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入札による事業売却|相対方式との相違点とメリット・デメリットについて


公開日:2022年1月31日  最終更新日:2022年11月18日

本記事では、入札による事業売却の方法をわかりやすく解説しています。実際の流れと注意点についても解説していますので、今後入札方式で事業売却を行いたい方におすすめの記事です。本記事で、相対方式以外にも売却方法があることを頭に留めておいてください。

入札による事業売却

入札による事業売却という方法があることをご存知でしょうか。

大きく分けて2つある事業売却方法のうち、1つ目が相対方式、2つ目が入札方式です。

この記事では、入札方式と相対方式の売却方法の違い、入札方式のプロセス、メリット、デメリットをわかりやすく解説します。

「現在事業の売却を考えている」「将来は事業売却をする可能性がある」という経営者の方におすすめの記事となっているため、ぜひご一読ください。

入札とは

事業売却における入札とは、売却する1つの企業に対して、買い手が複数の条件を提示する方式のことを指し、売り手は買い手が提示した条件から自社にとって有利な条件を選択することができます。

上記より、入札方式はこの他に、ビッド方式、コンペ方式とも呼ばれています。

この際提示されるのは、会社の売却金額だけではありません。買収後に買収企業がどのように企業を運営するのかという経営方針、その先まで見越した長期的なビジョンも選考条件になります。

このため、売手は買い手企業の中から自由度高く選択でき、相対方式より売手優位に進めることができるため、事業売却時には入札方式を採用する企業もあります。

入札による事業売却の特色とは

入札についての簡単な説明は先ほどしましたが、他にどういった特色、相違点があるのでしょうか。

結論から説明すると、入札は多数の買手との交渉を一挙にできるため、よい条件での売却が実現する反面、情報漏洩のリスクがあります。

以下で詳しく解説します。

入札による事業売却と他の手法による事業売却との相違点

入札による事業売却の場合は、先ほどの説明通り複数の買手からの条件を募ります。一方で、もう1つの「相対方式」では特定の買手を決定してから売却条件を細かく設定します。

相対方式のメリットは特定の買手と話を進めるため、情報漏洩などのリスクが小さく、流動的な交渉条件の変更が可能になる点です。しかし、M&Aの話が進むまでに時間がかかることや、競争が発生しないため好条件を引き出しづらいのがデメリットです。

入札による事業売却のメリット

入札は一度に大勢の買い手を相手にするため、相対方式と比べ平等性が高い売却方法です。このため、「有利な条件での売却が可能」「一定の公平性を担保できる」などのメリットがあります。

それぞれのメリットについて以下詳しく解説します。

買主候補間に競争原理が働くためより有利な条件での売却が期待可能

入札は一度に買い手からの条件をコンペ方式で集めるため、買手間に競争原理が働き好条件を集めやすいメリットがあります。

「今後必要になるであろうテクノロジー技術を獲得している」「エンジニアの質が高い」「シナジー効果が見込まれる取引先がある」などの買い手にとってのメリットが大きい企業では、特に競争原理は大きく働きます。

逆に、赤字企業であったとしても上記の競争原理が働いた場合、予測金額よりも高値がつく可能性があります。

このため、相対方式では事業の売却が難しい赤字企業が入札方式を取ることもあります。

買主選定プロセスの公正性を一定程度確保できる

株主への説明が必要な上場企業の場合、買手の選定がしやすくなるメリットがあります。

例えば、相対方式で進める場合には、そもそもなぜその書手を選んだのかなどの説明を株主に実施する必要が出てきますが、入札の場合には上記の議論が発生しません。

また、提示された条件の中から好条件のものを選ぶという選定フローがわかりやすく、株主からの賛同を受けやすいというメリットもあります。

買主選定のプロセスがわかりやすく、世間への説明もしやすいため、大企業が事業売却を活用する場合には入札方式が取られることがあります。

入札による事業売却のデメリット

入札は「好条件を引き出せる」「公平性を担保できる」メリットがありますが、複数の会社との交渉を同時に進めるためデメリットもあります。

デメリットは主に手続きの煩雑さです。

手続きは煩雑ですが、事前に内容を理解し進めることができれば、比較的大きなイグジットが見込めます。

具体的に、「買い手の絞り込みには入札が必要」「専門知識が必要」がデメリットですが、手順と注意点をしっかりと守ることで、上記のデメリットが回避できるのが入札の特徴です。

