自治体ICTソリューション×データサイエンスで社会課題解決!土壌の違う両社が生み出すイノベーションとは?
投資家:株式会社エーティーエルシステムズ
出資先:株式会社エスタイル
公開日:
自治体・教育機関向けにICT(情報通信技術)ソリューションサービスを提供する株式会社エーティーエルシステムズは、データサイエンティスト事業などを展開する株式会社エスタイルと、2023年9月に資本業務提携を結びました。
契約締結から約半年が経過し、現在両社にはどのようなシナジーが生まれているのでしょうか。今回は、エーティーエルシステムズ代表取締役の佐藤公紀氏とエスタイル代表取締役の宮原智将氏に、協業の背景や現在の取り組み、今後の展望などを伺いました。
プロフィール
日本大学法学部卒。新卒からIT業界でエンジニアに従事し、現SCSK株式会社のグループにてテクニカルサポート事業の立上げを経験。2006年、株式会社エーティーエルシステムズにJOINし、自治体コンサル、自治体データエンジニアリングに従事。山梨から社会課題を解決できる技術者集団をリードする。
慶応大義塾大学経済学部卒。新卒後、経営戦略コンサルティングのCDI(コーポレイトディレクション)にて3年間コンサルタントに従事。病院経営、サービス、自動車など複数業界のPJを経験。2006年、株式会社エスタイルを設立。ウェブマーケティング事業にて、業績を拡大。2019年よりデータサイエンス事業に注力。
各業界のリーディングカンパニーと組み、DX推進を成功させたい
――まず、両社の事業内容について教えてください。
宮原:エスタイルは「日本をAI/DXで元気にする」をミッションに掲げ、クライアント企業のデータ利活用を支援するデータサイエンス事業と、LLM(大規模言語モデル)コンサルティング事業を行っています。データサイエンス事業では、採用率1%の難関を突破したハイクオリティのデータサイエンティストが、AIを用いながらクライアントのデータ利用・分析を支援しています。
一方、LLMコンサルティング事業では、生成AIの導入コンサルを行っています。生成AIの導入を検討しているクライアントに対し、導入目的の設定から伴走支援を行い、お客様が抱える課題の解決に寄与しています。
佐藤:私たちエーティーエルシステムズは、山梨に本社機能を置き、全国の自治体・教育機関向けにICTの専門家としてソリューションを提供しています。「ネットワークとデータの力で〝社会課題〟を解決し、すごい未来を実現できる技術者集団」として自治体に対し、システムの設計・構築から運用・保守までワンストップで担うことができることが強みです。
昨今、注力しているのはデータ・システムエンジニアリング事業です。各自治体・教育機関が保有するデータを統合管理することで、政策立案に役立ててもらったり、職員がもつ属人化した「暗黙知」をデータで可視化することで業務に活かしてもらったりしたいと考えています。
――エスタイルが資金調達を検討されたきっかけはなんだったのでしょうか。
宮原:まず大前提として、DXの成功には、「エンジニアリング」、「インテグレーション」、「コンサルティング」の3つの要素が大事だと考えています。つまり、単にAIの知見や技術力があるだけでは、DXというのは成しえない。成功に導くためには、手段よりも目的が大事で、各業界の課題になっていることをきちんと把握した上で事業を進めることが何よりも重要だからです。
そこで、各業界のリーディングカンパニーと資本業務提携を結び、深い事業理解をしたうえで、その業界のDX推進を進めていきたいという方針を掲げていました。
元々は買い手としてM&Aクラウドさんのサービスを活用していましたが、その際にM&Aクラウドさんが各業界に幅広いネットワークを持っていることを知っていたので、資金調達においても支援をお願いすることにしました。
――今回は資金調達クラウドのアドバイザーを通じて、面談が組まれましたが、エーティーエルシステムズのどこに魅力を感じたのでしょうか。
