M&A後1年半でユーザー数2.5倍に!リモートでのPMIの秘訣は、“熱伝導率”の高いコミュニケーション

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M&A後1年半でユーザー数2.5倍に!リモートでのPMIの秘訣は、“熱伝導率”の高いコミュニケーション

仕事の受注者とフリーランスをマッチングするオンラインサービス「Lancers」を展開するランサーズと、オンラインメンターサービス「MENTA」を運営するMENTA。2社が「M&Aクラウド」で出会い、MENTAがランサーズグループに加わるまでの経緯は、2020年11月公開のインタビュー(https://macloud.jp/interviews/23)でご紹介した通りです。

2020年10月のグループイン当時、2万人弱だった「MENTA」の登録者は、今年6月には5万人を突破。2社のサービス間の連携も進んでいます。共にフリーランスを対象に、親和性の高いプラットフォームを展開する2社ですが、実はそれぞれ東京と福岡に活動拠点を置き、終始リモート環境の中で協業体制を築いてきました。その経緯と今後の展開について、ランサーズ 取締役の曽根 秀晶氏(写真左)とMENTA 代表取締役の入江 慎吾氏(写真右)に、M&AクラウドのCEO 及川 厚博が聞きました。

プロフィール

曽根 秀晶 ランサーズ株式会社 取締役

2007年よりマッキンゼー・アンド・カンパニーで、コンサルタントとして主に小売・ハイテク業界の大手クライアントの経営課題を解決するプロジェクトに従事。2010年より楽天株式会社において、「楽天市場」の営業・事業戦略を担当後、海外デジタルコンテンツ事業のM&A・PMIを推進、グループ全体の経営戦略・経営企画をリード。2015年2月、ランサーズに参画し、2015年11月より取締役に就任。経営戦略の立案や新規事業の推進を担当。

入江 慎吾 MENTA株式会社 代表取締役

1982年生まれ。長崎県五島列島出身。 スキルシェアサービス「MENTA」、クラウド請求見積「CLOUD PAPER」など、これまでに20個以上のプロダクト開発を行う。 「自分のサービスで生きていく」をコンセプトに個人開発オンラインサロン「入江開発室」を運営。サービス開発について思うことなどを語るYouTubeチャンネルも開設。2020年、MENTAを株式譲渡してランサーズグループにジョイン。

リモートでのPMIの鍵は見える化。練り上げたダッシュボード

及川 グループイン後のPMIをどのように進められたのか、全体像から教えてください。特にMENTAさんの場合は、東京のランサーズの皆さんと福岡の入江さんの間で、すべてオンラインでやり取りする難しさがあったと思いますが。

曽根 まずコーポレート面では、上場会社であるランサーズの連結対象として必要な、経理や財務の体制づくりに着手しました。その後、ランサーズからの出向者受け入れに伴う評価制度づくりもありましたね。これらはランサーズ主導で最初の1年を回しながら、入江さんにパスしてきました。

ビジネス面では、すでにM&A交渉中から、2社で協業したいアイディアがいろいろ出てきていまして。即効性のありそうなものから試しつつ、進捗や成果をBIツールで見える化していきました。日次で更新していたので、他の事業よりも、むしろリモート中心で進めているMENTA事業の方がリアルタイムで状況が追えていたくらいでしたね。

今回のPMIの肝となったのが、このBIツールのダッシュボードづくりです。結果が目に見えるようにすることは、特にリモートで協業していくうえでは、社内の機運を高めていくためにも大事なことですから。たまたまダッシュボードづくりが得意なメンバーが社内にいたので、彼の協力のもとで形をつくり、今もブラッシュアップし続けています。

及川 MENTAさんではもともと社員を入れずに、フリーランスを活用して業務を回されていたのですよね。今回、ランサーズさんからだいぶ人を入れた形ですか?

曽根 ダッシュボードがある程度整ったタイミングで、やりたいことを一度全部走らせてみるためにも、10人規模のメンバーを入れました。MENTAの事業はランサーズ内でも人気が高く、我も我もと手が挙がりまして。

及川 チームビルディングをリモートで進めるのは、ハードルが高そうですね。

入江 私はリモートでのコミュニケーションには慣れているのですが、マネジメントの方は初めての経験でした。私が考えていること、やろうとしていること、メンバーに期待していること、MENTAとして向かっていきたい方向性――そこにかける熱量まで含め、共有しながら進めたかったので、できるだけ直感的に伝えられるような伝え方を工夫してきました。

曽根 入江さんは熱伝導率の高い伝え方のスキルがすごくて、ランサーズ社内でもかなり真似させてもらってます。ランサーズももともとSlack文化なのですが、入江さんは作りたいイメージやユーザー動線などをパッと動画にして送ってくれたり、活動のハイライトを週次でまとめて投稿してくれたり。そこにメンバーはもちろん、私、他部門のメンバー、ときには代表の秋好さんも反応して、「いいね!」「ここはどうなの?」「ここはこうしたら?」と、コミュニケーションが広がっています。

及川 すごい。そうすると信頼関係づくりで苦労した点は、特になかったですか?

