【カオナビ×はれると】農業の労務管理をクラウドで進化させる。HRテックをリードするカオナビが選んだ、若手起業家の夢

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【カオナビ×はれると】農業の労務管理をクラウドで進化させる。HRテックをリードするカオナビが選んだ、若手起業家の夢

クラウド人材マネジメントシステム「カオナビ」を運営する株式会社カオナビ(本社:東京都港区)は2020年8月、農業の労働効率向上を支援する労務管理クラウドサービス「agri-board」を提供する株式会社はれると(本社:大阪府八尾市)への出資を発表しました。本件は、カオナビが2019年6月に立ち上げたスタートアップ企業支援プロジェクト「カオナビ NEXT FUND」による出資です。両社が「M&Aクラウド」のカスタマーサポートサービスを介してつながり、数度のプレゼンテーションと度重なる計画見直しを経て成約に至った経緯や今後の事業展開に向けた思いなどについて、カオナビ 取締役副社長 COOの佐藤 寛之氏(写真左)、はれると 代表取締役の岩本 佑太氏(写真右)に語っていただきました。

プロフィール

佐藤 寛之(さとう・ひろゆき)

株式会社カオナビ 取締役副社長 COO 上智大学卒業後、株式会社リンクアンドモチベーションにて組織変革コンサルティングに従事。その後、シンプレクス株式会社にて、人材開発業務の責任者を務める。2011年より株式会社カオナビにて創業者の柳橋とともに、クラウド人材管理システム「カオナビ」の事業を開始し、現在では約1,800社に利用される業界シェアトップクラスのサービスにまで成長させている。

岩本 佑太(いわもと・ゆうた)

株式会社はれると 代表取締役 関西大学社会安全学部在学中に、株式会社はれるとを創業。 農業経営における労務課題の解決を実現する「agri-board」の事業を運営している。

「何かありそう」な起業家を応援したい。自身の創業期にも通じる熱気を感じて

――はれるとさんの事業紹介からお願いいたします。

岩本:比較的大規模な施設園芸(ビニールハウスなどの施設で行われる農業)の事業者を対象に、作業の進捗、各メンバーの労働時間、作業量などを管理するツールを開発・販売しています。私が農業の業務改善に関心を持った最初のきっかけは、学生時代、友人の実家であるトマト農家で作業体験をさせてもらった際、現場の抱えるさまざまな課題を実地で見聞きしたことです。その後、農業とその周辺事業を幅広く手掛ける企業で、役員の方から7時間にわたってお話を伺い、この領域で自分なりに何かできないかという思いが強くなりました。特に現場の課題感が強く、テクノロジーで改善できる見込みの大きい労務管理の領域にフォーカスすることを決め、サービス開発をスタートしました。
「agri-board」は、2018年末ころからベータ版での実証実験を始め、2020年3月にサービスとしてローンチしました。最初にヒアリングに伺った企業のほか、国内最大規模の500名を超えるスタッフを抱える農園、大手化学メーカー系列の農園など、トマト農園を中心に導入を広げています。

――「M&Aクラウド」に登録いただいた経緯をお聞かせいただけますか?

岩本:ベータ版ができたころから、今後の機能開発とマーケティング・拡販を展開していくためには資金調達が必要だと意識するようになりました。M&A仲介会社にも相談しつつ、ウェブなどで情報収集している中で、「M&Aクラウド」を知りました。
仲介会社からも当たり先を提案してもらってはいたのですが、先方会社について得られる情報が限られていて、なかなか先に進んでいくイメージを持てなかったんです。その点、「M&Aクラウド」では、先方の社名やデータベースだけでなく、具体的なビジョンやニーズまで自由に閲覧できます。私たちは、できれば事業シナジーのある会社から投資を受けたいと考えていたので、先方会社についてある程度の情報を得たうえでアプローチできる仕組みはとてもよいと思いました。

――2019年12月に登録いただき、直後に当社アドバイザーがニーズのヒアリングをさせていただいた後、翌1月に改めて、カスタマーサポートサービスのご提案をさせていただきました。このときの率直な印象を聞かせてください。

岩本:アドバイザーの方が当社の事業に関して、かなり調べたうえで面談に臨んでくださっているなと感じました。今後の進め方について、打診先の候補も挙げていただきながら、具体的な道筋がイメージできる形でお話しくださったので、ぜひお任せしたいという気持ちになりました。

