2社で育てた新事業は、立ち上げ1年で年商1億円規模に。チーム崩壊の危機を越え、今だから語れるM&A後激動の1年

公開日:

2社で育てた新事業は、立ち上げ1年で年商1億円規模に。チーム崩壊の危機を越え、今だから語れるM&A後激動の1年

社会人向け独立・開業支援において、日本最大級のサービス「アントレ」を提供するアントレと、学生向け起業スクール「WILLFU STARTUP ACADEMY」、社会人向け起業スクール「WILLFU 社会人講座」を展開するウィルフ。2社が「M&Aクラウド」で出会い、ウィルフがアントレグループに加わるまでの経緯は、2021年6月公開のインタビュー(https://macloud.jp/interviews/29)でご紹介した通りです。

M&Aから3か月後の2021年7月には、協業による社会人向け起業スクールを立ち上げた2社。同事業をウィルフ第二の柱に育て上げるまでのこの1年、どんなステップで課題を乗り越え、連携体制を築いてきたのか――アントレ 代表取締役の上田 隆志氏(写真左)とウィルフ 代表取締役社長の黒石 健太郎氏(写真右)に、M&AクラウドのCEO 及川 厚博(写真中央)が聞きました。

プロフィール

上田 隆志 株式会社アントレ 代表取締役

1976年生まれ。関西学院大学卒業後、凸版印刷株式会社を経て、2005年株式会社リクルートエイブリック(現株式会社リクルートキャリア)入社。人材紹介事業部門にてIT・Web業界の転職支援・中途採用支援部門の担当〜責任者を8年間務めた後、2014年よりアントレ事業部門の責任者。4年間を通じて売上・利益を大きく伸長。 2020年6月末にリクルートキャリアを退職し、2020年7月より株式会社アントレの代表取締役に就任。

黒石 健太郎 株式会社ウィルフ 代表取締役社長

東京大学法学部卒。株式会社リクルート入社後、採用・育成・社内活性コンサルティング等の営業、新規事業の戦略企画、立ち上げに従事。2013年6月株式会社ウィルフ(WILLFU)を設立、代表取締役社長に就任。サイバーエージェントのアントレプレナーイノベーションキャンプ優勝。2018年9月より、国立大学法人金沢大学 特任准教授 に就任。著書に、「渋谷で教える起業先生」(毎日新聞出版)がある。

舵をとるべきは、一番確からしい発想を持つ人。親会社は黒子に徹する心づもりで

アントレ 代表取締役 上田氏
アントレ 代表取締役 上田氏

及川 昨年のクロージング後、どんなプロセスでPMIを進めていかれたのか、まずコーポレートサイドの動きから教えてください。管理系の部門は親会社に統合するケースもよく聞きますが。

上田 当社とウィルフの場合は、ウィルフ軸で必要なサポートをしていく方がよいと思い、特に統合ということは考えませんでした。当社でお付き合いのある弁護士さんや経理のアウトソーサーのご紹介をしたくらいですね。統合が必ずしも効率化につながるわけではないと思ったので。

及川 なるほど。そうするとビジネスサイドに関しても、やはり緩めの連携を図っていかれた形ですか?

上田 ウィルフの事業は、アントレにとっては新規領域ですから。黒石さんの方が事業経験もユーザーとの接点も持っているので、彼が自分のアイディアを実現しやすい座組みをつくることを最優先に考えました。親会社とか子会社とかいうより、一番確からしい発想を持っている人を活かすべきだと。

及川 具体的にはどんな体制を?

上田 まず、私はアントレのもう1名とともに、毎月のウィルフの取締役会に参加しています。そこで課題を共有してもらい、サポート施策を議論する形ですね。

黒石 アントレへのジョイン前も、株主とのミーティングはしていましたが、やはりマイノリティ出資の場合と完全子会社の場合では、距離感が全く違います。以前はこちらが求めるサポートを実施していただくには、数ある投資先の中での優先順位を高めてもらえるよう、アピールする必要がありました。今はリクエストをすれば100%対応していただけるので、事業を伸ばすために打ちたい手があれば、どんどん打っていける環境です。

上田 プラスして、実働部隊としては、アントレから2名をアサインしています。当社のナンバー3と、もう1名も社内で実績を残してきた優秀なメンバーです。

及川 それは侠気のある決断ですね。M&A先を人材教育の場にするのではなく、エース級を送るという。

上田 ウィルフは少ない人数で既存の学生向け起業スクールを回しつつ、新たに社会人向けスクールも立ち上げようという負荷の大きな局面でしたから、当社としてはどれだけ優秀な人材を送れるかがカギになるなと。当社には知見のない領域だけに、マンパワーで貢献したいと考えました。

