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DCF法の計算方法|企業価値評価の流れを計算式とともにわかりやすく解説


公開日:2021年11月30日  最終更新日:2022年11月17日

本記事ではDCF法についてご紹介します。DCF法は、M&Aで重要な論点である買収価格を検討する土台となる評価手法の一つです。

M&Aを考えている方は、本記事でDCF法の考え方、計算方法等についてこの機会に勉強されることをお勧めします。

DCF法とは

M&Aで会社や事業の買収を行う際には、買収価格を決定する必要があります。その際、買収対象企業または事業が持つ経済的な価値を評価し、当該企業価値または事業価値を参考に価格交渉をすることが一般的です。企業価値評価の手法にはいくつかの種類があり、その代表的なものがDCF法です。

DCF法は、評価対象企業固有のキャッシュ・フロー総出力に着目した評価手法であり、企業が将来獲得すると期待されるキャッシュ・フローを現在価値に割り引くことで企業価値を算定する手法です。割引率には、WACCといわれる加重平均資本コストを利用することが一般的です。

DCF法の定義

DCFとは「Discounted Cash Flow」の省略です。Discountedという言葉が示す通り、評価対象企業が将来にわたって創出するキャッシュ・フローを現在価値に割り引くことにより事業価値を算定する方法です。

現在価値とは

現在価値とは、将来受け取る貨幣価値を金利等を考慮した一定の割引率で割り引くことにより、今現在の貨幣価値に換算する考え方のことを言います。

ただ、なかなかイメージしにくいため、具体例を挙げて考えてみましょう。

例えば、金利が1%と仮定した上で、すぐに99万円をもらうのと1年後に100万円をもらうのとではどちらが得でしょうか。ここでは分かりやすくするため、税金や手数料等は考慮しないことにします。

この場合、1年後の100万円の現在価値は、100万円÷1.01%≒990,099円と理論上考えられますので、1年後に100万円をもらう方が若干ですが得と判断することができます。

このように、現在価値の概念を取り入れることで、異なる時点で発生するキャッシュ・フローを比較することができます。

DCF法による事業価値の計算式

DCF法による事業価値の計算に必要な要素は、将来キャッシュ・フロー、割引率、継続価値になります。

DCF法による事業価値の計算式は、以下のようになります。ただし、実務上3~5年を超える将来キャッシュ・フローを予測することは困難なため、後述する継続価値の概念を取り入れた計算式を用いることが一般的です。

(1年目の将来キャッシュ・フロー)/(1+割引率)+(2年目の将来キャッシュ・フロー)/(1+割引率)²+(3年目の将来キャッシュ・フロー)/(1+割引率)³+…(n年目の将来キャッシュ・フロー)/(1+割引率)n

将来キャッシュ・フローの計算

DCF法による事業価値の算定においては、将来獲得が期待されるキャッシュ・フローが重要な役割を果たします。将来キャッシュ・フローの算定にあたっては、評価対象会社の事業計画を参照することが一般的です。

一般的に会計上の利益は実際のキャッシュの出入りと異なるため、将来の見込みキャッシュ・フローを算出するには、事業計画のNOPAT(Net Operating Profit After Tax:税引後営業利益)に減価償却費(会計上の費用項目でありキャッシュアウトを伴わない)を加え、設備投資額と運転資本の増減額(どちらも費用項目ではないがキャッシュインないしキャッシュアウトを伴う)を加減します。

このように、算定されたキャッシュ・フローはフリー・キャッシュ・フローと呼ばれ、FCFと表記されるケースが多いですので覚えておきましょう。

注:フリー・キャッシュ・フローには事業全体に帰属するフリー・キャッシュ・フロー(Free Cash Flow to the Firm: FCFF)と、株主に帰属するフリー・キャッシュ・フロー(Free Cash Flow to Equity: FCFE)が存在しますが、本稿ではFCFFを前提としています。

FCFの予測期間

買収対象会社の事業計画からキャッシュ・フローを算出することが可能ですが、事業計画は通常では3~5年程度先の将来までしか作成されません。それ以上先の将来については、会社も具体的な計画を作成するのは難しいものです。

使用する割引率

DCF法の計算式に用いる割引率とは、上記の将来キャッシュ・フローを割り引く時に用いる値です。「割り引く」とは、将来の見込みキャッシュ・フローから金利などを考慮し、現時点の価値を算定することを意味します。

割引率は、買収対象会社のキャッシュ・フローから現在価値を導くために必要な要素になります。

WACCの計算

DCF法で用いる割引率には、加重平均資本コストを用いることが一般的です。加重平均資本コストとは、Weighted Average Cost of Capitalの略であり、頭文字をとってWACCと呼ばれます。

加重平均という名のとおり、企業の主たる資金調達方法である有利子負債株主資本のそれぞれの金額と割引率を算定し、割引率を金額で加重平均することで算定します。有利子負債コストは借入金の利息、株主資本コストは配当金をイメージすると分かりやすいでしょう。

WACCの計算式は、以下のようになります。この式は、Capital Asset Pricing Model: CAPM(キャップエム)と呼ばれるファイナンス理論に基づいています。

