「意志決定までわずか40分程度だった」プライバシーテックのPriv Techが語る、迅速な資金調達の背景とは

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「意志決定までわずか40分程度だった」プライバシーテックのPriv Techが語る、迅速な資金調達の背景とは

企業のプライバシー対策を支援するPriv Tech株式会社は、2023年9月14日、事業会社や個人投資家を引受先とするJ-KISS型新株予約権発行により7000万円の資金調達を実施しました。

Priv Techが出資企業の1社である株式会社アガルートとの接点をつくったのは「資金調達クラウド」でした。その後、両社は協業を進め、11月には協業によるサービスの提供を開始するなど、早くもシナジーを発揮しています。

今回はPriv Tech代表取締役の中道 大輔氏に、資金調達の経緯や、今後の事業展開などについて語っていただきました。

プロフィール

Priv Tech株式会社 代表取締役 中道 大輔(なかみち・だいすけ)

2007年東京電機大学卒業後、株式会社CSKシステムズに入社。大手アパレルメーカーに常駐し、システムの保守運用を担当。その後ヤフー株式会社のデータビジネスストラテジーや広告事業の中期経営計画策定のプロジェクトマネージャー、ソフトバンク株式会社のグループを横断したデータ利活用PJの中心メンバーなどに従事する。2020年1月、Priv Tech株式会社を設立し代表取締役に就任。2022年3月に、MBOを実施し新たなスタートを切る。

参入障壁の高いプライバシー対策分野でサービスを提供

――Priv Techの事業概要についてご説明をお願いします。

Priv Techは、いわゆるプライバシーテック企業です。企業の個人情報保護法や改正電気通信事業法などの国内のプライバシー関連法をはじめ、GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などの海外法やベンダーによるクッキー規制への対応をご支援するためのサービスやコンサルティングを提供しています。

具体的には、同意管理プラットフォーム「Trust 360 同意管理」や、改正電気通信事業法における外部送信規律の義務のうち“公表・通知“に特化したツール「Trust 360 電気通信事業法対応」といったSaaSを提供しています。また、プライバシー規制対策や、Google社等のサードパーティークッキー規制への対策を支援するコンサルティングサービスも行っています。

売上構成比では、SaaSが全体の6割を占め、残り4割はコンサルティングサービスとなっています。

――どのような企業が導入しているのですか。

ナショナルクライアントを中心とした大企業がほとんどです。累計ライセンス数は、2023年11月時点で219に達しています。1ライセンス当たりの料金は月額55,000円(税込)から。ライセンス数は順調に伸びていますが、利益が出るまでにはもう少し時間がかかりますね。

――競合相手は多いのでしょうか。

外資系・日系それぞれ1社の競合がおり、当社を含めた3社で比較されることがほとんどです。デジタルマーケティングに関する技術はもちろん、法律の知識を持っていないと提供できないサービスなので、参入障壁の高い分野といえます。

データを使う側から守る側へ、グロースさせるための資金調達へ

――中道さんのご経歴をご説明いただけますでしょうか。

私はソフトバンク株式会社やヤフー株式会社などに在籍して、データビジネス領域の新規事業立ち上げを経験してきました。あるとき、株式会社ベクトルから、データを使った新規事業を始めたいという相談を受け、「これからはデータを使うのは難しくなる。守る方が事業化しやすい」と提案しました。

そして同意管理プラットフォームのサービスを立案し、自分でこれをやってみたいと思い、2020年1月に会社設立と同時に代表取締役に就きました。当時は株式会社ベクトルと株式会社インティメート・マージャーの合弁会社で、私は雇われの社長としてのスタートでした。

その後、主要株主のベクトルの経営体制が変わったときに、私が個人で株を買い取ってMBO(マネジメント・バイアウト)を実施。2022年3月に新たなスタートを切りました。

――事業の将来性を信じてMBOを実施したということでしょうか。

同意管理プラットフォームのクライアントがたくさんいたので、サービスを辞めるわけにはいかないと感じたんです。これまでソフトバンクやヤフーで、データを「使う側」だったので、これからは「守る側」としての責任を果たしたいという思いもありました。

したがって、「起業家として成功するぞ」と意気込んでいたというよりも、「しかるべきタイミングでバトンを受け取った以上は、しっかりとグロースさせていかなければ」という使命感のほうが大きかったですね。

――MBO後、グロースさせるために資金調達を実施してきたのですね。

2022年9月、J-KISS型新株予約権発行によって、5,550万円の資金を調達しました。さらに1年後の2023年8月、アガルートなどの事業会社と個人投資家複数名を引受先として、2回目のJ-KISSによる7,000万円の資金調達を実施しました。

資金調達クラウドなら「接点のない企業とも即つながる」

――アガルートからの出資は資金調達クラウドがきっかけでした。今回、資金調達クラウドを利用した経緯は。

もともとは、VCから大きな金額を調達するつもりでいたんです。しかし昨今、SaaS業界に対するVCの評価がややネガティブになっているなか、思うような金額を調達できないのではと考えました。また、VCから調達するということは、必然的にIPOを目指すことになりますが、私としてはまだ出口戦略を決めかねていました。

