「買わないと言われても譲りたい」 大切にしてきたD2Cブランド、譲渡の決め手は “数字”よりも“モノづくりに対するこだわり”

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「買わないと言われても譲りたい」 大切にしてきたD2Cブランド、譲渡の決め手は “数字”よりも“モノづくりに対するこだわり”

2022年8月31日、デジタルマーケティング事業などを行う株式会社Breatheは、アパレルD2Cブランドの運営とアパレル業界におけるDX事業を行う株式会社GOOD VIBES ONLYから、2つのD2Cブランドの事業を取得しました。6月半ばにM&Aクラウドで出会ってから約2か月半、入念に信頼関係を築いた上での成約となりました。

事業譲渡の理由や交渉の経緯について、株式会社Breathe代表取締役の酒井 克明氏と、株式会社GOOD VIBES ONLY代表取締役の野田 貴司氏にお伺いしました。

プロフィール

株式会社Breathe 代表取締役:酒井 克明(さかい・かつあき)

SEとしてキャリアをスタートし、ネット専業広告会社、総合広告会社等で各種デジタルマーケティング事業を経験。2015年4月、株式会社Legolissを創業。CDP(消費者データプラットフォーム)の構築から、消費者データの活用等、企業のデータ活用を支援するデータマーケティング事業を展開。2019年、大手総合商社である三井物産株式会社に同社を売却。2021年12月、同社代表取締役を退任した後、2022年から株式会社Breatheを始動。

株式会社GOOD VIBES ONLY 代表取締役:野田 貴司(のだ・たかし)

福岡県生まれ。広告代理店勤務を経て、2015年にインスタグラムとECを中心とするアパレルブランドの立ち上げに関わり、売上を大幅に伸ばす。その中でアパレル業界におけるDXの必要性を痛感し、2018年に株式会社GOOD VIBES ONLYを設立。自ら新たなブランドを運営しつつ、アパレル業界向けDX事業を展開してきた。

M&Aクラウドの迅速なサポートは、スタートアップのスピード感にもぴったり!

株式会社GOOD VIBES ONLY 代表取締役:野田氏
株式会社GOOD VIBES ONLY 代表取締役:野田氏

――GOOD VIBES ONLY様が自ら立ち上げたアパレルブランドの譲渡を決意した経緯を教えてください。

野田 GOOD VIBES ONLYは、もともとはアパレル業界の課題をデジタルトランスフォーメーション(DX)で解決することを目的に立ち上げた会社でした。

アパレル業界にはさまざまな慣習や暗黙の了解があります。例えば、顧客はインスタとECサイトを見て、実物に触れることなく購入するのに、ブランド側は実物のサンプルを作っている。また、商品の発注は権限を持った責任者の“感覚”で行われています。

サンプルをCG化すればコストも資源も削減できるし、SNSとECのデータを機械学習させて需要予測をすれば、誰でも発注ができて発注ミスも減るはず。以前ブランド立ち上げに関わった経験から、そのような課題に対する解決策を思い描いていました。

ただ、業界の課題を解決しようにも、クライアントに対してコンサルティングを行う自分たちがアパレル事業で成功していなければ信ぴょう性がない。そこでまず、自分たちのブランドを立ち上げることにしました。

しかし、本来の目的であるDX事業を本格的にリリースしようという段になって、限られたリソースの中でブランド運営とDX事業を両立するのは難しいと分かってきました。選択と集中のためブランドを手放すという判断に至り、それならブランドをしっかり運営できる会社に譲渡したいと考えて、2021年12月に「M&Aクラウド」に相談しました。

――M&Aクラウドを使ってみて、どのような印象をお持ちでしょうか。

野田 スタートアップのスピード感にとても合っていますね。譲渡について相談をしたら即座に担当者から連絡が来て、どういった企業に打診した方がいいかという相談にもすぐにのってくれました。経営者はレスポンスの早さを求めるということを社長が熟知していて、社内にもそのようなカルチャーが浸透しているように感じます。

ブランド運営のノウハウを得るため、M&Aを選択。「興味のある企業に気軽に連絡できるのが、M&Aクラウドの魅力」

株式会社Breathe 代表取締役:酒井氏
株式会社Breathe 代表取締役:酒井氏

――Breathe様はデジタルマーケティング事業を展開していらっしゃいますが、今回、なぜアパレルブランドを買収されたのでしょうか。

酒井 私はIT業界でエンジニアからキャリアを始め、長くマーケティング畑を歩いてきました。ただ、実は大学は繊維学部を出ていて、いずれは自分が好きなファッション領域で、アパレルブランドを手がけたいという気持ちがずっとありました。クオリティにはこだわりが強く、パーツの一つ一つ、細部までしっかりこだわっているなと分かるブランドが好きなんです。