株主資本コスト=リスクフリーレート+(エクイティリスクプレミアム×β)+固有のリスクプレミアム

リスクフリーレートは、投資者がリスクを負うことなる獲得できる利回りを指します。実務上は長期の日本国債の利回り等を利用することが一般的です。

エクイティリスクプレミアムは、投資者が株式市場全体に投資をすると仮定した場合に獲得を期待する追加的な利回りを指します。過去の株価変動をもとに専門機関が作成したレポート等を参照して設定しますが、日本国内では6%前後とすることが一般的です。

βは、評価対象企業の株価が市場全体の株価の変動と比べてどの程度ボラティリティがあるかを表す係数です。

固有のリスクプレミアムには上述のCAPMでは説明できない追加的なリスクプレミアムが含まれます。中でも代表的なものが、サイズリスクプレミアムです。サイズリスクプレミアムは、買収対象会社の企業規模によるリスクを表したものです。

継続価値の計算

上述した通り、将来キャッシュ・フローの算定に当たっては評価対象会社の事業計画を利用しますが、事業計画の期間は3~5年程度が一般的ですので、当該期間以降のキャッシュ・フローについて予測することは困難です。

そこで、計画期間の最終年度から一定の割合で成長するとの仮定を置いたうえで、当該継続期間のキャッシュ・フローの現在価値を算出することがあります。当該価値を継続価値と呼び、算出にあたっては以下の計算式を用います。

継続価値=計画最終年度のフリー・キャッシュ・フロー×(1+成長率)/(割引率-成長率)

永久成長率の決定方法

事業計画最終年度より先のキャッシュ・フローについては、事業計画最終年度のキャッシュフローが一定の割合で永久的に成長すると仮定することが一般的となっています。これを永久成長率と言い、多くの場合長期のインフレ率予想等から決定されます。

割引現在価値の計算

買収対象会社のキャッシュ・フロー、割引率、継続価値から計算し、割引現在価値すなわち事業価値を求めることが可能です。事業価値とは、将来キャッシュ・フローを割り引いて算定した現在価値の総合計と言うことも可能です。

具体的には、事業計画期間内は各年度のキャッシュ・フローから割り引いて事業価値の小計を算定します。さらに、事業計画期間以降は、事業計画の最終年度のキャッシュフローが継続すると仮定し、前述した継続価値を算定します。

これらを合計すると、事業価値を求めることができます。なお、前述した計算式で算定されるのは事業計画最終年度における継続価値ですので、会社の事業価値算定に当たってはそこからさらに割り引く必要がある点に注意しましょう。

事業価値から株式価値へ

ここまでDCF法による事業価値の算定方法を説明してきましたが、対象会社の株式を取得して買収するためためには、事業価値ではなく株式価値を算定する必要があります。

株式価値を算定するには、事業価値に非事業用資産を加算し、さらに有利子負債を減算する必要があります。この関係性は以下の式で表せます。

事業価値+非事業用資産の価値=企業価値
企業価値-有利子負債の価値=株式価値

主な加減算項目

非事業用資産とは、事業に利用されていない資産を意味します。事業から生み出されるフリー・キャッシュ・フローに含まれていませんが、企業全体の価値を算定するには非事業用資産も考慮する必要があります。事業外資産の具体例には、事業に直接影響のない投資有価証券や、有休不動産等があります。

有利子負債は、買収対象会社が外部から調達した有利子負債の合計額を意味します。具体例には、銀行からの借入金、社債、リース債務等があります。

DCF法使用時のメリット・デメリット

DCF法の長所は、評価対象会社固有の要素を織り込むことができることです。

とはいえ、フリー・キャッシュ・フローの予測期間や永久成長率をどのように設定するかは、専門家でも意見が分かれることがあり、絶対的な基準は存在しません。そのため、客観性に欠けるという点が短所といえます。

DCF法使用時の留意点

まず、将来キャッシュ・フローの検証が必要になる点です。

将来キャッシュ・フローは、買収対象会社の事業計画から算定することが実務上で一般的になっています。そのため、事業計画の実現可能性によっては、最終的な算定結果に大きな影響を及ぼすことが懸念されます。

一例として、事業計画が多数の新規事業が多く含み、その将来性が不透明であれば、新規事業分は除いた事業計画によりDCF法を適用することもあり得ます。また、事業計画が過去の実績と大きく乖離していないかという点も注意しましょう。その場合には、他の手法を利用することも検討する必要があります。

次に、割引率により計算結果が大きく変わる点です。DCF法において、割引率は将来キャッシュ・フローと同じ位重要な要素ですが、割引率が0.1%変わっただけでも最終的な算定結果に大きな影響が出てきます。

実務的には、買収対象会社が未上場企業である場合には、割引率を正確に見積もることは困難とされています。未上場企業は、公開される情報が限られており、その固有のリスクを見積もることが難しいためです。

最後に、以下の場合にはDCF法が適さない可能性があります。

  • 事業計画において、フリー・キャッシュ・フローがマイナスになっている
  • 会社を清算することが確定している

フリー・キャッシュ・フローがマイナスであれば、DCF法を用いた事業価値の算定結果もマイナスとなってしまうため、適用することができません。また、会社清算などにより将来のフリー・キャッシュ・フローが見込めない場合には、他の手法を用いる必要があります。

まとめ

以上、DCF法について紹介してきました。DCF法は、M&Aにおいて一番のポイントになる買収価格を検討する際によく利用される評価手法です。

M&Aに興味のある方は、DCF法について勉強しておくと参考になりますので、この記事がお役に立ちましたら幸いです。

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