「M&Aは、より良いサービスにしていくための手段の一つ」自信作のAIマッチングツールをあえて譲渡し、事業のさらなるスケールを目指す
買い手:株式会社要
売り手:Crossborders Innovation株式会社
公開日:
SES事業や業務アプリケーション開発事業を行っている株式会社要は、2022年11月2日、Crossborders Innovation株式会社から、人材エージェントやSES向けのAIマッチングツール『hachico』の事業を取得しました。両社はどのような経緯で事業譲渡というゴールに至ったのでしょうか。株式会社要 代表取締役の田中 恵次氏とCrossborders Innovation株式会社 代表取締役CEOの茂木 桂樹氏にお話を聞きました。
プロフィール
1970年東京生まれ、早稲田大学卒業。システム開発会社勤務を経て、2010年7月に株式会社要を設立。SES事業を中心にしつつ、アプリ開発、WEBサービス開発を手がける。その他、社員の夢を叶えるための活動にも注力し、コンシューマーゲームの開発や地域活性の支援、SDGsへの取り組みを積極的に実施。最近では、ネパール人社員の思いを形にしたヒマラヤンコーヒー事業も展開中。
慶應義塾大学総合政策学部卒業。商社を経て、インドの大学院で経済学修士を取得。その後、国際開発コンサルティング会社にて南スーダンの政策立案支援、外資コンサルティング会社にて新規市場参入の戦略立案支援などを経験し、2016年にCrossborders Innovation株式会社を設立。
「M&Aクラウドは、フィーを抑えつつカジュアルに使える良いサービス」
――要様がM&Aを検討した理由は?
田中 当社ではSES事業をコアに、大学研究機関向けのアプリ開発やWEBサービス開発なども行っています。特に、子どもの虐待の予防・早期発見を目指したアプリケーションの開発など、社会課題を解決する取り組みに力を入れています。
事業のさらなる拡大を目指すなかで、自社開発にこだわらず、良いサービスや企業があればM&Aすることも視野に入れ、2年ほど前から案件を探していました。特に惹かれる案件もなく時が過ぎていましたが、2022年4月にM&Aクラウドへ登録したところ、今回のご縁に恵まれたという感じです。
――M&Aクラウドを利用してみて、いかがでしたか。
田中 これまでも、M&A仲介会社から提案を受けて面談まで進んだことがありましたが、フィーとサービス内容のバランスが悪く、最終的な決断には至りませんでした。その点でM&Aクラウドは、フィーを抑えつつカジュアルに使える良いサービスだと思います。引き続き当社にとって有用な案件があれば活用していきます。
――M&Aを検討している経営者の方に向けて、何かアドバイスはありますか。
田中 当社はM&Aに初めてチャレンジしましたが、思ったほど敷居は高くありませんでした。M&Aクラウドには多様な企業の情報が掲載されており、まずは話だけでも、というところからスタートできるので取り組みやすいと思います。最初からかっちりと計画を詰めてM&Aを進める方法もありますが、対話をするなかから可能性が広がることもあります。まずはM&Aクラウドを気軽に使ってみるといいのではないでしょうか。
「M&Aクラウド担当者のアシストのおかげで、買い手企業とのやり取りも軽快に行えた」
――Crossborders Innovation様が事業売却を検討した背景を教えてください。
茂木 当社は、ソフトウェアの開発と提供、コンサルティングなどのサービスを行っている会社です。今回譲渡したのは、人材紹介・人材派遣・SES会社向けの、人材情報と求人・案件情報のAIマッチングツール『hachico(ハチコー)』です。
起業した当初は、ナレッジマネジメントシステムを作りながらも悩んでいました。そんな時、人材紹介会社の方から、求人情報と人材情報のストックが増え続けている一方、記憶ベースのマッチングが主流のため、機会損失につながっているという課題を聞きました。そこで、それまでのナレッジマネジメントシステムを応用して開発したのがhachicoでした。
hachico事業は堅調に成長していたので、当初は売却は頭になかったのです。しかし、人材マッチングと一口に言っても実は色々なポイントがあるなかで、私自身が人材業界出身ではないこととリソースの制約などから、そうしたポイントを見極めた上での機能改善・効果検証や営業をもっと効率よくできればと、歯がゆさを感じることはありました。
