20社以上との出合いから見えた理想のM&A──ZEALOTがSMSデータテックを選んだ理由とは
買い手:株式会社SMSデータテック
売り手:株式会社ZEALOT
公開日:

2025年5月、ITコンサルティングおよびシステム開発・運用・保守を手がける株式会社SMSデータテックは、Webシステムやスマートフォンアプリの開発、クラウドインフラ構築などを中心としたシステム開発事業を展開する株式会社ZEALOTの株式を取得し、完全子会社化することを発表しました。
成約までに20社以上と面談したというZEALOT。引く手あまたの中で、SMSデータテックを選んだのはなぜだったのでしょうか。SMSデータテック 代表取締役社長の松原哲朗氏と、ZEALOT 代表取締役 常盤臣氏にその経緯と今後のビジョンについて伺いました。
プロフィール
早稲田大学第一文学部に入学。大学時代は現メルカリ社長の山田進太朗氏らが立ち上げた、早稲田大学の学生ベンチャーを支援する団体に所属。その後、起業家輩出機関を標榜していた株式会社ベンチャー・リンクに入社。フランチャイズ支援事業、教育事業、Webマーケティング業務など幅広く経験した後、2009年にSMSデータテックに入社。マーケティング本部長、事業開発室長を歴任し、2021年より現職。
山梨県出身。地元の専門学校卒業後約6年間、システム開発会社に勤務。その後フリーランスになり、拠点を東京に移す。オープン系・Web系のシステムを中心に数々のプロジェクトに参画。次第にもっと積極的に提案をするような仕事をしたいと感じるようになり、2008年、システム開発会社時代の同僚である岩下享司氏と株式会社ZEALOTを設立。クラウドやブロックチェーンなど、時代の先端技術に挑戦してきた。
現状維持で精一杯。事業拡大のため選択したM&A

——ZEALOTの事業内容を教えてください。
常盤:Webシステムやスマートフォンアプリを中心に、システム開発事業を手がけています。
2008年、開発エンジニアの経験をもとに、現・取締役の岩下と立ち上げたのが始まりでした。私自身、先端技術への関心が強く、クラウド関連の開発に早期から取り組み、ブロックチェーンを用いたプロダクト開発にも挑戦してきました。
——事業は順調だったように見えますが、いつからM&Aを検討するようになったのですか。M&Aクラウドを利用するに至った経緯も教えてください。
常盤:2022年ごろですね。事業としては順調だったのですが、社員のリソースなども限られた中だと、顧客をさらに獲得していくことや事業をさらに大きくしていくことが難しく、現状で精一杯だったんです。その中で、事業をスケールさせるための手段の一つとして、M&Aも視野に入れ始めました。ただ、何社かM&A仲介会社とやり取りしましたが、結局その時は進みませんでした。
改めて動き出したのは、2024年の夏。「自分の目で良いサービスを探したい」と意気込んでいた矢先、たまたま目に留まったのがM&Aクラウドでした。長年クラウド領域に注力していた身として、社名に“クラウド”が入っているだけでちょっと気になりまして(笑)。
もう一つ驚いたのが、買い手企業の情報が非常にオープンだったこと。通常のM&Aは買い手企業の社名すら伏せられて水面下で進みますが、M&Aクラウドは「ここまで出して大丈夫?」と思うほどの情報量でした。その分、一次情報にリーチできている感覚があり、透明性のある面白いサービスだと感じて、利用を決めました。
——今回は、M&Aクラウドの『プラットフォームアドバイザープラン』をご利用いただきました。その理由は。
常盤:自分一人でやり切るには不安があったからです。時間的な余裕がなかったのもありますが、何より初めてのM&Aで知識がほぼゼロ。アドバイザーのサポートなしには進められないと判断しました。
——その後、マッチングに至るまでの経緯を教えてください。
常盤:まず、プラットフォームアドバイザーに候補企業を150社ほど選定してもらい、すでにつながりのある企業や取引先を除外しました。その後、残った20数社と1か月の間に一気に面談を設定してもらったんですが、その中の1社がSMSデータテックさんでした。
——次に、SMSデータテックの事業内容を教えてください。
