ペットの健康を守りたい2社がタッグ!オンラインで完結したM&Aの裏側とは

公開日:

ペットの健康を守りたい2社がタッグ!オンラインで完結したM&Aの裏側とは

ペットの遺伝子検査や健康管理アプリなどのサービスを提供する株式会社Pontelyは、株式会社YGGDRASILL(ユグドラシル)から、オリジナルのイギリス産ペットフードブランド『Wolf Insight™(ウルフインサイト)』事業を譲り受けました。

事業譲渡の全過程はオンラインで完結したため、対面で会うのはこの取材が初めてだという両社。どのようなコミュニケーションで信頼関係を築き、成約に至ったのでしょうか。Pontely代表取締役CEOの野上隆徳氏と、YGGDRASILLの事業部長を務める福原亮氏に、その経緯と決め手を伺いました。

プロフィール

株式会社Pontely 代表取締役CEO 野上 隆徳(のがみ・たかのり)

アクセンチュア、デロイトトーマツコンサルティング、イグニション・ポイントにて、20年以上にわたり新規事業、オープンイノベーションを中心に戦略コンサルティングに従事後、パラレルアントレプレナーとして、複数のスタートアップ創業・バリューアップ、イグジットを実現。現在は、Beyondge株式会社のCEOとして、スタートアップ・新規事業の創出・成長を支援しつつ、ペットテックのPontelyのCEOに加え、ロボットスタートアップのSenxeed RoboticsでCOO、、HRスタートアップNEWONEのCSO等複数スタートアップでの役員を務める。

株式会社YGGDRASILL 事業部長 福原 亮(ふくはら・りょう)

ネスレ日本株式会社にてペットフードブランド「プロプラン」のセールスを担当。その後ニュートロジャパン(マースジャパンに吸収)にてニュートロ及びグリニーズのセールスを担当。マースジャパン移行後、セールスからマーケティングにジョブチェンジし、ニュートロブランドのマーケティングを担当する。マースジャパンを退職後、Fanimal(現:太平トレーディング)にてアメリカのワイソン社、オーストラリアのバランスライフ社の輸入代理店権を獲得し、日本国内にて販売。YGGDRASILLに事業移譲後、自社ドッグフードブランド『Wolf Insight™』『One Kuru™』『Gubbdy™』を立ち上げる。

愛犬が開発のきっかけ こだわりの詰まったプレミアムドッグフード

株式会社YGGDRASILL 事業部長 福原亮氏
株式会社YGGDRASILL 事業部長 福原亮氏

ーーはじめに、YGGDRASILLの事業内容を教えてください。

福原:メインの事業は、ペット用プレミアムフードの販売です。海外ペットフードの輸入販売と並行して、自社オリジナルのブランドを複数立ち上げ、企画から販売まで行っています。

今回、譲渡に至った『Wolf Insight™』も、自社で立ち上げたブランドの一つです。もともとは、私が飼っているシェパードのために、手頃な値段で良質のドッグフードを作ろうと思ったのがきっかけでした。

日本では7、8割が小型犬のため、ドッグフード市場でも小型犬向けのマーケットに企業が集中し、まさにレッドオーシャン状態です。一方、中・大型犬のドッグフード市場に、注力する企業はいません。飼い主にとっては「良いフードを買いたくても、種類も少なく、値段が高くて手が出ない」という状況が続いていました。私自身、愛犬のドッグフードについてずっと悩み続けていたので、「今、市場にないなら、自分で作ればいい」と考えて、『Wolf Insight™』を開発したんです。

ーーご自身の飼い犬の課題を解決しようとして生まれたブランドなんですね。他のドッグフードと比較して、どのような特徴があるのでしょうか。

福原:3シリーズ、10種類のメニューがあるんですが、それぞれ肉や魚の動物性原材料の割合を高くしているのが一番のポイントですね。

中・大型犬は、概して身体が大きく、運動量も多い。その分、筋肉を作る良質なタンパク質が必要です。また、犬は今は雑食性ですが、狼を祖先に持つことからも想像できるように、肉食よりの動物です。つまり、動物性原材料をふんだんに使うことで、生物学的に適した栄養を提供することができます。

