オフライン×オンラインで新規事業を共創へ!事業譲渡が「想定外」の資本業務提携に発展するまで
投資家:株式会社コパン
公開日:
2024年3月、中部・関西・北陸エリアを中心にスポーツクラブ・スイミングスクール事業を展開する株式会社コパンは、テクノロジーに強みを持ちオープンイノベーション型の事業共創を得意とする株式会社80&Company(エイティーアンドカンパニー)と、事業譲渡および資本業務提携の契約を締結しました。
当初は、コパンが80&Companyのスポーツクラブ店舗の事業を譲り受ける話から始まったが、話を進める中で資本業務提携まで発展したとのこと。コパン・代表取締役社長の市岡史高氏と、80&Company・代表取締役の堀池広樹氏、取締役の片山貢一郎氏、吉野崇史氏に、その経緯を聞きました。
プロフィール
名古屋大学農学部卒業後、同大学大学院生命農学研究科博士課程に進学。日本学術振興会特別研究員として研究し博士号を取得。在学時にイギリスのカーディフ大学に研究留学。新卒でトヨタ紡織に入社し、技術者としてドイツに赴任。社会人として働きながら、BBT大学大学院に入学し経営管理専攻修士課程(MBA)を修了。コパンに入社後、マーケティング・プロモーションを担当し、専務取締役管理本部長兼経営企画室長に就任。2023年4月より、現職。
2010年、京都大学薬学部薬科学科4年次に起業し、株式会社SAMBARを設立、学習塾の経営を始める。その後、ウェブ受託開発事業等を経てゲーム関連メディア事業を開始し、2016年にはフィリピンに現地法人を設立。2017年、初めての第三者割当増資による資金調達を実行する。 2018年10月に株式会社80&Companyを設立、代表取締役に就任。
1988年生まれ。立命館大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。2015年当時、京都府最年少の行政書士として開業し、創業融資や公的補助金獲得等のファイナンス支援で年間約3億円の調達を実施。その後WEBマーケティング支援を展開するベンチャーの取締役を務め、新規事業企画、マーケティングを統括。2021年より80&Companyにジョインし、新規事業企画、補助金獲得、事業戦略&実行に従事。
東京大学/大学院を卒業後、三菱商事に入社。農業分野にてインドJV現地マーケ・経営改善や、日本最大農協とのJV設立・経営基盤確立に尽力。SkymatiXへ転職後はAI画像解析・GIS技術等を活かした革新的サービスを複数世に出す。その後独立し教育事業を行いながら2021年10月に80&Companyに参画、翌年1月にCOOに就任。
スポーツクラブ業界では珍しい、小規模M&Aを続けて事業拡大
――はじめに、コパンの事業内容を教えてください。
市岡:当社は、スポーツクラブとスイミングスクールの運営を中核事業としており、現在の直営スポーツ施設数は、中部・関西・北陸エリアで67店舗となっています。エリアを絞って集中的に出店するドミナント戦略により、運営の効率化を図っています。
当社の特徴は、店舗の約8割が事業譲渡で譲り受けた施設という点。事業譲受や居抜き出店により、1店舗ずつ店舗数を拡大してきました。この業界および企業規模でこうしたスタイルは珍しく、当社の強みになっていると思います。
――M&Aで拡大するスタイルは業界的に珍しいのでしょうか。
市岡:大型のM&A(数十店舗を有する企業の株式譲渡)は時々ありますが、当社のように小型のM&A(1~2店舗ずつの事業譲受)を繰り返している企業は他にありません。当社が主に取り組んでいる案件は、小型かつ不採算店舗であることが多いため、成長戦略の観点では非効率ということがあると思います。しかし、当社としては、譲受後に大幅な収益改善を図る必要があるため、1案件あたりの店舗数は多過ぎない方が良いということがあります。
当社は約30年前に、4店舗のスイミングスクールからスタートしましたが、当時の収益力では新店舗をゼロからつくることは容易ではありませんでした。そこで、さまざまな理由で手放される店舗を譲り受けて拡大する戦略を取ってきました。施設の老朽化、後継者の不在、コロナ禍での業績悪化などにより譲渡案件が増えてきたことで、結果として今の事業規模となりました。
