外部の知見で半導体業界のさらなる高みへ! ものづくり企業×投資ファンドが生み出す「勝ち続けるための進化」
買い手:アイ・シグマ・キャピタル株式会社
売り手:江信特殊硝子株式会社
公開日:
2024年8月、投資ファンド運営事業を行うアイ・シグマ・キャピタル株式会社は、半導体製造に使われる石英ガラスなどの製造加工を手がける江信特殊硝子株式会社のM&Aを行いました。
M&Aクラウドのアドバイザーによる支援で出合った両社。どのようなプロセスで進み、どのような思いで成約に至ったのでしょうか。アイ・シグマ・キャピタル ファンド・事業グループ エグゼクティブ・ヴァイス・プレジデントの頼末晃氏と、江信特殊硝子 取締役の吉田俊秀氏にお話を伺いました。
プロフィール
2008年1月入社。2010年2月より、バイアウト投資業務に従事。ゴールドパック、マオス/新総企、飯野製作所、バリオセキュア、スイートスタイル、ミスズライフの経営支援を担当。ニューテックス、八十島プロシード、メシウス、江信特殊硝子の案件責任者。
2018年1月入社。2年間工場に勤務し、加工技術・工場運営を学ぶ。3年目以降、本社勤務で仕入れ・設備投資・営業戦略・財務・税務・労務等や補助金関連業務全般を担当。2022年~2023年に東京都主催の事業承継塾・後継者イノベーションスクールを受講。
M&Aクラウドに決めたのは「一番ざっくばらんに話ができた」から
――まず、江信特殊硝子の事業内容について教えてください。
吉田:1960年の創業以来、ガラス製品の製造や加工を行ってきました。現在の主力事業は、半導体製造装置に使われる「石英ガラス」の製造加工です。昨今の世界的な半導体市場の盛り上がりとともに、当社の事業も拡大してきました。
当社の強みは、60年以上培ってきた技術力にあります。ガラスの研削、レーザーや火による加工、研磨、洗浄をすべて社内工程で処理できるのが特徴であり、当社の規模で同水準の環境を揃えている企業は少ないといえます。ガラス加工の技術ならどこにも負けないという気概を持って、これまで事業に取り組んできました。
――今のお話にあるように、半導体市場は拡大しており、江信特殊硝子の事業も成長しています。なぜ今回、M&Aを検討したのでしょうか。
吉田:外からの知見を入れて会社をもっと強くしなければ、この業界では生き残れないという思いがずっとあったからです。半導体業界は変化が目まぐるしく、競争も非常に激しい。ライバルとなるプレイヤーは世界中にいます。新しいチャレンジや積極的な投資をしなければ、競争には勝っていけません。
また、当社は祖父が創業し、私は3代目にあたります。今までは同族で培ってきた知見やノウハウで会社を大きくしてきましたが、それだけで生き残るのは難しいと感じていました。そんな思いがあり、数年前からM&Aや資本業務提携を検討していたのです。
――その中で、なぜM&Aクラウドに相談することになったのでしょうか。
吉田:きっかけは、M&Aクラウドから郵送されてきたサービス資料を見たことでした。前から定期的に届いていたのですが、そのとき何気なく手に取って、一度連絡してみようと。その後面談を組んで話をしました。
実はこのとき、いくつか別の仲介会社とも面談をしたんです。ただ最終的には、M&Aクラウドに依頼をすると決めました。理由は、お話しした仲介会社の中で唯一、ざっくばらんに話をすることができたからです。初対面のときに契約の話をしてこなかったのもM&Aクラウドさんでしたし、ビジネスライクにならず、会社のことや自身のキャリアのことまで親身になって話を聞いていただきました。
元々、M&Aや資本業務提携を検討したときから、交渉には長い時間を要すると思っていました。おそらく交渉期間中はアドバイザーとは毎日のようにやりとりすることになる。だからこそ、ビジネスだけでなく、広く信頼でき、親身になって相談に乗ってくれるアドバイザーの方と一緒にやりたいなと思いました。それが決め手でしたね。
その後、すぐに提携候補の企業を紹介していただきました。アイ・シグマ・キャピタルさんは、その中で最初に面談した企業だったんです。
すぐに「投資すべき案件」だと考え、交渉へ
――アイ・シグマ・キャピタルは、投資ファンド運営事業を展開しているとのことですが、事業内容について詳しく教えてください。
頼末:当社は、総合商社・丸紅の100%子会社であり、2000年の創業以来、事業支援ファンドを第4号まで運営し、合計24社(2024年11月時点)に投資してきました。事業承継やカーブアウト、上場企業の非上場化など、さまざまな株式譲渡のニーズを引き受けています。
特に近年は、「事業承継×ものづくり」に注目しており、この領域への投資やM&A実績も増えています。
――どのようなきっかけで江信特殊硝子へのM&Aを検討したのでしょうか。
頼末:「事業承継×ものづくり」という観点で、当社のこれまでのノウハウを活かして成長を支援できる投資先を探していました。そんな中で、当社のメンバーが、M&Aクラウドから紹介を受けたことが始まりです。最初に江信特殊硝子さんの情報を見せていただいたとき、すぐに「投資すべき案件」だと思いましたね。
そう考えた理由はいくつかあります。まず同族経営ということから、当社の得意としている事業承継問題の解決に、いずれ貢献できること。そして、成長著しい半導体市場で重要なポジションにいること。私たちはこれまで、八十島プロシードと京都セミコンダクターという半導体関連企業に投資した実績があります。そのノウハウを活用できると考えました。
さらに、江信特殊硝子さんの業績はここ10年で倍近くに成長しており、財務面も非常に良かった。すぐにお話ししたいと思いましたね。
