「会社売却が自分のやりたいことへの近道だった」Re:BuildがRelicグループに入って描く未来とは?
投資家:株式会社Relic
出資先:株式会社Re:Build
公開日:
新規事業開発やイノベーション創出を支援する事業を展開する株式会社Relic(レリック)は、2024年1月に新規の事業やプロダクト・サービスの開発を支援するスタートアップスタジオ事業、スクールをはじめとするエンジニア育成事業などを展開する株式会社Re:Build(リビルド)の全株式を取得し子会社化しました。
「M&Aクラウド」で出会い、2021年2月に資本業務提携を締結した両社は、この3年間でどのような協業関係を築き、そして今回のM&Aに至ったのか。Relic 代表取締役CEOの北嶋 貴朗氏、取締役CTOの大庭 亮氏、Re:Build 代表取締役CEOの鈴木 孝之氏に語っていただきました。
プロフィール
組織/人事系コンサルティングファーム、新規事業に特化した経営コンサルティングファームにて中小/ベンチャー企業から大手企業まで幅広いプロジェクトをマネージャーとして牽引した後、DeNAに入社。主にEC事業領域での新規事業/サービスの立ち上げや、事業戦略/事業企画、大手企業とのアライアンス、共同事業の立ち上げのマネージャーとして数々の事業の創出~成長を担う責任者を歴任。2015年に株式会社Relicを創業。
奈良先端科学技術大学院大学に在学中、産業技術総合研究所の技術研修生としてロボット工学の研究やロボット開発に従事した後、DeNAに入社。エンジニアとして主にEC事業領域の新規事業・新規サービスや大手小売業との協働事業であるECサイトやショッピングモールの開発・運用をリード。スマートフォンアプリの開発や新規事業の開発リーダーも経験。2015年より複数のスタートアップのサービス開発や運用支援、および技術アドバイザリーに従事した後、2016年、株式会社Relicに参画し、取締役CTOに就任。
2013年に東京のITベンチャー企業にシステムエンジニアとして入社。 その後、株式会社フルスピードにwebエンジニアとして入社。フルスピードでは、大規模な広告配信サービスの管理画面開発を担当し、サーバサイドからフロントエンドまで幅広い開発に従事。フリーランスエンジニアとして1年ほど複数スタートアップ企業の開発に従事。、2017年11月に沖縄で起業し、株式会社Re:Buildを設立。スタートアップや大手企業まで幅広い開発案件を請け、複数プロジェクトのプロジェクトマネージャーを経験。2019年にリファラルでエンジニアをマッチングするサービス「Tadoru」を立ち上げる。また、シードラウンドでの資金調達を実施。
会社売却が自分のやりたいことへの近道と気づいた
――もともと3年前、Re:BuildがRelicと資本業務提携したのはどのようなきっかけだったのでしょうか。
鈴木:当社は最終的には総合的な開発支援会社を目指しつつも、当時はスタートアップ企業の受託開発や新規事業支援に注力していました。投資家から資金調達して事業を進めていたのですが、思うように軌道に乗せられていませんでした。
そこで、継続的に案件をご一緒でき、資本面でも支援をもらいつつシナジーを生み出せるパートナーを探していたところ、M&Aクラウドを通じてRelicさんに巡り会ったのです。そして2021年2月、資本業務提携に至りました。
――その後、3年たって今回の子会社化となりましたが、グループ入りに至った経緯や心境をお聞かせください。
鈴木:地元沖縄のVCから出資を受けていたのですが、ファンドの償還期限の関係で、何らかのExitを選択することが求められていました。将来的なIPOを目指してはいたものの、あと数年では難しいと判断したことがグループ入りの経緯です。私自身がやりたいこともあり、そのためにはRelicグループの傘下に入ることが最善の選択肢ではないかと思えるようになったんです。
――やりたいこととは?
鈴木:沖縄のスタートアップ企業を総合的に支援したいのです。これまでも開発面での支援はしてきたのですが、それ以外の支援となると難しいものがありました。たとえばある会社から開発支援の相談を受けていたのですが、相手方の予算があまりなかったため、断らざるを得ませんでした。結果的にその会社のサービスはクローズしてしまいました。
もし当社が開発面だけでなく、他のいろいろな選択肢が提示できたら、より多くの企業を支援できるはず。Relicグループの傘下に入ることで、スタートアップ支援の幅が広がるのではと考えるようになりました。
北嶋:当社はインキュベーションテック事業、事業プロデュース/新規事業開発支援、オープンイノベーション事業などを展開しており、資金面はもちろん、戦略立案から事業企画、セールス、マーケティングなどの支援も行えます。Re:Buildさんが仲間に加わったことで、システム開発面も強化され、スタートアップ企業に対してあらゆる面から支援ができるようになったといえます。
3年間の資本業務提携を通して相性の良さに気づく
――M&Aを成功させるにはお互いの相性も大切です。そのあたりはどうだったのでしょうか?
