配膳ロボット販売台数「世界一」のDFA Roboticsが、IPOよりもM&Aを選択した理由「ナンバーワンかつオンリーワンの時期が、イグジットの好機」

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配膳ロボット販売台数「世界一」のDFA Roboticsが、IPOよりもM&Aを選択した理由「ナンバーワンかつオンリーワンの時期が、イグジットの好機」

デジタル人材の育成支援や業務プロセスの革新およびデジタル化支援などを手がける株式会社チェンジは10月3日、配送配膳ロボットの導入支援やコンサルティングを提供するDFA Roboticsの株式を取得し、子会社化しました。本件は、IPOとM&Aを並走させる「デュアル・トラック・プロセス」に対応するM&Aクラウドの支援パッケージ利用企業の第一号成約案件でもあります。

IPOとM&Aの両方に備えるメリットや、最終的にM&Aを選んだ理由について、DFA Robotics代表取締役の波多野 昌昭氏にお聞きしました。

※本記事は2022年11月10日に行われたウェビナー「緊急開催!急成長中の配膳ロボ会社がIPOよりM&Aを選択した裏側」の内容を構成したものです。

プロフィール

株式会社DFA Robotics 代表取締役:波多野 昌昭(はたの・まさあき)

インドネシア生まれオーストラリア育ち。青山学院大学を卒業した後、タイのチュラロンコン大学院へ進学。イギリス系コンサルティング会社に勤めた後、2008年に漫画専用ネットフリックス[VizMedia]に創業メンバーとして参加し起業、2011年小学館へ売却。2011年より楽天、リクルートのCVCにて海外スタートアップ向け投資を担当。2015年に創業したオンラインプログラミングスクール株式会社BeSomebodyでは、生徒数10万人を達成した後2017年に売却。日本の離島で特産品を作っていた妻の物流に関する悩みをきっかけに、ドローン事業に興味を持ち、2017年9月に株式会社DFA Roboticsを創業。ロボットが人間のために最大限に活躍できるためのインフラを整える会社として、配膳ロボットを中心に様々なロボットを提供している。

「IPOとM&A、両方を狙うのは起業家として当然」

DFA Roboticsのビジョン
DFA Roboticsのビジョン

ーーDFA Robotics様は、ロボットの機体販売を中心に事業を展開されています。メインで取り扱っていらっしゃるのは、最近様々な場面で見るようになった配膳ロボットや配送ロボットですね。

波多野 その通りです。2017年に創業し、最初はドローンを取り扱っていたのですが、その後配送ロボット、配膳ロボットへ主軸を移してきました。ある大手外食チェーンには既に2500台ほど導入した実績があり、その他の様々な飲食店にも導入が進んでいます。ロボットの活躍の場は広く、ホテル、空港のラウンジ、病院、倉庫、工場などでも需要が増えてきています。

当社は、ロボットの製造は行わず、販売、導入、運用・アフターフォローに特化しています。ロボットというのは、購入してから実際に導入し、活用できるようにするのが難しいんです。当社であれば、3Dマッピング、店舗配膳ルート設計、販売管理システム、修理・メンテナンスの圧倒的なノウハウを駆使して、最も効率的にロボットを導入し、運用することができます。

今後は地球全土で事業を展開し、グローバル最大のロボット企業を目指します。ゆくゆくは、我々のビジョンである「次世代の社会インフラの創造」を実現し、ロボットと人がシームレスに活躍できる世界をつくりたいと思っています。

ーーDFA Robotics様には、当社の支援パッケージである「デュアル・トラック・プロセス」をご利用いただきました。

デュアル・トラック・プロセスとは、証券会社や監査法人と契約しIPOを目指しつつ、起業家としてのキャリアや会社の成長戦略を見据えてM&Aも並行して検討していくというプロセスを指します。

上場した場合のバリュエーションを評価の下限額としてM&Aの交渉を有利に進められること、株式取得の支配価値に応じた対価が上乗せ(コントロール・プレミアム)されて売却価格が上がりやすくなることから、日本でも有名企業において取り組みが始まっています。

