船舶事業が起源の老舗企業が、VRスタートアップに出資!飛び地領域で築き上げるパートナーシップとは

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船舶事業が起源の老舗企業が、VRスタートアップに出資!飛び地領域で築き上げるパートナーシップとは

船舶や精密加工をはじめ、幅広い領域でグループ経営を展開する株式会社カシワグループは、独自技術を核にVRコンテンツを企画・開発するスタートアップ、株式会社UNIVRS(ユニバース)へ出資を行いました。

一見、事業領域がかけ離れているように見える両社。どのような協業メリットを見出し、成約に至ったのでしょうか。カシワグループCOOの山下達郎氏と、UNIVRSでCEOを務める藤川啓吾氏に、その経緯と決め手を伺いました。

プロフィール

株式会社カシワグループ 取締役 最高執行責任者 山下 達郎(やました・たつろう)

慶応義塾大学を卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。2005年にネバタ州立大学ラスベガス校でMBAとホテル経営学修士を取得。その後、米国のHyatt Hotelを経て、当時、ゴールドマンサックス子会社であった日本のホテルアセットマネジメント会社、ホテルオペレーション会社でホテルの業績向上を支援。2015年より、祖父三兄弟が創業した株式会社カシワテック(現カシワグループ)の子会社である株式会社シーメイトに入り、代表取締役社長に就任。現在はCEOである兄と共に、株式会社カシワグループのCOOとして、グループ企業の成長の伴走支援をしつつ、新たなグループ企業探しに取組む。

株式会社UNIVRS CEO 藤川 啓吾(ふじかわ・けいご)

福岡県出身。CIデザイナーとしてキャリアをスタート。「0からプロダクトを作り出せる力が欲しい」と感じ、エンジニアに転向。エンジニアとしてゲームアプリなどの開発を経て、2013年12月にLogbarに入社。ジェスチャーを使ったユースケースをひたすら考え続けるLogbar時代に2015年のCESでウェアラブルデバイスRing専用のVRゲームを出展したことがきっかけでVR開発への本格的な取り組みを開始。2016年7月にエンジニアの弟の藤川駿とUNIVRSを立ち上げ、VR兄弟として事業に取り組む。

信頼関係を土台に兄弟で創業 シリーズAの資金調達を目指して

株式会社UNIVRS CEO 藤川啓吾氏
株式会社UNIVRS CEO 藤川啓吾氏

ーーUNIVRSは、VRコンテンツの企画開発を行っていると伺いました。創業に至った経緯を教えてください。

藤川:VR関連の製品が登場し始めた2016年頃、「VRはいずれ世界を変える技術になる」と確信したんです。その世界が変わる瞬間に、当事者として立ち合えないのは悔しすぎると思って、起業を決意しました。後に「VR元年」と呼ばれるようになる年で、「今なら最前線で活躍できるはず」という勝算もありました。

ーー今回、どのような経緯で資金調達に至ったのでしょうか。

藤川:今回の資金調達は、シリーズAのセカンドフェーズに当たり、人気アニメVRゲームの開発強化と、その次の事業への投資という目的がありました。

私たちは、VR普及のハードルになるのは「酔い」だと考え、その酔いを防止する移動技術を独自開発することで、他社と差別化を図ってきました。その上で、VRデバイスの利用が広まっているVRゲームに注力してきたんですが、今回の資金調達でさらにその事業推進力を上げたかったんです。

そんな時にたまたま知り合いの経営者から、資金調達専門のプラットフォームがあると聞いて、資金調達クラウドに登録しました。

「ゲームすらしたことない」それでもVRスタートアップの出資打診を快諾した理由

株式会社カシワグループ 取締役 最高執行責任者 山下 達郎氏
株式会社カシワグループ 取締役 最高執行責任者 山下 達郎氏

ーーカシワグループが、出資を検討されるようになった背景を教えてください。

山下:当社は社会に新たな価値提供を目指す純粋持株会社で、グループ企業間のコミュニケーションのハブとなり、またグループ企業を伴走支援することでグループ各社の成長を促す役割を担っています。

現在のグループ企業は、船舶関連事業の3社と精密加工事業の2社ですが、今後は既存事業以外の事業領域でも仲間をさらに増やすことで事業の多角化を図り、ゆくゆくは社会に新しい価値を提供する企業が集まったコングロマリットになることが目標です。なので、基本的に出資活動においては、M&Aによりグループの一員としてジョインしてもらい、グループ内のリソースを活用しながら成長を目指していただける企業を対象としています。

ただ、マイナー出資を通して新しい価値を提供するという道もあると考えており、M&Aクラウドから、「M&Aだけでなく、出資ニーズを発信する『資金調達クラウド』の記事を同時に出しませんか?」という提案をもらい、可能性を感じたため記事を出すことにしました。スタートアップは、新たな価値を提供すること自体を存在意義としている。その成長を応援することは、当社の目指すことに通じると考えています。

