財務デューデリジェンスの7つの調査内容|実施の注意点とポイント
公開日:2021年6月18日 最終更新日:2022年11月18日
財務デューデリジェンスとは、対象会社の財政状態を客観的な観点から適正な純資産価値および正常な収益力を確認する手続きです。通常は、監査法人やM&A専門のコンサルティング会社に委託することが多いです。買収会社の適正な価値と将来性を見極めることができます。
目次
デューデリジェンスの意味
デューデリジェンス(DD)とは、企業買収等のM&Aを実施する際に、買収対象会社の事業内容や財務状況を分析し、買収する価値があるのかを検討する手続きです。
分析する内容は、事業の内容、法務・税務面でのリスクや、適正な会計処理が行われているかなどです。
デューデリジェンスにより、表面上の価値ではなく、客観的な目線で買収会社の適正な価値と将来性を見極めることが重要です。
財務デューデリジェンスとは
財務デューデリジェンスとは、対象会社の財政状態を客観的な観点から適正な純資産価値および正常な収益力を確認する手続きです。通常は、監査法人やM&A専門のコンサルティング会社に委託することが多い傾向にあります。
財務デューデリジェンスの定義
財務デューデリジェンスは、一般的に税務とセットで行われる場合が多い傾向にあります。
具体的な調査の内容は、PL項目は妥当なものか、適正なBS評価がされているか、隠れた税務リスクがないかなど多岐にわたります。
例えば、土地の価値が下落しているにもかかわらず、土地を所有している企業の純資産が取得価格のままで算定されている場合、改めて土地の評価を算定し、対象会社の純資産に反映させます。
財務デューデリジェンスの7つの調査内容
財務デューデリジェンスの調査内容は、大きく分けて「買収価格の決定等の情報の調査」「過去の財政状況の調査」「実態の財務諸表の調査」「税務リスクの調査」「経理・財務の体制管理調査」「経営成績・資金繰りの調査」「給与や残業状況等の調査」の7つが挙げられます。
これらをもとに財務デューデリジェンスの調査が行われます。各調査項目を詳しく見ていきましょう。
1:買収価格の決定等の情報の調査
財務デューデリジェンスの目的は、前述の通り対象会社の適正な価値を算定することにあります。
財務デューデリジェンスを怠ると、対象会社の隠れたリスクや、本来の収益性などを見誤ってしまい、大きな損失を出す可能性もあります。
真実性の調査
財務デューデリジェンスの調査項目には、真実性の調査があります。主な内容は、BS科目の確認です。
貸借対照表に表示されているBS科目の資産が本当に適正な価値が表示されているか、負債には隠れた債務がないかを確認します。
例えば、資産側では棚卸資産が過大に計上されていないこと、有価証券等の簿価は時価で算定されていることなどを確認します。
負債側では、買掛金・未払金などの未計上がないか、賞与や退職金の引当金計上がされているかなどに注目します。中小企業の場合、例示のような会計処理していない場合が多いので、必ず確認する項目です。
適切な買取価格の判断
調査の結果から、対象会社の適正な純資産価格を算定します。事前の調査から、資産が過大に表示されていた場合は、簿価を適正な価格に修正します。資産が減少することにより、純資産の価格が減少します。
同じく、負債側でも隠れた債務があった場合、改めて負債を計上することが必要です。資産同様に、負債が増加することにより、純資産の価格が減少することになります。そういった手続きを経て、適正な純資産価格を算出します。
なお、資産が過少に計上されていた場合には、純資産の増加要因として計算しますが、あまり増加に転じるような例は少なく、有価証券や土地の時価評価に変更がある場合などがほとんどです。
2:過去の財政状況の調査
財務デューデリジェンスでは、現在の状況だけでなく過去の状況についても確認する必要があります。
もちろん現在の財政状況等が一番重要ではありますが、過去からどのような推移で現在の価値になったかを把握することは重要です。
例えば、毎年の成長率は微増ながらも堅実な財政状況で成長している企業と、売上高が急成長しつつ負債側である借入金も増加している企業があったとします。
成長スピードの観点から買い手企業にとって魅力的なのは後者の企業ですが、その分リスクも多くなってきます。売上が急成長し借入している会社は、資金繰りが非常に重要になり、売上の増加にキャッシュインが追いついていないケースもあるからです。
このように、過去からの推移も勘案して対象会社の価値を判断します。
3:実態の財務諸表の調査
財務デューデリジェンスの調査は、財務諸表の確認から入ります。