とはいえ、事業を加速させる必要性はある。そこで現時点ではCVCや事業会社からの出資を優先することにしました。そこで出資先を探すことになるのですが、資金調達クラウドを利用したのは、当社が業務委託している外部CFOが提案してくれたことがきっかけでした。

――資金調達クラウドを使ってみていかがでしたか。

とても良かったです。カスタマーサポートの担当者に希望する条件を伝えたら、アプローチする出資企業のリストを作って送ってくれたのですが、相性がよさそうな会社が多いという印象でした。最初のダイレクトメッセージも担当の方が送ってくれたので負担もなくスムーズに進められました。そのなかで、返事をいただいた約10社とは面談に進みました。

――出資企業との面談ではどのようなことを話したのでしょうか?

プライバシーテックは、個人のプライバシーを安全に保護するための技術なので、ビジネスを説明しようとすると「企業による個人データの適切な活用」と「個人情報の保護」が関係します。そのため、出資企業にはアドテクノロジーや法律について質疑応答で話すことが多かったですね。この分野に理解のある人はそもそも少ないので、説明するのに苦労した面談もありました。

今回、出資を決めていただいた事業会社の皆さんはいずれも理解が早く、意思決定も一瞬でした。アガルートはアドテクノロジーの会社ではありませんが、弁護士資格の講座や企業研修を展開しているので法律に強い会社です。最初の面談から岩崎社長が出てきてくださって、40分くらい説明した程度でしたが、とんとん拍子に話が進みました。

――今回の資金調達で大変だったことは?

面談に私の時間が取られてしまうことでした。社員10名の会社なので、営業もプロダクト開発もまだまだ私が中心です。私が面談に時間を取られてしまうことで、本来の業務に割く時間が減ってしまったことは否めません。

ただ今回は、資金調達クラウドを利用して、私の手間の大部分を省略できました。コネクションがない10社を自分で開拓して面談してもらおうと思ったら、すごく時間と手間がかかりますよね。でも資金調達クラウドなら、多数の事業会社との面談が瞬時に決まりますし、1回の面談でほぼ合意形成が取れます。その点はすごく助かりました。

また、調達する私たちの手数料が無料というところもいいですよね。実績のある事業会社に出資してもらい、シナジーを創出することで成長につながります。

――今回の提携ではどのようなシナジーを想定していますか?

アガルートとは2023年11月に、法人向けの個人情報保護・データ利活用研修の提供を開始しました。これによって、法律改正等でプライバシー保護の機運が高まるこの時代において、企業のプライバシー保護を意識した健全な企業活動を支援していく予定です。イメージ通りのシナジーが創出できていますし、そのほかの出資会社である株式会社イード、株式会社Relic、株式会社ロンバードとも、具体的なシナジーを描いてディスカッションを進めています。

守りと攻めの両面で、クッキーレス時代のトッププレイヤーへ

――今後の資金調達の予定は?

次はシリーズAとして、VCから1、2億円程度の調達を検討しています。フォローではCVCにも出資していただくことを検討しています。例えば金融機関系のCVCやアドテク系のCVCとは相性がいいのではと考えています。調達した資金は成長のための開発費などに充てる予定です。そしていずれはIPOを目指すことを決意しました。

――今後の事業展開を教えてください。

2022年に個人情報保護法が、2023年には電気通信事業法が改正されました。また、2024年はGoogleがクッキー規制(クッキーが保存するユーザーの情報利用制限)を始めます。プライバシーに関する規制は年々厳しくなっています。

このことはインターネットを使ってビジネスしてきた企業に大きな影響を与えています。プライバシーをないがしろにしたからこそ実施できていたマーケティング施策は今後できなくなるため、広告やマーケティングの効率が悪化する企業が出てくるでしょう。こうした背景から、パーソナルデータの活用とプライバシーの保護を両立させる「プライバシーテック」や「クッキーレス広告」(クッキーを使わないで配信するオンライン広告)の仕組みへの注目度は非常に高まっています。

しかしながら、そこに対してスタンダードとなる広告サービスを提供する事業者はまだ現れていません。インターネットを利用してビジネスを展開する企業も、どう対応していいかわかっていないのが現状です。

当社としては、プライバシー保護といった「守り」に加え、クッキーに依存しないマーケティング施策といった「攻め」も含めて、両面でサービスを提供し企業を支援していきます。来年以降爆発的に成長し、クッキー規制移行のプライバシーに配慮したマーケティング分野のトッププレイヤーになるために、今動いているところです。

――事業会社からの出資を検討している起業家の皆さんへ、アドバイスはありますか?

ある程度PMFできている状態なら、事業会社からの調達にチャレンジしてもいいと思います。資金調達クラウドでの調達は“一瞬”という感じでしたよ。面談も交渉もオンラインでサクサクとスムーズに終わります。しかも今回は第三者割当増資ではなく、J-KISS(型新株予約権)を使って数千万円調達できたことが大きいです。起業家の方なら、まずは資金調達クラウドを使ってみることをおすすめします。

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