松原:当社は、2001年にNTTデータグループの出資を受けて設立されました。創業以来、ITコンサルティングからシステム開発、運用・保守に至るまで、幅広い領域でお客様の課題解決に取り組んでいます。
私どもの強みは、攻めと守りの両面でDXを推進できる総合力にあります。自動化ソリューションやデータサイエンス、AI開発といった価値創造領域から、インフラ構築やセキュリティ対策といった安定基盤の構築まで、一貫して支援できる体制を整えています。
また、自社プロダクトや新規事業の開発にも注力しており、現場ニーズに直結した多様な独自ソリューションを技術開発し、事業領域を拡大しております。
——M&Aクラウドに登録したきっかけは。
松原:当社は、様々な技術領域に強みを持つ子会社群が、人材と技術を補完し合い、互いに成長し続ける、多様性を原動力とする企業グループの形成を目指しています。単なる規模拡大ではなく、それぞれの専門性を融合することで新たな価値を社会に創出することを目標としています。M&Aは、その実現に向けた戦略の柱であり、この構想を広く知っていただくために、M&Aクラウドに記事を掲載することにしました。
最終的な決め手は「一緒にやろう」という気持ち

——SMSデータテックから見た、ZEALOTの第一印象を教えてください。
松原:常盤さんは「熱い人だな」と。面談前に常盤さんのYouTubeを見てある程度想像はしていましたが、実際に話してみると、技術に傾ける情熱がひしひしと伝わってきました。
もう一つ感じたのは“羨望”ですね。私はエンジニア出身ではないので、もともと技術者に対するリスペクトは持っているんですが、常盤さんは当社で二の足を踏んでしまったブロックチェーンに果敢に挑戦していたこともあり、より一層その思いが強まりました。
さらに話を聴くと、ZEALOTさんは教育の取り組みもアジャイル型。もし一緒になることができれば、新たな教育手法を切り開くファーストペンギンのような存在になってくれそうだと感じました。
——その他に交渉の過程で印象に残っていることはありますか。
松原:“うまい棒”の組織論ですね。初回面談後の食事で、半分近くがその話でした(笑)。
常盤:エンジニアとして会社に務めていたころ、自分だけでは対処できない時に助けてもらったら、自分が「助かった」と感じた分だけ、相手にうまい棒を渡す習慣があったんです。つまり、目に見える形で感謝を伝え合う文化ですね。
松原:そのお話に感銘を受け、早速、自社で応用してみることにしました。ちょうどその頃、社員の発案で「ちょっとした作業を頼みたい人」と「その作業を引き受けられる人」をつなぐ、社内副業マッチングシステム「TANOMEE(タノミー)」が立ち上がろうとしていました。そこに、うまい棒から着想を得た「サンクスカード」の仕組みを取り入れ、単なるマッチングにとどまらず、感謝の気持ちが可視化され、社内のつながりがより強まる仕掛けにしたんです。
食事中の些細な話題から、既にシナジーが生まれていたんですよね(笑)。
——一方で、ZEALOTは20社以上と面談した中で、最終的にSMSデータテックを選んだ決め手は何だったのでしょうか。
常盤:正直、最後まで迷いました。どの企業とも前向きな話ができ、「このようなシナジーがありそうだな」とイメージできたからです。そこで、十何項目の評価指標を用意し、重視したいものに傾斜をかけて5段階でスコアリングすることにしました。さらに会話の盛り上がりなど、定性的な要素も加味して候補を絞り込んでいきました。
SMSデータテックさんに決めたのは、「この企業なら、私たちを大切にしてくれる」と感じたから。松原社長からは「私が引っ張っていく」という心意気だけでなく、「一緒にやろう」という「Let’s」の気持ちが伝わりました。M&Aはギバー・テイカーではなく、互いに補い合う関係性であるべき。SMSデータテックさんとならそれができると感じたんです。
松原:私たちが大切にしている言葉に「アウフヘーベン」というものがあります。これはヘーゲル哲学の概念で、対立する二つのものが、互いの長所を残しながら矛盾を乗り越え、より高い次元へと統合されることを意味します。M&Aとは、まさにこのアウフヘーベンの実践なのだと思います。互いの違いを尊重し合いながら、共により高い次元を目指していく姿勢が大切なんだと思っています。
