自動車関連商材の老舗企業とドローンスタートアップが手を組んで目指す、新しい物流のカタチ

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自動車関連商材の老舗企業とドローンスタートアップが手を組んで目指す、新しい物流のカタチ

2024年5月1日、コーティング剤やアルコール検知器をはじめ、自動車部品・用品の開発・販売を行う中央自動車工業株式会社は、ドローンを活用した新スマート物流構築に取り組むテクノロジースタートアップ、株式会社エアロネクストへ出資を行いました。

自動車関連商材と物流ドローンという、一見離れた領域で事業に邁進する両社。どのような協業メリットを見出し、成約に至ったのでしょうか。中央自動車工業の常務取締役 総務本部長 兼経営企画室長 住吉哲也氏と、同社総務部 兼 経営企画室 海野祐氏、エアロネクスト 取締役の唐尾太智氏に、その経緯と決め手を伺いました。

プロフィール

中央自動車工業株式会社 常務取締役 総務本部長 兼 経営企画室長 住吉 哲也(すみよし・てつや)

三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)中津川支社長を経て、2017年10月中央自動車工業に入社。2021年6月より現任。グループ会社であるABTの取締役も務める。

中央自動車工業株式会社 総務部 兼 経営企画室 海野 祐(うんの・ゆう)

2010年4月、中央自動車工業東京支社へ入社。2022年4月、経営企画室マネージャーに就任。

株式会社エアロネクスト 取締役 唐尾 太智(からお・たいち)

京都大学大学院工学研究科卒。新卒でゴールドマン・サックス証券に入社し、株式を用いた資金調達業務に従事。その後、Bain&Companyにて、事業戦略策定、組織改革、コスト削減プロジェクト等に従事。2023年9月エアロネクスト入社、2024年4月エアロネクスト取締役就任。

独自技術を活用し、ドローン物流の社会実装に邁進

株式会社エアロネクスト 取締役 唐尾太智氏
株式会社エアロネクスト 取締役 唐尾太智氏

ーーはじめに、エアロネクストの事業内容を教えてください。

唐尾:物流用途を中心に、産業用ドローン開発に必要な技術の研究開発を行っています。ドローンの機体メーカーという立ち位置ではなく、機体メーカーとライセンス契約を結び、知財技術を提供するというビジネスモデルです。

メインとなる技術は、ドローンの重心を安定させ、姿勢を制御する機体構造設計技術「4D GRAVITY®︎」です。ドローンショーなどにおけるドローンとは異なり、物流用途などの産業用ドローンは空中でのホバリングだけでなく、移動することを前提とした設計が求められます。空気抵抗などの軽減や飛行安定性に寄与する弊社の4D GRAVITY®︎は、まさに産業用ドローンに欠かせない技術と考えており、現時点で4D GRAVITY®︎に関連して数百件の特許を取得しています。

もう一つの事業の柱は、100%子会社のNEXT DELIVERYで展開する、新スマート物流「SkyHub®︎」です。4D GRAVITY®︎を搭載した物流用ドローンによる配送サービスで、陸の既存物流と空のドローン物流をハイブリッドしたサービスです。いつでもどこでもモノが届く新しい物流の形を実現し、効率的な物流ソリューションを提供します。現在は、物流インフラの維持が課題となっている過疎地域を中心に、国内の複数地域で事例を増やしています。

ーードローンの技術開発にとどまらず、実際の配送サービスにまで事業を拡大した背景が気になります。

唐尾:産業用ドローンのマーケットが十分に立ち上がっていない中で、ならば自社で切り開いていこうと考えました。4D GRAVITY®︎を産業用ドローンのデファクト技術として最速で社会実装するためには、技術開発を進めるだけではなく、それに対する市場の立ち上げが必須であり、市場を拡大していくことができなければ社会課題の解決に貢献することもできません。

ただ、産業用ドローンの市場を拡大するにあたって、いくつか課題はあります。その一つが法規制で、安全性を担保していくために様々な要件をクリアしていかなければなりません。

