【ブロードリーフ×産業革新研究所×サムライインキュベート】IoH領域に挑むITベンダーがモノづくり現場の課題解決サイトに注目した理由

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【ブロードリーフ×産業革新研究所×サムライインキュベート】IoH領域に挑むITベンダーがモノづくり現場の課題解決サイトに注目した理由

株式会社ブロードリーフは、2019年4月、製造企業のプロセス革新と課題解決を支援するウェブサイト「ものづくり.com」(https://www.monodukuri.com/)を運営する株式会社産業革新研究所の株式の67.5%を取得し、連結子会社としました。「M&Aクラウド」を通じて出会った2社が描く将来のビジョン、互いをパートナーに選んだ理由、株式譲渡に至るまでの経緯などについて、ブロードリーフ ビジネスイノベーション推進室長の馬來 洋介氏(写真左)、産業革新研究所 代表取締役の熊坂 治氏(同中央)、そして産業革新研究所に出資していた株式会社サムライインキュベート 代表取締役の榊原 健太郎氏(同右)に語っていただきました。

プロフィール

製造現場の知恵袋サイト「ものづくり.com」の潜在力

――「ものづくり.com」のご紹介からお願いいたします。

熊坂:製造業の開発・生産現場の課題を解決するための情報サイトです。各分野の専門家140人がユーザーから寄せられるさまざまな質問に回答しており、製造業界の知恵袋のような存在となっています。会員数は1万8,000人、アクセス数は月間16万PVです。
私自身、もともとAV機器メーカーの技術者でした。30歳くらいのころ、ある開発プロジェクトが大失敗したことをきっかけに、設計の手法について研究するようになったんです。それまで自分のスキルにそれなりに自信を持っていた私としては、なぜ失敗に至ってしまったのか、どうすれば失敗を回避できたのか、突き詰めずにいられない思いがありました。
設計の手法と一口に言っても実にさまざまな種類があり、各現場の状況に適した手法を選んで活用すれば、工程を大幅に効率化することができます。自分や周囲のメンバーだけでなく、社内のいろいろな現場でそうしたノウハウを役立ててほしいと考え、イントラネット上で手法紹介サイトを運営するようになりました。
メーカー退職後、技術コンサルタントとして活動する中でも、「現場に役立つ手法をより多くの人に広めたい」という思いを持ち続けていました。ちょうどそのころ、大学院でビジネスを学んでおり、カリキュラムの中でビジネスプランを作ることになった際、かつてのイントラサイトをベースに、「あれをビジネスにできたら」と考えたのです。

――ビジネスモデルの概要をご紹介ください。

熊坂:当初考えたのは、課題を抱えた製造業の現場とコンサルタントをサイト上でマッチングし、紹介料を頂くモデルです。ところが、スタートしてみると、サイト上で質問への回答やコラム執筆もしてくれる登録コンサルタントが増え、ユーザー数も拡大していく中でも、コンサルティング契約にまではなかなか至らず、苦戦しました。そんな中、たまたまあるセミナー運営会社から、「それだけのページビューがあるなら、ぜひうちのセミナーを紹介してほしい」と声が掛かり、情報掲載してみたところ、予想以上の申し込みが集まったのです。今では21社から集めた約1,500本のセミナー情報を掲載しており、その申し込み紹介料が事業の柱となっています。

――サムライインキュベートさんとはいつ出会われたのですか?

熊坂:2014年、サムライインキュベートさん共催のイベントの場で榊原さんにお会いしました。「全国47都道府県サムライベンチャーサミット」ということで、各地を回られている中で当社が拠点を置く山梨でも開催され、私にピッチをしてほしいと主催者から依頼いただいたのです。
「サイトの宣伝になるなら」と引き受けたものの、私は実はサムライインキュベートさんが何者なのかも知りませんでした。当日、私のピッチを聞かれた榊原さんから出資金額のお話をいただいたときも、「何の話ですか? あ、投資ですか」という状態で(笑)。事業の成長スピードが思ったように上がらず、一人で取り組むことに限界を感じていたこともあり、「スケールアップのノウハウを教えてもらいたい」という思いで出資いただくことにしました。

――榊原さんは、「ものづくり.com」のどんな点に注目されたのですか?

