メディカル×ヘルスケア領域で新規事業創出!「0次予防」で共に創る健康未来とは
投資家:日東紡績株式会社
出資先:株式会社サイキンソー
公開日:
2024年7月、グラスファイバーの国内トップメーカーであり、メディカル事業も展開している日東紡績株式会社(以下、日東紡)は、腸内細菌叢検査を主軸に、その解析データを用いて多様なサービスを展開するスタートアップ、株式会社サイキンソーへ出資を行いました。
メディカル領域の日東紡とヘルスケア領域のサイキンソー。それぞれの知見を活かして「これからの健康」をともに築いていく事業パートナーになると期待されます。今回は、日東紡 上席理事・新規事業創出センター長 山本直大氏、同参事・ヘルスケア事業開発プロジェクトリーダーの新保陽平氏と、サイキンソー 代表取締役社長 沢井悠氏から、成約までの経緯や、事業戦略、次世代のメディカル・ヘルスケア領域の展望を伺いました。
プロフィール
2018年入社。グラスファイバー事業部門、販売子会社副社長、経営企画部長を経て現職。
2008年入社。国内・海外で体外診断用医薬品のマーケティング、新製品プロジェクトマネージャーを経て現職。
東京大学工学部応用化学科卒業。イーソリューションズにて、先端医療ベンチャープロジェクトに5年関わる。その後、微生物 ゲノム解析技術により有用化学品のバイオプラント開発を手がけるベンチャーにて経営企画職を経験。ヒト常在細菌叢(マイクロバイオーム)の世界を知り、2014年にサイキンソーを設立。
メディカルとヘルスケアの連携でイノベーションを起こしたい
——まずは、両社の事業内容について教えてください。
山本:日東紡は、東証プライム上場の素材メーカーです。1923年に繊維業としてスタートし、企業成長と共に事業領域は祖業の繊維業から、グラスファイバー、体外診断用医薬品、機能性ポリマーの製販など多岐に渡る事業展開をしています。2023年に創立100周年を迎え、社長直轄組織として新規事業創出センターを設立。当社が持つ強みと他社の技術力・創造力を掛け合わせたオープンイノベーションを推進(特にスタートアップ企業との協業)し、次の100年に向けた社会課題解決型の新規事業創出に取り組んでいます。
新保:少子高齢化による医療費増加と現役世代への負担増加は、次の100年に向けた社会課題の一つです。近い将来、「自分の健康は自分で守る」時代が到来し、新たなビジネスチャンスが生まれると考え、当社の技術や知見と連携でき、かつ顧客基盤を持つヘルスケア事業を展開する企業との協業を模索していました。
沢井:私たちサイキンソーは、腸内フローラと呼ばれる腸内細菌の検査からスタートし、その技術をヘルスケア領域に応用する事業を展開しています。メインサービスは腸内フローラを検査・解析してその結果をフィードバックし、運動、睡眠、食事など生活習慣の改善に役立てていただくことです。病気予防には1次、2次、3次予防という考えがありますが、当社ではその前段階を「0次予防」と謳い、無意識の範囲から健康を培っていきたいと考えています。
「腸内細菌叢の検体×解析」に着目
——今回の出資・資金調達の背景にあった事業戦略について教えてください。
山本:ヘルスケア領域の新規事業戦略としては、未病や予防医学の観点から、尿や便などの検体と検査キットを用いて得られたデータから健康状態や疾病罹患リスクを見える化し、行動変容を促すことで、人々の健康・快適な生活に貢献できる事業を創出したいと考えていました。そのため、健康の基盤であり大きな可能性を秘めている腸内細菌叢も着目テーマの1つでした。
沢井:当社としても、ちょうど成長資金を必要としているタイミングでしたし、事業をさらに強化していくために事業提携、短期・長期の技術開発など多様な形のパートナーを探していました。
——資金調達クラウドと類似したプラットフォームサービスを展開している企業もありますが、なぜ資金調達クラウドを選ばれたのでしょう。
山本:資金調達クラウドに登録後、すぐにサイキンソーを紹介していただきました。スピード感があり、かつ当社がイメージしていた企業をご紹介いただいたことに感謝しています。
——今回、VCではなく事業会社から資金調達を希望された理由はなぜですか。
沢井:事業提携もそうですし、技術の視野を私たち自身も広げたいと思ったからです。当社の中には、営業や技術職などさまざまなメンバーがいますが、そこに違う刺激が入ってくると視野が広がり、我々自身も活性化する部分あると思っています。そういった人材交流をどんどん進めていきたいと思い、事業会社との連携を望んでいました。
「人の健康に役立ちたい」新しい事業を模索していたからこその出合い
——面談でのお互いの印象、手応えはどうでしたか。
新保:初回の面談には、サイキンソーの原CFO、当社からは山本と私が参加しました。初回面談であるにもかかわらず、原CFOから協業に対する具体的な提案をいただきました。ご説明いただいた言葉から協業への熱意と自社の技術への誇りが感じられました。それまでお会いしたどのスタートアップ企業より、「一緒に何か新しいことを生み出すことができそうだ」と感じました。