大きな調査の過程は、貸借対照表、キャッシュフロー計算書による財政状況から、損益計算書による収益性、そのた税務リスクや、内部統制観点からの管理体制などさまざまな内容を総合的に調査していきます。
貸借対照表
貸借対照表では、前述の記載した通り、主に資産・負債が適正に表示されているかを確認します。
これは、適正な純資産を算定する目的もありますが、特に負債側で隠れたリスクがないかを確認する非常に重要な手続きです。
例えば、M&Aによる合併を実施した場合、結果的に調査時に発見できなかった債務は、合併後の存続会社が責任を負う事になります。
そういったことがないように、隠れた債務を発見し、リスクを明らかにする大切な調査です。
損益計算書
財務デューデリジェンスの調査では、対象会社の収益性を損益計算書で確認します。損益計算書は、会社の収益性に係る情報が数多く含まれています。
例えば、売上高に占める原価の割合である「原価率」、売上に占める販売管理費の割合などを確認します。原価率を見ることで、対象会社が一般的な業界平均より原価率が高いか低いかで、今後の将来性の指標にもなるものです。
また、販売管理費の比率が低ければ、企業努力による販売管理費の費用削減ができている会社というプラス要因となります。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書は、貸借対照表・損益計算書を併せてみることで、会社のさまざまな実態や問題点が確認できます。
キャッシュフロー計算書は、会社がどのようなキャッシュ状況にあるかを確認できます。
営業キャッシュフローは、会社の本業でどれだけのキャッシュを生んでいるかがわかります。
投資キャッシュフローでは、営業キャッシュフローで得た資金がどのように増減をしているかが示されます。M&A等の支出もこの投資キャッシュフローに含まれます。
最後に、財務キャッシュフローでは、会社が必要な資金をどのように調達しているかなどがわかります。
例えば、損益計算書による売上高の急成長にも関わらず、営業キャッシュフローがマイナスになっていれば、債権の未回収による滞留債権や、商品等の在庫が過剰になっている可能性があります。
4:税務リスクの調査
税務リスクは、単に貸借対照表や、損益計算書を見るだけでは把握しにくいでしょう。大きくは2つの方法で確認します。
1つは、前述の貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書から、異常な数値などを検知する方法です。
もう1つの方法は、税務上の決算書にあたる税務申告書による別表の確認です。別表とは、税務上の損益計算書や貸借対照表にあたる資料です。
別表では、会計上の処理を税務上の処理が食い違った場合に、税務上の差異内容を別表に記載します。その記載内容を確認することで、会計上だけでは把握できない内容も確認できます。
5:経理・財務の体制管理調査
財務デューデリジェンスの調査では、経理・財務の体制を管理することも調査に含まれます。
例えば、経理業務の体制が構築できていない会社などでは、BS残高の内容も詳細まで管理できていない場合が多い傾向にあります。
また、管理体制が不十分な場合、不正等のリスクも考えられるため、ヒアリング等による経理体制の調査も必要な手続きの1つになります。
6:経営成績・資金繰りの調査
経営成績・資金繰りの状況については、前述の損益計算書やキャッシュフロー計算書をみることで確認ができます。
この経営成績・資金繰りと併せて、予算数値を確認し、対象会社の将来性を確認します。買取価格は、対象会社の財政状況と将来性を総合的に判断して決定することになります。
7:給与や残業状況等の調査
財務デューデリジェンスの調査では、給与や残業の状況も確認する必要があります。前述の賞与引当金や退職引当金などもありますが、直近の問題などで該当するのが未払残業問題などです。
特に海外などの企業を買収などする場合、日本よりも労務管理ができていないケースも多くあります。
このような場合、未払残業代や、未払賃金などのリスクを抱えている企業も少なくはありません。
財務デューデリジェンスを実施するときの9つのポイント
財務デューデリジェンスを実施する際は、前述の手続きと併せて、以下9つのポイントを押さえておく必要があります。
M&Aは、企業にとって非常に大きな投資になります。よってその支出は、よりコストを抑えつつ、正確な情報を収集する必要があります。
1:不必要なコストを避ける
財務デューデリジェンスでは、不必要なコストは避けなければなりません。