榊原:5年前の当時、製造業界とインターネット業界の間には文化的な溝のようなものが存在していましたが、「ものづくり.com」は、その2つの世界にまたがるサービスになっている点が面白いと思いました。国内ではまだIoTという概念の認知度も今ほど高くありませんでしたが、私はIoTの時代がそこまで来ている、インターネットとモノづくりはどんどんつながっていくと確信していたので。日本の製造業がネットワーク化の遅れをキャッチアップし、底力を発揮していくことで、世界で勝てる価値が生まれてくると期待を持っていました。
投資は先方経営者の人生に関わることですから、決めるときは常に怖さがありますが、産業革新研究所さんのケースは格別でした。熊坂さんは当時57歳。その年齢で、かつ地方で起業された方への投資は初めてでした。私はインキュベートとは老若男女に可能性があるということを表現することだと考えており、若い人では中学3年生にも投資しています。60歳に近い方への投資というのは、業界全体で見ても異例ですが、それだけにチャレンジのしがいがあると思いました。

――以降、M&Aを検討されるまでの経緯を簡単にご紹介ください。

榊原:当初は他のVCにも出資してもらい、チームを組んで「ものづくり.com」のスケールアップを支えていく構想を持っていましたが、出資してくれるVCを探すにあたり、熊坂さんの年齢や、拠点が山梨という点が想定以上にネックになりました。熊坂さん本人の意向もあり、新たに若手経営者を招いて、熊坂さんは技術専門役員に転じる形も検討しましたが、モノづくりとメディア運営に知見があり、かつ山梨を拠点に活躍できる人となると、ハードルが高くて・・・。

熊坂:せっかくよい人との出会いがあっても、条件面で折り合えなかったり。優秀な経営者を招くにも、それなりの資金が必要なのだと痛感しました。

榊原:一方で、事業会社の中で「ものづくり.com」に関心を示す先が結構ありました。インターネットを介してモノづくり現場と専門家集団をつなぐ事業モデルもユニークですし、専門家集団の持つポテンシャルに注目している会社もありました。そこで、VCへの働きかけも続けつつ、事業会社と組む方向性を並行して検討していくことにしました。

熊坂:もともと大学院でビジネスモデルを作った時から、最終的に事業会社に買ってもらう展開は頭にありました。ここ数年、特に自分が60歳を超えてからは、大企業との出会いがあるごとにM&Aを持ちかけており、社員にも交渉の状況をオープンに伝えていました。

――「M&Aクラウド」のことはどのようにお知りになったのですか?

熊坂:榊原さんからアドバイスいただき、M&A会社について調べ始めたのですが、仲介会社は手数料が高すぎて見合わないなと。売り手は無料で利用できるオンラインプラットフォームならよいと思い、「M&Aクラウド」含め2社に登録しました。私はもともとM&A会社を利用する考えという考えには思い至らず、「M&Aクラウド」に登録してすぐに今回の話がスタートしたことを思うと、あのときアドバイスいただいて本当によかったです。

一度消えかけた2社の縁が“スカウト”を機に復活

――ブロードリーフさんは2018年9月にM&Aクラウドに掲載いただきました。M&Aを検討されるに至った経緯をお話しください。

馬來:当社はこれまで自動車のアフターマーケット、すなわち整備・点検・修理・リサイクル市場向けのパッケージソフトの開発・販売事業を軸に成長してきました。今、第二の創業に向け、新たなキードライバーとなる事業の創出に挑んでおり、特に注力しているのがIoH(Internet of Human)の領域です。これまでに現場作業者の動作を分析し、生産工程や製品品質の改善をサポートするソフトウェア「OTRS」を開発し、世界24カ国で6,000ライセンスを売り上げてきました。これを軸に、IoH領域の取り組みを本格化していこうとしています。
プロダクト開発においては、モノづくり現場が抱えている課題を的確にとらえることが重要ですが、ソフトウェアメーカーという立ち位置で製造業界のリアルな声をヒアリングできる機会は多くありません。このため、自社でメディアを持ちたい、それにはゼロから作るより、M&Aも含めて検討したほうがよいということになったのです。メディアのほかにも、IoHに関連するコアテクノロジー、たとえばディープラーニング、あるいはVR、MR、ARなどの技術を持っている会社なども含め、M&Aを積極的に検討したいと考え、「M&Aクラウド」への掲載を決めました。