曽根 私はこれまでたびたびM&AやPMIを経験してきましたが、その中でもMENTAとのPMIはかなりスムーズでした。それはやはり、両社のビジョンがほぼ重なっていて、人やカルチャーの相性も見事にフィットしていたおかげですね。普通はまず、目指す世界観や実現に向けた取り組み方針のすり合わせに時間をかけると思いますが、そこがそもそも不要だったという。

及川 M&A担当者だった曽根さんが引き続きPMIを担当されていることも、きっと大きいのかなと。他社事例では、そこで担当者が替わるケースも多いですが。

曽根 グループに迎え入れるということは、私はある意味、相手の人生を背負うということだととらえています。代表の秋好さんや私は、M&Aに至るまでに入江さんとかなり深い話をしてきました。言語化以前の領域まで降り、いわば互いの魂で交感したような感覚があるんです。

グループイン後は、私とは隔週の1on1でその絆を深めてきましたし、出向者をはじめ周囲のメンバーたちとも、感覚的に共有できる部分が大きくなってきたのを感じています。一般にはあまり語られない部分ですが、これも実は、PMIの重要な要素かなと思います。

新体制にまず順応、そして再構築。遠慮せず、ゼロベースの提案を

及川 これまでほぼ一人で活動してきた入江さんにとって、グループインは相当ドラスティックな変化だったと思います。戸惑った点などはありませんでしたか?

入江 以前は自分のリソースをほぼ100%ビジネスに投入していましたが、グループイン後、特に直後は、逆に8割、9割を管理系の業務に費やしていた感覚です。ミーティングも増えましたし、計画書を大量につくったり、 BIツールづくりをしたり。

及川 一人で事業をやってきた経営者のPMIあるあるですね。フラストレーションもあったかと思いますが、どうやって乗り越えたのでしょう?

入江 その意味では、自分は比較的、順応性の高いタイプだと思います。今回も、ランサーズ側からのリクエストにはいったんすべて対応したうえで、今のMENTAにとって緊急性の低い業務、自分が担当する必要のない業務などを見極めていきました。そもそも管理系の業務は、事業成長を支えるために存在しているはずですよね。そうした視点でオペレーション改善を提案し、実際に改善されてきたと思っています。

及川 かなり積極的に提案していかれた感じですか?

入江 そうですね、そこで遠慮すべきではないと思ったので。MENTAに関してだけでなく、ランサーズに関しても、気づいた点は発言するようにしてきました。

曽根 入江さんのその姿勢には、本当に助けられています。まずやってみて学び、得た学びを咀嚼して、変えた方がよいと感じたことがあれば提案する。それも謙虚なスタンスで。MENTAで実験してうまくいったやり方をランサーズに逆輸入したりもしています。

及川 まさに理想的な関係ですね。最近は、入江さん自身がビジネスに没頭できる時間も増えました?

入江 はい、今はちょうどいいバランスです。

曽根 そこに関しては、グループイン後ほぼ1年経った時点で、協業プロジェクトについても、一定の取捨選択をしたんです。BIツールで追ってきた指標をベースに、今やるべきことの優先順位をつけ、整理しました。

入江 メンバーを一気に増やした当時は、勢いであれもこれも同時に進めようとして、それぞれ高い目標を設定していました。ただ、私が一人で全部の取り組みをウォッチし、サポートし、ときには軌道修正していると、私自身で進めたい取り組みに使える時間がなくなってしまって……。

曽根 今、振り返れば、メンバーの育成にかかる工数をあまり考慮せずに走り出してしまったんですよね。チーム全体がトップスピードに乗るまで、もっと段階を踏む想定にしておくとか、メンバーのサポート役ができる人材を入れておくとかすれば、よりスムーズに進んだかもしれない。これは最初の1年の大きな学びになりました。

リスクヘッジとユーザーファースト。今あるべきプラットフォームとは?

