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事業売却の価値を算定する5つの方法|メリットや高く売る方法も解説


公開日:2021年6月18日  最終更新日:2022年11月18日

事業売却(事業譲渡)の際は、企業価値評価が必要です。企業価値評価の方法によって特徴が異なるため、事前に確認しておくことが大切です。この記事では、事業売却の際の企業価値評価の方法について詳しくご紹介します。

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事業売却(事業譲渡)とは

事業売却とは、会社の事業を第三者に譲渡することです。

事業売却の際は、事業の価値を算定し、適切な希望譲渡価額を定める必要があります。譲渡する事業の価値を適切に算定することで、妥当な希望譲渡価額を譲受側に提示できるため、売却交渉が円滑に進むことが期待できます。

この記事では、事業売却と会社売却の違い、事業売却における企業価値を算定する方法を5つと、事業売却のメリットについてご紹介します。

なお、「事業売却」「会社売却」という専門用語はありませんが、本稿ではそれぞれ、「事業譲渡」「株式譲渡」と同義の概念として取り扱います。

事業売却(事業譲渡)の定義

事業売却(事業譲渡)とは、

①一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部又は重要な一部を譲渡し、

②譲渡会社がその財産によって営んでいた事業活動の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ、

③それによって譲渡会社が法律上当然に、改正前商法25条(会社法21条に相当)に定める競業避止義務を負う結果を伴うもの

をいうと定義されています(最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)。

事業売却と会社売却の違い

事業売却(事業譲渡)と比較されることが多いのが会社売却(株式譲渡)です。 事業売却が事業を第三者に譲渡するのに対し、会社売却は所有している株式を第三者に譲渡することで経営権を承継する手法です。

事業売却は、赤字事業を売却して黒字事業を強化したり、売却益を元手に新事業を立ち上げたりしたい場合に選択します。

会社売却は、経営者の立場を退いて創業者利益を得て悠々自適な隠居生活を送りたい場合や、創業者利益を元手に別の業界で会社を立ち上げたい場合などに選択することがあります。

事業の一部を売却するという点では事業売却と会社売却は似ていますが、課税ストラクチャーが異なります。

参考記事:10倍以上も高く売れるの?会社売却と事業売却の違い|M&A to Z

売却に支払う税金の違い

事業譲渡の場合、一定の計算によって利益が出た場合は、譲渡益に対して法人税等が課されます。また、譲受側が取得する資産に課税対象となるものが存在する場合、譲受した事業の対価に加えて課税対象資産に係る消費税の額を加算して支払います。

消費税の対象は資産の種類によって異なるため注意が必要です。例えば、土地は非課税ですが、建物は課税対象です。そのほか、のれんについても消費税の課税対象となります。

株式譲渡では、譲渡側の株式譲渡益に対して課税されます。譲受側は課税されません。

参考記事:知らないと○倍の税負担が?会社・事業売却における税金の相場|M&A to Z

事業売却で使える企業価値評価の手法6つ

事業売却においては、譲渡する事業の価値を可能な限り正確に評価し、適切に希望譲渡価額を定めることが重要です。事業や企業の経済的価値を算定することを「企業価値評価」といいます。企業価値評価の手法は様々ありますが、本稿では代表的な6つの手法について、それぞれ長所と短所を説明します。

参考:企業価値評価ガイドライン|日本公認会計士協会

1:DCF法

DCF法とは、割引現在価値方式(Discounted Cash Flow)とも呼ばれ、企業価値評価において代表的な手法です。

企業が将来にわたって生み出すキャッシュ・フローを現在価値に割り引くことで企業価値を算出します。DCF法における企業価値の計算の流れは次のとおりです。

1.フリー・キャッシュ・フロー(FCF)を計算

2.割引率を計算

3.ターミナルバリュー(TV)を設定

4.現在価値に割り引いて企業価値を算出

フリー・キャッシュ・フローとは、事業拡大のための設備投資や株式への配当など、企業が自由に使えるお金のことです。多額の設備投資などを行えば一時的にマイナスになる場合があることから、数年分のフリー・キャッシュ・フローを計算することが一般的です。

