会社は黒字、経営者も健康。それでも蒼天が事業承継を決断した理由
買い手:株式会社クラウドワークス
売り手:株式会社蒼天
公開日:
2024年1月、労働時間管理やPC資産・ログ管理の領域で、自社開発のクラウドサービスを提供する株式会社蒼天は、株式会社クラウドワークスへのグループインを果たしました。
蒼天の代表取締役である芦辺多津治氏によれば、会社は黒字経営を続けており、自身の健康にも問題はなかったとのこと。そんな中、なぜ事業承継を検討するに至ったのでしょうか。その経緯と決め手、今後の目標について伺いました。
プロフィール
1963年生まれ。建築金物製造企業の情報システム部にて生産管理や会計システム開発に4年間従事し、IT業界の営業へ転職。家電メーカー系SIerや外資系ワークステーションメーカーでの営業を経て、海外IT製品の輸入販売を行うベンチャー企業に入社、代表取締役に就任。 その後、自社開発ソフトウェアで勝負したいとの思いから、2003年に株式会社蒼天を設立。
一時は提供中止も考えたサービスが、時代の変化を受けて急成長
ーーまず、芦辺さんのご経歴を教えてください。
最初は建築金物メーカーの情報システム部に所属し、生産管理や会計システムの開発に取り組んでいました。4年ほど従事していたのですが、そんな時に、会社に出入りしている外部企業の営業を見て、「楽しそうだな」と思ったんです。開発の知識を生かしながら、営業として働くのもいいかもしれないと考え、思い切ってIT業界の営業へ転職することにしました。
その後は、家電メーカー系SIerや外資系ワークステーションメーカーで営業経験を積み、海外のIT商材を輸入販売するスタートアップに入社。しばらくして代表取締役に就任しました。
ーー蒼天は、どのような経緯で立ち上げられたのですか?
そのスタートアップが、別の企業にM&Aされることになったのがきっかけでした。私は当時代表だったので、もちろん異動しなければならなかったのですが、どうしても気が進まなかった。
しかも、私と一緒に退職するという社員も数名いたので、会社を作るしかないと覚悟を決めたんです。いつか独立したいという思いは、もともと抱えていましたから、そのタイミングが来たのだとも思っていました。
ーーその後20年あまり、蒼天が続くことになります。具体的な事業内容をお伺いしてもよろしいでしょうか。
主に、自社オリジナルのソフトウェア開発を行っています。現在の主力製品は、PC利用時間を管理するクラウドサービス『LogVillage timeKeeper(ログビレッジ タイムキーパー)』です。
『LogVillage timeKeeper』は、もともとエージェントレス型のPC資産・ログ管理サービス『LogVillage2.0』のオプション機能として、2010年代前半に開発したもの。PCの細かい動作をトレースできることが売りでしたが、当初はほぼ注目も集まらず、サービス中止を検討していたほどでした。
ところが、2018年の労働基準法改正をきっかけに、従業員の労務管理に「客観的なデータ」が必要とされるようになったことで、問い合わせが急増しました。タイムカードなどが自己申告データと判断される中、代わりに社用PCの利用時間といった客観的データで管理しようと考える企業が増えたんです。
「これはもっと成長するかもしれない」と手応えを感じた私は、2019年6月に単体のクラウドサービスとして『LogVillage timeKeeper』をリリースしました。
折しも翌年からコロナ禍に入り、リモートワークの需要が増加。労働時間の管理がさらに重視されるようになり、ユーザー企業も増加しました。今では、社員数が数万人規模の企業への導入実績もあるサービスとなりました。
「自社の価値を知りたい」という軽い気持ちで登録
ーー会社として順調に業績が伸びている時に、事業承継を検討されるようになったのはなぜですか。
正直なところ、最初は本気で事業承継を検討していたわけではありませんでした。『LogVillage timeKeeper』の業績が安定したおかげで会社は黒字が続いていましたし、私自身、健康面で不安があるわけでもなかったですから。
ただ、後継者がいないまま60歳を迎えてしまったため、これから5年先、10年先を想像すると不安な気持ちに襲われることがあって。特に、従業員や事業の今後を考える中で、「会社も私も元気なうちに、次のステージを考えたほうがいい」と、だんだん思うようになったんです。
ーーそこでM&Aクラウドに登録されたと。
そうですね。大手のM&A仲介会社は小規模案件を扱わないだろうと思っていましたし、いきなり相手企業と直接面談という流れになりそうな会社も、気が進みませんでした。
その点M&Aクラウドは、プラットフォーム上でやり取りが完結するという手軽さが魅力的だったんです。なので、最初は「見積り依頼」のような軽い気持ちでした。そもそも私の会社にどれだけの価値があるのかわからなかったので、まずはそれを探ろうというのが正直な動機だったかもしれません。
ーーM&Aクラウドが、始めるハードルが一番低かったということですね。では、M&Aクラウドに登録後、具体的にどのようなことに取り組んだのか、教えてください。
まずは、M&Aクラウドの担当者が、当社に合いそうな企業をピックアップしてリスト化してくれたので、その中から交渉に進みたい企業を選び、メッセージを送信しました。