――カオナビさんとは、3月頭に最初の面談を設定させていただきました。それ以前から、岩本さんはカオナビさんを「気になる」リストに入れていらっしゃったようですね。

岩本:人材マネジメントにおけるSaaSを展開し、上場もされている先輩企業として、憧れを持っていました。私が「M&Aクラウド」に登録したとき、ちょうどカオナビさんの記事が公開されて間もないころで、記事一覧の上の方に載っていたんです。「お会いできたらいいな」という思いで、「気になる」を押した記憶があります。

――実際にカオナビの担当の方とお会いになって、いかがでしたか?

岩本:積極的に事業シナジーを見出そうという姿勢でいろいろと質問してくださり、本気度の高さを感じてうれしく思いました。当社サービスの対象市場である農業は、カオナビさんにとっては馴染みの薄い領域ですから、当日は業界特性について私なりにご説明しました。
農業事業者向けのビジネスは、新規営業の糸口をつかむことが難しく、ITベンチャーにとっては参入しづらい領域です。そんな中、当社は人と人のつながりを武器に、独自の顧客基盤を築いてきました。サービス開発を始める前、ヒアリングに伺った大手農業法人の方々が強力に支援してくださったのをきっかけに、紹介の輪が広がって、全国各地の事業者の皆さんが実証実験に協力してくださるまでになったんです。この点では、同業他社より一歩先を進んでいると自負していたので、そこを一番にアピールさせていただきました。

佐藤:そのあたりの筋のよさについては、当社の担当者も話していました。ウェブ上にもあまり情報がなく、外部からは内情が分かりづらい業界において、いかにコネクションを作っていくか、あまり目立った動きをすると、今度は他社に真似されてしまうリスクがある。そこのバランスをうまく取りながら、足場を築いているようだと。

――その報告を受け、佐藤副社長も3月中に岩本社長と面談されたのですね。このときは当社アドバイザーも同席させていただきました。いよいよ先の展開が見えてきて、岩本さんも気合いが入る場面ですね。

岩本:今もよく覚えていますが、あのときの佐藤さんは怖かったです(笑)。アイスブレイクのときはすごく気さくに話しかけてくださったのですが、その後の僕のプレゼン中はコメントもせず、相づちも打たずに、ずっと資料を見ていて。僕が話し終わった後、第一声が「ごめん、事業シナジーがよく分からないんだけど」だったんです。内心、「あー、これはもう、やっちゃったな」と(笑)。

――確かに怖いですね(笑)。

岩本:でも、そこから少しディスカッションした後、今度は手にしていた資料をパンと投げて、「まあ、経営者が優秀だと思うから、僕は出したいと思ってるんだけどね」とおっしゃった。カッコいいですよね(笑)。ドラマのような演出をされる方だなと思いました。

佐藤:いや、事業シナジーは論理的にはあるんですよ。カオナビにとっては、あまり接点のなかった農業界へのパイプを作っていけるでしょうし、はれるとさんに対しては、当社のマーケティングやプロモーションのノウハウを展開して、サポートしていけると考えました。
ただ僕は東京育ちでもあり、農業の世界が現状どうなっているのか、今後どうなっていくのか、実感の部分ではなかなかつかめなかったんです。はれるとさんのビジョンには共感できたし、岩本さんも一生懸命なので応援はしたい。そのためには説得力のある理由が必要だと思ったので、岩本さんのプレゼンを聞きながら、頭の中で探し続けていました。

――岩本さんのビジョンと熱意にひかれたのですね。

佐藤:そうですね。僕の場合、出資を検討する際のポイントを仮に3つ挙げるとすると、1つ目は、事業ドメインやサービスモデルのユニークさ。この点、第一次産業のDXというのは、まさにベンチャー企業だからこそ取り組める領域であり、話題性の観点からも面白いと思いました。2つ目は、先ほどからお話ししている事業シナジー。3つ目が、経営者・経営陣の資質や人柄で、事業計画やファイナンス計画などはその後の話です。もちろん計画の案も聞きますけど、たいていは突っ込みどころ満載ですからね(笑)。でも、それは僕たちの創業時も同じようなものでしたから。
岩本さんは、まさに今の世代の起業家らしいなと思います。僕らの世代のように尖った感じではなく、ひたすら真摯に、粘り強く、やりたいことを前に進めていく。憎めなくて、何かありそうだなと思わせてくれる人です。そもそもベンチャー起業家なんて、まして農業のDXなんて、普通の人間ならやろうと思わないような大変なことじゃないですか(笑)。あえてそれに挑戦しようという情熱を秘めつつ、彼なら一歩一歩着実に、何かを積み上げていくだろうと感じました。