フリー・キャッシュ・フローは、企業の貸借対照表および損益計算書から算出します。

計算式は次のとおりです。

「営業利益×(1-税率)+減価償却費-設備投資額-正味運転資本増加額」

続いて、割引率を計算します。負債コストと株主資本コストを資本構成で加重平均して算出したものを割引率とすることが一般的です。計算式は次のとおりです。

「有利子負債総額/(有利子負債総額+株式時価総額)×(1-実効税率)×負債コスト+株式時価総額/(有利子負債総額+株式時価総額)×株主資本コスト」

続いて、ターミナルバリューを設定します。ターミナルバリューとは、継続価値とも呼ばれる事業計画の最終年度以降に生じるFCFの現在価値の総合計のことです。計算式は次の通りです。

「計画期間最終年度のFCF×(1+永久成長率)÷(割引率-永久成長率)」

最後に、各期の現在価値のフリーキャッシュフローとターミナルバリューを合算することで、企業価値を算出します。

DCF法は論理的な計算方法で企業価値を算定する優れた手法ですが、さまざまな仮定のもとで算定するため大きな差が出ることがあります。DCF法の特徴や注意点を十分理解したうえで、企業価値を算出しましょう。

2:時価純資産法

時価純資産法とは、資産の時価から負債の時価を差し引いて企業価値を算定する方法です。

DCF法などと比べて複雑な計算式を必要とせず、貸借対照表及び主要な資産・負債の時価情報があれば企業価値を算定できます。また、貸借対照表を使うことで個人の主観が入りにくいこともメリットです。

その一方で、将来の収益性を企業価値に反映できないというデメリットもあります。

事業売却では将来の収益性を企業価値に反映すべきとされているため、妥当性に乏しい手法とも言えます。

3:簿価純資産法

簿価純資産法とは、貸借対照表上の純資産を元に一株あたりの純資産額を算出する方法です。

帳簿価額を基礎としているため客観性に優れている一方で、簿価と時価に差が生じるケースがほとんどのため、簿価純資産法のみにもとづいて取引価格を決定することはあまりないと考えられます。

4:類似会社比較法

類似会社比較法とは、業種や規模、収益、キャッシュフローなどの要素が類似している上場企業を複数ピックアップし、それぞれの財務指標から企業価値の相場を探る手法です。マルチプル法とも呼ばれます。

ただし、類似会社比較法で算定された企業価値は非支配株主価値ベースであるため、M&Aにおいてはコントロール・プレミアム等を加味する場合があります。

5:類似取引法

類似取引法とは、過去に行われたM&Aの買収価格を参考に、買収価格を算出する手法です。過去の買収価格を参考にしているため納得感が強い買収価格を算定できます。

ただし、どのM&A事例を参考にするか、関係者間で協議が必要になる場合があります。また、ノウハウや技術、人材、営業権などは過去事例を参考にすることが難しい点に留意が必要です。

事業売却のメリット

事業売却の企業価値を算定する方法を理解したうえで、事業売却のメリットを確認することが大切です。事業売却のメリットは、主に次の3つです。

参考記事:事業譲渡とは?事業譲渡の活用シーンと、売り手企業にとっての負担・デメリット|M&A to Z

資金を獲得できる

事業売却によって得た売却益を新規事業に投入したり黒字事業を伸ばすために活用したりできます。また、赤字事業を売却すれば、財政を健全化したうえで資金を獲得できるため、企業が大きく成長できるチャンスを掴める可能性があります。

資金を元手にビジネスを展開する領域を広げたり、最新設備の導入に投資して既存事業の競争力を強化したりと、さまざまな活用法が想定されます。

黒字事業に注力できる

複数の事業を展開している企業にとって、経営資源の最適配分は重要な課題の一つです。 事業売却では、譲渡する事業を選択して、残したい資産・事業を自由に手元に残すことができます。

赤字事業を売却して「選択と集中」を行うことで、経営資源を黒字事業に集中させられるようになるでしょう。

黒字事業をより大きな事業へと成長させてから、新たに別の事業を立ち上げるというのも考え方の1つです。

包括承継ではないため譲渡先が見つかりやすい

自社にとっては不採算事業であっても、他社にとっては将来性のある素晴らしい事業といえるケースがあります。しかし、譲渡対象事業の中に譲受先候補にとっては承継することに抵抗のある資産や負債が混じっていることもありえます。

