【ケネディクス×ecbo】コロナ禍で苦しむ荷物預かりプラットフォームの『ecbo cloak』に、不動産アセットマネジメント大手のケネディクスが見出した可能性

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【ケネディクス×ecbo】コロナ禍で苦しむ荷物預かりプラットフォームの『ecbo cloak』に、不動産アセットマネジメント大手のケネディクスが見出した可能性

不動産アセットマネジメント大手のケネディクス株式会社は2022年1月、「荷物を預けたい人」と「荷物を預かるスペースを持つお店」をつなぐシェアリングサービス『ecbo cloak(エクボクローク)』などを提供するecbo株式会社へ出資を行いました。

コロナ禍の影響を大きく受けたecbo株式会社は、ケネディクス株式会社とつながることでどのような展望が開けたのでしょうか。ケネディクス株式会社 経営戦略部副部長兼新規事業室長の佐伯俊輔氏(写真左)と、ecbo株式会社 代表取締役社長の工藤慎一氏(写真右)に、出資に至った経緯や今後のビジョンなどについて語っていただきました。

プロフィール

佐伯 俊輔(さえき・しゅんすけ)

1982年東京生まれ。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。日本郵政株式会社に民営化後の一期生として入社。その後、ソフトバンクグループ株式会社等を経て、ケネディクス株式会社に入社。現職では、経営戦略立案、M&A、スタートアップ投資等を担当。

工藤 慎一(くどう・しんいち)

1990年マカオ生まれ。日本大学卒。Uber Japan株式会社の立ち上げ時を経て、2015年6月ecbo株式会社を設立。2017年1月、店舗の空きスペースを、荷物の一時預かり所にする世界初のシェアリングサービス「ecbo cloak」の運営を開始。ベンチャー企業の登竜門「IVS Launch Pad 2017 Fall」で優勝。2019年9月に、Amazonと提携し、店舗の空きスペースで宅配物を受け取るサービス「ecbo pickup」の運営を開始。

「コロナ銘柄には手を出せない」と言われ…ここ2年間は出資者探しに奔走

ecbo株式会社 代表取締役社長・工藤氏
ecbo株式会社 代表取締役社長・工藤氏

――ecboさんのサービス概要を教えてください。

工藤 現在提供しているサービスは、『ecbo cloak(エクボクローク)』と『ecbo pickup(エクボピックアップ)』の二つです。

会社を設立した2015年当時、インバウンドの観光客が数多く日本に訪れ、コインロッカーがいっぱいになり、荷物を預けられないコインロッカー難民が10万人を超える状況がありました。

そこで、「コインロッカー難民ゼロ」を目指して2017年10月に『ecbo cloak』をローンチ。ユーザーはスマートフォンで、駅構内、カフェ、漫画喫茶など荷物預かり可能なお店や施設を検索し、コインロッカー代わりに荷物を預けられます。今現在、預かり可能な店舗は47都道府県1,000店以上に拡大しています。

また、2019年9月には『ecbo pickup』をローンチしました。Amazonなどの宅配物を出荷する事業者と提携し、コンビニ以外の店舗で宅配物が受け取れるサービスになっています。

――インバウンドの観光客向けにサービスをスタートされたようですが、新型コロナウイルスの流行による影響は?

工藤 インバウンドの激減、ライブやイベントの中止により『ecbo cloak』は大きな影響を受け、売上はピーク時の5%にまで減少した時もありました。2020年4月には一時サービス停止という苦しい決断もありましたね。

コロナ明けを見据え、ここ2年間は出資者探しに奔走しましたが、中々話が進展せず…。

面談で「コロナ銘柄には手を出せない」と言われたこともありました。以前まで当社サービスは注目され、業務提携先も次々と決まり、多数のメディアで取り上げられていたのですが、コロナ禍ですべて逆回転してしまった感じです。

――『M&Aクラウド』を利用したきっかけを教えてください。

工藤 M&AクラウドCEOの及川さんに薦められたことがきっかけです。最初はM&Aを中心とするマッチングプラットフォームと思っていたのですが、実は資金調達のマッチングも行っていると聞き驚きました。

今回M&Aクラウドを利用し、数多くの優良企業が買い手として登録していることを知りました。当社もサービス登録をしたところ多くの引き合いがあり、ケネディクスさんとのご縁をいただきました。

――今回、『M&Aクラウド』のサービスを使った印象はいかがでしたか?

