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事業譲渡の対価を知りたい!譲渡価格を決めるポイントと3つの評価手法とは


公開日:2021年8月18日  最終更新日:2022年11月18日

事業譲渡を実施する際は、売却価格を算定するために企業価値評価(バリュエーション)を行います。複数の評価方法があり事業の性質や状況に応じて使い分けたり複数の評価方法を組み合わせたりします。この記事では、事業譲渡における売却価格の決定に必要な事業の評価方法を解説します。

事業譲渡の対価決定のメカニズム

事業譲渡を含めたM&A(​​Merger And Acquisition・企業の合併と買収)における譲渡対価の決定は、本記事で説明する企業価値評価による算定をふまえて、当事者で交渉して決定していくのが基本です。

事業譲渡の対価は、主に譲渡する事業の価値で決まります。ただし、当該事業に対する評価が譲渡側と譲受側で共通しているとは限りません。そのため、交渉を行い、譲渡側と譲受側の双方が合意した売却価格で契約します。

譲渡側が健全な交渉を実現するには、適切な方法で事業価値を評価し、妥当な売却価格であることを譲受側に示さなければなりません。そのためにも、事業価値の評価方法への理解を深めることが重要です。

参考記事:
企業価値評価の手法から考える、企業価値向上のための4つの方法とは?

譲渡対価の評価手法

譲渡する事業の対価の評価方法には、「インカム・アプローチ」「マーケット・アプローチ」「コスト・アプローチ」があります。それぞれの特徴と計算方法について解説します。

参考記事:
事業売却の価値を算定する5つの方法|メリットや高く売る方法も解説

1:インカム・アプローチ

インカム・アプローチとは、事業の将来的な見込み収益やキャッシュ・フローの予想を元に事業価値を評価する方法です。主に用いられる方法にDCF法があります

DCF法は、対象となる事業が将来的に得ることが予想されるキャッシュ・フローを元に事業価値を評価する方法です。妥当性の優れた事業価値を算出できるため、最もよく利用されています。その一方で、将来のキャッシュ・フローを予測するために多くの仮定を置く必要があるため、恣意性が介入する余地が大きいという欠点があります。

DCF法の計算方法は、次のとおりです。

事業企業価値=事業が生み出すフリー・キャッシュ・フローの期待値を加重平均資本コスト(WACC)で割り引いた現在価値

事業が生み出すフリー・キャッシュ・フローは、貸借対照表やと損益計算書、事業計画を参考にに記載されている情報を元に次の計算式で算出します。

フリー・キャッシュ・フロー=営業利益×(1-実効税率)+減価償却費-設備投資額-正味運転資本増加額

続いて、加重平均資本コスト(WACC)を次のように算出します。

有利子負債総額/(有利子負債総額+株式時価総額)×(1-実効税率)×負債コスト+株式時価総額/(有利子負債総額+株式時価総額)×株主資本コスト=加重平均資本コスト(WACC)

参考記事:
DCF法とは?DCF法による企業価値評価のメリット・デメリット|評価のポイント5選

2:マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチは、同じ業種や規模、ビジネスモデルであるなど、評価対象と類似する企業の情報を元に事業価値や株式価値を評価する方法です。

主に用いられているマーケット・アプローチには、類似会社比較法があります。適切な類似企業が存在しない場合には、評価の質に問題が生じるため、他の評価方法と組み合わせて評価することが重要です。

どの指標を用いて比較するかによって複数の手法がありますが、代表的なEV/EBITDA倍率を用いて事業価値を評価する際の流れは次のとおりです。

(1)比較対象となるの上場企業を選定する

(2)類似上場企業および評価対象の事業価値とEBITDA(税引前利益+支払利息+減価償却費)一株あたりの利益や純資産などを入手計算する

(3)事業価値(EV)をEBITDAで割って両社の数値を比較してEV/EBITDA倍率を計算する

(4)上場対象会社のEBITDAに類似企業の市場株価にEV/EBITDA倍率をかけて対象会社評価対象の事業価値株価を算出する

参考記事:
マルチプル法による企業価値算定で使う指標を解説|メリット・デメリットも紹介

3:コスト・アプローチ

コスト・アプローチは純資産法とも呼ばれ、純資産を元に株式価値を評価する方法です。主に用いられる方法は、簿価純資産法と時価純資産法の2つです。

簿価純資産法

簿価純資産法は、貸借対照表の純資産帳簿価額をもって株式価値とする方法です。以下の計算式で株価を算出します。

純資産÷発行株式数=株価

客観性に優れ、多くのM&Aで用いられていますが、簿価と時価の剥離が大きい場合は正確に評価できないため、あくまでも参考程度の利用にとどめることが多い手法です。

時価純資産法(修正簿価純資産法)

時価純資産法は、帳簿上の資産と負債を時価で再評価し、資産から負債を差し引いて算出した時価純資産額を株式価値とする方法です。

資産には、売掛金や有価証券、棚卸資産、不動産、貸付金などがあり、全てを時価で再評価することは実務上難しいため、不動産や有価証券のような時価の測定が比較的容易な資産のみ時価で再評価することが一般的です。