ーーそして、カシワグループが資金調達クラウドを利用いただき始めた直後に、UNIVRSとマッチングされていますね。

藤川:資金調達クラウドの担当者と面談しながら、いくつかの候補企業に打診していたんですが、カシワグループはその面談中にすぐ返信が返ってきたんですよね。担当者とは、「もう返事が来ましたよ!」「じゃあ早速返信しましょう!」と、興奮気味に話していたのを覚えています。しかも、その日は偶然、私の誕生日でした(笑)。

山下:それは初耳です。実はたまたま当社にとって打診をもらったタイミングが良かったんです。掲載記事の編集などで、M&Aクラウドと密にやり取りをしていた時期だったので、この打診には誠意をもって応えなければという思いがありました。

ーーVRというと、一見カシワグループの事業内容からはかけ離れているように思えますが。

山下:そうですね。しかも私自身、VRはおろかゲームすらしないタイプの人間なので、正直なところUNIVRSの事業内容を見た時は、「全くわからないな」という印象でした(笑)。

ただ、当社が目指すのはコングロマリット。隣接領域に限らず、むしろ全くの飛び地分野でも仲間を増やしたかったんです。互いの事業領域を全く知らない企業が集まった方が、知見の広がりや新たな視野を得られますし、グループ自体が強くなっていきますから。

特にエンタメ領域は、ビジネスとして無限の可能性があると感じていました。なので、M&Aクラウドさんを通じてUNIVRSさんの打診をもらった時は、食わず嫌いにならず、機会を大事にしていこうと思った覚えがあります。

異なる事業領域でも「ビジョンに共感」 いずれ未来は交差すると確信

ーーマッチングから数週間後に、初回面談を行われたとのことですが、互いにどのような印象でしたか。

藤川:「とても話しやすい方だな」と思いましたね。VRとの関連度が高くない企業の中には、「本当に世界を変えるだけの力があるのか」「絶対、成果があると言えるのか」と、VRに対して懐疑的な質問を投げかけてくる方もいるのですが、山下さんは一切それがなかったんです。先ほど、「食わず嫌いにならず」とおっしゃっていましたが、まさにうがった見方や偏見なしに、素朴な質問をしてもらった記憶があります。

山下:「VRとは何か」よりも、「なぜVRをやりたいのか」「VRで何をやりたいのか」という観点で質問しましたよね。私としては、新しい価値の提供に対して、どれだけ強い思いと覚悟を持っているかを見極めることが重要だったので。

ーーそのような質問の観点だったからこそ、話しやすさが生まれていたのかもしれませんね。逆に山下さんから見た藤川さんは、どのように映りましたか。

山下:「真面目で誠実」ですね。まず、藤川さんがVRに取り憑かれていることは一目でわかりました(笑)。ただ、藤川さんの本当にすごいところは、実際にその熱い思いをプロダクトとして形にし、実現していたことなんです。

しかも、今後の目標を達成するまでの戦略や戦術も、理路整然としていた。最近では、「TAM・SAM・SOM」のように、市場の大きさばかりを強調して、その市場を取っていくための方法を十分に検討していない企業も多い中で、藤川さんはそれを達成するための計画もきちんと立てていたんです。過去に失敗した内容を踏まえて戦略や戦術をアップデートしている様子や、その案を実現するための組織構築も万全な様子が伝わりました。

新しいことに挑戦しながらも、地に足を付けているというところが信頼できるなと思ったので、前向きに出資を検討しようと決めました。

ーー初回面談から、互いに好感触だったんですね。その後はどのようにやり取りを進めていったんでしょうか。

藤川:山下さんから「UNIVRSに出資している他の企業の方ともぜひお話をしたい」依頼を受けて、私たちに出資してくださっている他の企業や、私たちが実際に一緒に仕事をしている取引先の企業の担当者を紹介しました。

山下:そうですね。これまでの出資は、すべて知り合いを介していたので、まったくの「初めまして」の状態から出資するのは、当社にとって今回が初めてだったんです。出資を決定する視点や既存株主や取引先の方がどのようにUNIVRSさんを見ていらっしゃるのかを知りたかった。利害関係者から話を聞くことで、より深く企業を評価、理解出来ると思っていました。

藤川さんの人柄は信頼できると思ったものの、出資という判断をする以上は、慎重の上にも慎重を期したかったという思いもあったんです。

ーー実際、UNIVRSに関わっている社外の方々とお会いされてどうでしたか。

山下:「自分の印象や評価は正しかった」と、確信を深められました。技術力ももちろんなのですが、藤川さん兄弟とCOOの小路さんという経営陣の人柄を皆さん高く評価されていたんです。「だからこそ、応援してあげたいんだ」という皆さんの強い気持ちを感じて、私も自分の感覚が正しかったと思えましたね。

藤川:ポジティブな評価だったということで、一安心です。あとは、山下さんにオフィスに来てもらって、実際にVRを体験してもらいましたよね。やっぱり、VRって体験しないと価値がわかりづらいので。

山下:そうそう、人生初のVR体験でした(笑)。酔って気持ち悪くなるようなこともなく、本当に飛んでるような感覚を味わって、ここまでリアルなんだと感動しました。すごく面白いなと可能性を感じましたね。