鈴木:3年前の資本業務提携から、Relicさんと一緒に数多くのプロジェクトに携わるなかで、開発の進め方や働き方に関して当社と近いものがあると感じていました。プロジェクトの際は基本的にRelic側がプロジェクトマネジャーを担当していたのですが、そこでプロジェクトマネジメントのノウハウを学ばせていただきました。他にも、両社でエンジニア向けの合同勉強会も何度か開催したこともあります。そういったいろいろな経験を通じて、非常に相性がいいと感じていました。
大庭:私たちも同様です。資本業務提携の時点でもビジョンの親和性などを確認できていたのですが、その後もいろいろな案件をご一緒するなかで、期待通りのパフォーマンスを出してくださり、信頼関係を深めていきました。納期も要求も厳しいプロジェクトをいくつも一緒に乗り越えました。
北嶋:難易度の高いプロジェクトに取り組むと、その会社や社員の本質があらわになりますよね。私たちはそんな難しいプロジェクトに取り組む過程で、お互いの実力や仕事に対する姿勢を確認できましたし、苦楽を共にした仲間として連帯感を得ることができました。それが今回のM&Aにもつながっていると思っています。
――鈴木さんが会社の売却を考えたとき、どんなアクションを取ったのですか?
鈴木:2023年夏ごろ、北嶋さんが沖縄に来られたタイミングで、自分の考えていることをお話しさせていただきました。Relicさんとだと自分が抱えている課題を解決できると思い、その後改めて東京本社に伺わせていただき具体的に話を進めていきました。
北嶋:鈴木さんからの打診は率直にうれしかったですね。もともと資本業務提携をした段階から、お互いの相性もよく、いつかはグループ入りしていただけたらいいなと密かに考えていましたから。また、当社は沖縄に拠点を設立したばかりだったので、Re:Buildと連携を強化することでもっと沖縄を盛り上げていけるとも考えました。
ただ、VCが入っていることでバリュエーションが高くなっており、Relicが全株を買い取るのは難しいという問題がありました。
――その点は鈴木さんがVCと交渉したのでしょうか?
鈴木:そうですね。バリエーションが下がるダウンラウンドになってしまいますが、Relicグループ入りは当社としても大きなシナジーが見込める話なので、売却を考えていますという説明をして、結果的に承諾してもらいました。
ただ周りからの反応としては、地方企業はその地域の企業に買収されるべきという考えが根強いと感じました。けれど、シードラウンドのスタートアップ企業でもバリエーションの高い会社はザラにいるので、地方で全て完結するのは難しく感じます。私自身は、売り手を地元の会社に限定する必要はないと思っています。
北嶋:それは沖縄に限らず、地方のスタートアップ・エコシステムに共通する問題かもしれないですね。買い手・売り手をそのエリアで完結しようとしてしまう。でもそんなちょうどいい相手は少ないから、結局スタートアップ企業が育ちにくい。マーケットを活性化させるには多様な選択肢を考慮する必要があると思っています。
――最終的に合意に至った決め手は?
鈴木:改めて北嶋さんとお話しして、会社のビジョンや方向性が自社と近かったからです。Re:Buildのビジョンの延長線上にRelicのビジョンがあるというイメージを持てました。売却を検討する過程では、他の買い手候補にも何社か話を聞いて比較検討したのですが、他の会社で自分が働くイメージはあまり明確には持てませんでした。
北嶋:当社は毎年12月に全社合宿を行っているのですが、正式な契約前に鈴木さんに参加いただき、そこで中長期計画をお話ししたり、普段接点のないメンバーとも交流をいただきました。そういった機会も合意に至るいいきっかけになったのかなと思います。
地方版スタートアップ・エコシステムを発展させたい
――2024年1月10日、RelicがRe:Buildの全株式を取得し子会社化しました。
今回のM&Aを振り返って、どのように評価していますか?