――逆に、吉田さんはアイ・シグマ・キャピタルに対してどのような印象を抱きましたか。
吉田:出資してもらうなら事業会社ではなくファンドが良いと考えていたので、まずその点でありがたかったですね。
当社はたくさんのお客さまと取引しているので、相手が事業会社になると、どこかでお互いの事業がバッティングしてしまう懸念があります。一方、ファンドが相手ならそういった影響が比較的起きにくいと考えていました。加えて、アイ・シグマ・キャピタルさんは丸紅グループということで、安心感もありましたね。
スムーズに交渉できたのは「リスクも含め、隠しごとなく話せたから」
――2024年2月に初めて両社で対面したとのことですが、その後どのようなプロセスを経て提携に至ったのでしょうか。
吉田:何度かお会いし、1カ月ほどで話がまとまりました。とてもスムーズでしたよね。こうした交渉は情報が外部に漏れないよう進める必要があり、できればスピーディーに行いたいと考えていました。その要望に寄り添っていただいたので、短期間で進めることができましたね。
頼末:スムーズに進められたのは、提携するうえでビジネスや財務、法務でリスクになり得る事項を前広に相談いただけたからです。こうした交渉では、お互い隠しごとなく進めることがとても大切です。隠さずにリスクをお話しいただければ、私たちもプロとして対策のアイデアを出すことができますから。今回は早めにそれらをお話しいただけたのがとても大きかったですね。
吉田:私もこういう交渉は初めてでしたから、今言ったようなリスクを含めた話をいつどのタイミングですれば良いのか、とても悩みました。この点はM&Aクラウドのアドバイザーに相談しました。その中で、ある程度早い段階で話していく方針を提案してもらったんです。
――江信特殊硝子から見て、契約の決め手になったことはありますか。
吉田:お話しする中で、この人たちとなら「一緒にこの業界で戦っていける」と感じたことです。当社の成長戦略をご提案いただいたときも腑に落ちましたし、細かな実務の部分でもこうしていくべきというアイデアをいただいて。実現可能なものが多かったんです。
私が提携先に重視したのは「ものづくりへの理解」でした。アイ・シグマ・キャピタルさんは半導体関連企業への投資実績があり、業界にも精通しています。特に、八十島プロシードさんは、私たちが目指す会社のひとつで、そこに投資実績があることは頼もしかったですね。質問も的を射ており、すぐにうちとけあうことができました。
頼末:私自身、ファンド業界にいる人間の中では「半導体関連の知見は誰にも負けない」という自負があります。今の吉田さんの言葉はうれしいですね。
すでにメンバーが常駐し、両社で経営改善に取り組む
――交渉は3月にまとまり、その後2024年8月には正式な資本業務提携に至りました。現在、両社で行っていることを教えてください。
頼末:当社のメンバーが江信特殊硝子さんに常駐し、一緒に経営改善に取り組んでいます。M&Aや資本業務提携の前には、相手企業の価値やリスク、改善点を調査するデューデリジェンス(DD)を実施するのですが、今はそこで発見された事項(DD発見事項)の対応をしていますね。投資先に常駐するのは当社のスタイルで、一緒に現場で実態を見てこそ、経営課題を解決していけると考えています。
吉田:常駐いただいて毎日話し合いながら進められるのはありがたいですね。会社の経営課題は、誰にでもざっくばらんに相談できるものではありません。私も取締役という立場上、社内で相談するには慎重になる必要がありますし、もちろん社外の人には容易に話せません。とはいえ、新しいアイデアは欲しい。その中で、細かなことまで相談できて、かつ私たちにない知見や解決案を出してくれるのでとても助かっています。
――この提携における、今後のビジョンはありますか。
吉田:両社の力を合わせて、会社を成長させたいですね。そのためには顧客の開拓や生産効率を高めるなど、取るべき行動はいくつもありますが、ぜひ今後やりたいと思っているのは、アイ・シグマ・キャピタルさんが投資している他の会社とのコラボレーションです。「ファンド」という同じ船に乗っている企業同士で協力し合い、会社を成長できたらうれしいですよね。
頼末:私たちとしても、江信特殊硝子さんの顧客拡大や技術強化、経営管理機能の向上などを進めたいですね。さらにM&Aなども活用しながら、業界トップを目指したいと考えています。
吉田:事業の成長に加えて、社員の子どもたちが誇りに思える会社になりたいですね。最近はESGの活動も進めており、太陽光発電の導入なども進めています。次の時代を担う人に対して、胸を張れる会社であり続けたいと思っています。
――最後に、M&Aクラウドのアドバイザリーサービスを利用した感想を伺えますでしょうか。
吉田:先ほど話したように、契約のことだけではない、いろいろな話を担当アドバイザーとできたのが良かったですね。ビジネスにとどまらない人間関係を構築したうえで手を取り合ったからこそ、うまくいったと思います。
頼末:私が担当アドバイザーに感じたのは、高い専門性です。初期の段階で江信特殊硝子さんの情報をいただいたとき、アドバイザーの方に追加でいろいろとヒアリングしたのですが、私たち買い手側が欲する情報の勘所をつかんでおり、的確に答えていただきました。ビジネス、財務、法務など、多角的に必要な情報をきちんと押さえていたところに、プロとしての専門性を感じたのです。
当社は投資事業を行っていますから、これからも良い企業との出合いをご支援いただけたらうれしいですね。M&Aクラウドとともに次の展開をつくっていけたらと考えています。