ただ、IPOとM&Aの準備を同時に進める分、企業の負担は大きくなるのがデメリットでした。M&Aクラウドはその課題を解決すべく、デュアル・トラック・プロセスを目指すスタートアップ企業のM&Aをサポートしています。当社がこの支援パッケージについてプレスリリースを出した直後にお問い合わせをくださったのが、波多野様でした。

波多野 プレスリリース内に、支援対象企業として「50億円以上でのEXITを目指しているスタートアップ」とあり、当社の考えているバリュエーションのレンジとちょうど合っていたので、興味を持ったんです。私はもともとIPOを考えていて、今も目指していますが、M&Aも並行して進められるならその方がいいかなという気持ちでご連絡しました。

ーーIPOとM&Aの両にらみで検討した理由は?

波多野 特別な理由はなく、普通のことだと思っています。投資家にちゃんとメリットを返そうと思うと、イグジットの方法は幅広く検討することになりますから、結果としてIPOとM&Aの準備はどちらも行う必要があると考えています。

結局、イグジットで大事なのはタイミングだと思うんです。IPOできるとしても、今の日本のマーケットでは高いバリュエーションがつきませんが、10年前だったら良かったはずです。どのタイミングでも最大のバリュエーションを得られるよう、初期から両方の準備をしておくことが基本かなと思ってます。

ーーIPOとM&Aを両建てで考えている起業家は増えてはいますが、まだまだ多くはありません。波多野様は海外でのキャリアが長いことから、そのような感覚をお持ちなんでしょうか。

波多野 それもあるかもしれませんが、投資家としての経験も影響していると思います。私はいくつかの会社を起業・売却した後に、日本の大手企業何社かの投資部門で、海外スタートアップへの投資を担当したことがあるんです。投資候補となる会社について、いつも知りたいと思っていたのは「結局、イグジットはどうするの?」ということでした。

IPOなのかM&Aなのか、どの市場でどのくらいのバリュエーションか。投資家サイドとしてそんなことを考えてきた経験が長かったので、経営者の立場になっても自然に、両方を同時検討するようになったのかもしれません。

「ナンバーワンかつオンリーワンの時期が、イグジットの好機」

代表取締役:波多野 昌昭氏 ウェビナーの様子
代表取締役:波多野 昌昭氏 ウェビナーの様子

ーーデュアル・トラック・プロセスを進めるなかで、最終的にM&Aに決めた理由は何だったのでしょうか。

波多野 やはりタイミングです。今まで会社を売却した時も、何かしらでナンバーワンになったタイミングでしたが、DFA Robotics社も2022年8月に配膳ロボットの販売台数と修理台数で世界一になったんです。

次の領域のナンバーワンになるまでには数年かかりそうで、おりしも競合会社も出てきました。このタイミングで、私が経験したことのないIPOを実施するのか。それとも、シナジーが得られる会社とM&Aをして、経営に加わってもらうのか。悩んだ末にM&Aを選びました。

ーーナンバーワンでかつオンリーワンのものがある企業は、M&A市場でもポイントが高いですよね。

波多野 「うちは日本一です」「世界一です」って言えるとやはりシンプルに強いですよね。そしてナンバーワンでありオンリーワンでもある時期って、そんなに長くありません。その時期に何かしらのアクションをするのがいいのだと思います。

ーーただ、上り調子の時にM&Aの意思決定をできる経営者はなかなかいません。波多野様のマーケット感覚によるところが大きいのでしょうか。

波多野 M&Aは結婚ですから。理想の相手と結婚したいなら、自分のバリューが一番高い時を見定めないと(笑)。

ーー「やはりIPOがいいのでは」と思ったことはないのですか?