技術とマーケット、両方の視点を生かして事業創出へ

——現時点での両社の取り組みについて教えてください。
常盤:PMIの一環で週に4回、SMSデータテックさんの会議に出席しています。経営会議や財務会議、案件会議、採用会議ですね。
松原:採用はいずれ一本化していく予定です。当社が提供できる大きな価値でもありますから。
——今後の目標を教えてください。
常盤:まずは事業の基盤を固めること、特に意識しているのは教育ですね。
これまでも、教育の仕組み化には力を入れてきました。優秀なエンジニアが抜けるとリカバリーが難しいため、全体のスキルを底上げし、社員の出入りに動じない組織を目指してきたんです。また、私も40歳を過ぎたので、自分がいなくても率先して動ける次世代を育てなければならないと感じていました。
SMSデータテックと一緒になったことで、こうした取り組みはさらに加速するはずです。ビジネスマナーやプログラミング言語などの基礎研修は、SMSデータテックさんのもとで一括で実施してもらえば効率化できますし、自分の20年以上の経験を教材としてSMSデータテックさんの教育プラットフォームに取り込めば、グループ全体の実践力向上に貢献できるのではと考えています。
松原:当社の教育プラットフォームは、誰かが一方的に教えるのではなく、全員で知見を出し合って一緒にスキルアップすることを目指しています。それを自ら体現してくれる存在が加わったのは心強いですね。
当社としては、事業開発室にZEALOTさんの高い技術力をかけ合わせて、エンドユーザーに刺さる新規事業を開発していきたいと考えています。私たちはマーケティングや営業に強みがありますし、ZEALOTさんは先端領域への挑戦力がある。互いの強みを生かして分業しながら、ビジネス全体を成長させていければと思います。
常盤:私も、受託開発やSESといった人的リソース依存のビジネスから脱却したくて、事業開発を進めてきました。ブロックチェーン技術を使ったプロダクトを展示会に出したこともありますが、やはり「この技術で何ができるか」という発想に偏りがち。松原社長は逆に「これを作るには何が必要か」と考えるタイプなので、自分にはない視点に期待しています。
松原:「プロダクトアウトか、マーケットインか」という二択ではなく、「こういう技術がありますよ」「それならこういうことができませんか?」というやり取りの中から生まれるものがあると思います。そのようなラリーを、一緒に続けていきたいですね。
——最後に、M&Aクラウドを利用した感想を教えてください。
常盤:M&Aクラウド一本に絞って活動していたので、他サービスと比べたわけではないですが、満足しています。特に「プラットフォームアドバイザープラン」を利用したのは正解でした。
候補をある程度絞った後は、プラットフォームアドバイザーが代わりに打診してくれて、本当に助かりました。限られた時間の中で、1社ずつ連絡を取るのはなかなか難しいですから。マッチング後も、どのチャットでやり取りすればいいかまで案内してくれたので、ツールの操作に慣れていなくてもまったく問題なかったですね。
中でもありがたかったのが、「面談前の情報共有」です。事業概要の説明はすぐ終わってしまうので、そこからの質疑応答で何を話せばよいのか迷いがちなんですが、相手企業の特徴や関心を事前に教えてくれたおかげで、話の焦点を定めやすく、相手企業の印象に残る面談ができたと思います。
松原:当社も、アドバイザーが親身に、しかも公平な立場で相談に乗ってくれたことが印象に残っています。相手に直接は聞きにくいことも間に立ってうまく調整してくれましたし、進捗も逐一共有してくれたおかげで、初めてのM&Aでもスムーズに進めることができました。
また、記事を掲載したことで多くの企業から声をかけてもらい、とても嬉しく思っています。当社がM&Aを進めるのは、社員をもっと幸せにしたいから。いろいろな挑戦を通じて、人間的にも技術的にも成長できる環境を作るためには、自社での事業開発だけでなくM&Aでの仲間集めも不可欠だと考えています。そのような思いに共鳴してくださる企業様と巡り合えることをこれからも楽しみにしています。