宮原:自治体へのDXコンサル進出に悩んでいた時に、エーティーエスシステムズさんを紹介いただきました。当時は自治体との取引方法や、入札の仕方すらも分からず困っていたので、自治体に対する業務に知見や実績のあるエーティーエルシステムズさんとの出合いは、まさに渡りに船でした。
「社会課題を解決する」という明確な目的で合致
――佐藤さんはエスタイルにどのような印象を最初にお持ちになりましたか。
佐藤:当社ではデータエンジニアリングができる人材は豊富に在籍しており、自治体・教育機関におけるデータ利活用の支援はこれまでも注力してきました。一方で、データサイエンティストが在籍していなかったので、データをさらに統計的に分析し、有効に活用する方法がほかにもあるのではないかと悩んでいたのです。
そんな時に、データサイエンティストを多く抱えるエスタイルさんを紹介いただき、面談する前から非常に関心がありました。
――実際に、エスタイル・宮原さんに会ってみていかがでしたか。
佐藤:先ほど採用率1%というお話もありましたが、エスタイルさんに所属するデータサイエンティストの技術力の高さを感じましたし、私たちが掲げる「ICTを活用して地域社会の課題を解決する」という目的も一緒に果たせそうだと感じました。
というのも、エスタイルさん以外に外資系のLLMを研究している企業と面談したのですが、AIの最新技術の話ばかりで、それを使って「どのように課題を解決したいのか」という着地点が見えてこなかったんですね。
一方、宮原さんはエンジニア出身ではないこともあって、自社が持つデータサイエンスや生成AIの技術はあくまで手段であって、社会課題を解決することが目的だとはっきり意識されていました。そのため、宮原さんと話を進めていく中で、地域・社会へ新しい価値をもたらす幅広いサービスの実現ができそうだと考え、出資を決めました。
また、面談を通じて宮原さんの人柄も決め手になりました。
宮原:そう言っていただきありがとうございます。私も佐藤さんと面談をしていく中で、エーティーエルシステムズさんと協力して自治体や行政が持つデータに、当社のデータサイエンス事業を組み合わせることで、「自治体、さらには日本全体で意義があることにつなげられる」という明確なイメージが湧きました。
また、出資側、調達側という立場に関係なく、とてもフラットな関係でお話しさせて頂き、真摯にパートナーシップを模索されているのだと感じたことも、スムーズに契約できた要因だと思います。
データエンジニア×AI・LLMで自治体サービスの付加価値を向上させる
――資本業務提携後、半年たちましたが(2024年4月段階)、今はどのような取り組みを行っているのでしょうか?
宮原:現在は、エーティーエルシステムズさんと当社のデータサイエンティストで、自治体への提案内容を協議している段階です。
多くの自治体は、多岐にわたる業務を抱えながらも、税収減少の観点から人手が足りないという課題を抱えていらっしゃると思います。その課題解決に向けて、具体的には、AIチャットボットの導入や、AIを活用したFAQの対応などが可能になる提案準備を自治体向けに進めています。AIを活用することで、住民は正確な情報をいつでも手軽に引き出せるメリットがあるので、そのあたりの強みを生かした行政サービスを実現したいです。
さらに、エーティーエルシステムズさんが提供する自治体データを可視化できるSaaS型のオリジナルプロダクト「行政情報分析基盤 for LGWAN-ASP」に対して、生成AIを導入することでサービスの付加価値を向上させたいと考えています。
例えば、行政アンケートや問い合わせなどから得られたテキストデータは、LLMを使ってベクトルデータに変換すれば、データサイエンスの対象になります。そうすれば、数千の回答をカテゴリーごとに分類したり、自動的に市民の声のサマリーを作ったりすることができます。過去数十年で開催された数万の議事録から、特定のキーワードにフォーカスした内容だけを抽出することも可能になります。それらのデータを活用してさらなる行政サービス向上につなげられるかもしれません。
