【Relic×Re:Build】新規事業開発支援のエキスパートが選んだパートナーは、沖縄で活動するエンジニア集団。高い志でつながる2社の協業の形とは?
投資家:株式会社Relic
出資先:株式会社Re:Build
公開日:
新規事業開発やイノベーション創出を支援する事業を展開する株式会社Relic(本社:東京都渋谷区)は2021年2月、株式会社Re:Build(本社:沖縄県那覇市)への出資を発表しました。Re:Buildは、新規の事業やプロダクト・サービスの開発を支援するスタートアップスタジオ事業、スクールをはじめとするエンジニア育成事業などを展開する沖縄の企業です。「M&Aクラウド」で出会った2社がどのように成約に至り、今後どのような協業関係を築いていこうとしているのか、Relic 代表取締役CEOの北嶋 貴朗氏(写真左上)、同 取締役CTOの大庭 亮氏(写真左下)、同 執行役員CCOの黒木 裕貴氏(写真右下)、Re:Build 代表取締役の鈴木 孝之氏(写真右上)に語っていただきました。
プロフィール
組織/人事系コンサルティングファーム、新規事業に特化した経営コンサルティングファームにて中小/ベンチャー企業から大手企業まで幅広いプロジェクトをマネージャーとして牽引した後、DeNAに入社。主にEC事業領域での新規事業/サービスの立ち上げや、事業戦略/事業企画、大手企業とのアライアンス、共同事業の立ち上げのマネージャーとして数々の事業の創出~成長を担う責任者を歴任。2015年に株式会社Relicを創業。
奈良先端科学技術大学院大学に在学中、産業技術総合研究所の技術研修生としてロボット工学の研究やロボット開発に従事した後、DeNAに入社。エンジニアとして主にEC事業領域の新規事業・新規サービスや大手小売業との協働事業であるECサイトやショッピングモールの開発・運用をリード。スマートフォンアプリの開発や新規事業の開発リーダーも経験。2015年より複数のスタートアップのサービス開発や運用支援、および技術アドバイザリーに従事した後、2016年、株式会社Relicに参画し、取締役CTOに就任。
大手ITコンサルティングファームにて法人向けシステム開発を多数経験した後、サイバーエージェントグループにてソーシャルゲームやSNSのフロントエンドやiOSアプリの開発に従事。その後、DeNAで主にECやSNS系サービスの開発やUI設計、iOSアプリをリードエンジニアとして牽引。2015年に独立し、スタートアップや大手IT企業のUIデザイン、フロントエンド、ネイティブアプリなど幅広い領域の開発支援を行うかたわら、自らサービスやiOSアプリを開発・運営。2016年、株式会社Relicに参画し、クリエイティブ責任者であるCCO(Chief Creative Officer)に就任。
株式会社フルスピードにwebエンジニアとして入社。フルスピードでは、大規模な広告配信サービスの管理画面開発を担当し、サーバサイドからフロントエンドまで幅広い開発に従事。フリーランスエンジニアとして1年ほど活動後、2017年11月に沖縄で起業し、株式会社Re:Buildを設立。東京と沖縄の企業様からの受託開発案件を請け、複数プロジェクトのプロジェクトマネージャーを経験。
沖縄の若者の挑戦を支えるために創業。事業成長に向けたパートナーを求めて
――Re:Buildさんの事業紹介からお願いいたします。
鈴木:私は東京のWeb広告代理店などでエンジニアとして経験を積んだ後、2017年に沖縄でRe:Buildを設立しました。現在の事業内容は、大きく3つあります。
1つ目は、自社サービスで、新規事業開発をしたい企業とエンジニアをマッチングするSaaS「Tadoru」です。約200人のエンジニアが登録しています。
2つ目は、今の当社の売り上げを牽引している受託開発事業です。これも新規事業立ち上げに伴う開発案件を得意としており、「Re:Build Studio」というサービス名で展開。地元・沖縄や東京の企業から依頼を受けています。沖縄では主にスタートアップ企業の案件を手掛けてきました。
3つ目は、プログラミングスクールの運営です。2020年4月に立ち上げ、沖縄と宮崎に拠点を置いています。立ち上げ以来のコロナ禍で、今はオンライン展開が中心ですが、一部、高校などから依頼を受け、オフラインでのカリキュラム提供もしています。
――鈴木さんは、沖縄のご出身ではないのですよね。なぜ沖縄で起業されたんでしょうか。
鈴木:大学時代に地方活性化を学び、いずれ地方で起業したいという夢を持ちました。実際に行動を起こしたのは、広告代理店を退職した後、フリーのエンジニアとして活動していた時期です。最近は、スタートアップの創業支援に力を入れている自治体も出てきています。いくつかの地域を訪ね、役所や地元の方に話を聞いた中で、沖縄には自分の解決したい課題があると感じました。
――どのような課題ですか?
