「相手目線」の提案で、M&A後のイメージがクリアに。クリエイター支援に意欲を燃やす2社が思いを引き継ぐまで
買い手:株式会社BitStar
売り手:PONT株式会社
公開日:
2022年7月11日、PONT株式会社は、同社のサービス『Pont』を株式会社BitStarに譲渡しました。『Pont』は販売もできるプロフィールサイトがスマホで簡単に作成できる点に強みがあり、数多くのクリエイターに利用されています。一方のBitStarは、独自データとテクノロジーでYouTuberやTikTokerをはじめとするクリエイターを支援する多様なサービスを展開している会社です。
M&Aクラウドを介して出会った両社は、どのような交渉を経て事業譲渡に至ったのでしょうか。株式会社BitStar 代表取締役 社長執行役員CEOの渡邉 拓氏、PONT株式会社 代表取締役CEOの脇山 雄気氏、同CCSOの浦地 匠氏にお話を聞きました。
プロフィール
慶應義塾大学大学院理工学研究科卒業。新卒でスタートアップに入社し、新規事業の立ち上げに従事。独立後、友人のYouTuberを支援したことを転機として2014年7月、株式会社BitStarを創業。著書に『動画マーケティングの新常識 最強のYouTube活用術』。
2018年3月東京大学経済学部卒。日本綜合テレビ株式会社にて、3年間フィリピンに駐在し、Web・アプリのプロダクトマネージャーとして新規事業立ち上げに取り組む。「一人一人が好きなことで生きていけるように」という理念のもと、2021年4月、PONT株式会社を創業。
2017年3月東京大学経済学部卒。大日本印刷株式会社、株式会社リクルートでの5年の営業を経て、2021年4月にPONT株式会社を創業。カスタマーサクセスを担当。
売上1兆円を目指すBitStarが求めていたパートナーとは
ーーBitStar様は、2020年12月にM&Aクラウドに募集記事を掲載されました。M&Aを始められた経緯を教えてください。
渡邉 当社は「100年後に名前が残る産業・文化をつくる」をミッションに掲げ、30年後くらいまでには売上1兆円を数える会社になることを目指しています。そのためには自力の成長に加え、M&Aが有力な手段の一つになると考え、M&Aクラウドに登録をしました。
M&Aにおいては、単純な売上高の増加だけではなく、クリエイターのマネタイズをサポートする「クリエイター支援事業」と、企業のソーシャルメディアの制作・運用を支援する「コンテンツ制作事業」の2事業とのシナジーや顧客価値の拡大が期待でき、かつカルチャーがマッチするパートナーを求めています。M&Aクラウドに掲載した当時からこのニーズは変わっていません。
ーーM&Aクラウドに掲載後、BitStar様のM&A関連業務に変化はありましたか。
渡邉 単純に、検討できる案件が増えましたね。M&Aクラウドのすごいところは、毎週のように売却・資金調達案件の打診があることだと思っています。
今回、『Pont』のような優れたサービスと出会う機会を得られたことは、M&Aクラウドならではの大きな価値だと思います。
思いが詰まったメインサービスの売却を決断した理由
――PONT様は、メイン事業であるプロフィールサイトの作成サービス『Pont』を譲渡されました。どのような思いでこのサービスを立ち上げたのでしょうか。
浦地 好きなことや得意なことを発信するクリエイターと、その価値を感じてくれるファンとの架け橋になりたいと思って作ったのが『Pont』でした。会社を立ち上げたのも、「一人一人が好きなことで生きていけるように」という思いがあったからなんです。
『Pont』は、イラストレーターやコスプレイヤーなどのクリエイターのためのプロフィールサイトなのですが、同サイト上で販売もできるのが特徴です。複数のSNSやサイトのURLを集約したページをスマホで簡単に作成し、商品販売まで行うことができます。
――クリエイターへの思いが詰まったサービスですね。売却を決めた経緯は?