ただ、肉(冷蔵)や魚(冷蔵)の配合比率を高くしてドッグフードを製造するのは、技術的に非常に難しく、最先端の機械が必要になります。そこで、ペット先進国であるイギリスの工場で、原材料や気温、湿度に応じて配合を調整しながら製造してもらっています。

ーー品質にこだわり抜いていらっしゃることがよくわかりました。では今回、M&Aクラウドに登録したきっかけは何だったのでしょう。

福原:会社の事業の軸足を、新しい事業に移したいと考え始め、『Wolf Insight™』事業のみを譲渡対象として、いくつかのM&Aプラットフォームに登録しました。その中の一社が、M&Aクラウドだったということですね。

「ペットの健康」を軸に、事業の多角化を図る

株式会社Pontely 代表取締役CEO 野上隆徳氏
株式会社Pontely 代表取締役CEO 野上隆徳氏

ーー続いて、Pontelyの事業内容を教えてください。

野上:Pontelyは、個人の飼い主やペットショップ、ブリーダー向けのペット遺伝子検査事業で創業しました。ペットの遺伝的な健康リスクを事前に理解することで、飼い主の方が安心してペットを迎えることができるようにしています。

続いて、独自のペット健康管理アプリ『Pontely App』も開発しました。これは、人間と同じく、ペットの毎日の摂取カロリーや栄養素、体重の推移などを管理できるアプリで、散歩用のIoTタグ『Pontely Tag』と組み合わせれば、散歩量も見える化できるため、ペットが健康に長生きできる環境を作ることができます。

ーーまさに「ペットの健康」を支えるサービス群を展開されているんですね。M&Aを検討するに至ったのは、どのような経緯だったんでしょうか。

野上:もともとは、ペットの健康に関わる隣接領域に、ビジネスを拡大していきたいと思ったことがきっかけでした。『Pontely App』を中心に、ペットフードやペットサロン、動物病院などの事業をつなげ、より包括的にペットの健康をサポートできるようにしたかったんです。

事業の拡大を短期間で実現するために、すでに実績を出している事業を譲り受けることを目的に、M&Aクラウドを含め、いくつかのM&Aプラットフォームで企業探しを始めました。

ーーPontelyがM&Aクラウドにご登録されて間もなく、YGGDRASILLがPontelyに打診をされたようですね。

福原:その通りです。

それまで、私はけっこう選り好みしていたんですよ(笑)。まったく同じペットフード領域よりは、むしろペットフードを手がけていない隣接領域の企業と手を組んでシナジーを出せる方が理想だったので、M&Aクラウドの担当者が候補先を見繕ってくれるたびにお断りを入れていました。

何回かそのやり取りを繰り返し、担当者に「まずは打診しないと始まりませんよ」と尻を叩かれるようになったころ、共有してもらったリストでPontelyさんを見つけたんです。ペットフード事業はなく、栄養と関わりが深い遺伝子検査事業を手がけている。「この会社だ」と思いましたね。

野上:私も、YGGDRASILLさんから打診が来た時には、ピッタリな案件だと思いました。M&Aクラウドは連絡を取るまでは限定的な情報しか見れない状態ですが、想定していた譲渡価格の範囲内でしたし、実績も利益も出ていて、当社の求める条件に合致していたんです。

とはいえ、それはあくまで数値面での話。もしかすると、求めているビジョンが異なるかもしれないですし、商品の質もわからない。とにかく、早くコンタクトを取って話を聞いてみようと思い、すぐに返信しました。

信頼関係を醸成しつつ、事業譲渡のリスクも抑制 オンライン交渉の全貌

ーーマッチングから1週間経たないうちに、Webで初回面談が行われたようですが、互いにどのような印象を持たれましたか。

福原:中・大型犬のマーケットを、理解しようとしてくださったのが印象的でしたね。先ほど言ったように、日本では小型犬がメインの市場なので、商談していても、中・大型犬のペットフードだと「売上の伸ばし方がわからない」と言われてしまうことが多いんです。その点、Pontelyさんは、フラットにお話を聞いてくださったので、嬉しかった記憶があります。