財務デューデリジェンスは、あくまでM&Aをするまでの事前調査です。調査内容によっては、対象会社の買取を見送る結果もあり得るでしょう。その場合、調査に係った費用は収益を生むことはありません。
そういった面から、財務デューデリジェンスの費用は必要最低限に抑える必要があります。
2:調査時間の制限
通常、財務デューデリジェンスの調査期間は2~3週間程になります。対象会社の適正な価値や、隠れたリスクをすべて把握するには非常にタイトなスケジュールになります。
よって調査期間に応じた調査範囲や、調査の深掘り度合いを事前に決めておく必要があります。
3:実施時期
調査期間を勘案し、自社の決定機関である取締役会等の実施スケジュールから逆算して財務デューデリジェンスの時期を決める必要があります。
また、対象会社の決算時期を考慮し、決算時期を避けて対象会社が財務デューデリジェンスの調査に対応できる時期に実施する配慮も必要になります。
4:作業が重複しないよう他のデューデリジェンス項目と連携をさせる
財務デューデリジェンスは、一般的に会計事務所やコンサルティング会社に委託する場合が多いと解説しましたが、自社の経理担当者が同行するケースもあります。
その場合、限られた期間での財務デューデリジェンスになるため、事前に監査法人、コンサルティング会社と調査内容のすり合わせをしておく方が良いでしょう。
5:調査専門業者の選定・依頼
財務デューデリジェンスの調査業者選びにも注意が必要です。
中小企業をメインとしたM&Aであれば問題ありませんが、相当の規模の会社を買収する場合や海外の企業を買収する場合は、相応のノウハウが必要になります。国内であれば監査法人等が網羅的に対応可能でしょう。
ただし海外となると日本の会計基準や税制度の尺度だけでは適正な価値を把握できません。現地国の税制度や商習慣、社会情勢に至るまで様々な特殊要因があります。コンサルティング会社には海外に特化した企業もあるため、依頼先も慎重に確認する必要があります。
なお、監査法人でも現地法人を有している監査法人があるため、広い視野で検討するようにしましょう。
6:調査範囲を明確にする
調査期間でも解説しましたが、限られた調査期間ですべての内容を把握することは困難です。よって事前に調査項目を明確にしておく必要があります。
調査項目については、事前に決算書等を入手して、対象会社の概要を把握することで問題点や疑問点等書きだして、重要な項目から調査対象項目としていきます。
7:対象企業の資料開示を請求する
財務デューデリジェンスでは、対象会社に対して資料開示を請求する必要があります。大きくは事前準備資料と調査時の資料に分かれます。
事前準備資料は一般的に決算書(損益計算書・貸借対照表等)、キャッシュフロー計算書、勘定科目内訳明細書などの過去資料です。調査時は、事前準備資料で確認した調査項目に付随する関連資料を請求します。
資料開示をスムーズに請求することが調査内容の正確性に繋がります。
8:会計基準や会計方針の違いを考慮する
財務デューデリジェンスでは、事前に会計基準や会計方針の違いを把握しておく必要があります。
例えば、工事関連会社等であれば、工事の進捗度合い応じた売上計上する「工事進行基準」という会計処理があります。
通常の商品を販売した時や役務提供が完了した時点での売上計上ではないため、事前に自社の会計基準との違いを把握してお必要があります。
9:対象企業でのマネジメントインタビュー等の実施
財務デューデリジェンスでは、マネジメントインタビューを実施します。マネジメントインタビューとは、対象会社の経営者に自社の経営状況や、課題・リスク、将来の展望などをヒアリングすることです。
決算書からの数字だけでは把握できない課題などがヒアリングにより発覚することも少なくはありません。また、調査結果をフィードバックし、調査内容に相違がないかを確認する意味も含まれます。
財務デューデリジェンスの目的を理解しよう
財務デューデリジェンスは、対象会社をM&Aするかどうかを判断する非常に重要な手続きです。
M&Aは、買い手企業にとっても売り手企業にとっても、会社を成長させる手段のひとつです。ただし、財務デューデリジェンスで対象会社の正確な現状分析や将来性の把握をしなければ、買い手企業は大きなリスクを追うことになります。売り手企業にとっても、デューデリジェンスへの積極的な協力がM&A成功のカギになると言えます。
買い手企業・売り手企業ともに財務デューデリジェンスの本質・目的を理解して、より大きなチャンスを掴めるように準備しましょう。
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