初回面談で譲り受け意向を表明。M&Aクラウドの担当者によるサポートで出会った両社が、特異性を活かしてダイエットアプリの新次元を切り開く
買い手:株式会社ベビーカレンダー
売り手:株式会社palan
公開日:
2022年7月1日、妊娠・出産領域でメディア事業などを行う株式会社ベビーカレンダーは、WebシステムやARサービスなどの開発を行う株式会社palanからスマホアプリ『ゆるっぷる』の事業を取得しました。5月半ばにM&Aクラウドで出会ってから約1カ月半という短期間での契約成立となりました。
事業譲渡の理由や交渉の経緯について、ベビーカレンダー代表取締役の安田 啓司氏と取締役の竹林 慶治氏、株式会社palan代表取締役の齋藤 瑛史氏にお伺いしました。
プロフィール
岡山県生まれ。大学卒業後、福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社。女性向けサイト『ウィメンズパーク』の立ち上げ、妊娠・出産・育児雑誌『たまひよ』、生活情報誌『サンキュ!』などの事業責任者を担う。2013年、クックパッド株式会社に執行役として入社。サイト全般、広告事業、広報を経験したのち、ベビー、キッズ、ダイエット分野の新規事業立ち上げに携わる。2015年、株式会社クックパッドベビー代表取締役社長に就任。2017年、事業譲渡によりビジネスを引き継ぎ、株式会社ベビーカレンダーに社名を変更。
広島県生まれ。1993年4月、ひろしま会計事務所(TCA税理士法人)に入所。税務・会計業務の主任として業務全体の責任者を担う。2004年2月、食品製造卸の丸上食品工業株式会社に入社。ルートセールスとして営業職に携わる。2009年2月、渡辺税理士事務所に入所。ベンチャー企業の経理全般を請け負う事業の事業責任者を担う。
大学を卒業後、大手SIerに入社し、システムエンジニアとして生命保険に関するシステム開発に従事。その後、教育系スタートアップに営業として入社し、ビジネスサイドを中心に業務全般に関わる。2016年にpalan(旧エイシス)を設立。「世界的に技術的に偉大な会社を創る」をビジョンする同社は、社員の多くをクリエイターが占め、技術にこだわる会社で居続けることを目指している。
ユーザー10万人のダイエットアプリを譲渡。「M&Aクラウドの担当者によるサポートで、効果的な交渉ができた」
――今回譲渡した『ゆるっぷる』は、ペアで使用するダイエットアプリだそうですね。
齋藤 そうです。実は、私も妻も体重増加に悩んでいて、一緒にダイエットを頑張れるようなアプリを探したのですが、ありませんでした。それなら自分でつくろうと開発したのが、パートナーダイエットアプリ『ゆるっぷる』です。
ダイエットの成功の秘訣はモチベーションの継続です。一人では難しくても、他人と一緒にやれば、他人の目が気になってモチベーションを維持できるはず。そこで、カップルや夫婦、友人同士で一緒に、お互いの「ゆるい監視」のもとで励まし合いながらダイエットに取り組むというコンセプトにしました。私も実際に『ゆるっぷる』で1年半で25kgほど痩せました。
――1年半で25kgの減量!元々はご自分のために開発したアプリだったんですね。
齋藤 そうなんです。だからアプリ単体で大きな収益を上げることは考えていませんでした。でも実際は、広告やマーケティングをしたわけでもないの自然流入でユーザーが増えていきました。現在の登録ユーザーは20~30代女性を中心に10万人超。アプリ内広告は月間約50万のインプレッションがあり、数万円の広告収入が発生しています。
――広告なしで順調に成長していたサービスを手放すことになった背景は何だったのでしょうか。
齋藤 ここ数年力を入れているAR領域のサービスに専念するためです。この事業に注力することになれば、『ゆるっぷる』のメンテナンスに社内のリソースを割くことができません。
サービスを終了するという選択もあったのですが、10万人ものユーザーがいるのにそれはできません。ユーザーアンケートでは、「このアプリがないと困る」「有料化してもいい」という意見も多数あったんです。
ユーザーの日常に浸透したサービスとして継続させなければと思い、事業シナジーがあり、きちんと運営してくれそうな企業に譲渡したいと考えました。
――2020年8月にM&Aクラウドに登録後は、どのように売却活動を進めていらっしゃったんでしょうか。
齋藤 特に急がず、のんびりと探していった感じです。登録してから2年間、数社と交渉したのですが、条件が合致せず、成約には至りませんでした。