そして、ドローン活用の進展と同時に法規制が緩和されたとしても、特に物流業界におけるドローン活用の拡大には、人々のマインドセットが変わる必要があります。現代の社会では「送料無料」が当たり前になり、モノが運ばれることにお金を払わない文化が根付いてしまっています。労働人口が減少する中で、既存の物流の維持が難しくなってきており、コストをかけても維持すべき社会インフラだと、人々に理解してもらう必要があると考えています。

ーー今回、資金調達クラウドを利用することになった経緯は。

唐尾:株主さんから紹介され利用を開始しました。当時はちょうど、2021年から続いていた資金調達ラウンドをファイナルクローズするタイミングで、完全成功報酬型というハードルの低さに惹かれ、利用を決めました。

既存事業にとらわれず、モビリティ関連での成長を目指す

中央自動車工業株式会社 常務取締役 総務本部長 兼 経営企画室長 住吉哲也氏
中央自動車工業株式会社 常務取締役 総務本部長 兼 経営企画室長 住吉哲也氏

ーー中央自動車工業は、社名の通り、自動車に関連する事業を展開されていると伺いました。

住吉:はい。当社は国内外で、自動車部品・用品の販売事業を行っています。

国内事業は、ボディコーティングなどのケミカル製品の開発・販売がメインで、北海道から九州まで、全国のディーラー様に製品を提供しています。また、アルコール検知器についても、チェックが義務化されるはるか前から開発・販売を行っており、売上を伸ばしてきました。一方、海外事業のビジネスモデルは自動車の補修用部品の卸売業で、世界で10以上の拠点を構え、60か国以上と取引を行っています。

そして2019年には、手続きが複雑な全損車両処分の事務代行を手がける株式会社ABTを譲り受けました。既存事業でキャッシュを蓄積できていたこともあり、次の柱となるような事業のM&Aを視野に入れていたんです。とはいえ、ディーラービジネスでのシナジーを追求し過ぎると、案件がかなり限定されてしまうので、既存事業にとらわれず、広くモビリティ関連で社会に貢献できそうな領域を検討していた時に、ABTと出合った次第です。

ーーM&Aという形で、他社との協業実績があるということですね。では、出資を検討するようになった経緯、資金調達クラウドを利用するに至った経緯も教えてください。

海野:出資を検討するようになったのは、2022年に公表した中期経営計画に経営企画室のミッションとして、3つの新規施策(M&A、社内ベンチャー、スタートアップ投資)を掲げたことがきっかけでした。3つの新規施策の目的は新規事業の開発ですから、スタートアップ出資についても財務リターン目的というよりは、新しいビジネスのヒントをつかむためのものと位置付けていました。

そしてM&Aの文脈で関連サービスをデスクトップサーチしていた時に、M&Aクラウドからメールが届いたんです。登録料などもかからず、完全成功報酬型だというので、興味を惹かれて登録しました。途中から、資金調達クラウドのアナウンスを頻繁に目にするようになり、そちらも利用するようになったという経緯です。

「画面越しに熱意が伝わった」互いに印象が変化した初回面談

中央自動車工業株式会社 総務部 兼 経営企画室 海野祐氏
中央自動車工業株式会社 総務部 兼 経営企画室 海野祐氏

ーー両社は、資金調達クラウド担当者の紹介を通じて出合ったそうですね。

海野:はい。もともと、当社のパーパスにもある「未来のモビリティ社会」の付加価値創造に関連するような企業を探していたんですが、ある日担当者から「ピッタリの案件がある」と言われ、紹介されたのがエアロネクストさんでした。

ーー初回面談はWEBで行われたとのことですが、互いの第一印象はいかがでしたか。

唐尾:中央自動車工業さん側の出席者は、海野さんを含めてお二人でしたが、どちらも強面で、スーツをビシッと着こなしていらっしゃった雰囲気から、恐れ多くも、「いわゆるJTC(Japanese Traditional Company)なのでは」と最初は感じました(笑)。