波多野 それは常に頭の中にちらついていました。最後の最後、契約締結の前日ぐらいまで悩んでいたくらいです。ただ、株式を全部売却せずに、一定割合を保持したまま売却できるという点は、M&Aもいいと考えた理由の一つになりましたね。

ーー大手企業の傘下に入った後、さらに成長してIPOを目指す「スイングバイIPO」も狙える。だからひとまずM&Aを選んだということですね。

M&Aで重要なのは、「一緒にやったらどれだけ当社が伸びるか、相手の持つリソースをどう生かせるか」という視点

(左から)M&Aクラウド MACAP事業本部 福田・代表取締役CEO 及川と波多野氏
(左から)M&Aクラウド MACAP事業本部 福田・代表取締役CEO 及川と波多野氏

ーー今回多数の買い手候補と面談されたと思いますが、チェンジ様に決めた理由を教えてください。

波多野 買い手候補の中で大きく差がつくのは「社長と話すことができるか」でした。M&Aの意思決定って社長じゃないと責任を取れませんよね。私が別の会社で投資担当だった時、部署異動になったとか、会社の戦略が変わったとかで、投資予定の1週間前にお断りした経験があります。一担当者であればそういうことができますが、売り手としてはたまったものではありません。なるべく社長とお話をしたいんです。

ただ、誰もが知る大手有名企業や競合企業も含めて10社以上と面談しましたが、最初の面談で社長が出てきたのは3社ほど。その中の1社がチェンジさんでした。福留社長とお話をしてみると、ビジョンが近いし、尊敬できるし、「この人とだったら一緒にやっていきたい」と思えました。その土台をつくったうえで、ディールの過程で、両社のシナジーをどうつくっていくか、お互いの思うバリュエーションは一致しているのかなどをすり合わせていきました。

それから、今回は株式譲渡をしましたが、私の中では大手企業の傘下に入ったというよりも、パートナーを迎え入れた感覚なんです。チェンジさんと一緒にやったらどれだけ当社が伸びるか、相手の持つリソースをどう生かせるか、そういった視点でM&Aのコミュニケーションを進めていきました。

ーー今回、アドバイザーを通さずに福留社長との1on1のコミュニケーションを取る機会も多かったようですが、どういうお話があったのでしょうか。

波多野 実は、M&Aの具体的な話はあまりしませんでした。先方からは「どういう人生を歩みたいの?」と聞かれたり、私の方からは「上場企業の経営って楽しいんですか?」みたいなことをざっくばらんに質問したり。1on1だけでなく、両社の役員も含めていろいろメンバーでミーティングして、お互いの会社を知る機会をつくりました。

会社は自分の人生を豊かにするためのツールだと思います。そのツールを使って、みんなでどこに行こうか、理解し合うためのコミュニケーションがとても大事。それがない中でビジネスの話をしても、何というか、エモくないんですよ(笑)。

「一番大事なのは、投資してくれる人がハッピーになること」

ーーこれまで経験されてきた会社売却と比べて、今回のディールはどうでしたか?

波多野 今までは同じナンバーワンでも、日本一の状態で売却してきました。今回は、世界一になることにこだわって、そのタイミングで売却した点が大きな違いです。

また、解決しようとしている社会課題の規模感がより大きくなりました。先進国の労働人口が減り、人手不足で従来のようなサービスを提供できなくなるという課題があり、その課題をロボットで解決しようとしているのがDFA Roboticsです。過去に売却したプログラミングスクールやゲーム関連の会社とは、抱えている課題の規模がだいぶ違いましたね。

ーー今後の展望をお聞かせください。

波多野 さらにいろいろな分野で世界一の状態をつくっていきながら、グローバルに展開していきたいと考えています。会社としては当然、IPOを狙います。どの国の市場にするかはまだ決めていませんが、上場はすると思います。

最終的には、ロボット事業で時価総額1兆ドルくらいを目指しています。日本にもまだそんな会社は存在しませんが、世界にはいくつかありますよね。誰かができているなら自分もできるだろうと思っています。

ーー最後に、イグジットを検討している経営者へのアドバイスをお願いします。

波多野 私のように、IPOとM&Aを同時に検討している方もいらっしゃるかもしれません。売却するか、上場するかという判断は、いつでも難しい。ただ、一番大事なのは、投資してくれる人がハッピーになること。それが実現できれば、どちらの選択も良いと思います。会社は何度でもできるので、ディールサイズ等にこだわり過ぎる必要もないのではないかなと。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。次のフェーズでのご活躍に期待しています!

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