――M&Aクラウドのサービスを利用し始めた理由も、このビジネスモデルに関連していますか。
市岡:はい。当社がスポーツクラブ・スイミングスクールのM&Aに積極的に取り組んでいることを知ってもらうことを目的に、2020年11月からM&Aクラウドを利用しています。その中で今回、80&companyさんから連絡が来たのがはじまりでした。
ソフトウェア開発に強み、新規事業の企画から考えるスタートアップ
――続いて、80&Companyの事業内容を教えてください。
堀池:ソフトウェア開発を中心に、さまざまな企業と連携しながら新規事業開発などを行っています。2018年に京都で創業したスタートアップで、生成AIやブロックチェーンなどの最新テクノロジーを活用して、企業と一緒に新サービスを生み出し、それらを活用して会社の業務を効率化するといった事業が中心です。開発領域だけでなく、その手前の事業企画から入って支援をすることが当社の特徴です。
さまざまな企業と新規事業を共創しており、事例としては、大手地方新聞社とつくった伝統工芸品のサブスクリプションサービスや、子ども向けアミューズメント施設を運営する企業と製作したオンラインスクールなどがあります。後者は、遊びながら想像力や思考力を伸ばせるコンセプトとなっています。
――コパンとはまったく異なる事業領域ですが、M&Aクラウドを通じてコパンへ打診した理由を教えてください。
堀池:当社はソフトウェア開発からスタートしましたが、ビジネスを行う中で、開発後のプロモーションや、ソフトウェアに限定しない、ハードも含めたプロジェクトに進出するなど、事業領域を広げていきました。
その一つとして、大阪府吹田市の総合スポーツクラブ「PRONO緑地公園」の運営事業も手がけていたのです。もともとフィットネスジムがメインだった店舗を当社が買い取り、従来のジムにスイミングスクールも加えて運営し始めました。
しかし、今後運用をつづけることを想定すると、当社ではフィットネス施設の運営ノウハウや人員が不足していたため、事業の選択と集中を進める中で、PRONO緑地公園の譲渡を考えたのです。
ーーそれでM&Aクラウドを利用されたということですね。
堀池:まずは、スポーツクラブやスイミングスクール業界を調べ、関西エリアで新規出店している事業者や、店舗の譲渡に関心のある事業者を探しました。コロナの影響も相まり、この業界で新規出店や店舗買収を行う事業者は非常に少ないことが分かる一方、コパンという、関西で既存店舗を多数譲り受けて出店している企業があることを知りました。
さらにWebで調べると、コパンさんがM&Aクラウドに掲載されている記事がでてきたんです。これはアプローチするしかないと考え、M&Aクラウドから連絡をしました。
「異業種の協業パートナーが欲しい」予定にない資本業務提携に
――その後、実際に「PRONO緑地公園」の事業譲渡が決まり、現在は「コパンスポーツクラブ緑地公園」となっています。
市岡:最初の連絡が来たときから、この店舗を譲り受けることについて前向きに考えていました。施設の存在は以前から知っていましたし、80&Companyさんが入ってからはスイミングスクールも付加されており、当社が引き継ぎやすい事業形態となっていたんです。前年に桜宮店(大阪市都島区)を出店していたこともあって、当社のエリアドミナント戦略に組み込めると考えました。
堀池:最初にご連絡したのが2023年10月下旬で、翌週にはオンラインでお話ししましたよね。その数週間後に実際に店舗を見学していただき、そこで事業譲渡にはおおむね合意をいただきました。
その後、実際に事業譲渡したのが2024年3月。手続きなどを加味した“最短”の譲渡スケジュールでした。この事業のコストが嵩んでしまうため、なるべく早くお渡ししたいと考えていましたし、スピーディに進展したのは良かったです。
――今回、店舗の譲渡に加えて資本業務提携も結んでいます。なぜでしょうか。
市岡:これは当初まったく想定していない展開でした(笑)。きっかけは、店舗を見学した後、80&Companyの皆さんと食事に行ったことです。どのような事業をしているのか、これから何をしようとしているのかを伺う中で、事業内容や得意領域に興味がわき、何か事業を一緒にできればと考えたんです。
ーー具体的にはどのような事業での協業をイメージされたのでしょうか?