及川 MENTAのユーザーは、グループイン後の昨年6月に3万人、今年6月には5万人を超えましたね。

入江 プラットフォーム運営の先輩であるランサーズのもとで、急拡大期を迎えることができ、本当によかったです。というのは、以前はプラットフォームを早く大きくしたい一方で、法務面、技術面などさまざまな不安を抱えていました。ほぼ一人でつくってきただけに、ある種社会インフラ化した際に、本当に安定的にサービス提供していけるのかなと。

曽根 ここはランサーズの経験を活かせるなと当初から考えていて、実際に活かせた部分です。今のMENTAは、10年ほど前のランサーズの規模感や雰囲気にとても近いんですよ。トラブルが起きたときに問題になりそうな規約の見直し、スケーラビリティを考慮した技術的アップデート、会計面でウォッチすべき指標など、ランサーズのノウハウをうまく展開できたと思います。

入江 しかも、ガイドラインや規約を作る際に、リスクをひたすらつぶし込んでいくこともできたわけですが、そのためにユーザー体験が大きく損なわれてしまうのは本末転倒だという思いがありまして。この点、ランサーズの各部門とは同じ課題意識を持って、一つひとつ議論しながら整えていくことができました。長くユーザーに愛されるサービスとして育てていくうえで、いい仕事ができたと思っています。

曽根 ユーザーのペインやインサイトをキャッチするうえで、入江さんは独特の感性を持っています。コミュニケーションは謙虚ですが、視点ははっきりしていて、「それは根拠ないですよね」とかスパッと言ってくれる。そういうピュアさ、真面目さは、ランサーズのメンバーにも共通しているので、自然といいチームワークが生まれたのだと思います。

学び、働き、教える。スパイラルで広がる“個”の可能性

2021年秋にスタートした「ランサーズデジタルアカデミー」
2021年秋にスタートした「ランサーズデジタルアカデミー」

及川 ランサーズの皆さんにとっても、過去の経験からの学びをフルに活用できるチャンスですから、やりがいも大きかったでしょうね。他にこれまでに2社で進めてきた取り組みにはどんなものがありますか?

入江 ランサーズとMENTAのユーザーは、もともとかなりかぶっているのですが、双方をよりシームレスに活用いただくための機能を追加してきました。ログインIDを共通化したほか、MENTA上にランサーズでの仕事の実績が表示されるようにもしました。メンターとして活動し始める際に初速が出やすいように。

曽根 象徴的な事例として、ランサーズのユーザーアワードを2回受賞した優秀なランサーさんで、MENTAでも人気メンターになっている方がいます。この方が今、MENTA内でびっくりするくらい情報発信してくださっていて。これだけ両サービスを使いまくってくれるユーザーがいることは、本当に嬉しいし、誇らしいですね。

入江 あとは、ランサーズが昨年秋にスタートさせたデジタルスキルの講座「ランサーズデジタルアカデミー」とも連携しています。アカデミーを修了した後、MENTAで継続してフォローを受けられるようにしているんです。

及川 協業で新しいビジネスが生まれているというのは素晴らしいですね。

曽根 MENTAには、もともとオンラインの自学コンテンツから流入しているユーザーが多いんです。グループイン前に入江さんからそれを聞いたことがヒントになり、デジタルアカデミーの構想につながりました。MENTA自身で教材づくりにトライしたこともあったのですが、それには少し課題もあり、スケールさせることが難しかった。だったら、そこはランサーズで担おうと。

及川 2社の緊密な連携で、フリーランスというキャリアをめぐる経済圏をどんどん拡大されているのですね。最後に、お二人の今後の抱負をお聞かせください。

入江 MENTAはユーザー5万人に達したとはいえ、これはあくまで通過点です。私はグループイン当時からユーザー100万人を掲げており、これからも目指し続けていきます。

最近は副業ブームもあって、自分のキャリアを高めたいというニーズがどんどん強まり、スキルアップを図りたい人も増えています。そして、ある人が身に付けたいスキルを、すでに先行して学んでいる人がどこかにいるなら、その人にガイドしてもらえれば、教わる側はよりよいプロセスで求めるスキルを習得できるはず。その循環が日本中で起きれば、自分が本当に好きなことで、日々ワクワクしながら仕事に取り組める人が増えていくと信じています。

教える側から見ても、フリーランスで働いていると、繁閑の波ができやすいんですね。空いた時間を活用して自分の知識やノウハウを伝え、報酬を得られるのはメリットが大きい。ランサーズとMENTAの連携をさらに進めることで、全国のランサーたちが互いに高め合いながら、自分らしい働き方を極めていける世界をつくっていきたいです。

曽根 今、入江さんも触れた副業ブームや働き方改革に関して、ランサーズには自らその機運をつくってきたという自負があります。企業や国がこれほど副業に対してポジティブになってきたことは、数年前から見ると驚くような変わりようですよね。

これからはMENTAの事業を通じて、きっともう一度、ドラスティックな変化を経験できると考えています。そのうえで、2つのサービスのパワーを掛け合わせれば、個のエンパワーメントを通じた社会課題解決のステージがまた一段上がっていく。そんな未来が今、モヤモヤと見えてきています。学び、働き、教えるというスパイラルのパワーで、日本社会にビッグバンを起こしていきたいと思います。

及川 今後の展開がますます楽しみになってきました。曽根さん、入江さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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