工藤 他のものも含めてM&Aプラットフォーム自体を利用したことがなかったので、自社のニーズがそういったサービスに適しているのか初めは少し不安がありました。ただ、『M&Aクラウド』は登録後のサポートがかなり充実していて、サービスのUIも優れており、細かい情報登録もスムーズにできました。今となっては登録して本当に良かったと思っています。

一番良かったことは、IT業界以外の方々と出会えたことです。私たちのようなITスタートアップって意外と世界が狭いんです。しかし、『M&Aクラウド』を利用したことで、さまざまな業界のトップ企業とコミュニケーションの機会が得られ、視野が広がりました。

スタートアップ投資の第一号がecbo。既存事業とのシナジーが大きな魅力に

ケネディクス株式会社 経営戦略部副部長兼新規事業室長・佐伯氏
ケネディクス株式会社 経営戦略部副部長兼新規事業室長・佐伯氏

――ケネディクスさんは、どのようなM&A戦略をお持ちだったのでしょうか?

佐伯 当社は不動産アセットマネジメントを主力として成長してきた会社です。2002年には株式上場を果たし、2004年には東証1部に指定替えとなりました。しかし、コロナなどの情勢で時代の先行きが見えない現在、このまま進んでも爆発的な成長は見込めないだろうと議論していました。

そこで、これまで培った知見やアセットを活かし、これまで挑戦してこなかった新しい領域へ踏み出すため、2021年3月に東証1部上場を廃止し、三井住友ファイナンス&リース株式会社のグループに入りました。と同時に、新たな成長シナリオを模索して新規事業室を立ち上げました。

私はその室長として、新規事業をつくるミッションを担ったわけですが、一から自前で取り組むのは難しい。そこで、スタートアップに積極的に出資してシナジーを創出しながら、新規事業づくりを図りたいと考えていました。さまざまなルートで出資先を模索していたところ、知り合いからM&Aクラウドを紹介されたことがecboさんとの出会いのきっかけとなりました。

――『M&Aクラウド』の印象はいかがでしたでしょうか?

佐伯 ケネディクスの新規事業室ではスタートアップへの投資を始めたばかりです。一般的にスタートアップへ投資する際は、CVCを立ち上げたりベンチャーキャピタルに委託したりするケースも多いと思いますが、当社は自前で優良な投資先を探すことにしたので、開始時は少し不安もありました。そんな時に『M&Aクラウド』に出会い、一発目でecboさんという候補を見つけられたので、とても頼りになると感じましたね。

――なぜecboさんに興味を持ったのでしょうか?

佐伯 「荷物」と「店舗」をつなぐシェアリングサービスの知見は、将来的に当社の既存事業とのシナジーを生むと思いました。例えばケネディクスは物流施設やホテル事業などへの投資も行っており、それらの拠点を『ecbo cloak』の預かり拠点にすることもできます。

また、ecboさんがJR各社をはじめ錚々たる顔ぶれの投資先から資金を調達していることも興味を持った理由の一つです。

「長いスパンで見れば大きく成長する」コロナ禍だからこそ巡り合えた両社。

――最初の面談はいつでしたか。そしてその際にどんな印象を持ちましたか?

工藤 2021年8月11日にオンライン面談でecboの事業についてご説明したのが最初でした。

資金調達のアプローチを数多く経験すると、面談しただけで相手の「本気度」が見えてくるようになります。なかには、明らかに出資する気持ちはないのに情報だけを聞き出そうとする会社もありました。その点、佐伯さんは本気で出資を検討しているのだなと分かりました。

実は最初の面談の時、資金調達に最も奔走していた時期で、私のメンタルはとても安定しているとは言えなかったと思います。にもかかわらず、佐伯さんはとても興味を持って、優しく聞いてくださった印象があります。

佐伯 確かに、最初の面談の時は「お疲れの様子だな」と画面越しにも感じたことを覚えています(笑)。ただ、分かりやすく丁寧にビジネスモデルを説明してくれて、「若いのにしっかりしているな」と好印象を受けました。

――ビジネスモデルについてはどうお感じになりましたか?

佐伯 お会いする前からecboさんのビジネスモデルはコロナ禍では厳しいだろうと思っていました。しかし、いずれインバウンドが元に戻れば業績は回復するだろう、5年~10年という長いスパンで見れば大きく成長するかもしれないと感じました。

もしコロナ禍がなければすごい勢いで成長して、当社は出資する機会をいただけなかったかもしれません。ですから、当社にとっては貴重な機会だと思いました。

――交渉はどのように進みましたか?