Breatheとして2022年初めに始動してから、自分のブランドを本格的に展開しようと動き始めました。ところが、いかんせん人がいません。私はマーケティング側からブランドプロモーションのお手伝いはしてきましたが、実際のモノづくりは経験がない。自分でブランドを立ち上げ、運営していくためには、経験と実績のある人材を中に入れなければならないと考えていました。

そのための選択肢の1つがM&Aでした。既に立ち上がっているブランドを買って、スピーディーにPDCAを回しながら、アパレルビジネスを理解していきたいと考えたのです。

――アパレルブランドを対象に、M&Aを検討し始めたのですね。

酒井 その通りです。モノづくりがしっかりしているのはもちろんのこと、私自身のITやマーケティングの経験も生かすことができ、さらなる成長の余地がある会社を買いたいと考えていました。将来的な構想としては、商品やサービスを通じて、人々を笑顔に、社会を明るくするようなライフスタイルブランド群を作りたいと考えているので、アパレルに限らず幅広くパートナーを探しています。

――M&Aクラウドを利用されてみて、いかがでしたか。

酒井 自分の求める領域に近い企業が登録される度に通知があり、しかもその企業に気軽に連絡できるといった利便性が良いですね。実際に、これまで様々な企業との面談が実現できています。

「買わないと言われても譲りたい」。“数字”よりも“思想”で共鳴した2社

――2022年6月半ばにGOOD VIBES ONLY様がBreathe様に打診されたことが、今回のディールの始まりでした。すぐにWeb面談を実施されたようですが、それぞれの第一印象はいかがでしたか。

野田 Breatheさんにお会いするまでに、すでに10社近くとWeb面談を行っていましたが、「これだ」という相手には巡り会えていませんでした。

話をすれば最初の10分くらいで、その会社がブランドを買って何をしたいのか、モノづくりの知見があるかどうかなどのポイントはすぐに見える。さまざまな思惑も伝わってきます。私の方は、自社のブランドディレクターの性格などもよく知っているので、その会社と相性が合うかどうか直感的に分かるんです。

その点、Breatheの酒井さんは違いました。面談の冒頭で売上や利益といった数字の話より先に、「実際の商品が見たい」と初めて言われた。縫製や生地の話までされました。

酒井 GOOD VIBES ONLYさんと面談をする前に、他のアパレル関係の会社ともいくつか話をしました。しかし、単にありものの商品をタグだけ変えて売っているインフルエンサーブランドなどは、いくら売上があっても私の求めるものではありません。ソーシャルメディアが台頭したことにより、タレント化したYouTuberやインフルエンサーが、服に対する関心もそれほどないまま、自分の名前を利用して瞬間的に売上を上げているブランドもたくさんありますが、私はそのようなブランドに一度も魅力を感じたことはないです。また、クオリティの低いものを展開して売上になったとしても、それは私の目指すところではない。

今回GOOD VIBES ONLYさんから買収させていただいたブランドも、現状ではインフルエンサーブランドですので、「まずはモノを見てみないことにはわからない。アイテムに対しての思いや思想、ブランドとして将来どうしていきたいかなどを訊きたい」と思って、「商品を見せてください」と言ったのです。

――数字よりも、実物の商品の確認が先だったと。

野田 こちらから深掘りしていっても、隠した思惑もなさそう。シンプルにモノづくりにこだわりがあり、ブランドをやりたいのだと確信が持てたので、すぐに酒井さんに商品を見に来てもらいました。その場にはディレクターも連れて行って商品説明をさせ、会話などのやりとりからお互いの相性を見ていました。

すると酒井さんから、「ディレクターと1対1で食事をしながら話がしたい」と言われた。インフルエンサーブランドで一番“偉い”のがディレクターであると正しく理解されていることが分かったので、即座にOKしました。

酒井 商品を見て、各ブランドのモノづくりへのこだわりは分かったので、ディレクターの思いも聞きたくなったのです。一部のインフルエンサーブランドでは、ビジネスを伸ばすというより、自分の名前を売りたいというディレクターもいるかと思いますが、GOOD VIBES ONLYさんのディレクターは2人とも、「自分がいなくても売れるブランドにしたい」という志向性を持っていました。