しかし2022年4月、M&Aクラウドの担当者がサポートに入ってくれて、候補企業のピックアップを手伝ってくれたんです。そのなかの1社がベビーカレンダーさんでした。
――弊社の担当者とのやり取りの中に、出会いの種があったんですね。実際、M&Aクラウドを使用してみて、いかがでしたか。
齋藤 プラットフォーム自体の使い勝手もいいのですが、M&Aクラウドの担当者によるサポートがとても良かったです。以前は自分一人でいくつかの企業に打診しましたが、今思えば効果的な交渉はできていませんでした。
今回、打診先のピックアップをサポートしてくださった他、面談時の資料やプレゼン方法についてもアドバイスをいただいた結果、無事成約できました。丁寧なサポートに感謝しています。
事業領域の拡大へ。「特異な」サービスだからこそ見出した可能性
――ベビーカレンダー様は、ママ向けのメディア事業や、産婦人科様向けに経営支援システムを提供する事業を展開していらっしゃいます。今回、M&Aを検討された背景は、既存事業の強化でしょうか。
安田 既存事業を伸ばすだけでなく、事業領域の幅を広げていきたいという思いがありました。現在は、妊娠・出産・育児期の女性をメインターゲットにしていますが、ゆくゆくは「女性のライフステージ全般における課題を解決する事業」を展開したいと考えているんです。
その施策の一つとして、新規メディアの取得や、既存メディアの収益上乗せにつながる事業の取得を検討していました。
――事業領域やターゲット層の拡大につながる事業をお探しになっていたということですね。特に最近は、M&Aクラウドを積極的にご活用いただいています。
安田 当社が利用しているM&A関連のサービスの中で、M&Aクラウドはマッチング数が多いため、メインで使用しています。社長の私自身が打診を確認し、交渉を進めるかどうかジャッジしており、スピード感を持って対応できていると思いますね。
――2022年5月半ば、palan様から打診が来たときは、どのような印象でしたか。
安田 私は前職で新規事業開発を担当し、ダイエットアプリも5つほどリリースした経験があります。その時に、この分野の市場規模の大きさと、ワールドワイドに競合がいることを実感しました。ただし、競合が多くても、何か一つ引っかかるものがあればサービスを大きくできると思っていました。
今回のサービスを詳しく見てみると、「パートナーダイエットアプリ」という特異なサービスで、そこがユーザーに受けているという。私も実際に使ってみると、「こういうことか!」と感心しました。日本人が苦手とするモチベーションの継続を、自然にサポートしてくれる機能が備わっているんですよね。「これは伸びそうだな」と思い、面談をお願いしました。
――実際にアプリをお使いになったんですね!
安田 今も妻と一緒にやっています。毎日体重の情報を入力するんですが、相手が先に入れると、「やられた!」と悔しくなるんです。私のように競争心の激しい人間には最適のアプリですね(笑)
竹林 私も使っていますよ。標準のヘルスケアアプリに体重を入力するだけではダイエットへの動機にはなりませんが、『ゆるっぷる」を使ってパートナーと一緒に取り組むことで、モチベーションを継続できるようになりました。「妻には負けたくない!」という気持ちになりますからね。
「どういう未来が描けるのか」を意識したプレゼンにより、初回面談で意向を獲得
――『ゆるっぷる』はベビーカレンダー様から好評ですね。そもそもpalan様は、どのような思いでベビーカレンダー様に打診されたのでしょうか。
齋藤 ベビーカレンダーさんは、Webサービスやアプリの開発・運用をされており、ターゲット層も近しいので、『ゆるっぷる』とシナジーがありそうだと期待していました。ユーザーを大事にしている会社という雰囲気も素敵だな、と。それに何より、本社が当社から徒歩数分のところにある!(笑)。何か運命的なものを感じましたね。
――私も地図で確認させていただきましたが、まさしく「目と鼻の先」の距離ですよね!メッセージ開始後すぐに面談という流れだったかと思いますが、初回面談ではどのような話をされたんでしょうか。
齋藤 初回面談の前に、M&Aクラウド担当者から「サービスの魅力をただ説明するだけでなく、買った後にどういう未来が描けるのかイメージしてもらうことも大事」とアドバイスをいただきました。
そこで、面談前にベビーカレンダーさんの事業内容や経営計画をしっかりと調べて、ベビーカレンダーさんと『ゆるっぷる』を組み合わせることでどんなシナジーが生まれるか、私なりの提案を入れた資料を作成しました。そして、その内容をもとにサービスの魅力をお伝えしました。