ーー実際に体験することで、事業の展望も見えたと。その後、初回面談から2か月あまりで契約に至りましたが、カシワグループにとっては、何が決め手となったのでしょうか。

山下:いろいろな要素がありますが、組織運営におけるもっとも大切な価値感が我々と同じだったのが、一番印象に残ったポイントです。藤川さんにどんな組織運営をしたいのかと尋ねた時、「社員が自己実現できる組織にしたいです」とおっしゃっていて、カシワグループがグループ全体のメンバーに考えていることとまさに同じでした。

藤川:私たちのビジョンがそもそも「すべての人をHEROに」なんですよね。VRを通して、誰もがなりたい自分になれるような世界を実現したいんです。そのためには、まず社員が、なりたい自分になれるような環境を作らなければと考えていました。

山下:技術や市場があったとしても、組織が追いつかなければ、会社はそう簡単に成功しません。その点、藤川さんは、組織運営に明確な想いを持っていた。こういう方が率いている会社なら強くなるだろうと確信して、本出資に関わる社内の稟議書にも、この社員の自己実現を大切になさっていることは、しっかり書きましたね。

ーー組織づくりの面で、会社の成長可能性を確信したんですね。一方、UNIVRSにとっての決め手は何だったのでしょう。

藤川:もともと、面談を重ねる中で、事業シナジーというよりは、「山下さんに株主になってほしい」という思いが強くなってはいたんです。私たちを応援してくれるのも嬉しかったですし、さまざまな経験をしてきた経営の大先輩だからこそ、いざという時に頼らせてもらいたいという気持ちもあって。

でも、最終的に決め手となったのは、私もビジョンへの共感でしたね。カシワグループさんは、「変化を好み、変化を読み、変化に挑む」という行動指針を掲げられていて、積極的に新しいことに挑戦しようとしているんです。今は事業領域が離れていても、互いに新しい領域にチャレンジして、未来を切り開いていけば、いずれ必ず道は交差するだろうと思いました。

企業ネットワークとVR技術 互いの強みを生かし、シナジー創出へ

ーー今後、どのように協業しようと考えていらっしゃいますか。

山下:いずれは、当社が約80年にわたって育んできたBtoB企業のネットワークを生かして、連携を本格化していきたいと考えています。VRが社会に浸透していくにつれ、企業も対応を迫られることになるでしょうが、大半の企業は何から手を付けていいかわからないはず。そんな時に当社が自信を持ってUNIVRSさんを紹介することで、UNIVRSさんの機会拡大と企業の課題解決、どちらにも貢献できると思うんです。

藤川:私たちも実際、以前はBtoB領域でも事業を展開していました。今は、大きなタイトル公開が控えているので、ゲーム領域に注力していますが、それがひと段落ついた後は、VRを通じた企業の課題解決にも取り組んでいきたいですね。ちょうど話題性の高いVRデバイスが登場して、企業の注目も集まり始めているので、BtoB領域の引き合いは増えるはずだと見込んでいます。

ーー互いのリソースを生かしたシナジーも見えてきているんですね。最後に、これから資金調達や出資を考えている企業に向けて、アドバイスをお願いします。

藤川:これから資金調達する予定なのであれば、創業の経緯や解決したい課題、ビジネスモデルや今後の計画などを整理しておくことをおすすめします。当たり前だと思われるかもしれませんが、日々実務に追われていると、じっくりと言語化する暇がないこともありますよね。私が実際にそうでしたから(笑)。

私の場合は、資金調達クラウドに登録したことで事業に関する情報の整理ができました。事業内容や調達目的などさまざまな入力項目があって、正直なところ結構大変だったんですが、一度しっかりと考え抜いて言語化できたおかげで、その後対外的な資料作りが楽になったんです。「これは、資金調達クラウドに書いたことをアレンジすればいいな」という感じですね。

しかも、資金調達クラウドは、調達企業側はサービス料が無料で、自力ではアプローチできない企業とつながれる。もうメリットしかないですね。

山下:出資する立場としても、資金調達クラウドのメリットは大きいです。仲介会社とは違って、直接やり取りする分、相手企業の本質が見えやすいんですよね。メッセージのやり取りや、オンライン面談での話しぶりなどで、仕事や仕事相手に対する向き合い方や、事業に対する姿勢が見えてきますから。

しかも、単なるプラットフォームではなくて、困った時に相談に乗ってくれる担当者がいるのも魅力です。先ほどお話しした通り、私は「初めまして」状態のスタートアップに出資するのが初めてだったので、面談では何を話せばいいのか、こんな質問をして相手に失礼ではないかなど、いろいろなことが不安だったんです。そんな時に、担当者に連絡を取ったところ、一つひとつ丁寧に答えてくださって。そのおかげで、初めてでもきちんと契約締結に漕ぎ着けることができました。

こんなことなら、もっと早くサービスを知りたかったというのが本音です。出資について迷われている方がいらっしゃれば、まずは資金調達クラウドを利用してみることをおすすめします。

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