事業計画を何度もリバイズ。真摯な姿勢と粘り強さで、出資決定を勝ち取るまで

――佐藤副社長との面談後、4月、5月の間に、カオナビさんの社内調整と並行して、デューデリジェンスと契約書のすり合わせを進められました。そして、5月の末に、今度はカオナビさんの投資委員会の場で岩本さんがプレゼンされたのですね。このときは、特にどんな点を準備されましたか?

岩本:佐藤副社長との面談で指摘いただいた部分が伝わりやすくなるよう意識しました。3年後、5年後の時価総額の根拠として、今後の市場規模の推移、その中での当社の販売戦略について、できるだけ具体的なイメージを持っていただけるように、いろいろなエビデンスも盛り込みつつ、説明を練り上げました。

――そのおかげで、投資委員会の皆さんの納得感も高まったのでしょうか?

佐藤:皆さんの納得感は・・・あんまり高まらなかったかもしれない(笑)。あのときも岩本さん、怖かったでしょ?

岩本:まだまだ私の説明の力が弱いのかなと痛感しました。(カオナビの)柳橋社長の反応はよかったのですが・・・。

佐藤:実際、社内でもいろいろな議論があったのは事実なんです。僕や社長は自分の創業経験に照らして、岩本さんのポテンシャルに賭けたい気持ちが強かった一方で、財務の責任者はやはり、筋道の通った事業計画を要求します。それは立場上、当然ですよね。
投資委員会の後、最終的に僕から取締役会に上げるまでの期間も、当社の担当者と岩本さんの間で何度も計画のリバイズをしてくれています。その粘り強さやレスポンスの速さについても僕は報告を受けていたので、判断材料の一つになりました。

岩本:多忙な経営陣の皆さんに、端的に重要な情報を伝えるにはどうすべきか、カオナビの担当者の方が本当に親身に教えてくださいました。私はひたすらそれに付いていった感じです。
途中、出資時期に関しても議論があったのですが、はれるとにとってはこれからの数年、ファイナンスの心配をすることなく、事業成長だけに集中できる環境を作ることが、将来のためにどうしても必要だと考えていたので、その思いを懸命にお伝えしました。

佐藤:岩本さんの中では、実はいろいろな観点から分析もし、計画を立てているんだけど、その情報をきれいに整理し、ポイントを絞って説明するというところで、たぶん苦労があったのかな。若い起業家にはありがちなことですよね。
3月の面談のときは、M&Aクラウドのアドバイザーさんも、そのあたりを中心にフォローされていて、まさにアドバイザーが付くサービスのメリットだなと感じました。経験豊富なアドバイザーが、ときには出資希望者の代弁者を務めることで、出資する側にとっても、出資理由を組み立てる糸口が見つかるケースがきっとあると思います。
僕らは創業のころ、金融機関にいきなり電話で資金調達の依頼をして呆れられたんですが(笑)、今はそんなことをしなくても、投資意欲のある会社の情報がオープンになっていて、自由に選んで打診できる仕組みがある。岩本さんも冒頭話したように、本当に便利なサービスです。ただ、マッチングできた後にも、ハードルはたくさんありますから、そこをサポートする機能もぜひ拡充していってほしいですね。

農業を魅力的な産業に! インフラ面から支えるべく、ツールの開発・販売を強化していく

――はれるとさんの今後のビジョンをお聞かせください。調達された資金はどのように活用していかれるのですか?

