「最後に必要なのは覚悟」アイズとrimadが、1ヶ月間の音信不通を乗り越え、成約に至るまで

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「最後に必要なのは覚悟」アイズとrimadが、1ヶ月間の音信不通を乗り越え、成約に至るまで

2025年9月、デジタルマーケティング支援を目的としたプラットフォーム事業を展開する株式会社アイズは、金融サービスに関するクチコミ・比較が可能なマッチングサイト「ファクログ」等を運営するrimad株式会社を子会社化したことを発表しました。

実は初回面談後、約1ヶ月間連絡が途絶えていたという両社。再び交渉が動き出し、成約に至った理由は何だったのでしょうか。アイズ 代表取締役社長の福島範幸氏と、rimad 創業者の大野克也氏にその経緯を伺いました。

プロフィール

株式会社アイズ 代表取締役社長 福島 範幸(ふくしま・のりゆき)

北陸先端科学技術大学院大学 修士課程を修了。大日本印刷株式会社に入社後、株式会社マクロミルにてマネージャー、株式会社エー・アイ・ピーにてゼネラルマネージャーを経て、株式会社アイズを設立し、代表取締役に就任。

rimad株式会社 創業者 大野 克也(おおの・かつや)

スマートキャンプ株式会社に営業1人目として入社し、「BOXIL」の組織の立ち上げに従事。営業統括として数十億円規模の事業成長に貢献する。その後、ベンチャー企業にて新規事業の立ち上げを行い、執行役員に就任。2024年6月にrimad株式会社を設立。

創業11ヶ月目にM&Aを提案され、本格的な検討へ

——まずrimadの事業内容を教えてください。

大野:ファクタリングに特化した口コミ・比較サイト「ファクログ」を運営しています。複数のファクタリング会社に一括見積もりを依頼できるマッチング機能も備えたプラットフォームです。

強みは、ニッチ領域ながら国内最大級のメディアであること。売掛金を現金化するファクタリングサービスは、一定の需要がありながらも比較サイトは限られていたんです。その領域選びが功を奏して、2024年6月の立ち上げから約1年で急成長しました。

——まさに右肩上がりの事業成長ですね。そんな中でM&Aを検討したきっかけは。

大野:創業した当初から、2、3年でM&Aをしようと決めていました。

そもそも起業したのも、「自分は0→1のフェーズが好きだ」と気づいたから。スタートアップで事業立ち上げに関わっていたころは、規模が拡大するにつれて事業そのものよりも組織や人に向き合う時間が増えていきました。多忙を極める中で、人に向き合うのは大変なことで、休職したこともありました。「自分はマネジメントが得意ではない」と自覚したことで、社員を雇わず個人で事業を立ち上げる「ソロプレナー」として独立したんです。

だからこそ、事業が一定規模に達したら拡大フェーズは他者に託すつもりでいました。

——実際には1年あまりでのM&Aとなりましたが。

大野:創業11ヶ月目にM&Aを提案されたんです。「もう検討できる段階なのか」と驚きつつ、1社だけで決めるのも早計だと感じて、M&Aに向けて動き始めました。

——M&Aクラウドに登録した経緯を教えてください。

大野:CFOの村上さんに以前会ったことがあり、サービスを認知していたのがきっかけです。他にもいくつかプラットフォームを利用しましたが、対応の早さからM&Aクラウドをメインに活動していましたね。

——一方、アイズではマーケティング支援につながるマッチングプラットフォームを複数運営しています。事業の強みは何ですか。

福島:革新性と独自性ですね。社名の「アイズ」が示す通り、「台風の”目”となって業界を引っ張っていく」ことを目指しているんです。

たとえば2007年に開始した「trami(トラミー)」は、クライアントの商品について会員がSNS上で口コミ・レビューを発信するもので、インフルエンサーマーケティングの先駆けともいえるサービスです。2013年には、広告業界のプラットフォーム「メディアレーダー」を開始しました。広告主と媒体をオンラインで直接つなぎ、資料ダウンロードや動画視聴などを通じて見込み顧客を獲得するという、当時の日本の広告取引においては画期的なビジネスモデルを生み出しました。