市岡:われわれのビジネスは毎月決まった会費をいただくものであり、それだけに同じことの積み重ねになりがちです。安定はしていますが、人口減少や少子高齢化により、徐々に収益性は低下していくことが予想されます。将来のことを考えると、M&Aによる既存事業の拡大だけでなく、新たなビジネスの柱をつくっていかなければなりません。
もちろん当社でも、新規事業を考えようと社内で議論を行っていますが、自分たちができること、得意なことから考えてしまうため、斬新なアイデアは出てきません。まったくの異業種であり、お互いの利害を取り合う関係ではない、本当の意味で協業できるパートナーが欲しかったのです。
堀池:私たちとしても、コパンさんから学べることや、反対に当社が持っていてコパンさんをサポートできることがたくさんあると感じました。スポーツクラブの運営方法や他の事業者の店舗を取り込むノウハウは自社にない点ですし、一方で、ソフトウェア領域は私たちがサポートできる面が多分にあるはずです。コパンさんの資産を活かして、新しい事業を一緒につくろうという話になりました。
新サービスを展開して地方の事例づくり、両社が感じる提携メリット
――その後は、どのように資本業務提携の締結まで進んだのでしょうか。
堀池:コパンさんの事業に私たちがどう関われるか、いろいろなアイデアや条件を提示しながら、資本業務提携の内容を決めていきました。大きな滞りもなく、スムーズに進みましたね。こちらも2024年3月に締結しています。
市岡:こうした提携は当社にとって初めてでしたが、すんなり話がまとまりました。80&Companyの皆さんは若くてエネルギーがあり、バックグラウンドも多種多様で面白いと感じます。私たちとはまったく違う方向からアイデアが出てくるので、不安よりも楽しみが大きかったですね。
――すでに提携から数カ月経っていますが、両社が行っていることを教えてください。
吉野:定期的なディスカッションを行い、私たち80&Companyから新規事業や課題解決のアイデアを提示しています。スポーツクラブやスイミングスクールが抱える課題を、テクノロジーやソフトウェアで解決していきたいですね。
市岡:ソフトウェアやシステムをわれわれが内製することはできません。そのため、今までは世の中にあるものを使うしかありませんでした。今回の提携ではそういった制約事項を取り払って考えることができるため、非常に可能性があると感じています。
片山:コパンさんと細かくやりとりしていますが、私たちを受け入れてくれる姿勢や懐の深さに感謝しています。違う業界の人間の意見をここまで聞いていただけるのはうれしいですね。
――これからの展望についてお願いします。
市岡:コパンの資産は、67店舗の施設と、約8万5000の会員のみなさまです。その方々に新しいサービスを付加できる余地はたくさんあるでしょう。また、これだけの会員がいるなら、当社以外の企業のテストマーケティングを会員の方に展開するといった試みも考えられます。会費をいただくだけでなく、いろいろなアイデアで付加価値をつけられればと思いますし、80&Companyさんと一緒にその形を見つけていきたいと思います。
堀池:お互いの強みを活かして多くの事例をつくりたいですね。この提携をきっかけに地方でさまざまな事例をつくると、80&Companyにとっても次の地域ビジネスの足がかりになると考えています。なぜなら、地方企業の方とお話ししていると、自社で何かをしたいとき、参考になる先行事例があると動きやすいという声が頻繁に聞かれるからです。
コパンさんには、施設や会員といった当社にない資産があります。それらをもとに、当社だけではできないことにも挑戦したいですね。さらに、コパンさんと別の企業が提携して何かをできる可能性もあります。そういったこともバックアップしたいですね。
――最後に、M&Aクラウドを利用した感想を伺ってもよろしいでしょうか。
堀池:全体的に返信率が高く、アプローチすると高確率で相手企業から反応をいただけるのはいいですね。また、最初から仲介者が入らず、直接お話しをできるからか、今回のように「想定していない展開」が生まれやすいと思います。資金を調達する、事業や企業を売買するだけにとどまらない可能性があるのではないでしょうか。
市岡:このツールの便利な点は、記事を一度つくれば、あとは細かな修正のみで募集をコンスタントに行えることです。ゼロから当社の事業やM&Aの実績を説明することなく、「このページを見てください」と一言で済むのもいいところです(笑)。
検索にも強く、ヒットしやすいのも良い点だと思います。ページを見てご連絡いただける機会も増えていますし、今回のように想定していなかったお相手との良い出会いが増えるといいですね。