それぞれのデメリットについて詳しく解説します。

買主候補絞り込みのために数次の入札が必要

買主候補を絞り込むためには数次の入札が必要です。このため、そもそも買手にとって魅力的な条件が提示できない場合、入札されない恐れがあります。

上記を避けるためには、企業の業績・情報を買手にとってわかりやすくまとめる必要があります。この他、買手からの質問がある場合には質疑応答も実施するため、買手企業を選定するのに工数がかかります。

なお、追加情報を加える場合には特定の企業にのみ伝えると不公平感が生じるため、入札の場合には情報提供を全体に行うことに注意しましょう。

専門知識と経験が必要

入札を行う場合には専門知識と経験が必要です。例えば、自社の財務情報を開示するのであればどこまで開示するのか、自社の魅力はどこにあるかを具に調査し、買手企業へ提示しなければなりません。

この他、入札を募集する段階で買い手企業に対し大まかなスケジュールの策定をし、買手企業への公開が求められます。

また、買手企業を選定する際には金額以外の条件からの比較が必要になるだけでなく、複数の企業を同時に相手にしなければならないため、1つ1つ調べながら進めていては時間がかかり過ぎてしまいます。

上記より、入札形式での売却を進める場合には、事前に入札形式で必要になる情報を集めておき、スムーズに買手企業の比較・決定ができるよう準備をする必要があります。

複数のDDへの対応が必要

売却企業がデューデリジェンスの対応に追われるのもデメリットです。デューデリジェンスとは、企業を買収する際にかかるリスクを算定することです。

事業買収は企業にとっても大きな買い物になるため、買手企業が売手企業のリスクを算定することは必須です。

1つの会社でも対応が煩雑になるデューデリジェンス対応ですが、複数の企業からデューデリジェンス依頼が来てしまった場合、企業のリソースは大きく割かれてしまいます。

情報漏洩リスクの増大

1つの会社だけでなく、複数の会社に対して情報を開示することになるため情報漏洩のリスクは付き纏います。

このため、情報開示をどこまで行うかの線引きを明確にし、重大な情報の開示は避ける必要があります。経営陣で事前に開示する内容を決めておき、例外が発生した際には社内でコミュニケーションを取り、開示するか否かを決定する必要があります。

M&Aクラウドを利用すれば、買い手の責任者と平均1週間で面談することができます。経験豊富なプロのアドバイザーに無料相談することもできるので、まずは無料の会員登録をお試しください。

入札方式での事業売却のプロセス

入札方式で事業売却を進める場合には、事前にそのプロセスを理解しておくとスムーズに売却を進めることができます。

売却のプロセスは大きく3つのプロセスに分けられます。

「取引相手選定プロセス」「契約交渉プロセス」「契約実行プロセス」の3種類です。

それぞれのプロセスについて以下で詳しく解説します。

取引相手選定プロセス

相対方式と異なるのが取引相手選定プロセスです。取引相手選定プロセスとは、買主候補へM&Aの打診をし、買主候補による検討が行われるフェーズのことです。

この段階ではノンネームシートの送付、秘密保持契約の締結、インフォメーションパッケージなどの書類が必要です。

ノンネームシートとは、ティーザーとも呼ばれますが、企業が特定されない程度の企業の業種、財務情報、売却スキームなどをまとめたシートで、買手企業は、ノンネームシートを確認し、詳細の情報を求めるかを決定します。

