事業売却の選択肢となるカーブアウト|その手法と注意点について
公開日:2022年2月28日 最終更新日:2024年2月13日
マーケットから正しい評価がなされていない場合には、自社事業をカーブアウトすることで、投資家を集めることができます。本記事では事業の適切な価値算定、事業のさらなるスケールに役立つカーブアウトについてわかりやすく解説しています。
M&Aクラウドではポートフォリオの組み替えやカーブアウトの検討を進める企業様からのご相談を多数承っております。これまでにカーブアウトM&Aを支援した実績が複数あり、投資銀行や大手FASに在籍していたメンバーもおり、M&A仲介に限らず、ポートフォリオの再構築など経営視点からのアドバイスも可能です。お気軽にご相談ください。
目次
カーブアウトとは
会社を経営するなかで子会社が増え、企業がコングロマリットの状態になることはよくあります。コングロマリット型の企業では、会社の中身が見えづらくなるため、投資家から適切な評価がなされないことも増加します。
そこで活用されるのがカーブアウトです。カーブアウトを実施することで、子会社の財務内容を正しく切り出し、事業の適切な価値を算定できます。
また、カーブアウトM&Aを実施することで、事業の一部を独立させることができるため、事業のさらなるスケールにも役立てることができます。事業売却をうまく活用した方法がカーブアウトです。
本記事では、カーブアウトの定義、スピンアウトとの関係性、メリットをわかりやすく解説します。コングロマリット型の企業を経営しており、正しい価値算定がマーケットでなされていないとお困りの方や、よりスピード感を持って事業をスケールさせたいとお考えの経営者はぜひご一読ください。
カーブアウトの定義
カーブアウトとは、複数の事業を有している企業から特定の事業を切り出すことを意味します。M&Aにおいては、上場企業グループ内の子会社や事業の価値が正しく評価されていない場合に活用できる方法です。
デューデリジェンスにおけるカーブアウトとは、事業を分離して切り出す一連の作業や、会社全体の財務諸表から対象事業の財務諸表を切り出す作業を意味します。
該当事業の財務内容を数値で割り出すことで、事業の適切な価値が算出され、実態を正しく把握することが可能になります。
カーブアウトとスピンオフ・スピンアウトとの関係
カーブアウトの意味を説明しましたが、スピンオフやスピンアウトという言葉が頭に浮かんだ方も多いのではないでしょうか。
実は、スピンオフとスピンアウトはカーブアウトの一種です。両者の違いは親会社の出資、支援があるか否かですが、以下でそれぞれについてわかりやすく解説をします。
スピンオフとは何か
スピンオフとは、親会社からの資本を受けて当該事業を独立させ、新会社を立ち上げる方法です。スピンオフの場合には親会社からの出資が残るため、独立後も会社の経営に対して親会社の影響が残ります。
このため、親会社のリソースを活用した安定経営ができますが、親会社が子会社の経営に対して口を出すことがあるため、思う通りに経営が進まない可能性があります。
カーブアウトを決定した時点で、その後も子会社と親会社が連携をして事業を拡大していくことを見据えているのであればスピンオフは有用な手段です。
スピンアウトとは何か
スピンアウトは資本提携をせずに当該事業を独立させる手法です。独立後は親会社からの資本がないため、新会社のみで意思決定を進めることができますが、財務上不安定になることも多いのがネックです。
上記の特性上、親会社が不採算事業を切り離す際にスピンアウトが活用されることがあります。スピンアウトを実施する際は、新しくベンチャー企業を立ち上げるのとほぼ同義のため、親会社に頼らずに独立した会社の力のみで事業を開拓する必要があります。
カーブアウトの法的な手法2種類
カーブアウトを実施する際の出口戦略として、会社分割と事業譲渡の2種類が挙げられます。どちらも似たような方法に見えますが、選択した手法により元会社の権利関係、契約関係、雇用関係等の移転関係が変化します。
そこで、どちらを選択するか決定する際には、違いを明確に理解したうえでカーブアウトを進める必要があるでしょう。それぞれの違いについて以下わかりやすく解説します。
(1)会社分割
会社分割には、吸収分割と新設分割の2種類がありますが、一般的には子会社を新設したうえで吸収分割を実施する際に、カーブアウトを活用することが多いです。
会社分割では、元会社の契約や権利、雇用関係が包括的に移転されるため、新たに契約を締結し直す手間が省けます。このため、会社や事業の移転がスムーズに行われる点がメリットです。
このように、契約を包括的に処理できる都合上、会社分割は大規模事業のカーブアウトを実施するのに適しています。ただし、契約内容によっては会社分割で自動的に契約者が代わるケースが認められない場合もあります。事前に内容を確認し、契約相手と協議をする必要もあるため注意が必要です。
(2)事業譲渡
事業譲渡は、事業の一部を譲渡する手法です。事業譲渡を利用する場合には、会社の権利関係がすべて包括的に移転されるわけではありません。