「人」に依存したブランドは、その人がいなくなったら終わってしまいます。もちろん、ディレクターやクリエイターのカリスマ性も重要です。しかし、瞬間風速的に売上を上げることではなく、長期で愛され、人々を笑顔にし続けられるブランドを作ることを目指すのであれば、1人のカリスマに依存しすぎないこと、アイテムだけでなくブランドとしてのコンセプトやストーリー、フィロソフィーがあることが理想だと考えています。GOOD VIBES ONLYさんのディレクターお2人の思想は、そんな私にとってとても共感できるものでした。

野田 ディレクターとの信頼関係や思想を最も重視するという酒井さんのやり方は、私が最初にブランドを立ち上げたときと同じだったんです。それでディレクターも安心したようでした。

――ご両社の相性の良さが、そのようなやり取りからも明らかになっていたわけですね。

酒井 野田さんは若いけれども、経営者としても面白かった。「本当は売りたくなかったけれども、手放さざるを得ない。本当に愛しているブランドだから、伸ばしてくれるところでなければ売らない」と明確におっしゃっていましたね。

野田さんとは何度も二人で食事をしたりゴルフをしたりして、経営者として信頼し合えるかどうかを念入りに確かめました。結果、野田さんともディレクターとも、思想・フィロソフィーがぴったり合った。これは数字的な条件よりも重視していたことでした。

野田 そこは私も同じですね。金額よりも、「誰が運営してくれるか」が重要。極論すれば、「買わないと言われても譲りたい。ゼロ円でもいいから何とか酒井さんに買わせよう」と思っていたくらいです(笑)。

ただ、酒井さんは全く数字を重視していないというわけではありません。むしろ、とても子細にチェックされ、ブランドが今後スタートアップの次の段階に上るのに必要なコスト意識などもしっかりしていらっしゃった。譲渡した後でも、現場のメンバーが成長できる環境を提供してもらえるだろうとイメージできました。

人々を笑顔に、社会を明るくするライフスタイルブランド群を目指して

――8月末にご成約となりましたが、今後のご両社の抱負を教えてください。

野田 今は上場企業など大手アパレル会社を主なクライアントにしていますが、いずれは当社のDXサービスが中堅ブランドにも浸透し、いつの日か、今回Breatheさんに譲渡した2つのブランドにも導入されるといいですね。5年先10年先、ディレクターも代わっているかもしれないけれど、ブランドが残っていて私たちのサービスを使ってもらえたら。そんな夢を描いています。

酒井 野田さんとは「せっかくご縁ができたんだから、今後も一緒に何かやりましょうよ」という話をしています。例えば、私はCGを使ってアパレルの展示会をオンライン化したいなど、IT業界出身だからこそのアイデアをいくつか持っているのですが、野田さんはそれを実現するアセットを持っている。そんな面でもコラボできるのではないかと考えています。

また、Breatheでは中長期的に、自分の生き方や在り方、モノやコトへのこだわりが強い人たちに向けた、さまざまなライフスタイルブランドを展開していきたい。ファッションだけでなく、美容・コスメ・ヘルスケア・スポーツ・エンターテイメント・食・住まい・教育など、人生を豊かにし、ブランドを通じて人々を笑顔にするような会社にしていきたいと思っています。

私自身はITやマーケティング業界出身です。そういう私だからこそ、古き良きアパレル業界においても、新しいやり方や新しいビジネスモデルを創造していきたいと思っています。アパレル業界に関わり始めて、いろいろな課題もたくさん見えてきました。私だからこそできることを模索していきます。

今回買収したブランドからも、さまざまな知恵を絞って、アパレル以外の新しいラインナップを出すかもしれません。そんな将来像に向け、今回のディールで第一歩を踏み出すことができたと、今はとてもわくわくしています。

――アパレル業界から始まる両社の新たな挑戦に期待しています!貴重なお話をありがとうございました。



■本ディールの経緯
2021/12/23  GOOD VIBES ONLYが『M&Aクラウド』に登録
2022/01/17 Breatheが『M&Aクラウド』に登録
2022/06/17 GOOD VIBES ONLYがBreatheに打診
2022/06/23 初回面談(WEB:双方の事業紹介等)
2022/06– GOOD VIBES ONLYのブランドディレクターも含め、両社話し合いを重ねる
2022/08/31 クロージング

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