――「M&Aクラウド」では、2018年11月に買い手から売り手にメッセージを送れるスカウト機能をリリースしました。このスカウト機能を使って、馬來さんが熊坂さんにアプローチされたことから、両者がつながったのですね。

馬來:スカウト機能がスタートし、早速ノンネームをサーチしてみたときに、ぱっと目に飛び込んできたのが熊坂さんの会社でした。ただ、もともと知っていた会社であったのと、ノンネームにとても詳細な内容を書かれていたこともあり、文面から「ものづくり.com」であることはすぐに分かってしまいました(笑)。

熊坂:私は会社売却を検討していることを社内外にオープンにしていたくらいなので、あえて隠す気もなく、すぐに分かるような書き方をしていましたね(笑)。

――馬來さんはもともと「ものづくり.com」をご存じだったのですね。

馬來:知っていたというだけでなく、当社社員の中にはすでに熊坂さんと交流のあるメンバーもいました。1年ほど前、山梨で開催した「OTRS」の販促イベントに、熊坂さんが足を運んでくださっていて。

熊坂:「OTRS」には私も非常に関心を持っていたので、勉強に伺いました。そのとき、「OTRS」のご担当者が社外でも活動されている方だったので、「『ものづくり.com』に専門家登録して、生産性改善の記事を書きませんか? さりげなく『OTRS』に触れていただけば、宣伝にもなります。ついでに広告も出稿しませんか?」と営業をかけたんです。前向きに検討いただいたのですが、いつの間にかやりとりが途絶えてしまい・・・。確かそのときも「会社ごと買いませんか?」という話もさせていただいていました。

――一度切れかけたご縁が「M&Aクラウド」を介して再びつながったのですね。

馬來:今回はM&Aのマッチングサイト上で出会った以上、互いの目的は明確ですから、展開は速かったです。12月初めに最初の面談を行い、その場で今後具体的な協議をどう進めるかというところまで話が進みました。

熊坂:最初の面談で、第二の創業に向けたブロードリーフさんの取り組みを伺った際、目指す方向性が私の思いと見事に重なっていくと感じました。私が「ものづくり.com」を立ち上げたのは、モノづくり現場の課題解決というライフワークに取り組むうえで、私個人の技術コンサルティングだけではサポートできる範囲に限界があると感じたためです。私が築いてきた専門家人脈とインターネットの力を掛け合わせることで、より多くの課題を抱えた現場をサポートしたい――売却額以上に、その精神が受け継がれていくことが私にとっては重要でした。その点、豊富なITの知見を持つブロードリーフさんと組めれば、私の願いがより大きな形で実現できると感じ、期待がふくらみました。

馬來:最初に「ものづくり.com」のポジショニングについて伺った際、非常に明確な回答を頂けたことが当社にとっては大きかったです。製造業向けのサイトは世の中に多数ありますが、バズワード的なトピックを扱ってページビューを稼ぐサイトとは異なり、専門家のナレッジを強みに、現場に密着した課題解決を行うことに特化しており、すでに業界内で一定の認知度も獲得されている。単にトラフィックの多いメディアよりも、本当に解決したい課題を持つ人が集まるメディアを持ちたかった当社にとって、まさにぴったりなサイトだと確信しました。当社内の調整も順調に進み、年明けには意向表明させていただきました。

――そこから4月末のクロージングに至る過程で、特に苦労された点はありますか?

熊坂:デューディリジェンスの際は、ブロードリーフさんの税理士さんからも「問題が全く出てこない会社はなかなかないものですが、御社の場合はきれいですね」と言っていただき、比較的スムーズだったようです。印象に残っているのは、その後の契約書面のすり合わせのやりとりですね。「こんなことまで・・・」と思ってしまうような細かな点にまで言及した文案を頂き、それを当社側の弁護士に見てもらうと、そこでまた、確認や変更が必要な点が続々と出てきて・・・。

榊原:私も熊坂さんから状況を聞いていましたが、案件によっては、そうした弁護士同士の濃いやりとりが続くうちに、ニュアンスが誤って伝わり、両社の関係が悪化してしまうこともあります。馬來さんはじめ、現場の皆さんは終始前向きであることも聞いていたので、せっかくの縁にひびが入ってしまわないよう、熊坂さんには「とにかく先方と会話してください」とお話ししました。
もう一つ、難しかった要素としては、並行してアプローチしていたVCの中で、ちょうど同時期に資金調達の話が前向きに進んだ先があったんです。

――ブロードリーフさんとの交渉と同時並行になったのですね?