及川 社会人向けスクールの開講が7月ということは、グループインから3カ月後。スピーディーな展開でしたね。

黒石 とはいえ、実際のところ集客にはかなり苦労しました。ウィルフで打った広告から流入した申し込みだけでは、最低開講人数に達しなくて……。アントレサイトからの導線とアントレユーザーへのDMで追加の申し込みを確保でき、ようやく開講にこぎ着けたんです。アントレからの各種サポートの中でも、この最初の送客は大きかったですね。

及川 教育系サービスは実績訴求で集客しますから、立ち上げの際に苦労される会社は多いですよね。他にアントレからはどんなサポートがありました?

黒石 やはり、優秀な人材を送っていただいたことに尽きます。既存の学生向けスクールのオペレーションをアントレから来たメンバーが型化し、マニュアルを整えて、サービス品質を安定させてくれ、おかげで私は社会人向けスクールの立ち上げに専念できたんです。

及川 1→10フェーズに強い人材が入ったことで、黒石さんのマインドシェアを得意の0→1にシフトできたと。

黒石 社会人向けスクールの立ち上げ後も、10カ月経った今でこそ安定的に集客できるようになりましたが、途中は思うようにいかないことも多々ありました。そういう場面で、上田さん自身とか、上田さんがアサインくださった方たちが壁打ち相手になってくれたおかげで、モチベーションを持ち直し、トライアンドエラーを続けることができたんです。もし自分一人だったら、きっとどこかで「社会人向けスクールは無理か…」とあきらめていたでしょうね。

粘り続けられたからこそ、受講者の声を聴きながらプログラム内容を進化させることができ、それが集客力にも反映されていきました。結果的に、初年度の売り上げは1億円規模になりそうです。

「意思決定者は誰?」本音のぶつけ合いを機に、守りと攻めの両輪が回り出した

ウィルフ 代表取締役社長 黒石氏
ウィルフ 代表取締役社長 黒石氏

及川 まさに2社の連携で立ち上がり、成長してきた事業なのですね。ちなみに、親会社からの人材を受け入れる際は、混乱などはありませんでしたか?

黒石 正直、最初の3カ月ほどは大変でした……コミュニケーションラインが混線してしまって。当時は私のストレスも大きく、グループインは本当に正解だったのかと悩むこともありました。ただ、いろいろな選択肢を考え抜いてグループインを決めた以上、互いの認識をすり合わせるための努力は尽くすべきだと。結果として、私がやりづらさを感じていた点を率直に伝え、上田さんにも間に入っていただいて、指揮系統を整理することができました。

上田 M&Aとはいえ、私はできるだけフラットな関係を作りたいと考えてきたので、黒石さんがそれだけストレスを感じていると聞いたときは、申し訳なく思いましたね。と同時に、ストレートに話してもらえてありがたかったです。

及川 上田さんはある程度のトラブルは予測されていたのでしょうか?

上田 一緒に仕事をしてみて初めて分かる部分は、少なからずあるはずだと思っていました。ただ、先ほどお話ししたアントレのナンバー3の彼は、M&A検討時にウィルフに一番関心を持っていたメンバー。実行力に長けた人物でもあり、初期のカオスを乗り越えた後は、きっと結果を出してくれるだろうという期待もありました。

黒石 彼は教育サービスに対して、人とコミュニケーションを取り、人の成長に関わるということに対して、本当に真摯に向き合っている人です。学生向けスクールの品質安定化を図れたのは、彼が自分で講師をするところからスタートして、講師デビューまでのプロセス整備、マニュアル作成、そのマニュアルに基づいた人材育成とマネジメントに心血を注いでくれたおかげですから。

及川 ぶつかり合いもあったけれども、結果的には上田さんの読み通り、ウィルフの成長が加速したわけですね。黒石さん自身にとっても、新しいチャレンジに集中できるようになったことは大きいですよね。

黒石 はい。ウィルフの中では今、社会人向けスクールに集中していますが、未来の新規事業の可能性を探るために、実は別会社でも活動させてもらっていまして。そこでスクラップアンドビルドをしつつ、有望なモデルはウィルフの事業にしていく想定です。

及川 そんなことまで。

黒石 単一事業のみをやっていては、会社の成長はいずれ頭打ちになります。今回、祖業である学生向けスクールの事業を型化できたことで、「こうやって既存事業から手を離し、自分は次の事業づくりをしていくことで、会社を伸ばし続けていける」という展望が開けましたね。今はとても楽しいです。

及川 同じ起業家としてよく分かります。それを可能にしているアントレさんの懐の深さを感じますね。

ウィルフを迎え、アントレのミッション追求も深化。互いの強みに学び、サービス開発力を磨いていく

及川 アントレさん側は、ウィルフさんを迎え入れたことでどんな変化がありましたか?