脇山 登録者数が5,000人を超え、全クリエイターのページの合計で月60万PV以上となり、サービスとして拡大を続けていました。また、クリエイターの商品販売からの手数料で、収益化もできるようになりました。
一方で、私と浦地のなかでWeb3領域への関心が高まっていたんです。Web3の技術を使えば、「一人一人が好きなことで生きていけるように」という元々の思いを、世界中のより多くの人に届けることができるのではと考え始めました。市場も徐々に盛り上がってくる中で、Web3に挑戦するとしたらこのタイミングしかないと感じ、新規事業に集中するために『Pont』事業の売却を決断したんです。方針を決めた後は、私は新規事業の立ち上げに注力し、『Pont』事業の対応は浦地に一任しました。
――「選択と集中」のための事業売却だったんですね。2022年3月末にM&Aクラウドに登録された後は、どのように活用いただきましたか?。
浦地 私は事業売却の経験がないので、どのような企業に打診すれば良いのか、どのようにバリュエーションを付けるものなのかなど、とにかくわからないことだらけでした。
ただ、M&Aクラウドは担当者がマッチングから成約まで伴走してくれます。疑問が出てくる度に担当者がチャットなどですぐに回答をくれたので、M&Aの本丸である交渉に集中できました。
例えば、『Pont』はクリエイター向けのサービスなので、クリエイター支援のノウハウがある買い手を中心に探していたのですが、打診企業のリストアップについても担当者からアドバイスをもらえて助かりました。BitStarさんは、そのリストの中の1社だったんです。
また、『Pont』のように収益化が十分でないサービスに価格を付けるにはどうすればいいのかについても、算出式や考え方を教えていただきました。手厚くサポートしていただき、とてもありがたかったですね。
「買い手目線」の提案で、M&A後のビジョンが明確に
――2022年4月初めに、PONT様からBitStar様に打診されたところからディールがスタートしました。BitStar様に打診されたのは、クリエイター支援のノウハウがある企業だったからでしょうか。
浦地 そうですね。クリエイターの活動支援への思いが強い当社にとっては、それが一番大事なポイントで、打診した段階から「ぜひ協業したい」と思っていました。
また、BitStarさんには開発者も多く在籍しているので、譲渡後もサービスをうまく運用し、より使いやすいサービスにしていっていただけるイメージがついたのも、打診理由の1つです。
――BitStar様は、その打診を受けてどのような印象をお持ちになりましたか。
渡邉 『Pont』のようなプロフィールまとめサービス、いわゆる「link in bio(リンクインバイオ)」について深い知見がなかったこともあり、はじめはピンとこなかったというのが正直なところです。
しかし、打診のメッセージに添付されていた資料を拝見して、グローバルで市場が盛り上がっている面白い領域だと思いました。そこで、すぐにオンラインでの初回面談を設定したんです。
――初回面談ではどのようなお話をされたのでしょうか。
浦地 打診の際にお送りした資料に沿って事業概要を説明しようと考えていたのですが、渡邉さんが事前に読み込んでくださっていたので、ほとんど説明する必要はありませんでした。その代わり、鋭い質問ばかりが飛んできた印象です(笑)。
渡邉 BitStarでは戦略として、ロングテール・ミドル規模のクリエイターに対する支援や、業界でのネットワーク構築に力を入れていきたいと考えています。その戦略に『Pont』を組み込んで伸ばしていくにはどうすればいいのか、という視点で議論しました。
浦地 その他には、グローバル市場で類似サービスが伸びている理由や、どうやったら日本市場で勝ち残っていけるかなど、将来を見据えたご質問もいただきました。渡邉さんの本気度を感じました。
――現時点での事業概要というよりも、将来的なビジョンに関わる話がメインだったんですね。その点を踏まえて次の面談に進まれたのでしょうか。
浦地 そうです。翌週に行われた2回目面談では、BitStarさんの戦略のなかで『Pont』が果たせる役割をまとめた資料を提出し、売却希望額の提示を含めて話し合いました。
渡邉 浦地さんは、「BitStarなら『Pont』でこういうことができる」と、「買い手目線」でいろいろな提案をしてくれました。この時点で、譲り受けた後のイメージがだいぶ明確になりました。
――自社視点のサービスアピールだけでなく、相手視点の協業提案が響いたのですね。5月後半の3回目の面談では、BitStar様の現場の方々も交えて面談されています。
渡邉 2回目の面談で話し合った内容を当社のCTOやCFO、プラットフォームサービス担当者と共有して、具体的な検討は進めていました。