大半の契約や権利、雇用関係等は、当事者の地位譲渡で処理されますが、一部は再度締結する必要があることは留意しなければいけません。そうしたデメリットがある代わりに、個別で契約を巻き直すため、簿外債務などのリスクは低減するのが特徴です。
小さな事業をカーブアウトする場合には、事業譲渡を活用することが一般的です。
カーブアウトで注意すべき事項
カーブアウトを検討する際は、どの手法を選択するか、契約の承継を個別で実施するか否かなど多くの注意すべき事項があります。
そこで、ここからはカーブアウトを実施する際に注意すべき事項についてそれぞれわかりやすく解説をします。
手法の選択
カーブアウトを実施する際には、会社分割、事業譲渡などのスキームのうち、どれを採択するかを検討する必要があります。繰り返しになりますが、会社分割の場合は包括的な承継が可能ですが、細かい個別の条件を巻き直したい場合には不向きです。
また、簿外債務などのリスクも当然新設会社が請け負うことになるため、必ずしも手続きが簡便という理由だけで会社分割を選択することはできません。したがって、自社にあった適切なスキームを選定することが大切です。
契約の承継
現在、締結している契約には一通り目を通しておくことが推奨されます。包括的な契約の承継が行われる会社分割の場合であっても、すべての契約が自動で承継されるとは限りません。
契約のなかには、契約当事者同士の無断の変更を許さないケースもあるため、必ずしも契約が首尾よく承継されるわけではないことを認識しておくとよいでしょう。
許認可
承継する事業のなかに許認可を要する事業が含まれている場合や、新規で許認可が必要な事業を立ち上げる場合は事前に許認可の取得が必要です。
会社分割の場合には許認可の承継も包括的になされますが、自動的な承継が認められず、再度許認可の取得が必要なものもあります。
許認可を新規で取得する場合でも、再度取得し直す場合においても、管轄行政庁に対して確実に手続きを行うようにしましょう。
知的財産権の取り扱い
知的財産権を元会社と新設会社の間でどのように処理するかも重要な問題です。
知的財産権を親会社と新設会社でシェアしたい場合には、会社分割を利用して知的財産権を共有することもできますし、そうでない場合には事業譲渡を活用して知的財産権を新設会社に割り当てない方法も取れます。
どちらを利用するかは今後の2社の関係性による問題のため、どちらの方法を取るかを戦略的に決定してからカーブアウトを実施することが求められます。
株主総会等の手続き
カーブアウトを実施する際には、株主総会の手続きが必須です。このため、カーブアウトの実行に合わせて適切に株主総会を開催し、手続きを進めることが求められます。
ただし、簡易分割や略式分割の場合は株主総会をパスすることもできるため、株主総会についても事前に専門家へ相談するなどの手続きが必要になることがあります。
雇用関係
カーブアウトに伴い、従業員の離脱が発生するリスクがあるため、雇用関係の調整も適切に行う必要があります。特に、事業譲渡の場合には包括的な従業員との契約の承継が取れないため、取り決めについて事前の確認が不可欠です。
特に、従業員の継続雇用年数はどう扱うのかや、業務内容が変化する場合にはその旨を伝えるなど従業員に不安を抱かせないきめ細やかな対応が必要です。
カーブアウトのメリットとデメリット
カーブアウトを実施する際は、メリットとデメリットの両面を理解しておくことが重要です。
カーブアウトのメリットは、元会社と新設会社で新たな親子関係、グループ会社の関係を築くことができる点です。もちろん、完全に子会社を独立させることもできますが、シナジー効果が見込まれる場合には資本関係を締結しておくことが有用です。
また、カーブアウトを実施することで、新設会社は親会社との関係がない会社とも出資関係を結ぶことができます。カーブアウトにより、新規の事業が拡大が見込まれるため、コアとなる事業を外部へ切り離しスピード感を重視できることもカーブアウトのメリットです。
一方で、カーブアウトにはリスクも存在します。元会社にとってはリソースの分散となるため、優秀な人材がカーブアウトで流出してしまえば本末転倒です。モチベーションの低下につながる可能性も考えられます。したがって、カーブアウトを実施する際は、自社が本当にカーブアウトをすべきなのかを考えてから実施する必要があります。
まとめ
本記事ではカーブアウトについて説明しました。企業が成長し大きくなった場合、個別の事業やグループ内の子会社の価値が適切に評価されないケースが見受けられます。そうしたコングロマリット型の企業に有効的な手法がカーブアウトでした。
また、それだけではなく、カーブアウトを実施し、コア事業に外部投資家を巻き込むことで飛躍的な事業の成長を見込むこともできます。このように、M&Aは会社の事業成長にも役立つ手法です。自社の更なる成長のために、M&Aを上手にお役立てください。
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