でも、実際にお話を伺う中で、その印象はすぐにガラリと変わりました。「新しいことに挑戦していきたい」という熱い思いが強く伝わってきて、「私たちと同じだ」と感じました。短期的にシナジーを出すのは難しくても、中長期的に互いのビジネスが相関するような関係を築けると思いました。

海野:今だから申し上げますが、私も当初はスタートアップ企業という事もあり「ふわふわしている」企業なのではと想像していました(笑)。事業内容がドローンですし、未来的でつかみどころのない話が多いのかなと。唐尾さんも入社してまだ長くはないとのことだったので、質問をしてもわからないことがあるかもしれないと予想していたんです。

でも、実際は全く違いました。これからビジネスモデルを磨いていく段階とはいえ、事業内容そのものは地に足がついていましたし、唐尾さんが10以上の質問にもタイムリーに答えてくれたことも好印象でした。

そして何より、画面越しにも事業に対する熱意が伝わったことが、大きなポイントでした。先ほど申し上げたように、私たちにとって出資の目的は、金銭的なリターンのみというよりは、新たな事業の種を見つけることなので、事業に対する熱中度合いや真剣さを重視していたんです。

唐尾:熱い想いが伝わったと仰っていただき光栄です。売上や実績がまだ十分とはいえない分、これからどうしていくのかという想いを、どれだけ具体的に、どれだけ熱意をもって伝えられるかを大切にしています。

「互いにファンになることができた」老舗企業とスタートアップの成約経緯

ーーその後、出資交渉はどのように進んだのでしょうか。

海野:面談をかさね、当社では、社内決裁に向けて動き始めました。最初に同じ経営企画室のメンバーたちに話をしたところ、概ね良好な反応。スムーズに、役員会へと進めることができました。それまでの深い谷が嘘のようでしたね。

ーー谷というと?

海野:中期経営計画でも、スタートアップ投資を行うと明記しているのに、なかなか当社に合った出資先が見つからなかったんです。たまに上程しても、「いや、この企業とは合わないだろ」と言われるばかりでした。

ーーそんな中でエアロネクストさんが現れたと。とはいえ、役員会で決議を取ることには、苦労もあったのではないでしょうか。

住吉:社長を含め役員たちには、経営企画室で情報を共有してから間を置かずに、エアロネクストさんの話を持ちかけました。出資の意義、業務提携の具体的なイメージなどをまとめ、慎重に進めました。

海野:私も役員会の前に、一人ひとりの役員と壁打ちを行いながら、都度出てくる疑問点はタイムリーに唐尾さんに確認しながら確度を高めていきました。

住吉:ある程度出資について社内のコンセンサスを取ったうえで、エアロネクストさんの田路圭輔代表と唐尾さんをお誘いし、大阪中之島にある当社の研究施設に来てもらったことがあったんですが、改めてその熱意に打たれたことがありました。

さまざまな業界でドローンの活用が進む中で、物流は最後に残された、いわば「しんどい」業界です。そのラストワンマイルにあえて挑戦するという強い思いを、対面で受け止める中で、改めて共感を覚えましたし、「素晴らしい企業に会えてよかった」と再認識しました。

ーー確信があったからこそ、役員会の決議にも堂々と臨めたと。エアロネクストさんは、交渉を振り返ってどのように感じますか。

唐尾:まずは、中央自動車工業さんが、着実に社内の合意形成をしてくれたことに感謝しています。当社の事業の将来的な意義はご理解いただけても、投資や伴走といった具体的なアクションには至らないというケースが少なくなかったからです。

最大のネックは、短期的なシナジーが想定しづらいこと。市場が立ち上がりきっておらず、当社もビジネスをさらに洗練させていかなければならない段階なので、投資判断は難しい側面もあると思います。