鈴木:あまり知られていないのですが、沖縄の所得レベルは全国でも最低に近く、地元の若者たちの多くが、「平均給与が低い」「仕事内容も面白いものが少ない」と感じています。自分自身、学生時代に経済的な理由で留学などが難しかった経験もあり、「沖縄の若者が自分の夢を追える環境、挑戦したい人が挑戦できる環境をつくることに貢献したい」と考えました。
Re:Buildの社員は、全員が沖縄在住です。受託開発事業を通じ、沖縄に住み続けながら、大手を含むクライアント企業の新規事業立ち上げに関われる場を提供してきました。さらに、エンジニアマッチングサービスでは、沖縄だけでなく、全国のフリーエンジニアが直接企業から案件を受注できる仕組みを展開しています。
昨年から始めたプログラミングスクールでは、まだエンジニアとしてのスキルや経験はなく、今後挑戦したいと考えている人をサービス対象としています。初心者向けのプログラミングスクールは沖縄にもたくさんありますが、就職につながるレベルのスクールは少ないのが現状。こうした地元の潜在ニーズに応えていきたいです。
――「M&Aクラウド」には、2020年7月に登録いただきました。登録に至る経緯をお話しください。
鈴木:創業から3年、開発の実務に関しては社員の実力も向上し、会社としてもノウハウが溜まってきました。一方で、案件獲得やマネジメントに関しては、自分一人に依存している部分が大きい点が課題です。現状では人材育成に割けるリソースも限られており、会社として次のステージに行くためには、社外の力を借りるべきではないかと思うようになりました。そこで、CVCや事業会社と組む方向性も検討することにしたんです。
学生時代に、あるイベントでM&Aクラウド代表の及川さんと会ったことがあり、使うなら知り合いのサービスの方が安心だと思ったのと、「M&Aクラウド」は掲載企業数が多い点も気に入って登録しました。ただ、その時点ではまだ資本政策が固まっておらず、いろいろな人に相談していた段階です。しばらくは登録しているだけの時期が続きました。
――その間、当社のカスタマーサクセス部から何度か連絡し、現状のヒアリングをさせていただきました。サービス運営側からそうしたアプローチが来ることについては、いかがでしたか?
鈴木:相談に乗っていただけてありがたかったです。当社はこれまではVCから資金調達してきました。今回は事業会社との資本業務提携がよいのではないかとは思っても、経験がないだけに、今後どんな段取りを踏んでいけばよいのかが見えなかったので。M&Aクラウドさんからのアドバイスを通じて、具体的なイメージが湧きました。
初回面談で「これほど志の近い会社があるのか」
――Relicさんが「M&Aクラウド」で募集開始されたのも、Re:Buildさんのご登録と同じ2020年7月でした。
北嶋:当社では2019年末ころから、出資やM&Aを視野に入れ始め、「M&Aクラウド」を含む2サービスに資料請求しました。「M&Aクラウド」を選んだのは、フォローが手厚かったからです。資料請求後、すぐにスタッフからの連絡があり、丁寧なサービス説明を受けました。募集記事の作成に関しても、自社でゼロから作成する時間は取れないと思っていたところ、運営側で文案を用意してもらえて助かりましたね。ツールのUIも使いやすく、打診などの動きがあった際にはこまめな通知も来るようなので、これなら本業で忙しい中でも、運用していけそうだと思いました。
――実際に募集開始した後の感触はいかがでしたか?