榊原:VCからの出資が決まれば、私が当初イメージしていたチームとしてのサポート体制を構築できるところでしたが、事業スケールのスピードはブロードリーフさんと組んだ場合の方が速いだろうと予測できました。熊坂さんとしては、サイトを早期に成長軌道に乗せ、経営からは身を引きたい気持ちをお持ちだったので、ブロードリーフさんとの話を成約させることを第一優先としました。
同時並行で交渉していることは、どちらに対しても不義理にならないよう、2社それぞれに正直に伝えてもらうようにしました。他にも相手がいると分かると本気度が高まる場合もありますが、伝え方を間違えれば破談の引き金ともなり得ます。2件のバランスを取りながら、慎重に情報を出してもらうようサポートしました。

熊坂:こうした交渉を行うのは、私にとってはもちろん生まれて初めての経験でした。サムライさんがついていてくださり、本当に心強かったです。

国や業界を超え、「カイゼン」パワーを伝えていきたい

――「ものづくり.com」の今後の展開について、お考えをお聞かせください。

馬來:「ものづくり.com」内には、専門家たちの貴重なナレッジがぎっしりと詰まっており、ここに当社がITベンダーとして積み上げてきたノウハウを掛け合わせていくことにより、多様な価値を生み出していけると考えています。ITツールの活用により、技術コンサルティングを進化させていくこともその一つですし、コンサルティング以外にも、ナレッジの新たな活用の仕方を開発していきます。
「ものづくり.com」の多言語化も、来春をめどに進めています。「KAIZEN」は今や世界の共通語になり、毎年海外から多数の技術者が日本の工場に視察に訪れています。今の日本語のみの「ものづくり.com」にも海外から一定のアクセスがあり、ユーザーニーズは高いと見ています。
さらに、当社がIoH事業に取り組んでいくフィールドは製造業だけに留まりません。医療・介護、サービス業など、あらゆる産業に広がっていく可能性があり、すでに「OTRS」も、サービス業、コールセンター、病院、大学などでも活用されています。「ものづくり.com」も、いずれは姉妹サイトのような形で、たとえば「介護.com」のような横展開をしていくこともあり得るでしょう。集合知によるカイゼンパワーを幅広い領域で活用してもらえるよう、貢献していきたいと思います。

熊坂:ブロードリーフさんとは週次でミーティングを行っており、互いにアイディアがどんどん出てきています。少しずつ具体化していきたいですね。
私自身は、よい方が見つかり次第経営は譲り、技術マッチングに力を注いでいきたいと考えています。課題を抱えた現場の状況を視察して、改善ポイントを見出していく。場合によっては、専門性がマッチする他のコンサルタントにつないでいく。私が製造業界で30年間、手法研究を行いながら仕事に没頭してきた経験や人脈をフルに活かせる仕事です。

榊原:そこは熊坂さんに代われる人はなかなかいないと思いますが、長く継続していけるよう仕組み化していけたらよいですね。

熊坂:最終的にはAI化できるとよいのでしょうね。ただ、現状さまざまな組織がバラバラに進めている取り組みを連携させるだけでも、パワーは3倍、5倍になると思います。「ものづくり.com」もプラットフォームとして活用しながら、関係者をつないでいきたいです。

――ブロードリーフさんは、引き続きM&Aに積極的に取り組んでいかれるのでしょうか?

馬來:従来の自動車のアフターマーケット向け領域でも、よいパートナーがいらっしゃればぜひお話ししたいですし、拡大中のIoH領域では、「動作」のメカニズム研究に協力してくれる先を求めています。たとえば、工場作業者が工具をつかむといった何気ない動作においても、ヒトは無意識に最短距離で腕を動かしています。そのとき作業者の目や脳、神経、筋肉では何が起きているのか。AIやデバイスを使って、そうした研究に共に取り組んでくださるスタートアップの皆さんに出会えたらうれしいです。

――本日はありがとうございました。


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本ページに掲載している情報には、M&Aが成立するに至る経緯に加え、インタビュー時点での将来展望に関する記述が含まれています。こうした記述は、リスクや不確実性を内包するものであり、環境の変化などにより実際の結果と異なる可能性があることにご留意ください。

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