沢井:原はもともと研究者で、その後あるスタートアップ企業で創立メンバーとなり、管理部門長、CFOを経験しています。技術寄りの人材なので、当社にジョインしてからも事業理解や技術理解はスムーズでした。そんな原だからこそ、日東紡さんの技術で何ができるか、そこに当社がどう役立てるかを考えながらディスカッションできたのではと思います。
山本:原CFOとの面談の後、2回目以降の面談では沢井さんや互いの上層部メンバーなども参加されましたが、すぐに「私たちが組んだらどんな事業ができるのか」という話が始まり、新規事業案のブレストのような雰囲気になりました。
沢井:そのときに、すでに確立しているメディカル領域ではなく、そこに近しいけれど新しいビジネスに進出したいとのお話を聞き、これはまさに当社の得意分野と考えました。この方たちと連携すれば、「興味深い何か」がきっと生み出せるとイメージしたのです。
——初回の面談から約3カ月と、非常に早い期間での成約となっています。決め手となったのはどのポイントだったのでしょうか。
新保:3か月という短期間で意思決定ができたのは、サイキンソーの方々がどなたも熱意をもって誇りをもってお仕事に取り組んでおられること、そして私達のチャレンジと真剣に向き合ってくださること、そのような社風が大きな要因かと思います。
山本:面談を通じて、具体的な協業テーマや将来の事業イメージを描くことができたので、当社の役員に向けて「これはチャンスでしかない」と自信を持ってプレゼンをすることができました。
沢井:ありがとうございます。日東紡さんは私たちの提案を待つのでなく、自社のアイデアを豊富に持ち、積極的に動いてくださいました。それも、スピーディーな成約につながった要因ではないかと考えています。
今後は地域の健康課題の解決やペット領域での協業を目指す
——新規事業創出について、非常にエネルギーを感じるお話でしたが、今後のビジョンについても教えてください。
山本:当社はメディカル事業領域が主戦場でビジネスを展開しており、ヘルスケア領域の知見は乏しいため、サイキンソーさんのデータや販路、プラットフォームを活用させていただければと思っています。また、腸内細菌と疾病との関連性の解明はこれから本格化していくと思われます。両社の知見やアセットを組み合せることにより、 中長期的な視点で、さまざまな新規事業が展開できる可能性があると考えています。
新保:先に沢井さんからの話に出た0次予防では、日常生活をどう変えていくかがポイントになります。サイキンソーさんの技術で腸内フローラが見える化できても、個人の日常のアクションを変えて良い方向に向かわせなければならない。その際には、当社の開発予定プロダクトが良い橋渡しになると期待しています。
——具体的な協業予定は決まっているのでしょうか。
新保:はい、両社でプロジェクトチームをつくり、既にいくつかプロジェクトが動き出しています。直近では、当社が基盤としている福島県の健康課題の解決に一緒に取り組みたいとお話をしています。サイキンソーさんは、福島県の企業と共に県民の皆さまの健康増進と地域の産業振興を応援する「ふくしま腸活プロジェクト」に取り組んでいらっしゃいます。福島県の企業である当社としても、サイキンソーさんのサービスと連携して、このプロジェクトを盛り上げたいとご提案をしています。
沢井:フットワーク軽くお話をさせていただけるので、とてもありがたいです。
——その他にはいかがですか。
沢井:現在検討しているのは、中長期的にコンパニオンアニマル(ペット)に関わる事業プランです。コンパニオンアニマルの健康は飼い主にも影響を与えますし、0次予防の視点も入ってくる。対人間以外の領域にも事業を広げていきたいし、そこで日東紡さんのご協力も得ていきたいと考えています。
また、私たちの検査方法は現状、便のみですが、日東紡さんと組んで違う方法や検体で調べてあげられるようになるということは、人々の日常生活にさまざまな測定機会や、生活習慣の改善につながるポイントを差し込んであげられることにつながりますし、わたしたちもすごく視野が広がっていくなと感じています。
——これからの展開が非常に楽しみですが、今回資金調達クラウドを利用してみての感想はいかがですか。
山本:資金調達クラウドは、調達を希望されている企業のプロファイル、事業戦略、なぜ資金調達が必要かという背景、そしてその資金をどう活かしていくのかが詳しく記述されています。事前調査の時間が大幅にセーブでき、さらに、当社の意向と合致したスタートアップ企業か否かの判断を、スムーズに行うことができました。
沢井:それに加えて、とにかく対応がスピーディーでしたね。担当者が、まるで社内にいるかのようにチャットなども対応してくれて。すごくありがたかったです。
――担当者のサポートはいかがでしたか?
新保:我々はスタートアップへの出資は今回が初めてでしたので、投資委員会の準備やクロージングまでの手続きなど、最初から最後まで全面的にサポートをいただきました。困った時に的確なアドバイスをいただき大変ありがたかったです。