北嶋:募集開始の時点では、どんな会社から打診をもらえそうか分からなかったので、幅広く、抽象度の高い募集文面にしていました。結果として、あまりピンと来ない会社からの打診が続いた時期もあります。
大庭:システム開発、ソフト・アプリ開発の会社に関しては、何社か興味をひかれた会社もあったのですが、面談してみると、一緒にやっていくイメージが持てなかったり。特に、経営者が開発現場のことをあまり把握していない場合、たとえ成約したとしても、その後スムーズに連携していけなさそうな点がネックになりました。
――Re:Buildさんからの打診までは、やや苦戦されていたのですね。Re:Buildさんは11月に入って実際にサービスを使い始められ、最初に打診した数社の中にRelicさんが含まれていました。
鈴木:こうした活動は、いったん始めたら、短期で一気に動かなければならないですよね。事業会社を対象に当たっていく方針を社内で固めたタイミングで、ちょうど「M&Aクラウド」担当者から連絡をいただき、おすすめの打診先候補もピックアップしてくれたので、それがトリガーになりました。
就職活動と同じで、どんな事業会社が自分たちに合うのか、最初はなかなかイメージできなかったのですが、おすすめされた会社の募集記事を読んでいくうちに、希望条件が絞れてきました。当社には上流のクライアント対応ができる機能が不足している一方で、優秀なプログラマーがそろっています。その点で補完関係が築ける会社で、かつ事業を通じて目指す方向性についても、当社と近い先がベストだと考えました。
――Relicさんとは、打診後すぐに初回面談に進まれました。
北嶋:沖縄を拠点にしている開発会社ということで、まず面白いと感じました。
面談時の印象も、とてもよかったです。最初に会社の説明を受けた際、当社とこれほど志の近い会社があるのかと驚きました。当社も創業以来、新規事業開発支援という形で、挑戦する人が報われる社会にしていくことを目指してきました。同じことを沖縄の地で、エンジニアという職種にフォーカスして展開しているのがRe:Buildさんだと思います。
ビジョンに心から共感できたことに加え、実際の事業内容に一貫性があり、ビジョンの実現に本気で取り組んでいることが伝わってきました。鈴木さんのお人柄も誠実で、熱い思いがあり、信頼できると感じました。
大庭:技術的な話も、かなり深いところまで質問しましたが、詳細に答えていただけました。こういう方がトップにいらっしゃる会社なら、エンジニア陣とのコミュニケーションもスムーズに取れるだろうと感じました。
北嶋:当社では事業プロデュースも含め、いろいろな会社との新規事業開発に取り組む機会がどんどん増えている一方で、エンジニアのリソースが圧倒的に足りない状況です。ゼロから事業を生み出す段階においては、開発業務にも高いレベルのクリエイティビティが求められますし、スピード感も必要。そうした対応ができるエンジニアは、日本全体でも絶対数が不足しています。
これまで採用活動や協力会社の開拓には注力してきましたが、より根本的な解決策として、長期的にノウハウを共有しつつ、一緒に新しいことにもチャレンジしていける会社とパートナーシップを築きたい思いがあり、Re:Buildさんであれば、その相手としてぴったりだと感じました。
鈴木:ゼロイチフェーズの開発作業に関して、当社には豊富な経験を持つメンバーがそろっていますし、今後は自社で運営するプログラミングスクールで育てた人材を採用していくことも可能です。Relicさんの求める開発リソースを安定的に提供できる力があることをアピールしつつ、当社の課題も正直にお話しし、相談に乗っていただきました。
最大の焦点はシナジー創出の可能性。契約前に、業務委託で相性を確認
――初回面談は、お互いに好印象で終わったのですね。その後もスムーズに進まれたのでしょうか。
北嶋:今後の事業計画や資本政策など、最終的な出資判断に向けて必要な情報を追加でもらったりはしましたが、それは細かく見るというよりも、大きな懸念点がないかを確認するためです。当社としてはむしろ、業務提携の部分でシナジーをどれだけ出せるかを重視していました。そこで、技術的なすり合わせも含め、一度、一緒に仕事をしてみようということになり、大庭と黒木中心に進めました。
黒木:ちょうど新規に走り出す案件があったので、鈴木さんのチームに業務委託しました。新規事業の場合、仕様を確定してから指示を出すというより、仕様自体も考えながら開発していかざるを得ない部分があります。経験の浅い開発チームにとっては、かなり難易度が高いと思いますが、鈴木さんのチームは、開発の進め方を決めるプロセスを主導してくださったり、技術選定に関しても積極的に提案してくださって、非常に進めやすかったです。
大庭:結構技術的なチャレンジをしつつ、品質面でも細かなケアをしていただきました。丁寧な仕事ぶりを見て、今後もぜひご一緒したいと思いました。
鈴木:スタートアップの案件では、仕様がどんどん変わるのはごく普通のことなので、柔軟に対応しつつ、後々のためにできるだけ技術的な負債を残さないようにすることも重要です。そこの兼ね合いは難しいのですが、今回は現場メンバー自ら、過去の経験を踏まえ、ベストな対応を考えて動いてくれました。
北嶋:12月半ばから業務委託が走り出し、大庭、黒木のほか、現場メンバーからも、非常にポジティブな報告が上がってきました。1月の早い段階では、「問題なさそうだな」という感触はつかめていました。
業務委託と前後して、12月上旬に鈴木さんが上京された際、当社に挨拶に来てくださったことも大きかったです。当社は採用の場面でも、最終面接は必ず対面で行っています。長くお付き合いできるパートナーを求めていた中で、同じようにリアルに会うことを大切にする感覚をお持ちの方だと分かり、安心感につながりました。
ノウハウ、技術、採用。さまざまな観点で補完し合う関係を築いていく
――契約内容を詰めていく段階で、特に留意された点はありますか?