——M&Aクラウドに登録したきっかけを教えてください。

福島:創業間もないころから、自社事業と親和性があってニッチトップを狙えるマッチングプラットフォームやメディアを数多くM&Aしてきました。先ほど言及した「メディアレーダー」も他社から譲り受け、アイズで成長させた事業です。

その流れで普段から、仲介会社やM&Aプラットフォームなどあらゆるチャネルを活用しています。M&AクラウドはCEOの及川さんから紹介されて利用し始めましたが、登録企業のフェーズや規模がアイズの基準に合っていると感じています。

「正直、怖かった」音信不通の末、覚悟を決めた背景

rimad 大野氏、アイズ 福島氏
rimad 大野氏、アイズ 福島氏

——rimadからアイズにプラットフォーム上でオファーを送ったところから、交渉がスタートしたと聞きました。rimad側では、どのような企業を求めていたのですか。

大野:まずは「事業を伸ばしてくれる企業」ですね。私がM&Aをするのは、自分が0→1以降のフェーズが好きだからであって、事業に思い入れがないわけではなかったので、大切にしてもらえないのはさすがに寂しいなと。その点、アイズさんはメディアのロールアップ経験が豊富なので、事業をさらに成長させてもらえるはずだと感じていました。

アイズさんがマーケティングに強いのもポイントでした。「ファクログ」はマーケティング費用をほぼかけずに成長したので、それを強化すればもっと伸びるだろうとわかっていたんです。

——その後、オンラインで初回面談を迎えたわけですが、アイズに対する第一印象はいかがでしたか。

大野:いきなり上場企業の社長と副社長が登場して驚きましたね(笑)。他社は担当者レベルが多かったので印象的でしたし、サイトの流入データや運用方法まで細かく質問されて、「本気で検討してくれている」と感じました。

福島:実際、事前情報を見た時点で可能性を感じていたので、事業の引き継ぎを想定して踏み込んだ質問をしていたんです。面談を通して、マーケティングを強化すればニッチトップも狙えるという手応えを得ました。

大野:ただ、その後1ヶ月ほど連絡がなかったんですよね。

——好感触だったのに、音沙汰なしだったと。

福島:正直、怖かったんです。通常、M&Aを視野に入れるのは業績が伸び悩み始めたときですよね。でもrimadの事業は右肩上がりで、しかもまだ成長する見込みもある。そのタイミングでなぜM&Aを選ぶのだろうと。私自身の慎重な性格も相まって、「何か隠された事情があるのでは」と二の足を踏んでいました。

大野:私は「アイズさんとの交渉は、もう進まないかもしれない」と諦めかけました。

——その後、交渉が進展したきっかけは。

福島:悩んでいても仕方ないと覚悟を決めて、「一度会いましょう」と連絡しました。渋谷のカフェで2、3時間、じっくりと話し合って、ようやく懸念が解消されて。

——どんな話をしたんですか。

大野:私の事業やM&Aに対するスタンスを率直にお伝えしました。私自身「今すぐにM&Aをしたい」という状況ではなく、数ヶ月間相手企業を探して見つからなければ2、3年後に再度挑戦しようと思っていたんです。とはいえ、いつかM&Aをすることは変わらず、結局は「早いか遅いか」という問題でしかない。ならば良い縁があった時にM&Aするべきだというのが、私の考えでした。

福島:直接会って話し合ったことで、「きっと大丈夫だろう」と思えるようになりました。事業もしっかりと作り込まれているのが伝わりましたし、事業拡大のフェーズは他者に託したいという思いも一貫していましたから。

——rimadには、他の企業からのオファーもあったと聞いていますが、最終的にアイズさんに決めた理由は。

大野:ロックアップなしで引き継ぎできる点ですね。より良い金額を提示してくれる企業は他にもあったんですが、どうしても一定期間の残留を求められました。私は次に挑戦したい領域が見えてきていたので、できる限り制約は避けたかったんです。

福島:M&Aをする側にとって、ロックアップなしは確かにリスクですが、アイズにはメディア運営のノウハウがあり、専門人材もたくさんいるので、スムーズに引き継ぐ自信はありました。

そもそも私の中では、「なぜ今M&Aなのか」がクリアになった時点で、ある程度のリスクを負う覚悟ができていたんですよね。その後のデューデリジェンスに自ら入ったのも、自分が責任を持つという決意の表れでした。

——社長自らデューデリジェンスを?