株式譲渡では、そのような資産・負債もすべて譲渡することになるため、譲受先候補としては簿外債務を引き継いでしまうといったリスクがあります。

対して 事業譲渡では、個別に譲渡する資産・負債を選定するため、株式譲渡と比較して譲渡先にとって簿外債務を引き継ぐリスクを低減させられます。

事業売却する理由

事業売却をする理由はさまざまですが、どれも会社をスリムにして、経営の合理化を図るために利用されています。

ここでは、事業売却時にメインの理由となる「事業経営の不安定化」「ノンコア事業の切り離し」をそれぞれ詳しく解説します。

事業経営の不安定化

事業売却が検討されるのは、事業経営が不安定になった際です。どれほど優れた技術を持っている人材、ノウハウが会社に蓄積されていたとしても、利益が出ないのであればキャッシュフローは悪化していきます。

他の事業でうまく採算を取れる場合は問題ありませんが、他の事業でも利益が出ていない場合には会社の倒産の危機が近づいてしまいます。このため、自社事業の成長と安定のために事業売却は活用されます。

なお、事業のキャッシュフローが悪化すればするほどM&Aによる会社売却は難易度が高くなります。したがって、事業経営が不安定化した場合には、早めの対応が必要になります。

ノンコア事業の切り離し

ノンコア事業とは、会社の中心となる事業以外の事です。例えばプログラミング教室を主に運営する会社が、英会話の事業も同時に営んでいる場合を考えてみましょう。

プログラミング教室の運営が十分に利益が出ているのに対し、英会話の事業がうまく進んでおらず全体として赤字着地をしてしまう場合には、ノンコア事業である英会話事業の売却が検討されます。

新しい事業に手を広げたのはいいものの、時間が経っても結果が出ない事業がある場合などで、事業売却が検討されることがあります。

事業売却が失敗に終わる原因は?

事業売却を検討し始めてから、売却の契約を締結するまでには時間を要します。この準備期間に、想定外のリスクが発生し事業売却が失敗するケースがあります。

この他にも、契約締結の際に説明が不足していたことが理由となり、事業売却後に買手企業から「聞いてなかった」などのトラブルが発生することも散見されます。

上記の認識の相違が生まれてしまうのは、互いの企業が事業売却でよくある失敗の原因を理解していないことが多いです。

ここからは事業売却が失敗する原因をわかりやすく解説します。

1.情報漏洩

事業売却を決定した後、事業譲渡の公表前にその情報が外部に漏れると、各所からの信頼を失うことがあります。例えば、事業売却について知ってしまった従業員が外部へその情報をリークし、取引先やM&Aの買い手企業にその情報が広がってしまうケースが問題になります。

一度情報がリークしてしまうと、M&Aの買い手企業からしても、秘密保持の管理体制、ガバナンスが甘いことを懸念されてしまうでしょう。

このため、情報漏洩を避けるため、情報管理を徹底することが大切です。

2.準備不足

M&Aで事業を売却するためには多くの書類が必要です。

例えば、試算表、権利書、総勘定元帳、株主総会議事録などがデューデリジェンスの際に用いられます。

ガバナンス体制や経理担当者がきっちりとした書類を作っていれば問題ありませんが、事業売却をする中小企業は、全ての書類を用意していないケースもあります。

そこで、各種書類がいざ必要となった時にすぐ提出ができるよう、事業売却に必要となる書類を認識し、不足している書類は作成しておくようにしましょう。

3.事業売却に反対する株主や役員の存在

株主や役員はM&A実施に大きく関わる要因です。株主や役員がM&Aに反対すると、スムーズに事業売却が進まない恐れがあります。

対策として、株式を事前に投資家から買い集め、議決権比率を高めるという方法はありますが、可能であれば株主や役員に理解をしてもらえるように、丁寧な説明を実施するのがよいでしょう。

4.経営状況の悪化

M&Aによる事業売却を買手が検討していても、実際に事業売却が成立するまでには時間がかかります。その間に売手経営状況が悪化し、買い手企業が魅力を感じなくなってしまった場合には、M&Aが中止になる可能性があります。

上記の事態を避けるためには、経営状況が悪化する前からM&Aの交渉を進める必要があるのはもちろん、買手の企業買収の検討期間中も気を抜くことなく会社経営をすることが大切です。

どうすれば失敗せずに事業売却をおこなえるか?