安田 資料は完璧で、いいプレゼンだったという印象があります。実は当社は、面談前に『ゆるっぷる』を社員に使ってもらって、感想をヒアリングしていました。その時点で、当社の既存事業のユーザーに告知すればアプリを使ってくれそうだという期待感は持っていたんです。そこで、最初の面談で「ぜひ譲り受けたい」とお伝えしました。
齋藤 『ゆるっぷる』は、開発後にほとんど手を掛けてこなかったんです。広告を打ったこともなく、ほぼ口コミだけで、コンセプトに共感していただけるユーザーが増えていきました。その点を安田社長から「すごいね」と評価いただいたので、とても嬉しかったですね。
――幅広い層に共感してもらえることが実証されており、それがベビーカレンダー様の評価にもつながったんですね。この初回のオンライン面談を経て、その翌週には対面での面談が行われました。
齋藤 私も安田社長もいつもはリモートワークなのですが、たまたまお互いに出社している日に連絡が来て、「今から来社できますか?」と(笑)。すぐに訪問し、数字の共有の他、追加できそうな機能のこと、既知の不具合を解消する方法、引き継ぎ後のプロセスなど、かなり具体的な話し合いをしました。
安田 多くの方に利用してもらっているサービスだからこそなのですが、改善要望がありつつもまだ解決しきれていない部分があり、やや不安に感じていたんです。そこが修正されていればありがたいなとリクエストしたところ、齋藤さんからは「すぐには直せないが、契約成立の3カ月後くらいまでには終わらせる」という返事をいただきました。その答えを聞いて安心しましたね。
両社の共通項は、「ユーザーを何より大切にする姿勢」
――その後、2022年7月1日にクロージングとなりました。成約の決め手は何だったのでしょうか。
安田 齋藤さんとお会いして、信頼できる人だと思ったことは決め手の一つです。改善余地のある機能を修正してから譲渡すると約束してくださいましたし、話し方などからも真摯で真面目な方という印象を受けました。
竹林 齋藤さんはユーザーのことをすごく気にされていました。ユーザーを大切にしたいという思いは当社も同じですので、その点で信頼の置ける人だと感じましたね。
安田 もちろん、事業そのものの魅力が大前提ですよ。数あるダイエットアプリの中で「特異性」がある。競合が多い市場でも勝ち残っていけるかも、と可能性を感じました。
――今後は、その特徴的なアプリをどのようにグロースしていく計画ですか?
安田 アプリ開発・運用の経験が豊富な担当者に任せていますが、機能強化やプロモーション、既存事業との連携などを計画しています。
例えば、3人以上でのグループダイエットの機能を追加するアイデアがあります。多くのユーザーから既に要望をもらっているんです。世の中で流行るものって、ゲームでも遊びでも、複数人で楽しむものが多いんですよね。
このアプリも、3人以上で楽しめる形態にすれば、ユーザーがユーザーを呼ぶいい循環が生まれるはず。『ゆるっぷる』はそのような可能性を持つアプリだと思っています。
――齋藤さんは今回の売却体験を生かし、今後はどんなことに挑戦しますか?
齋藤 これから数年でAR市場が大きく拡大すると信じています。AR事業に全力を注いで、ベビーカレンダーさんのように大きく成長して、さらには上場まで果たすような、社会にインパクトを与えられる会社になりたいと思います。個人的に安田社長とお話しできたことは非常にいい刺激になりました。今後もいい関係を継続できればと思いますね。
――貴重なお話をありがとうございました。
■本ディールの経緯
2019年11月22日 ベビーカレンダーが『M&Aクラウド』に掲載
2020年8月9日 palanが『M&Aクラウド』に登録
2022年5月13日 palanがベビーカレンダーに打診
2022年5月30日 初回面談(WEB 双方の事業概要や、譲渡事業の特徴を共有)
2022年5月30日 palanからベビーカレンダーに、想定シナジーに関する資料を送付
2022年6月6日 2回目面談(対面 譲渡までの要件や引き継ぎ後のプロセス等を打ち合わせ)
2022年6月15日 ベビーカレンダーの取締役会で買収決定
2022年6月17日 3回目面談(WEB アプリの技術面打ち合わせ)
2022年7月1日 DA締結・クロージング
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本ページに掲載している情報には、M&Aが成立するに至る経緯に加え、インタビュー時点での将来展望に関する記述が含まれています。こうした記述は、リスクや不確実性を内包するものであり、環境の変化などにより実際の結果と異なる可能性があることにご留意ください。