野上:正直なところ、中・大型犬のマーケットが成長する可能性は未知数だという印象でした。ただ、事業の売上自体は伸びていますし、パイを広げる余地はまだまだあると感じたので、あまり気になりませんでしたね。むしろ、あえて他と違うことをしているという点で、勝ち筋が見えやすい気もしましたし。

何より、『Wolf Insight』のビジョンがよかった。犬の健康を最優先にして材料などもこだわり抜いた結果、国内では作れないので英国の工場に製造委託しているとのことだったので、これなら当社の考え方と合うなと感じたんです。そこで、初回面談の時点で、積極的に話を進めましょうとお伝えしました。

ーー初回から熱量が高かったんですね。その後の交渉はいかがでしたか。

野上:基本的には、全て円滑に進みましたね。従業員の転籍がない事業譲渡だったので、オペレーションの移管が一番の懸念だったんですが、イギリスの工場との契約引き継ぎについてもしっかりと説明してくださいましたし、日々の業務も当社の手離れが良いように整えてくださって。

福原:倉庫管理や商品発送作業は普段から外注し、販売することに専念していたので、基本的には受発注とマーケティング業務で日々の業務が済むようにしていました。

野上:オペレーションのほとんどを自動化してもらったおかげで、「これだったら引き継げるな」と思えるようになりました(笑)。

とはいえ、『Wolf Insight』の思想を誰よりも理解し、栄養学的な知見も持ち合わせている福原さんに、助言を仰ぎたい場面は今後も出てくるだろうという予想はついていたので、SO(ストックオプション)を持ってもらうことを契約に盛り込んで、話を進めていったんですよね。

福原:私としても、提示された契約内容に抵抗感はありませんでした。コアな取引先もいらっしゃるので、事業譲渡後もしばらくは伴走することになるだろうと想定していましたから。

ーー条件面でも、互いに求めるものが合致していたと。最終的に、M&Aの決め手となったものは何だったのでしょう。

福原:やはり、経営層の人柄です。初回面談から本格的な交渉に移っても、過剰な警戒感なく、フランクに話せたのが印象的で、「Pontelyさんなら信頼できる」と思いました。

あとは面談などを通じて、「Pontelyさんから信頼されているな」と感じたのも大きかったかもしれません。通常であれば、当社が申告した在庫やオペレーションに嘘偽りがないかを確認するため、倉庫や会社を念入りに視察すると思うのですが、野上さんからは「写真で送ってください」という一言だけだった。だから、対面でお会いするのは今回が初めてなんですよね(笑)。

野上:そもそもSOを持ってもらうと決まっていたので、リスクは最小限に抑えられると考えていたのもありますし、それだけ、福原さんの人柄を信頼していましたから。

福原さん、顧客対応もすごく真摯なんですよ。お客様から、「お腹が弱い犬なんですが」「アレルギー持ちでも食べられますか」といった質問が来ると、一人ひとりに対して自分で返信しているんです。しかも、犬の健康状態によっては、競合他社のドッグフードを勧めることもあるくらい(笑)。

そしてやはり、当社にとっては『Wolf Insight™』への共感が決め手となりました。犬の健康に真正面から向き合ったこのブランドを、もっと多くの人に知ってもらいたいと、心から思えたんですよね。

ーー逆に、契約締結に至るまでに苦労したことなどはなかったですか。

野上:交渉や契約締結そのものはスムーズだったんですが、納品でハラハラした場面はありましたよね(笑)。

福原:そうでしたね(笑)。12月の終わりに契約を締結したので、年末年始の休み期間の在庫は、当社名義で出すという取り決めだったんですが、時期的な背景もあって、商品を積んだ船が遅れに遅れたんです。

万一、年内最後の出荷日を跨ぐようなことがあれば、Pontelyさんに過剰在庫を持たせてしまうことになりかねませんし、Pontelyさんの販売予測にも影響が出ます。船の状況を確認しては、Pontelyさんに「年明けの到着になるかもしれません」「やっぱり1週間早まりました」などと細かく報告していました。

結果的には、なんとか間に合ったのでよかったんですが。

ーーフード輸入ビジネスの難しさが垣間見えました。

福原:海上輸送で運んできますから、通常よりも輸送に時間がかかることもしばしばあります。賞味期限があるので、過剰在庫は避けなければならない一方で、『Wolf Insight™』の売上が順調に伸びている分、欠品を起こしてしまってはお客様にご迷惑がかかります。

