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企業価値評価の手法から考える、企業価値向上のための4つの方法とは?


公開日:2021年5月7日  最終更新日:2022年11月18日

企業価値とは

「企業価値」とは企業全体の経済的価値のことをいい、事業の価値だけでなく非事業資産の価値も含む概念を指します。

企業価値と類似する用語として、事業価値や株主価値といった用語が存在します。

日本公認会計士協会の『企業価値評価ガイドライン』によれば、「事業価値」とは事業活動によって創出される価値を指します。「株主価値」とは、企業価値から有利子負債等の他人資本を差し引いた株主帰属する価値を指します。

企業価値と事業価値の違い

事業価値とは事業から創出される価値で、その会社が持っている事業がどのくらいの価値を持っているのかを示します。事業によって将来獲得できると期待されるキャッシュ・フローの合計金額を現在価値に割り引いたものが事業価値です。

企業価値と似ているため混同されますが、 企業価値とは、事業価値に非事業資産の価値を加えた企業全体の価値を指します。

企業価値と株主価値の違い

株主価値は企業価値から有利子負債残高を差し引いた残額です。また、上場企業においては株主価値は株式時価総額で表現することもできます。

企業価値評価の3つの手法

企業価値評価の実務で用いられる手法は、「マーケット・アプローチ」「インカム・アプローチ」「コスト・アプローチ」の3つのアプローチに大別されます。

手法1:マーケットアプローチ

マーケット・アプローチとは、上場している同業他社、類似取引事例などを比較対象とし、相対的に価値を評価する方法です。

一般的に、比較対象企業の株価や取引事例は、 当該比較対象企業の将来価値も含めた継続価値であると考えられることが、この手法の理論的背景です。 

マーケット・アプローチは「株式市価法」「類似企業比較法」「類似取引比較法」などに分類されます。

「株式市価法」は、証券取引所や店頭登録市場に上場している会社の市場価格を基準に評価する方法です。

「類似企業比較法」は、評価対象会社と類似する企業の事業価値や株式価値と比較して評価する方法です。

「類似取引比較法」は、類似のM&A取引の売買価格と評価対象会社の財務数値に関する情報に基づいて計算する方法です。

以下では実務で頻繁に利用される「類似企業比較法」で使用される倍率(マルチプル)について解説していきます。

EV/EBITDA倍率

EV/EBITDAとは、事業価値(EV)がEBITDAの何倍程度あるかを表した倍率です。類似企業のEV/EBITDAを自社のEBITDAに乗じることで、自社の事業価値(EV)を算定することができます。EV/EBITDAを利用して推定できるのは事業価値であるため、株主価値とは異なる点について注意する必要があります。

EBITDA

EBITDAとは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortizationの頭文字を取ったものであり、税引前利益に支払利息や減価償却費を加えた数値のことです。

国ごとの税率や金利水準の相違、設備投資の多寡による影響を排除できるという特徴を有しています。そのため、さまざまな国に拠点を置く企業や、設備投資が多く減価償却負担の高い企業を始めたとした、さまざまな企業の収益性を比較・分析する際に使われています。

PER法

PERとは、Price Earnings Ratioの頭文字をとったもので、株価収益率とも呼ばれます。PERは株価を1株当たり純利益で割ることで求められます。

PERで算定されるのは株主価値です。類似企業のPERを評価対象会社の純利益に乗じることで、評価対象会社の株主価値を推定することができます。「株価/1株あたりの純利益」によって求められることから、投資回収年数の目安にもなる指標です。

手法2:インカム・アプローチ

インカム・アプローチは、「評価対象会社から期待される利益、ないしキャッシュ・フローに基づいて価値を評価する方法」(日本公認会計士協会)であり、企業が将来に生み出すであろうキャッシュ・フローに注目した評価手法です。企業の持つ収益力に着目した手法と言えます。

M&Aや設備投資への投資判断に採用されることが多い手法ですが、評価に際して将来の不確実性を加味しなければならないため、恣意性が介入する余地が大きい、という短所があります。

DCF法

DCF法とは、フリー・キャッシュ・フローを用いた企業価値評価における代表的な手法の1つです。

事業が生み出すと期待されるキャッシュ・フロー、すなわち将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引き、事業価値を算出します。なお、直接株主価値を算定するエクイティDCF法という手法が存在しますが、この記事では割愛します。

企業の収益獲得力や固有の特性を反映することができ、理論的に最も優れた手法であると評価される一方で、評価に際して様々な仮定を置く必要があるため、恣意性が介入する余地が大きいという特徴があります。

配当割引モデル

配当割引モデルは、「株価の理論値は、当該株式を永久に保有した場合に株主が受け取る配当金の合計額の現在価値に等しい」という考え方に基づいています。したがって、 将来の各期において株主が受け取る配当金の期待値を投資家が要求する収益率(株主資本コスト)で割り引くことで株主価値を算定します。

事業価値を算定するDCF法とは異なり、配当割引方式では株主価値を算定します。

収益還元法

収益還元法は、一定の割引率によって会計上の純利益を割り引く手法のことで、株主価値を評価する手法です。計算式の分子が会計上の純利益であり、キャッシュ・フローではないことから、DCF法や配当割引モデルで算定される価値と差異が生じることがあります。

収益還元法は不動産投資においてよく用いられる方法ですが、M&Aにおいても簡易的な評価手法として参照されるケースがあります。

手法3:コスト・アプローチ

コスト・アプローチとは、主として企業の貸借対照表上の純資産に着目して株式価値を算出する手法のことを指します。帳簿作成が適正になされており、時価等の情報を適切に入手できる状況においては、比較的客観性に優れた評価を行うことが可能です。中小企業のM&Aにおいては比較的よく用いられる手法と言えます。