岩本:開発と販売の両面で強化を図っていきます。
開発面では、今、特にユーザーからのリクエストが多いのが、各作業者のスキルレベルを高精度に可視化する機能です。たとえば、収穫作業では、Aさんは1時間にこのくらい、Bさんはこのくらいこなすことができるとか。ほかにも農薬散布、摘果など、作業ごとの得意不得意もあります。それらをマトリクスで正確に実績値を把握できるようになれば、最適な人員配置ができて、生産性の向上につながる。そこをサポートする機能を早期に実装していきたいと考えています。

――労務の省力化だけでなく、経営改善にも貢献するサービスへと進化させていくのですね。

岩本:当社は、テクノロジーを通して、農業を魅力的な産業にしていくことをミッションに掲げています。「agri-board」を使えば、労務も現場の作業もどんどん改善できて、利益もしっかり上がるという状況を作りたいんです。農業生活に憧れを持ち、夢を持ってスタートしたはずの人たちが、「体力的にもきついし、収益改善する見込みもないから」と言ってあきらめてしまうのは、本当に残念なこと。やればやるほど成果が上がり、経営者にとっても従業員にとっても面白いビジネスになるよう、インフラ面から支えていくことを目指しています。

――販売の強化に関しては、どんな施策をお考えですか?

岩本:今は新型コロナの影響で出張もしづらい状況ではありますが、やはり当社のサービスは、農家さんを回り、丁寧にヒアリングをしながら導入していくことが基本です。そのためのマンパワーも増やしますし、旅費も確保していきます。さらに、カスタマーサクセスやマーケティング、プロモーションに関しては、カオナビさんのお力も借りながら、体制を作っていきたいと考えています。

佐藤:当社がやってきたことを農業領域でどれだけ応用できるかは未知数ですが、僕たち自身も、これまで新しい市場を創りながら失敗と成功を重ねてきました。その経験を活かしたアドバイスはできると思っています。
たとえば、プロモーションに関して言うと、農業×DXというのはメディア映えしますから、打ち出し方次第では、広告費をかけずに認知度を大幅にアップできるポテンシャルがあります。実際、今回の出資のリリースの際も、カオナビの広報でファクトブックを作成するなどしてPRした結果、日経新聞はじめ多くのメディアに取り上げてもらうことができました。また、カオナビではこれまで何千回と開催してきた、導入事例を紹介するセミナーなども、「agri-board」のリード獲得にも有効だと思います。出資者として、はれるとの成長を加速させたいのはもちろんのこと、カオナビとしても新しい領域で知見とノウハウを積み上げていきます。

――最後に、佐藤副社長から岩本社長へのエールをお願いいたします。

佐藤:これは岩本さんはもちろん、「カオナビ NEXT FUND」に応募される人全員に伝えたいのですが、資金調達のための活動をしていると、VCなどは相場を知り尽くしているし、VC同士で情報交換もしているので、情報量で劣る起業家側は言われるがままになりやすい。でも、出資をする側が強くて、受ける側が弱いという図式は、僕はおかしいと思っているんです。本来は起業家の方が事業の当事者で、僕らはそこにお金を出させてもらっている。その立場から、スケールアップのために望まれる協力をしていくというだけです。
岩本さんには、カオナビに対して「使ってやる」というくらいの気持ちでいてほしいですし、そういう対等な関係をスタートできることこそ、オンラインのM&Aプラットフォームを使う意義じゃないでしょうか。成長に必要なサポートを受けながらも、自分のやりたいことを貫ける起業家が今後どんどん出てくることを楽しみにしています。

――お二人とも、本日はありがとうございました。


■本ディールの経緯
2019年11月14日 カオナビが「M&Aクラウド」に掲載開始
2019年12月1日 はれるとが「M&Aクラウド」に登録
2020年1月 「M&Aクラウド」のアドバイザーによるサポート開始
2020年3月25日 カオナビとの初回面談(カオナビ側はM&A担当者のみ)
2020年3月31日 カオナビとの2回目面談(カオナビ側は佐藤副社長も同席)
2020年4月~5月 デューデリジェンスおよび契約書面すり合わせ
2020年5月29日 カオナビの投資委員会にてプレゼンテーション
2020年6月~7月 事業計画のリバイズ
2020年7月17日 出資決定 
2020年8月24日 プレスリリース発表


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本ページに掲載している情報には、M&Aが成立するに至る経緯に加え、インタビュー時点での将来展望に関する記述が含まれています。こうした記述は、リスクや不確実性を内包するものであり、環境の変化などにより実際の結果と異なる可能性があることにご留意ください。

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