人材業に精通していて、リソースが豊富で自社プロダクトを運営できる企業に任せれば、ユーザーにとってより良いサービスに発展させてもらえるのではと考え、事業譲渡を検討するようになりました。そんな時にM&Aクラウドを知って登録。担当のプラットフォームアドバイザーに助けてもらいながら、相性が良い買い手企業を探し、メッセージを送りました。要さんはその中の1社です。
――M&Aクラウドを利用してみて、いかがでしたか。
茂木 良い巡り会いの機会をいただき、とても満足しています。特に、担当者のアシストのおかげで、買い手企業とのやり取りも軽快に行えたのがありがたかったです。
譲渡先として要さんは理想的であり、hachicoをさらに伸ばしていただけると確信しています。きちんと引き継ぎの責任を果たしていければと思っています。
――M&Aを検討している経営者の方に向けて、一言お願いします。
茂木 私もM&Aは初めての経験でしたが、田中さんや要の皆さんとコミュニケーションを進めるなかで、自分たちでも気づかなかったhachicoの可能性が見えてきました。今後、hachicoをさらに良いプロダクトにしていただけそうだと期待しています。
自社のプロダクトに興味を持ってくれる人が想定よりたくさんいると感じられたこと、その生の声を聞けたことで、既存のサービスを継続し、より良くしていくための手段としてM&Aは一つの選択肢になり得るものだと確信しました。少しでも売却を検討しているのなら、まず買い手企業と面談して意見を聞いてみて、自社のプロダクトの可能性を探っていくというのもありだと思います。
ディールの一番の難所は、社内からの猛反発
――今回のディールは、Crossborders Innovation様が要様にメッセージを送ったところから始まりました。要様にとって、第一印象はいかがでしたか。
田中 まず、hachicoは「自社で使うのにいいかもしれないな」と感じました。当社のSES事業とのシナジーがあるかを見極めるため、とりあえずお話を伺ってみることにしました。
――初回の面談は7月半ば、Zoomで行われました。
田中 事前に競合サービスをチェックしてから面談に臨み、hachicoについて詳しく説明していただきました。他サービスと比べても、使いやすくて柔軟性のある面白いシステムだと感じました。
茂木 要さんはSES事業者で、ユーザー視点でhachicoを見ていただけそうだと感じていました。また、SES事業と並行して、自社プロダクトの開発・運営も行っているので、当社のサービスもうまく組み込んでもらえるのではないかと期待していました。
最初の面談で田中さんが冷静に話を聞いてくれて、安心しました。評価すべき部分を評価し、確認すべき点を的確に質問してくれたという印象です。要さんとは、引き続き交渉を進めていきたいと思いましたね。
――説明を受けた後、要様の社内で検討したのでしょうか?
田中 そうですね。私自身はhachicoをとても気に入り、ぜひ譲り受けたいと思い、自信を持って社内のメンバーに提案しました。ところが、SESの営業メンバーたちから猛反対されてしまったのです。当社の営業メンバーは、スキルも確かなベテラン揃い。経験の長い彼らからすると、人材と案件のマッチングにツールは不要という意見でした。「あれ、こんなはずではなかったのに」と焦りましたね(笑)。
そこで、茂木さんにお願いして社内説明会を開催しました。詳細な機能やユーザー事例を紹介してもらったり、実際にhachicoを使わせてもらったりしました。
茂木 事前に社内からネガティブな意見が出てきたということは、真剣に議論していただいている証しなので、逆に私にとっては好ましく思えました。譲渡した後に受け入れてもらえないという事態の方が、大変だと思いますから。
説明会では、敵対する者としてではなく、将来的にパートナーになる可能性がある者として、hachicoの使い方やユーザーの声、現状の課題などをお伝えすることができたと思います。
田中 ベテラン営業メンバーは、説明を受けても自分たちが使うイメージをなかなか持てないようでした。ただ、今後SES事業を拡大させていくなかで経験の浅い営業メンバーも増えてくるはずです。そんなメンバーの成長スピードを速めて、一人前に育てていくには役立つツールではないかという結論に至り、ベテランメンバーたちも最終的には納得してくれました。
「これがないと業務が回らない」というクライアントも。事業をスケールしつつ、AIマッチング技術の他領域での応用を検討
――その後はどのようにディールが進みましたか?