Pontelyさんは、そのビジネスの難しさを理解した上で、コンスタントに仕入れて、在庫管理を徹底してくださると約束してくれた。とても感謝しています。

ゴールは同じ 異なる領域で手を組み、成長を目指す

ーー今後、どのような目標を掲げていらっしゃるか、教えてください。

野上:まずは、『Wolf Insight™』を忠実に引き継ぐことが第一目標です。既に収益が出ているので、当社はそれをしっかりと維持するのが大切。それが完了したら、もっと多くのお客様に知ってもらうために、いろいろな施策を試そうと考えています。

一つ目は、『Wolf Insight™』のサブスクリプションです。ドッグフードは定期的に購入するものなので、サブスクとの相性は抜群。ただ、ビジネス的には、できるだけ種類を絞って展開する方が在庫管理がしやすいので、どの種類をメインに展開する方が良いかを福原さんに聞いたら、「そもそも種類を限定してはいけません」とダメ出しを喰らいました(笑)。

福原:食べ物も多様性が非常に重要です。アレルギーなどの問題がないのであれば、多様性に富んだ食事をすることで、様々な原材料から栄養を享受することができます。もし、サブスク型にするのであれば、今回はビーフ、次回はチキン、さらに次はサーモンというように、毎回違う種類を届けるべきだとお伝えしました。

野上:私もそれを聞いて、「なるほど」と唸って。同時に、こういったペットに対する正しい考えを、もっと飼い主の方々にお伝えしていかなければならないとも感じたんです。ペットのことを家族の一員として大事にしている飼い主の方であっても、ペットの健康に対する知識が不足しているケースがあります。ペットに対して正しい情報を発信していくというのも、非常に重要なミッションだと考えています。

そして、今回の事業譲受でペットフードという大きな柱ができたので、今後も「ペットの健康」をキーワードに、周辺領域に積極的に進出していきたいですね。

福原:当社も、「ペットの健康」というコアは維持しつつ、今後はサプリメントという側面からアプローチしていこうと思っています。人間と同じくペットも、主食では摂取しきれない栄養素をサプリメントで補うという方法が徐々に浸透してきていて、当社のサプリメントも売上が伸びているんです。

野上:サプリメント領域、面白いですよね。ペットフードと相互補完の関係でもあるので、その事業面でも今後は協業できるかもしれません。

ーー事業移管後の協業イメージがわいてきました。最後に、M&Aクラウドを使用した感想を伺ってもよろしいでしょうか。

野上:細かいですが、法人しか登録できないようになっているのがよかったですね。他のM&Aプラットフォームでは、個人事業主などの登録も多くて、当社のニーズに合致しない案件がレコメンドされることも多かったんです。M&Aクラウドは、しっかりと法人同士でやり取りできるようになっている分、信頼感がありました。

福原:私も、法人登録に限定されている点が、大きな安心材料でした。他のプラットフォームだと、個人事業主の方からメッセージいただくこともあったのですが、それなりの規模になった事業を譲るには不安が拭えなくて。

あと、M&Aクラウドでは、担当者が候補企業をリストアップしてくれるのも、ありがたかったですね。私はこだわりが強かった分、何度もリストを出してもらうことになりましたが、やはり候補企業の選定を手伝ってくださる方がいるのは、心強かったです。M&Aが初めての方でも、一度登録してみると良いのではないでしょうか。

=======
【Wolf Insight(ウルフインサイト)について】
ウルフインサイトは中大型犬が健康で長生きすることにこだわってつくられたペットフード。ペットが健康になるための成分を追求するため、国内の工場では生産できず、ペットフードの先進国イギリスの工場にて人間と同レベルの品質にこだわって作られています。中大型犬が良質な動物性たんぱく質を取れるように計10種類のラインアップを用意し、たんぱく源の多様性も確保。また、大型犬向けに需要の高いの12キロのサイズもラインナップされています。
URL: https://www.wolfinsight.jp/

この成約事例のキーワード

類似の成約事例