すると、意外にも10社ほどから返信があって。その後2~3週間、集中的にオンライン面談を組み、それぞれの企業と話しました。
ーー10社は多いですね。各社からはどのような提案があったのでしょうか。
基本的には全社とも、『LogVillage timeKeeper』の商材を引き継ぎたいという内容でした。ただ、提案されたスキームは様々で、人的リソースは補完するので蒼天のまま継続してほしいという企業もあれば、プロダクトを自社に完全移管したいという企業もありました。
私としては、「製品が残ってさらに成長してくれること」、「今いる社員にとっての10年、20年後が良くなること」だけを考えていたので、どのようなスキームでも応じるつもりでした。
事業部のメンバーと話せたからこそ、具体的な協業イメージがわいた
ーー最終的な事業引受先となったクラウドワークスも、面談に進んだうちの1社でしたね。
実はもともと、当社はクラウドワークスさんのユーザーだったんですよ。プロダクト開発でエンジニアが足りない時に、クラウドワークスさんで人材を募りましたし、『LogVillage timeKeeper』のWebページも、クラウドワークスさん経由でデザイナーに依頼して完成したものなんです。そのため、サービス利用者の立場ではありますが、よく知っている会社だったといえます。
ーー親近感を持って面談に臨めそうですね。
そうかもしれません。あと、クラウドワークスさんの事業部メンバーと事前にコミュニケーションが取れたのはよかったですね。
他の企業は、会社のアピールポイントや想定シナジー、条件などを詳しく話してくれたんですが、それだけだと実際に協業した際の現場の様子はわからないので、私としては決断しづらかったんです。
一方、クラウドワークスさんは、初回面談でM&A担当者や役員の方と話した後、2回目の面談で、一緒に仕事をすることになる現場のメンバーと、フラットに意見交換をする機会があって。条件などを話し合う前でしたが、事業を進めるイメージがつきましたし、「この人たちとなら、蒼天メンバーもうまくやっていけるはずだ」という直感が働きました。
ーー具体的な現場をイメージできたからこそ、確信に近づいたと。では逆に、交渉の過程で苦しかったことなどはありますか。
デューデリジェンスが想像以上に大変でした。私は会社の書類整理が得意なタイプではなく、必要書類がなかなかすぐに集められなかったんです。しかも、営業やカスタマーサポートの仕事も並行しなければならなかったので、本当に苦労しました。身から出た錆と言えばそれまでですが、途中で何度も「もうやめよう」と思いましたよ(笑)。
ーーそれでも諦めなかったのはなぜですか。
乗りかかった船なので、きっちりと最後までやり遂げないと気が済まないというのが一つ。
あとはやはり、クラウドワークスさん以外考えられないと感じたからでしょうか。LOI(意向表明書)を受け取った後も、クラウドワークスさんの印象が全く変わらなかったんです。
LOI前後で、相手企業が豹変したというような話をよく聞いていたのですが、クラウドワークスさんの場合、事業部メンバーからM&A担当者、役員の方、法務や財務の担当者に至るまで、印象が全然変わらなくて驚きました。ちなみに、成約後も全く変わりませんでしたよ(笑)。
元気なうちに事業承継を決め、新たな挑戦を目指す
ーー成約後はどのようにシナジー創出を図っていますか。
毎週月曜日に、クラウドワークスさんの開発・営業メンバーが当社に来て、両社で打ち合わせや調整をしています。
目下、取り組んでいるのは、当社の『LogVillage timeKeeper』とクラウドワークスさんの工数管理クラウドサービス『クラウドログ』を統合し、サービスの質をさらに向上させること。技術的な課題はしばしば浮上しますが、解決できないほどのものはありません。営業面でも、『LogVillage timeKeeper』の特徴や強みを打ち出す資料作りなどが進んでいます。
クラウドワークスさんは意思決定や業務がスピーディーなので、一次的な統合は想定よりも早く完了しそうです。
ーー今後の目標を教えてください。
まずは、『LogVillage timeKeeper』と『クラウドログ』の完全な統合を実現すること。その後の私自身のキャリアについては、まだ何も決めていません。ただ、IT業界しか知らずに死ぬのは惜しいという考えも元々あり、人生も残り少なくなってきている今だからこそ、まったく違う業界で新しい挑戦をしたいと思っています。
ーー最後に、M&Aクラウドの利用を検討している企業に向けて、メッセージをお願いします。
M&Aクラウドは、他のM&A仲介やマッチングサービスと比較して、手軽に利用できるのが魅力だと思います。プラットフォーム上でやり取りは完結しますし、初見でも操作に困りません。
私と同じように後継者で悩みを抱える方もいらっしゃると思いますが、会社が好調で、経営者自身も元気な時には、事業承継の決断はなかなか難しいと思います。実際に私自身も、「あと3年は経営を続けられるのでは」と迷うことがありました。
ただ、もしもその間に病気になったりしてしまえば、会社を存続させることも、新たな挑戦をすることもできなくなります。私は、会社や従業員、そして私自身にとっても、ベストなタイミングで、ベストな選択をしたなと感じています。