田中 8月末の取締役会で承認を得て、買収の意向が固まりました。ただ、当社としても買い手になるのは初めての経験だったので、その後のデューデリジェンスは顧問弁護士と議論を重ねながら慎重に進めました。
技術面のデューデリジェンスについては、両社の開発メンバーで連携を取り、ソースを見ながら打ち合わせを重ねることで、安心して受け入れる体制ができました。当社の開発メンバーは新しいものが好きなので、打ち合わせでは始終ノリノリでしたね(笑)。
営業メンバーは、まずは自分たちが業務で使いこなしきちんと評価した上で、外部に営業していこうということで意見がまとまりました。
茂木 間もなくクロージング目前となった段階で、私は既存のクライアントを訪問し、事業譲渡の件を説明して回りました。皆様驚かれていましたが、要さんがSES事業者としてユーザー視点を持っていること、充実した開発体制を備えていることを説明すると、安心していただけたようで、継続して利用していただけることになりました。
田中 私も何社かの既存クライアントにお話を伺いましたが、「hachicoがないと業務が回らない」など、高い評価を得られていることがわかりました。また人材領域以外でも、AIマッチングの技術はさまざまな領域で応用できると思い、hachicoに可能性を感じました。
――2022年11月2日にクロージングとなりました。その後の引き継ぎはどのように進めていますか?
茂木 三つのステップで考えています。一つ目はシステム上の移行。これは両社のエンジニアで連携して行います。二つ目は既存クライアントの方々とのコミュニケーション。要さんのご担当の方をしっかりご紹介することに加え、各社のご要望などを共有し、今後のやり取りが円滑に進むように努めています。三つ目は、新規ユーザーからの問い合わせ対応などのサポートです。これまでの営業・導入支援・Q&Aの情報などを整理してお渡しすることにしています。
――今後、hachicoはどのように展開されていくのでしょうか。
田中 当社のSES事業を伸ばすためにhachicoを社内で活用します。その実績を基に、同業のSES会社を中心に営業をかけていきます。人材紹介・派遣会社もターゲットとなりますが、そこに営業するのは次の段階です。強力なソリューションを手に入れたことに新たな可能性を感じ、ワクワクしています。
Crossborders Innovationさんが心血を注いで開発したhachico。名前もいいし、アイコンもかわいい。子どものように愛着を持って、しっかりスケールさせていきたいと思っています。
――ところで、hachicoというネーミングの由来は?
茂木 hachicoがマッチングさせる人材と企業は、どちらも人材会社にとっては宝物です。そこで宝物を掘り出すアシスタントとして思い浮かべたのが「ここ掘れワンワン」の犬です。当社のオフィスが渋谷にあることから、渋谷の象徴でもある忠犬ハチ公を思い浮かべ、hachicoとしました。忠犬ハチ公は映画にもなりましたから、グローバルにも通用するネーミングだと思います。
当社はhachicoを引き継いだ後のことは、まだ具体的には決めていません。新規事業の案を練りつつ、引き継ぎに全力を注ぎたいと考えています。
――本日はどうもありがとうございました。両社の今後の発展を期待しています!
■本ディールの経緯
2022/04/08 Crossborders Innovationが『M&Aクラウド』に登録
2022/04/27 要が『M&Aクラウド』に登録
2022/07/07 Crossborders Innovationから要に打診(PA長井のアシスト)
2022/07/15 初回面談(WEB:双方の事業内容紹介等)
2022/08/03 2回目面談(対面:Crossborders Innovationプロダクトのデモンストレーション等)
2022/11/02 クロージング
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本ページに掲載している情報には、ディールが成立するに至る経緯に加え、インタビュー時点での将来展望に関する記述が含まれています。こうした記述は、リスクや不確実性を内包するものであり、環境の変化などにより実際の結果と異なる可能性があることにご留意ください。