大庭:私たちのミッションに共感し、かつ高い技術力を持つ仲間を一気に10名近く増やすことができた。これは大きい成果だと思っています。Relicは全国各地に拠点をつくっており、沖縄にも昨年拠点を構えましたが、エンジニア採用には苦戦していました。そこを、Re:Buildの皆さんが加わることで、一気に体制が強化されます。沖縄出身の方や、地元の行政・学校などとリレーションのある方も多数参画いただけるのは心強いですね。
また、鈴木さんはテック系のコミュニティに積極的に参加し、カンファレンスで登壇したり技術広報的な動きが得意です。当社はそのあたりが苦手だったので、鈴木さんに主導いただけると非常にありがたい。私たちの全国の拠点を活かしつつ、鈴木さんのノウハウを横展開できればと考えています。
――今後の展望について教えてください。
北嶋:地方のスタートアップ・エコシステムのかたちを模索していきたいです。鈴木さんもスタートアップ経営者として沖縄でチャレンジするなかで、いろいろな課題を感じていたと思います。そのような課題を解決して、多くのスタートアップを輩出できるような仕組みをつくっていければと思います。
当社では「ZERO1000 Ventures」というスタートアップスタジオを展開しています。スタートアップ・ベンチャー企業を連続的・同時多発的に共創していくプログラムです。その地方版を強化することを予定しており、ぜひ鈴木さんに手伝っていただきたいという思いがあります。
鈴木:「ZERO1000 Ventures」(https://relic.co.jp/services/zero1000_ventures/)の地方版は、もともと私がやりたかったことと一致しますから、そこに携われることは大きな魅力です。志あるスタートアップを次々と輩出し、エンジニアが地方でも活躍できる場を広げていく。その先駆けになれたらと思います。
――M&Aの過程では「M&Aクラウド」をお使いいただきましたが、実際に使ってみていかがでしたか?
鈴木:M&A初心者の私にとって、ToDoリスト機能は本当に助かりました。各フェーズで何をすべきかが明確になるので、優先順位を付けて進められました。
また、買い手企業から直接オファーを受けることのできる「スカウト機能」も魅力でした。匿名での募集のため、売却の意向が他社にオープンになることはないですし、結果として複数の会社と面談の機会を持つことができました。その複数社との対話が判断材料となり、最終的にはRelicグループ入りしたいという意志を固めることにつながりました。
――最後に、今後M&Aを考えている方に向けてメッセージをお願いします。
鈴木:今回、初めて会社売却を経験しました。会社売却というと「身売り」のようなイメージを持つ人もいますが、私にとってはとてもポジティブな出来事でした。今後はRe:Buildの動きだけでなく、M&Aに関するポジティブな情報も発信していければと思います。
北嶋:私たちは各事業やZERO1000 Venturesを通して、どこに住んでいようと、どんな職業の人であっても、志ある人が思う存分挑戦できる環境をつくろうとしています。それをRe:Buildと一緒に地方にも広げていき、日本全体がチャレンジする人で溢れかえる、そんな社会にしていきたいと思っています。
私も初めて買収を経験しましたが、すごくうれしい気持ちになったんです。歩んできた道は違うけれど、志を同じくする人たちと出会い、仲間になり、一緒に歩んでいけることになったのですから。普通の人材採用では得られないインパクト、感動がありました。
社員もみんなRe:Buildのグループ入りを喜んでいました。沖縄にみんなで行ってキックオフ会を開催したときもすごく盛り上がったんですよ。その様子を見てまた胸が熱くなりました。地方には元気な企業がまだまだたくさんいるはずですから、資本業務提携やM&Aを通して活性化できたらいいと思います。
大庭:RelicとRe:Build、両社が力を合わせてしっかり沖縄に根付いていきたいと思います。現在、沖縄で働くRelicとRe:Buildのメンバーは約20名ですが、もっと増やしていければと思います。鈴木さんは神奈川出身で、沖縄で創業し、Re:Buildを今の規模まで育てました。その知見を他の地方でも横展開していただくことで、Relicグループ全体の底上げにつながればと思っています。
――RelicとRe:Build の今後の成長が楽しみです。ありがとうございました!
<本ディールの経緯>
2020年7月 Relicが「M&Aクラウド」で募集開始
2020年7月 Re:Buildが「M&Aクラウド」に登録
2020年11月25日 Re:BuildからRelicに打診
2020年11月30日 初回面談
2020年12月中旬 業務委託スタート
2021年2月16日 資本業務提携プレスリリース発表
2024年1月25日 グループインプレスリリース発表