これは、マーケット・アプローチにおいては、比較対象とする上場企業と中小企業では規模や事業形態が異なる場合があること、インカム・アプローチにおいては、評価の基礎となる事業計画の精度に限界があることなどに起因していると言われています。

算出方法は「時価純資産法」と「簿価純資産法」の2つに分けられます。

時価純資産法

時価純資産法とは、貸借対照表の資産負債を時価で評価した場合の純資産額をもって株主価値を算出する手法のことです。修正簿価純資産法とも呼ばれています。

時価純資産法は一時点の純資産に注目した評価手法のため、のれん等が適切に計上されていない場合には、企業の将来の収益力が反映されていない可能性があるという点に留意する必要があります。

簿価純資産法

簿価純資産法とは、貸借対照表に計上されている純資産額をもって株主価値とする手法です。その名の通り貸借対照表に計上されている帳簿価額に基づいているため、保有資産の含み益等が反映されません。

企業価値を向上させる4つの方法

市場競争を生き抜くような経営をして企業価値を高めることは、経営者にとって重要な使命です。また、 会社の売却を検討していたとしても、企業価値が高ければ売却プロセスにおいてさまざまなメリットを享受できます。企業価値を向上させるためには、事業の収益力の向上と高い成長率の確保が求められます。

企業価値を上げるために、まず手をつけたいのが事業の収益性の向上です。さらに無駄を省き、会社の経営資源を有効活用することも求められます。初めの一歩としては、事業の全体像を見直し、もっとも効果の高いと思われるものから着手しましょう。

企業価値を向上させるために必要な対策についてご紹介します。

方法1:事業の収益力を高める

事業の収益力を高めることは、企業価値を高めるためにまず取り掛かるべきポイントの一つです。

事業の収益性を高めるためのポイントは数多くありますが、まずは 「解像度の高い事業計画を策定できているか」「運転資本が膨らんでいないか」「特定の顧客に対する売上依存度が高くないか」といった基本的な事柄を検証しましょう。

このほかにも、事業の収益力を高めるには営業力や商品開発力の向上、原価や販売費および一般管理費の削減といったさまざまな改善が求められます。

収益力の向上は会社の企業価値を本質的に高める重要なポイントです。ビジネスモデルを見直し、より収益性を高める施策を検討しましょう。

方法2:財務状況の再検討

企業価値を高めるもうひとつのポイントは、財務状況の再検討です。単純にいうと、 他人資本(銀行からの借入等)と自己資本の比率(資本構成)を見直すことです。

すでに述べたとおり、最初に着手すべき施策として、無駄な経費を削減したり営業を強化したりといった事業の収益力の強化が挙げられます。その上で、資本構成を最適化し加重平均資本コスト(WACC)を低下させることで、企業価値を向上させることが可能です。

具体的には、株主資本よりも金利が低く支払利息の節税効果を有する有利子負債を活用して財務レバレッジを上昇させることで、WACCを低下させ、企業価値を向上させることができます。

ただし、財務レバレッジの上昇は財務の安全性の低下と表裏一体であるため、借入比率を増やしすぎることのないよう留意する必要があります。

方法3:投資効率の最適化

次に、有休設備や活用していない不動産等の不要な資産がある場合には、それらを手放し、より重要性の高い投資に充てることを考えましょう。

収益性の低い固定資産を売却することで、拘束資金が減少するうえに売却資金を再投資できるというメリットが生まれます。

また、運転資本についても、売掛金の回収サイトを短縮したり、購買・製造プロセスを見直すことで在庫のリードタイムを削減したりすることで、キャッシュ・フローが改善され、浮いた資金を再び投資に利用できるというメリットが生まれるでしょう。

方法4:無形資産の把握・活用

無形資産とはいわゆる「目に見えない資産」のことを指し、知的財産権や会社の持つノウハウ、従業員のスキルなどがこれに当たります。

業種にもよりますが、ゲームや書籍の版権、特許などを取得し、それらを活用するための戦略を取ることも重要です。

また、従業員のスキルに関しては業務に関するノウハウが形式知として会社に蓄積されていることが重要です。

企業価値の向上で得られるメリット

経営がうまくいっており、キャッシュ・フロー創出能力の高い企業の企業価値は高くなると考えられます。

メリット1:融資を受けやすくなる

潤沢なキャッシュ・フローを生み出す能力がある場合、金融機関からの評価も高まるでしょう。キャッシュ・フローを増やし企業価値を上昇させるような経営ができれば、結果的に金融機関からの融資を受けやすくなるなどのメリットがあります。

メリット2:M&Aを有利に進めることができる

企業価値を上げることで、M&Aにおいても享受できるメリットが大きくなる可能性があります。売り手の場合、企業価値が高ければより満足度の高い売却が実現できるかもしれません。

高い企業価値は、敵対的買収から自社を守るうえでも効果を発揮します。企業価値が高ければ、買い手にとっては敵対的買収に必要な資金が多くなるため、それだけ買収されるリスクを抑えることにつながります。

参考記事:敵対的買収とは?M&A戦略における方法や考慮すべきリスクも紹介

企業価値を高める重要性を再認識しよう

M&Aの成否を売却金額のみで語ることはできませんが、企業価値の高い会社であれば売却金額も上昇し、株主にとってより満足度の高い取引を行える可能性が高まります。

また、企業価値を高めるような経営ができれば、安定したキャッシュ・フローを創出できるため、融資で有利に働くこともあるかもしれません。

売却をするためだけではなく、企業を存続・発展させるためにも企業価値を高めることはとても重要なことなのです。

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