクラウドのオフィスを訪れ、当社がどのような会社かを力説し、M&Aに対する本気度もアピールしました。そしてM&Aクラウドのアドバイザーに紹介されたのが、タナカ機工さんだったというわけです。

「技術を伝える人ができて嬉しい」不安よりも期待が勝った

――初回面談では、井本さんがタナカ機工を訪問したと伺いました。お互いの第一印象をお聞かせください。

田中:「スマートだな」という一言です(笑)。私は、どちらかといえば職人気質で口下手なんですが、井本さんは話が明快でわかりやすい。経営者として信頼できると感じました。

井本:私は、アドバイザーから事前に聞いていた通り、「真面目で現場を大切にする方だ」と思いました。一方で、事業所の様子から、「新しいものを取り入れることに前向き」という印象も受けたんですよね。

田中:確かに、「新しいものを取り入れなければ」という気持ちは、人一倍強いかもしれません。10年前と今では技術も全く異なっているのに、プラントの配管工事という業界はまだ昭和のやり方を引きずっている。仕事の根本は変わらないにしても、採寸などの細かい業務についてはデジタルを活用し、今の時代に即したやり方に変えていくべきだというのが、私の考えなのです。

井本:私も新しいデバイスなどを積極的に使いたがるタイプなので、田中社長の姿勢には親近感がわいたのを覚えています。

――初回面談では、互いにポジティブな印象だったということですね。その後はどのように交渉が進んだのでしょうか。

井本:タナカ機工は、設計という上流工程もでき、現場の仕事もわかり、しかも工事を効率化する技術まで持っている。当社が求めていた企業像と合致したので、そのまま成約に向けて段階を踏んでいきました。

交渉は全体的にスムーズでしたが、ただ一点気がかりだったのは、タナカ機工の技術やノウハウを持っているのが田中社長だったということ。通常、M&Aで仲間に加わってもらった会社の経営者については、希望があれば数カ月で退任できるように調整しているのですが、さすがに今回は短期間の引き継ぎは難しいと判断し、「一定期間は残ってほしい」とお願いしました。

――そのため、成約後も田中さんが代表取締役社長でいらっしゃるんですね。田中さんは、交渉において難しかったポイントなどはありましたか。

田中:特にありませんでしたね。私にとっては不安より、期待の方が大きかったですから。

プラントの配管工事が、人の関心を得ることが難しい業界であることは、重々承知しています。それでも培ってきた技術を、私の代で終わりにしたくはなかった。どうにかして次の代につないでいきたいと考えていたので、伝える人ができたこと自体、心から嬉しかったんです。

20年以上かけて磨いてきた技術ですから、数カ月で引き継ぐことができないのも当然だと思います。とはいえ、早く「あなたはもう要らないよ」と言われたいですが(笑)。

成約翌日からシナジー創出、海を跨いだ商圏拡大を見据えて

――今後、両社でどのようなシナジーを思い描いていますか。

井本:実は、成約翌日からシナジーが生まれたんですよ。田中社長から、「モーター軸を作れませんか」という相談を受けて、機械加工を専門とするグループ会社につないで製作したんです。

田中:当社はお客様から「こういったものを作れませんか」という相談を受けることがよくあって。今回、キチナングループさんの仲間になったことで、今まで当社ではできなかったことも、自信を持ってお客様に「できますよ」と言えるようになりました。

また、元々当社はホームページを持っていなかったのですが、キチナングループさんは、成約から1カ月も経たないうちに、当社ホームページを作ってくれたんです。インターネット上では存在していなかった当社が、初めて表に出たというのも、大きなシナジーだと感じます。当社の強みをうまくアピールしてくれて、ありがたい限りです。

井本:現在はまず、経理をはじめとするバックオフィス業務の引き継ぎを行っていますが、今後は社員の出向や採用の強化を通して、技術の引き継ぎも本格化させる予定です。引き継ぐ先が誰でもいいというわけでは決してないので、技術に興味を持ち、真摯に向き合える人材を選びたいと考えています。

そしてゆくゆくは、今回のM&Aを北九州まで商圏を拡大するための足がかりとしたい。実は、タナカ機工が位置する彦島という地区が、福岡・北九州市と橋で結ばれる計画があるんです。

田中:橋ができれば、周辺の地域はきっと大きく変わりますよね。私も、伝えるべきものを伝えた後は、キチナングループが発展し、地域が活性化していく様子をこの目で見たいです。

――最後に、M&Aクラウドを利用した感想を教えてください。

田中:会社を譲渡するという経験は、ほとんどの人にとっては1回きりです。そんな中で、私は良いアドバイザーに巡り会えて幸運でした。声がよく通り、説得力があって、頼もしかったです。山口県という土地を舞台に、いろいろな縁がつながったM&Aになりました。

井本:私も、担当してくれたアドバイザーには感謝しています。先ほど交渉がスムーズだったとお話ししましたが、実際には両社の要望がかち合うこともあったはず。そんな中、田中社長が当社の要望を柔軟に受け止めてくれたことで、成約に至ることができたわけですが、そもそも間に入ったアドバイザーが伝え方をうまく調整してくれた面もあるのだろうと推測します。

何よりよかったのは、M&Aクラウドが私たちの本気に応えて、しっかりとサポートしてくれたことです。担当してくれたアドバイザーのように、素晴らしい人材が集まってくるのも頷けます。今回、M&Aクラウドで成約できて本当に良かったと感じています。

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