その次の段階として、各事業の役員が参加して、技術面での質問やカスタマーサポートの状況、規約の内容など、現場目線での細かい質疑応答を行ったんです。すでに買収の意向は固めていたので、現場の納得感を高めるためのミーティングだったといえます。
その後、何回かの面談を挟み、引き継ぎ等について話し合いながら、7月初めに契約締結となりました。
「思いも含めて引き継げる相手に譲りたい」。互いの強みを最大限に活かし、サービス拡充へ
――PONT様は、事業譲渡について複数の企業と交渉されていました。最終的にBitStar様を選ばれた理由は何だったのでしょうか。
浦地 大きく分けて2つあります。1つ目は、理念に共感できたこと。渡邉さんと話をするなかで、クリエイターを大切にしている様子が伝わってきましたし、『Pont』をたくさんのクリエイターが使ってくれるサービスにしたいという意向も語っていただきました。
そういった言葉を聞くうちに、BitStarさんなら、私たちの「一人一人が好きなことで生きていけるように」という思いも含めてサービスを引き継いでいただけると考えました。
もう1つは、先程も言及したのですが、クリエイター支援のサービスを複数展開していること。他の複数の企業ともお話をしましたが、この部分で圧倒的な事業シナジーがありそうだと思えたのはBitStarさんでした。
――思いも含めて、ノウハウのある企業に引き継ぐことができるというのが決め手だったんですね。BitStar様はいかがでしょうか。
渡邉 今のサービス自体に魅力を感じたというのが、まず大前提ですね。実は僕自身も『Pont』ユーザーの一人なのですが、デザインが良く、簡単に操作できる点、SNS認証でログインできる点はとても便利だと感じています。
プロフィールサイトに販売機能が付いているので、SNSで活躍してる人たちが手軽にグッズを出品し、ファンはそのグッズを手軽に買う仕組みができているのもいいですね。サービス自体をもっと伸ばせるだけでなく、既存のECプラットフォームのリプレースにもつながると考えました。
そして、当社のエージェントビジネスやプロダクションビジネスと結びつけることで、新たな展開も考えられます。当社サービスと『Pont』の相互送客なども含め、さまざまな切り口で事業シナジーを発揮できるイメージがついたのが決め手だと思いますね。
――シナジーが幾重にも想定できたのが大きかったんですね。BitStar様の今後の展望を教えてください。
渡邉 まずは、当社の数千人のクリエイターのネットワークを活用し、『Pont』の登録者を増やしていきます。その後、他の事業と連携することでアップセルを図っていく予定です。
『Pont』は、サービスの立ち上げからまだ日が浅く、収益化に課題を持っています。ただ、当社にとっては、『Pont』の持つクリエイターのデータ自体がアセットになりますし、当社の複数事業との掛け合わせで新たな価値を創出できます。もちろんプロダクト自体を伸ばす自信もありますので、長期的に見れば十分にペイできるはずですね。
また、M&Aの活動は継続し、M&Aクラウドで新しい出会いを見つけていきたいです。お互いの事業シナジーや、さらには「どうすればサービスを拡大していけるのか」ということを、将来的な視点で話し合えたらいいですね。
――PONTのお二人は、今回の売却をステップに新しい挑戦が始まりますね。
脇山 そうですね。ただ、「一人一人が好きなことで生きていけるように」というミッションは今までと変わりません。このミッションに基づき、新しい働き方の創造や、新たなクリエイター支援サービスの開発などを、Web3領域でグローバルに展開していきます。近々、海外で新会社を設立して再スタートを切る計画です。
――それぞれの道でのご両社の活躍が楽しみです!貴重なお話をありがとうございました。
■本ディールの経緯
2020年12月9日 BitStarが『M&Aクラウド』に掲載
2022年3月30日 PONTが『M&Aクラウド』に登録
2022年4月5日 PONTがBitStarに打診
2022年4月14日 初回面談(WEB 双方の事業概要や市場概況の共有と質疑応答)
2022年4月20日 2回目面談(WEB 想定シナジーと売却希望金額の共有)
2022年5月24日 3回目面談(WEB BitStar現場メンバーとPONT浦地様で、技術面やカスタマーサポートの状況、規約の内容等について確認)
2022年5月31日 4回目面談(WEB BitStarCEO・CTOとPONT浦地様で、引き継ぎ等について確認)
2022年7月7日 クロージング
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本ページに掲載している情報には、M&Aが成立するに至る経緯に加え、インタビュー時点での将来展望に関する記述が含まれています。こうした記述は、リスクや不確実性を内包するものであり、環境の変化などにより実際の結果と異なる可能性があることにご留意ください。