上田 当社は「自分らしい、独立した働き方に、誰もが挑戦できる社会をつくる。」をビジョンに掲げています。一方で、メインの事業モデルそのものは、ユーザーではなく広告主であるフランチャイザーから収入を得る典型的なメディア事業。今回、まさにユーザー起点の挑戦をサポートするウィルフの事業がポートフォリオに加わり、対外的に自社のビジョンを語りやすくなりました。「アントレ」ユーザーの中には、フランチャイズビジネスに関心の薄い方もいますので、そういう方から「まさにこういうコンテンツを求めていた」と言われることもあります。

及川 社内のモチベーションも上がりますね。

上田 加えて、ウィルフの事業に関わるうちに、アントレの中でも「自分たちももっと個人に向き合ったサービス開発をしていかなければ」という機運が出てきました。昨年始めた個人事業主間の事業承継をサポートする事業も、当初は「アントレ」と同じくマッチングサイトのスタイルで検討を進めておりましたが、今はユーザーに伴走し、M&Aのプロセスを教えたり、面談の進め方をアドバイスしたりするサービスに切り替えています。こうしたコンテンツ型のサービスに早期にピボットできたのは、ウィルフの事業を間近で見てきたからこそ。ユーザーの中には、すでに承継した事業に取り組み始めた人もいます。

及川 販路を共有する、スケールメリットでコスト削減するといった事例はよく聞きますが、事業開発の発想を学び合うというのは、かなり高度なシナジーですね。

上田 いや、実際、こちらが学んだことの方が多い気がします。たとえばマーケティングに関しても、もともとアントレのノウハウをウィルフに展開できると思っていましたが、なかなか成果が出ず、それがきっかけになって当社のオペレーションの弱点に気づけましたし。

及川 深いですね。確かに、うまく回っているときには意識していない弱点というのはありますよね。
最後に今後の事業展開に関して、ビジョンをお聞かせください。

黒石 私は社会人向けのコンテンツをもっと充実させていきたいです。立ち上げ期は苦労した社会人向けスクールですが、今では当初の想定を超えた、大きなやりがいを感じています。受講生はみんな人生をかけ、本気で収益化を目指す人たちなので、お互いに真剣な議論を交わし、刺激し合う仲間になっているんですよ。卒業時には「毎週授業に来るのが楽しみでした」と言ってくれる人も多く、「当社でこんな素晴らしい機会を作れたんだな」と。

及川 それは感動しますね。

黒石 最近はすでに会社経営している人が、新規事業を作る目的で受講するケースも増えてきました。そういう人からは「既存事業のWebマーケティングを改善したい」「採用に苦労している」などさまざまな相談を受けるんです。そうしたニーズに応え、今後は起業のタイミングだけでなく、社長さんの困りごとを継続的にサポートできるようなサービスを投入していきたいと考えています。

上田 Webマーケティングなどは、アントレ側では起業支援、副業支援のコンテンツとして、たとえば「成功するECサイト運営ノウハウ」といった形で提供していくことも考えられます。今後も黒石さんと連携しながら、アントレのビジョンにある「自分らしい、独立した働き方」の切り口を増やしていきたいです。

かつ、ウィルフの事業に関しては、今の学生向け、社会人向けのコンテンツは、企業でもニーズがあるはずだと考えています。そのあたりの販路開拓もやっていきたいですね。

及川 お二人とも夢が広がっていますね。上田さんは今後もM&Aを検討していかれますか?

上田 やっていきます。今回初めてのM&Aを経験し、もちろん想定通りにいかないことも多々ありましたが、企業成長の選択肢として「あり」だなと感じられたのは大きな収穫です。今も2日に1回は「M&Aクラウド」を見ていますよ。

及川 恐れ入ります。今日はいろいろとリアルなお話を伺えて、勉強になりました。お二人とも、ありがとうございました!

類似の成約事例