close
close
使い方 プロのM&Aアドバイザーにお気軽に相談いただけます。 menu

買収された会社の退職金はどうなる?その取扱いや会計及び税務について解説


公開日:2022年1月31日  最終更新日:2022年11月18日

買収された後の会社で、退職金の取り扱いについてどうなるのか、疑問に思っている経営者もいるでしょう。本記事では、買収された会社の退職金の税務や、節税方法などについて解説しています。会社買収を検討している経営者の方は、ぜひ本記事を参考にしてください。

退職金に関する基礎知識

本記事では、企業買収の際に、その後の退職金の取扱いや税務、会計、税制上のメリット等について説明していきます。まずは退職金に関する基礎知識として、退職金制度と役員退職金について詳しく見ていきましょう。

退職金制度とは

退職金とは、労働者が退職する際に会社が支給する報酬金を意味します。定年退職を迎えた退職者だけでなく、転職等で途中退職する退職者にも支給する場合もあります。

会社にとっては、法律上、必ず退職金制度を導入する義務はありません。しかし、近年では退職金制度を導入している会社が多いため、求人条件として重要な項目の一つになりつつあります。また、離職を防ぐ目的でも有意義な制度と言えるでしょう。

退職金制度の中にもいくつかの種類があります。退職時に一括で支給する「退職一時金制度」や、あらかじめ保証された一定額を給付する「確定給付企業年金制度」、労働者の在職中に一定額を積み立てて退職後に年金として支給する「確定拠出年金制度」などです。

役員の退職金

役員退職金とは、退任した役員に対して、株主総会や取締役会の決議に基づいて支給される退職金です。役員退職金は税制上でも大きなメリットがあるとして認識されています。

まず、退職金を受け取る側のメリットとして退職所得控除が挙げられ、勤続年数に応じて一定の金額が控除されます。さらに、役員退職金は分離課税であるため、他の事業所得や給与とは分けて税金を計算することになります。

また、役員退職金は支払われた後は損金算入できるため、会社側にとっても税制上のメリットがあります。

しかし、金額が高額過ぎると損金算入できないケースもあり、役員業務に実際に従事した期間や退職の理由、同規模同業種法人における役員退職金の支給状況等と照らし合わせて、適正な金額を支給する必要があります。

買収された会社の退職金の取扱い

ここからは会社買収が起きた際、買収された会社の退職金の取扱いがどうなるか説明していきます。

一般的に会社買収が起きた際には、退職金が支払われるか、退職金制度の統合が行われます。しかし、役員退職金と従業員の退職金についてはそれぞれ取り扱いが異なるため、分けて見ていきましょう。

役員の退職金の取扱い

株式譲渡などで会社売却が行われた際、買収された会社の役員は退職時に退職金を受け取ることがあります。役員が完全に退職するケースはもちろん、使用人として会社に残るケースでも役員退職金が支払われることがあります。

一方で、事業譲渡の場合は売り手側の役員は転籍せずにそのまま会社に残るケースが多いです。従って、役員退職金は支払われず、退職金の取扱いは事業譲渡以前と変わりません。

従業員の退職金の取扱い

従業員の退職金の取扱いについて、売却のスキームごとに説明していきます。

株式譲渡の場合は、売り手側企業が買い手側の子会社となって存続するため、一般的に売却企業の退職金制度がそのまま継続します。

吸収合併や吸収分割の場合は、会社全体か、あるいは会社の一部事業を包括的に承継することになります。従って、理論的には退職金制度も売り手企業の制度をそのまま引き継ぐことになります。しかしながら、会社分割の場合は労働契約承継法の適用を受けるため、実務上の取扱いには注意が必要です。

事業譲渡の場合は、売り手企業と従業員との雇用関係が一度消滅し、新たに買い手企業と雇用関係を結び直す形になります。従って、事業譲渡の時点で一度、売り手企業から退職金を支払うことになります。

買収された会社の退職金の会計処理

会社買収の際、退職金の会計処理はスキームによって異なります。株式譲渡であれば、従業員への退職金は「退職給付引当金」に、役員退職金は「役員退職慰労引当金」として負債計上され、売却時に引き継がれます。