鈴木:VCとの契約の際と比べて、それほど大きな違いはありませんでしたが、弁護士とも相談し、協業に関する記載内容が曖昧にならないようにすることには注意しました。幅広く解釈できる記載になっていると、後々お互いにやりづらくなると思うので。
北嶋:双方が期待するシナジーの内容に齟齬がないようにしつつ、資本業務提携によって互いの活動が窮屈にならないようにすることが大事だと思います。
本件の場合、当社にとって長期的に優秀なエンジニアのリソースを確保できるというメリットは大きいですが、期待しているのはそれだけではありません。当社から安定的にプロジェクトを提供していくことによって、Re:Buildさん側の経営の見通しが立てやすくなり、エンジニアの採用や育成にもっと投資できるようになったり、シナジーの見込める新規事業に挑戦しやすくなる、という正のサイクルが回っていってほしい。今回、そうした認識合わせの部分は、努力義務という形で契約書に盛り込みました。
ほかに、本件のポイントとしては、お互いがどこまで競合になるかという点もセンシティブです。丁寧にすり合わせながら、定義づけさせていただきました。
――2月上旬に無事契約締結され、提携をスタートされました。今後の展開について、お考えをお聞かせください。
鈴木:まずは、当社の開発リソースを活かして、Relicさんの展開する企業のデジタルイノベーションや新規事業開発を支援するソリューションをサポートしていくことに注力します。と同時に、事業企画などより上流フェーズのケイパビリティを強化し、会社として次のステージに行くため、Relicさんのお力を借りていきたいです。将来的にはIPOを目指しています。
黒木:今後も協業を通じて、両社がそれぞれに不足しているスキルを強化していけるよう、ベストな関係性を構築していきます。技術面では、当社がRe:Buildさんから吸収できる部分も大きいと考えています。
大庭:言語でいうと、当社にはRubyを得意とするエンジニアが多く、Re:BuildさんにはPHPを得意とするエンジニアが多い。PHPベースの案件は、当社で担当するものの中にも一定数あり、互いによい補完関係が築けると思っています。
エンジニアの採用面でも、地理的にカニバらないので、うまく連携していけるとよいですよね。東京で働くエンジニアの中には、沖縄生活に憧れている人たちもいますし、逆に沖縄のエンジニアで東京で働いてみたいと思っている人たちもいるでしょう。そうした人材交流を図っていけたら面白いと思います。
鈴木:今回、調達させていただいた資金を活用して、新規開発にも積極的に取り組んでいきます。プログラミングスクール「Re:Build Boot Camp」運営の次の展開として、自社でラーニングマネジメントシステムを構築し、パッケージ化して外販していくことを考えています。また、エンジニア向けのサービスに関しても、マッチングプラットフォームも進化させたいですし、新たにリファレンスチェックができるサービスなどのアイディアも温めています。
北嶋:SaaSに関しては、Relicでもインキュベーションテックと呼んでいる自社のSaaSを展開しています。グロースに必要な機能が社内にあるので、Re:Buildさんに対しても、それを活用したサポートができると考えています。
当社にとっては、今回の協業を通じ、新規事業の開発業務で活躍できる優秀なエンジニアが、沖縄の地にもたくさんいらっしゃることが分かったことも大きな収穫です。将来的には、沖縄だけでなく、全国にこの動きを波及させていきたいです。
――皆さん、本日はありがとうございました。
■本ディールの経緯
2020年7月 Relicが「M&Aクラウド」で募集開始
2020年7月 Re:Buildが「M&Aクラウド」に登録
2020年11月19日 「M&Aクラウド」担当者より、Re:Buildにおすすめ買い手提案
2020年11月25日 Re:BuildからRelicに打診
2020年11月30日 初回面談(Web)
2020年12月初旬 リアル面談
2020年12月中旬 業務委託スタート
2021年2月16日 プレスリリース発表
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本ページに掲載している情報には、M&Aが成立するに至る経緯に加え、インタビュー時点での将来展望に関する記述が含まれています。こうした記述は、リスクや不確実性を内包するものであり、環境の変化などにより実際の結果と異なる可能性があることにご留意ください。