佐藤:ほかにも、コールセンターやログデータなどの情報から、ベテラン職員が持っていた暗黙知をLLMで具現化できるので、現場の作業効率の向上にも寄与できます。
行政には本来資産となり得る、税金、防災、健康情報など、市民にとって有益となるデータが数多く蓄積されていますが、有効に活用できていないという現状があると考えています。そこで、私たちのデータエンジニアリングの力と、エスタイルさんが持つAI、LLMの技術を掛け合わせることで、そうしたデータ資産を有効活用し、有効な施策立案や行政サービス提供につなげていきたいと考えています。
両社に差異があるからこそ、イノベーションが生まれる
――データエンジニアとデータサイエンティストという、違う職種の人たちが交わってプロジェクトを進めていくことにもメリットがありそうですね。
佐藤:はい、両社それぞれに在籍している人材はこれまで経験してきた技術・ノウハウが全く異なります。そのため、共にプロジェクトを実施する中で、双方の刺激になっていますし、スキルや成長スピードも格段に上がっています。
また、最近では当社のエンジニアが構想していたけど具現化できなかったことに対して、エスタイルさんのデータサイエンティストに相談する場面もよく見られます。もちろん、論文などを見ればそれが具現化できるかどうかは分かるのですが、「それがいつ頃可能なのか、どれぐらいのコストがかかるのか」などは分かりません。
エスタイルさんのデータサイエンティストは、そうした詳細な部分を回答してくれるので、私たちがやりたかったことの実現性がよりクリアになりました。
宮原:当社のエンジニアからも、エーティーエルシステムズさんとの交流は「大きな刺激になる」との声がよく聞かれます。
その中で個人的に印象的だったのは、「いじめ相談は人よりもAIの方が相談しやすい」ということでした。これは行政・教育機関と業務をされている中でのエーティーエルシステムズさんが得た知見だったのですが、我々にとっては盲点で、非常に勉強になりましたね。
――今後の展望について、それぞれの考えをお聞かせください。
宮原:エーティーエルシステムズさんが持つ、「顧客である自治体に深く浸透していること」、「ベテランエンジニアが多数在籍していること」、「長年経営されている中で培われた信用基盤」といった強みは、どれも当社にはないものです。山梨に本社があることも含め、お互いに差異があるからこそ、それがイノベーションを生む源になると考えています。多くのことを議論の俎上にあげて、両者のリソースをあますことなくすべて合わせたうえでの、最適な提案を顧客にしていきたいと思います。
また、当社だけでは実現しえないことであっても、両社の知見が掛け合わせることで従来なかった自治体向けのサービス・プロダクトなどが生み出せると信じています。まだ具体的にお話しできないこともありますが、今後も密に連携していく予定です。
佐藤:最終的には、エスタイルさんはもちろん、パートナー企業を含めたエコシステムを作りたいです。そして、スピード感を持って、地域や社会問題の解決につながる新しいサービス・プロダクトを提供していきたいですね。
――最後に、当社のサービスを活用した感想を教えてください。
佐藤:プラットフォーム内の記事に記載してある各企業の情報が非常に分かりやすかったです。IT企業の掲載が多かったのも、私たちの当初の目的に合っていたので良かったですね。また、サイトのUI/UXは秀逸だなと感じました。
宮原:抽象的で申し訳ないのですが、サービスの使い勝手が、硬すぎず、ラフすぎず、IT企業にとってちょうどよかったです。
今回は、資金調達クラウドのアドバイザーにご支援をいただきましたが、最初の面談で当社のカルチャー・雰囲気を理解いただき、カルチャーが合う企業ばかりを紹介してもらえたので、毎回無駄のないミーティングがセッティングできたのは非常に良かったです。
また、ほかのM&A仲介会社はマジョリティ出資だけが対象の企業が多いので、その点、マイノリティ出資も積極的にサポートしている資金調達クラウドの需要は、スタートアップ界隈を中心に非常に高いと思いますよ。