今回成約に至ったのは、互いにファンになることができたからではないでしょうか。もともと私たちには、株主さんたちにも弊社のファンになって応援してもらいたいという思いがありましたが、中央自動車工業さんは私たちと同じ熱量を持つ、まさにファンになってくれたのではないかと僭越ながら感じています。

ーー唐尾さんも、中央自動車工業のファンになったということですね。

もちろんです。特に研究施設の見学では、社員の方々が生き生きと働いている様子を見てスタートアップに近いものを感じ、代表の田路と共に大きな刺激を受けたのを覚えています。研究施設も魅力的で、当社も中央自動車さんのように、面白くわかりやすく研究意義を伝えられるようになっていきたいと、田路と帰り道に話しました。

こうした関係性を築けたことが、実際の協業につながったように思います。

シナジー創出のアイデアは豊富。中長期的な視点で、協業メリットを狙う

ーー今後、両社で目指すシナジーを教えてください。

海野:当社の主要取引先であるディーラー様に対し、エアロネクストさんのドローン物流の拠点としての店舗活用等の提案ができないか、検討したいと考えています。

ディーラー様は自動車社会における一種のインフラのため、全国各地に存在しています。一方で、100年に一度の変革期にあってビジネスモデルの変革も求められると同時に、事業環境が厳しくなりつつあります。このようなディーラー様にドローン物流の拠点としての店舗活用を含めて新たな提案ができれば、互いに弱みを補完しつつ、シナジーを生み出せるのではないかと考えています。

あるいは、ディーラー様とドローンの点検、整備の環境構築をすることも可能かもしれません。いずれはドローンも、自動車の車検のように、点検義務が制度化されるとすれば、ディーラー様は整備者として有力な選択肢になるだろうと考えています。いずれにせよ、ディーラー様とエアロネクストさんの間を取り持つことで、モビリティ領域に新たな付加価値を生み出せるかもしれないというのが、直近の手応えです。

唐尾:当社も、中央自動車工業さんの販売網を活用させてもらいながら、シナジーを創出したいと考えています。特に実現可能性が高いと考えているのは、ドローンのメンテナンス事業です。今後、ドローンは技術開発が進むにつれて、車と同じようにアフターマーケットも成長するはずで、ディーラーさんはメンテナンス等も行える販売代理店の有力候補になります。

そのほか、部品や性能の評価ノウハウを持っている中央自動車工業さんと協力して、ドローンの部品や機体の評価体制を構築していくことも可能と考えていますし、中央自動車工業さんのコーティングをドローンのブランディングに活かすこともできるかもしれません。中長期的な視点でシナジーを生み出していきたいと考えています。

ーー最後に、資金調達クラウドでの出資・資金調達を考えている企業に向けて、メッセージをお願いいたします。

海野:資金調達クラウドは、鮮度の高い情報が多いプラットフォームだという印象ですね。掲載企業を眺めているだけでも未来の市場トレンドが見える等、多くの発見があり、今では最新のビジネス動向を追う有力なツールの一つとして活用しています。

住吉:当社はM&Aや出資を検討し始めてからまだ日が浅いですが、新しいアイデアを考えたり、新しい取り組みのために行動したりするきっかけになっているようですね。

海野:相手企業との交渉中も、担当者のサポートが手厚くて安心しました。定期的に状況をヒアリングしてくれた他、ボトルネックの洗い出しや解決策の提案など、かゆいところに手が届くコミュニケーションがありがたかったです。

ひとまず閲覧するだけなら費用はかからないですし、出資を検討している企業なら、使わない理由は見当たらないはずです。

唐尾:資金調達を検討している企業にとっては、調達先を効率よくソーシングできるのが最大の魅力ではないでしょうか。ロングリストで候補を出していただけるので、初めての資金調達であれば連絡したい企業を多く見つけやすいですし、自社で連絡できる先が多い場合でも、資本業務提携の文脈で事業会社などと繋がることができるのが大きなメリットになります。

私たちも、単独で中央自動車工業さんと出合うことは難しかったですし、スタートアップにとっても使わない手はないサービスだと思います。

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