事業譲渡の対価を左右するポイントとは

事業の売却価格は、有形資産や無形資産、取引先・顧客、従業員、マーケットシェアの有無などで左右されます。

1:無形資産

無形資産とは、ブランド力やノウハウ、知識や技術、所有コンテンツ、許認可、権利など、形を持たない資産のことです。

例えば、他社が模倣できない特殊なノウハウや技術を取得できれば、市場シェアの拡大を狙えるでしょう。このように、無形資産は事業価値に大きな影響を与えます。

2:取引先・顧客

優良な取引先を多く抱えている場合も事業価値にポジティブな影響を与えることがあります。

例えば、商品開発力に定評のある買い手が強い顧客基盤を持つ売り手を買収することで、アップセル・クロスセルの実現といったシナジーの発現を期待できます。また、継続的に商品やサービスを購入してくれる顧客を獲得できれば、収益性と安定性が向上します。

事業譲渡に限らずM&Aを行う際は、その事実を顧客や取引先に知られないように進めることが基本です。しかし、急に事業が他社に渡ると取引先や顧客を混乱させてしまうため、適切なタイミングで必要な情報を共有しながら進めていくことが重要です。

3:従業員

従業員が持つ知識や技術、ノウハウなどは、事業の収益性を支える重要な要素です。優秀な人材が揃っている事業は、それだけ売却価格が高くなります

ただし、譲渡企業と譲受企業で給与形態や企業風土などが異なるため、そのギャップに悩まされた従業員が転籍を拒否したり退職したりする恐れがあります。

そのため、従業員の労働条件や労働環境について、譲渡側と譲受側で十分に擦り合わせることが重要です。

4:マーケットシェア

マーケットシェアは、事業価値を大きく左右します。マーケットシェアが大きい事業は継続的に多大な利益を得られる可能性が高い上に、市場拡大の恩恵も受けやすく将来キャッシュ・フローの成長性を訴求しやすいため、売却価格が高くなる傾向があります。

また、業界全体でのシェアが低くても、特定の販売地域や年齢層などで高いシェアを誇っている場合は、交渉次第で売却価格が高くなることもあります。

事業譲渡で価格を上げる3つのポイント

譲渡する事業の事業価値を高めることで、譲渡価格の上昇が期待できます。譲渡価格を上げるためのポイントを3つご紹介します。

1:事業のマイナスポイントを減らす

事業譲渡の価格を上げるには、買い手が懸念するマイナス要素を排除する必要があります。マイナス要素は価格を下げるだけではなく、プラス要素に対する印象を希薄にします。その他、マイナス要素が大きすぎると交渉が不成立になる可能性も高まるため、優先的に見直すべきポイントです。

代表的なマイナス要素には、余剰資産と簿外債務、訴訟問題があります。

余剰資産は、資産が余分にあることで、資産効率の低さや運転資本の悪化が主な懸念点です。例えば、利用していないオフィスビル、設備、過剰な在庫などが該当します。

簿外債務は、貸借対照表には記されない債務のことです。例えば、未払いとなっている残業代などが該当します。実際に事業を譲受してから簿外債務が発覚し、問題になるケースもあります。

そして、訴訟問題には顕在化している案件のみならず、取引先とのトラブルなど訴訟に発展するおそれがあるものなどがあります。訴訟の判決結果次第では、事業の価値が毀損されるばかりか、譲受した買い手企業の評判にも影響が及ぶ恐れがあるため、買い手は取引に対して慎重になります。

2:目に見えない資産の価値を訴求する

マイナス要素を排除すると共に、プラス要素を増やす必要があります。買い手にとってのプラス要素は、目に見えない資産(無形資産)です。無形資産は、企業の努力と時間の積み重ねによって形成されるものであり、シナジーに深く関係しています。

無形資産には、優秀な人材、効率的に利益を生み出すノウハウ、他企業の追随を許さない技術力、希少性の高い許認可、特許、信用力、幅広い顧客ネットワークなどがあります。

無形資産で価値を上げるために、技術力のさらなる向上や従業員1人あたりの生み出す価値の向上などを狙いましょう。ただし、事業譲渡の短い交渉期間中に無形資産を増やすことは困難です。まずは、買い手に自社が保有するノウハウや知的財産などの無形資産を余すところなくアピールすることが重要です。

3:戦略的に価格交渉をする

譲渡価格の決定は企業間の合理的な意思決定によりなされるため、とにかく価格を上げて欲しいといった姿勢では交渉は成功しません。買い手が考える事業価値よりも高めの価格を求めるのであれば、プラスαの価値を訴求することが必要です。トップ面談でお互いのビジネスに対する考え方が共通していることがわかったり、人としての相性が良かったりなど、小さなプラスαの要素でも、価格交渉が有利になります。

価格交渉の方法には、複数の買い手から1社と個別に交渉し、双方の合意に至れば事業譲渡が成立する「個別交渉方式」、複数の買い手が競争入札して最も価格が高い買い手に事業を譲渡する「オークション方式」があります。

オークション方式は、競合が多くなればなるほどに価格が吊り上がることが期待できますが、M&Aの情報が漏えいしやすい点に注意が必要です。

まとめ

譲受企業と交渉する際、譲渡企業は自社の強みをアピールすることも重要です。事業価値のアピールや事業価値の算出、契約書の作成などについては、M&Aアドバイザーや税理士、公認会計士、弁護士などと協力して進めましょう。

また、事業譲渡を有意に進めるために、インターネット上で買い手企業を探せるM&Aプラットフォームに登録することをおすすめします。M&Aプラットフォーム「M&Aクラウド」は、事業を譲り受けたい企業が買収ニーズを記事として公開。ニーズを確認した上でM&Aを事業譲渡を打診できるほか、M&Aアドバイザーに無料で相談することも可能です。

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