福島:通常は他の社員に任せているんですが、今回は自分も入りました。rimadさんの事業モデルはアイズと近く、理解しやすかったこともあって、ビジネスデューデリジェンスにはそれほど時間がかからず、法務面や財務面の確認に集中できた印象があります。結果的に、他案件と比べても短期間でデューデリジェンスが完了しました。

——覚悟を固めて以降は、かなり強力にM&Aを推進されていたことがうかがえます。一方、rimad側ではデューデリジェンス以降の過程をどのように受け止めましたか。

大野:上場企業なので、詳細な質問が多くて大変でしたが、その分自分では思い至っていなかった戦略やリスクに気づけたのは収穫でした。上場企業の着眼点を知ることができ、事業の見方が変わって視座が上がったように感じます。

とはいえ、契約直前は不安も大きくて、「ここまで時間をかけたのに、評価額が下がったり、成約できなかったりしたらどうしよう」と毎日ヒヤヒヤしていましたね。特にSEO集客がメインの「ファクログ」は、Googleのアルゴリズム変動で売上が大幅に減少するリスクがあります。だからこそ、ようやく契約が締結できたときにはホッとしました。

引き継いだ事業を、3本目の柱に育てたい

アイズ 福島氏、rimad 大野氏、M&Aクラウド プラットフォームアドバイザー石井
アイズ 福島氏、rimad 大野氏、M&Aクラウド プラットフォームアドバイザー石井

——成約後の取り組みを教えてください。

福島:数週間で引き継ぎが完了し、現在はアイズでの運営を本格化しています。もともと属人性を抑えて設計されていたので、引き継ぎはしやすかったですね。

大野:M&Aを前提に事業を設計していたのが役立ちました。記事作成や開発、請求といった日常業務も、マニュアルやドキュメントがあれば対応できるようにしていましたから。

——今後の目標は。

福島:まずは「ファクログ」のマーケティングを強化し、「メディアレーダー」「トラミー」に次ぐ3本目の柱に育てていくこと。社長の私自身が「ファクログ」の運営に実務レベルで深く関わっているのもそのためです。

アイズ全体では、これから時価総額100億円、1,000億円を目指す中で、M&Aを引き続き積極的に進めていきます。これまではメディアやマッチングプラットフォームのロールアップがメインでしたが、アイズのマーケティング力を活かして成長を見込める事業は、他の領域でも幅広く検討していくつもりです。

大野:私は今、新たな領域で事業を立ち上げる準備をしています。詳細はまだ話せませんが、今後もソロプレナーとして活動する予定です。

rimadの経験を通して、たとえ一人でも事業を立ち上げて伸ばせるという手応えを得ました。苦手な業務は外部の専門家に依頼し、自分は得意な業務に集中できるので、自由に裁量を持って働きたい人にはうってつけです。自分が生み出した事業を、M&Aでさらに成長させることもできます。

だからこそ、私のように企業での働き方が合わない人も、自分の可能性を諦めないでほしいですね。人には向き不向きがあり、出来ないことがあって当然。それを無理に乗り越えなくても、自分の強みを生かして働く道はあります。

——M&Aクラウドを利用した感想を教えてください。

大野:満点です(笑)。先ほども言及しましたが、プラットフォームアドバイザーの担当者はレスポンスとアクションがとにかく早く、安心してM&Aを進められました。登録しても連絡がなかったり、面談した後に連絡が途絶えてしまったりすると、「本当に進めてくれているのか」と不安になりますが、M&Aクラウドではそのストレスが一切なかったです。

福島:正直、この担当者でなければ成約しなかったと思います。というのも、仲介会社以上の頻度で連絡をくれたんですよ。私が沈黙していた時期も毎週のように電話をかけてきてくれて、「検討状況はどうですか」「御社とのシナジーは絶対にあると思いますよ」と熱心に伝えてくれました。

大野:そうだったんですか!

福島:その熱意に背中を押されて、覚悟を決めることができたんですよね。rimadさんとの成約はM&Aクラウド、そして担当者のおかげだと思います。

大野:担当者には本当に感謝しています。ありがとうございました。

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