買収された会社の退職金の会計処理株式譲渡であれば、従業員への退職金は「退職給付引当金」に、役員退職金は「役員退職慰労引当金」として負債計上され、売却時に引き継がれます。

なお、企業買収の際に売り手企業側から退職金が支払われる場合は、損金算入することが可能です。

参照:No.5208 役員の退職金の損金算入時期|国税庁

買収された会社の退職金の税務

企業買収の際に売り手側から退職金が実際に支払われる場合は損金に算入され、その分法人税等の課税対象所得の額が減少します。

ただし、退職金計上額が不当に高いと見なされると損金計上できないケースもあります。役員の勤続期間、退職理由、同規模同業種の他社の役員退職金の相場と照らし合わせて不相当に高額だった場合、超越部分については損金算入が認められないので注意が必要です。

買収された会社の退職金制度

会社買収によって、売り手側の退職金制度が買い手側の退職金制度に統合されるケースがあります。

株式譲渡や吸収合併、吸収分割においては売り手の退職金制度が継続されるケースもありますが、買い手側との統合が必要な場合は、条件が悪化しないように工夫しなければいけません。

買収された会社の税負担のメリット

企業買収の際、役員退職金を支払うことで買い手側にとっても売り手側にとっても税負担のメリットが生じることがあります。

役員退職金に関する税金についてと、実際に役員退職金を活用した節税方法について詳しく見ていきましょう。

役員退職金に関する税金

役員退職金として実際に支給される金額は、退職所得から所得税と住民税が引かれた金額です。

退職所得は、(退職金の額-退職所得控除額)÷2×税率で計算されます。退職所得控除は勤続年数によって変わります。また、勤続年数が5年以下だと退職所得=(退職金の額-退職所得控除額)となり、÷2が適用されない点も注意が必要です。

役員退職金は拠出・支給した年か、株主総会で金額が決議された年の決算で損金に算入されます。損金算入されると、その分だけ法人税などの課税対象所得の額が減少することになります。

また、退職金全般に当てはまることですが、役員退職金は分離課税であり、累進課税である所得税とは分けて計算されます。さらに、社会保険料の対象にもなりません。

出典:退職所得課税の適正化(令和3年度改正)|財務省

役員退職金を利用した節税

企業買収の際に売り手側が役員退職金を支払うことで、売り手側の経営者にとっても、買い手にとっても節税効果が期待できます。それぞれに分けて見ていきましょう。

まず、売り手側の経営者にとっては「会社売却益をそのまま受け取るケース」と「会社売却益の一部を役員退職金として受け取るケース」の比較が重要です。

会社の売却にともなって役員に退職金を支払う方法は、役員報酬のひとつとして、売却する会社から支給することをあらかじめ決めておくことになります。売却方法は株式譲渡とします。

この場合、売却する会社から退職金が支払われることになるため、その分だけ株式の価値が下がることになります。しかし、下がった分だけ、退職金が支給されるため、税務関係を考慮しなければ理論上は同額がもらえることになります。

そして、税務関係を考慮した場合、株式譲渡益と退職金に課される課税とでは、制度が異なるため、退職金を支給してその分だけ売却価格を下げたほうが得となる場合があります。

会社売却益にかかる税率は金額に関わらず一律約20%ですが、累進課税である役員退職金は一定の水準までは20%以下となり、退職金として受け取った方が、税金が安く抑えられます。

出典:主要国の株式譲渡益課税の概要|財務省

まとめ

買収された会社の退職金の取扱いや会計及び税務についてと、具体的な節税メリットについて解説してきました。

売却スキームによっても退職金の取扱いが異なるうえ、役員退職金を支払う場合はその金額によって享受できる節税メリットも異なります。ぜひ本記事を参考にしてみてください。

M&Aマッチングプラットフォーム「M&Aクラウド」では、プロのアドバイザーに直接相談することで、会社売却や資金調達に関する最新のトレンドや業界別のインサイトを知ることができます。まずはお気軽に無料でご相談ください。

M&Aに関するご相談

textsms

ご相談はこちらから

remove close
keyboard_arrow_up