詳細な情報が必要になった場合は、秘密保持契約を締結し、売手企業は入札スケジュールや買い手の選定方法がまとめられた「プロセスレター」や、企業の詳細が書かれた「インフォメーションパッケージ」を買い手企業に開示します。

上記の情報を受け取った買い手が買収を決定した企業は、プロセスレターの指示通り意向証明証を作成し、売手企業に提出する必要があり、上記が全て終了して初めて具体的な契約交渉プロセスへと進めるでしょう。

契約交渉プロセス

契約交渉プロセスでは、デューデリジェンスと最終的な買い手の絞り込みがメインです。

デューデリジェンスとは、買収に潜むリスクを細かく算定するフローのことです。

M&Aの場合、簿外債務や偶発債務のリスクが潜んでいるため、財務デューデリジェンスを入念に実施します。

事業譲渡の場合には、上記のリスクは他のM&A手法に比べると比較的小さいですが、この他にもビジネスデューデリジェンス、リーガルデューデリジェンスを行う必要があるため、入念に調査は行われるでしょう。

この後、最終的に買手が買収を希望した場合には二次入札が行われ、意向証明書が提出されます。

売手企業は買収を希望する会社を選定し、最終契約を締結する企業を決定します。

契約実行プロセス

契約実行プロセスは契約の締結をもって終了となります。契約実行の際には、コベナンツ、表明保証、クロージングの前提条件を契約書に加えることが多いです。

コベナンツとは、クロージング前後で買手と売手が守るべき義務を規定したものです。例えば、スムーズな経営統合のために協力することなどが挙げられます。

表明保証とはデューデリジェンスで判明したリスク以外に他のリスクは存在しないことを約束することです。具体的には、簿外債務、偶発債務のリスクがないことを表明保証で約束することが一般的です。

クロージングの前提条件には、デューデリジェンス時から会社の財務情報が大きく変動していないこと、コベナンツの履行が真実であること、表明保証に誤りがないことを盛り込みます。

入札による事業売却での注意点3つ

入札による事業売却の場合は注意点が3つあります。

「応札期限の延長等」「取締役の善管注意義務」「入札の中止」について理解をしておくと、入札による事業売却を有効的に活用できます。

ここからは、上記3つの注意点をそれぞれわかりやすく解説します。

1.応札期限の延長等

入札の際に知っておいた方がいいのが、入札プロセスは特定の法律で定められているものではないため延長が可能だということです。このため、買手企業に渡すプロセスレターにその旨を記載することが多いです。

したがって、良い条件が提示されない場合には応札期限が延長できることを理解し、事業売却の際に役立てましょう。

2.取締役の善管注意義務

取締役は善管注意義務を負っています。善管注意義務とは「善良な管理者の注意義務」の略称で、事務などを行う際には通常要求される注意義務を果たす必要があるという意味です。

ここで売り手側の取締役が負っている善管注意義務とは、企業を高い価格で売却することです。特に上場企業の場合は、株主に対し最大利益をもたらすことが取締役の仕事です。

どこの企業に売却するかで大きく売却額が変わる入札においては、他の売却方法よりも善管注意義務を追及されることが多いため、慎重な判断が求められます。

3.入札の中止

期限の延長と同様の理由で、売手企業が事業売却の入札を終了することは可能です。このため、事業売却により目的を達成できない場合には入札を中止できると頭に留めておくのがよいでしょう。

なお、基本合意書まで締結してしまうと、プロセスレターに自由に中止ができる旨の記載があったとしても、その後の撤回にはリスクが生じることがあるため、入札の中止を行う場合、少なくとも基本合意書の前までに決定しましょう。

まとめ

本記事では、入札による事業売却について説明しました。

他の売却方法と比較すると、買手を選ぶことができるため高く売れるメリットはありますが、手続きが少し複雑になるデメリットもあります。

ただし、事前に事業売却の流れを理解しておくことで、円滑な事業譲渡が可能になるのが入札でもあります。

したがって、事業売却の際には入札という売り出し方もあることを理解しておくとよいでしょう。

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