事業売却に失敗しないためには、準備段階でできることを欠かさずに丁寧に売却を進めることが大切です。また、売手目線だけでなく、買手目線に立って売却手続きを実施することが重要です

ここからは、失敗をしないための具体的な注意点を5つ説明します。

1.簿外債務の洗い出し

M&Aを実施する際に問題になるのが、簿外債務です。簿外債務とは、会社の貸借対照表に上がることがない従業員の退職金、未払いの残業代などです。

上記の簿外債務があることが明らかになっている場合は、本来は買手企業に対してその事実を伝えなければいけません。

それにもかかわらず、簿外債務を隠すなどの不正行為を行った場合には、後にトラブルに発展するリスクが高いです。

また、仮にデューデリジェンスの時点で簿外債務隠しが明らかになった場合においても、取引が破談になることがあるため、自社で簿外債務を把握することが大切です。

2.誠実な対応

買い手企業の質問に対しては、虚偽の申請をすることがあってはなりません。

例えば、売手企業が所有する工場などに追加設備投資が必要とわかっているのに、不要と回答するケースや、不良在庫があるにもかかわらずその事実を隠すケースなどが該当します。

ネガティブな情報を隠しておきたい気持ちはわかりますが、隠すことで取引そのものが破談になってしまっては本末転倒です。

したがって、買手企業からの問いかけに対しては真摯に回答することをおすすめします。

3.買手側とのシナジー効果をアピール

M&Aを成功させるためには買手企業目線に立つことも忘れてはなりません。買手企業が事業を買収する主な理由のひとつに「シナジー効果」があります。

買手企業が持つ知見と自社の技術との間に共通するものがあるといった場合や、売手企業の商品を抱き合わせで買い手側の顧客に販売できるなどのメリットがある際には、シナジー効果を買手企業にアピールしましょう。

逆に、買手企業に自社を購入するメリットを明示できないと、買手企業は売手に対して魅力を感じないリスクがあります。

4.買手側企業についてリサーチを怠りなく実施

買手企業についてのリサーチをすることも大切です。シナジー効果もそうですが、買手企業が既存事業をスケールしようとしているのか、完全新規の事業としてM&A先を探しているかにより売手企業のアピールのポイントは変化します。

また、買手企業をSWOT分析などを用いて調査することで、買手企業の弱みを自社がどう補えるのかなど具体的な話し合いができるでしょう。

買手企業の求めていない自社の魅力を訴求しても互いにとって意味がない話し合いになってしまうため、必ず買手企業の調査を実施しておく必要があります。

5.事業売却の仲介業者の調査の実施

事業売却を実施する際には仲介業者を利用することもありますが、その仲介業者自体が信頼できる企業なのかも必ず確認しておきましょう。

仲介業者の中には、自社の価値を引き上げて買手企業を探してくれる事業者もありますが、中には不当に低い価格での取引を進めてくる会社があることもまた事実です。

仲介業者のいうことを鵜呑みにするのではなく、その条件は果たして妥当なのか疑う視点は常に持っておくようにしましょう。

入り口の仲介業者選びにより事業売却が失敗してしまっては元も子もありません。このため、仲介業者を利用するのと同時に、自社でも使えるサービスを活用し、双方で相場や買手企業を募集するといった運営が必要になります。

事業売却の成功は、妥当性ある企業価値評価から

事業売却においては、企業価値評価を算定する必要があります。 自社の価値を可能な限り正確に算定し、妥当性が高い希望譲渡価額を算出しましょう。

企業価値しだいでは、事業売却を行わないことも選択肢の1つとなります。

この記事を読んで事業売却に興味を持った方は、信頼できるFA(ファイナンシャル・アドバイザー、M&Aの一方当事者に対して助言業務を行う専門家)や会計事務所に相談してみるとよいでしょう。

M&Aマッチングプラットフォーム「M&Aクラウド」なら、事業譲渡の買い手となる企業をインターネット上で探すことが可能。経験豊富なFAからアドバイスを受けることもできます。

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