工藤 初回の面談の後、8月24日、9月6日、10月7日と計4回の面談が行われました。その間も、メールや電話で細々とやり取りをしました。

ケネディクスさんが当社に関心を持っていただいていることが分かり、交渉はとてもスムーズに進んだ印象です。出資するかどうかわからないまま交渉が進むのではなく、出資をゴールとして、そこに至るまでの宿題を常に明確に示してくれました。私たちはその宿題をクリアすることだけに集中すれば良かったのでとてもやりやすかったです。

佐伯 当社としては、出資検討を始めた段階から社内の理解を得られていたので、デューデリジェンス(DD)の過程において当初想定していたリスク以上のものが出てこない限りは、出資をするというストーリーで動いていました。そのための細々とした情報を集めるために、面談やメールなどでコミュニケーションを取っていったという感じです。

新規事業室立ち上げ後の第一号となる案件だったので、かなり前向きだったというのも、出資交渉がスムーズにいった理由かと思います。

――交渉の中で印象に残ったことなどをお聞かせください。

工藤 佐伯さんの細々とした気遣いが印象的でした。例えば、関係者が何人も出てきて同じ説明を繰り返しさせられるようなことはなく、窓口は佐伯さん1本に絞っていただきました。効率良くコミュニケーションを取りながら交渉できましたね。

何かと時間に追われているスタートアップ側の立場に立って、極力手間がかからないよう配慮してくれていたのだと思います。その配慮や誠実さがとても嬉しかったです。

佐伯 私が人として誠実かどうかは分かりませんが……不動産ビジネスにおいて誠実さや信頼感って、とても重要な部分なんです。同じ業界の人に「あいつは信頼できない」と思われると、いいディールも回ってこなくなるからです。

今回の出資検討についてもお断りするか、やらせていただくか、最終的にはどうなるかわからないけれども、とにかく誠実に対応しなければという思いはありました。

――佐伯さんが工藤さんとの交渉で印象的だったことは?

佐伯 お話を聞いていて、本当にecboのサービスが好きなんだなと強く感じたことです。とても熱い気持ちが伝わりました。今は苦しい局面にあっても、きっと頑張ってくれるに違いないと確信しました。

強力なネットワークを活用しながら、いずれは世界に進出を

――最終的に法人2件、個人投資家3件から出資を受け、2022年1月に契約となりました。最後の交渉から契約までの間、新型コロナウイルス「オミクロン株」が猛威を振るいましたが、その影響は?

工藤 サービス提供を一時停止していた『ecbo cloak』を2021年3月に再開し、ピーク時に対する売上は3月~9月が2~5%、10月が7%、11月が15%、12月には30%と徐々に回復し、2022年に向けて明るい兆しが見えていたところに第6波が来たので非常に残念でした。

佐伯 当社もホテル事業などが大きな影響を受けましたが、これまでのコロナ禍でも、落ち込んだり回復したりを繰り返してきました。コロナ禍が落ち着けばお客様は戻ってくることが分かってきたので、オミクロンが来たからといって以前ほどの恐怖感はありませんでした。

ecboさんの業績も落ち込みましたが、原因が明確であり、今後の回復も期待できることから、出資に対する意思は変わりませんでした。

――ecboさんは契約が終わってどう感じましたか?

工藤 ホッとしたと同時に、資金を入れていただいたことに対する責任を感じました。現在は徐々に、大規模ホールでのライブなども再開し始めているので、人が移動するきっかけになると思います。市場の動向を見ながら成長につなげられるよう準備を進めます。

――両社の今後の連携に向けて、具体的な目標などがあればお聞かせください。

佐伯 ユーザーが『ecbo cloak』をどのように使っているのか、そのデータに大変興味があります。ユーザーの動きを分析し、当社の業務に活用させていただくことを検討しています。また、当社の既存物件や新規投資物件にecboさんのサービスを導入するなど、さまざまなかたちでシナジーを創出したいですね。

工藤 三つの連携方法を考えています。一つ目は、ecboのサービスを提供していただく店舗を増やすため、ケネディクスさんの保有するホテル・商業施設などの拠点を活用し、店舗ネットワークの拡大を進めていくこと。

二つ目は、ケネディクスさんの従業員約100名に『ecbo cloak』のユーザーになっていただくこと。これはすでに準備ができており、あとは私がコードを発行するだけという状態です。

三つ目は、海外での連携です。当社は2025年までに世界500の都市で、サービス展開をしていく目標を掲げてチャレンジしています。ケネディクスさんは海外にも強力なネットワークをお持ちなので、各国でのビジネスパートナー探しやファイナンスのお手伝いをいただけると大変ありがたく思います。

――今後のM&A戦略についてはどのようにお考えでしょうか?

佐伯 今後もデジタルを活用したビジネスの推進により企業価値をさらに高めたいと考えており、スタートアップ企業に対して積極的に投資をしていきます。

――コロナ禍で影響を受けている起業家に向けて、工藤さんからアドバイスをお願いします。

工藤 事業会社から資金調達をする場合、自社と調達先の戦略面を見ることが大切だと思います。事業会社はVCと違って、投資をする際にキャピタルゲインを得ることを主目的としているわけではありません。事業上でどのようなメリットを還元できるかがポイントとなります。

私は調達先をVCから事業会社に切り換えた時に、そこに着目して探しました。資金調達は大変ですが、その資金は将来何かを大きく変えることにつながりますので、諦めずに続けることが重要だと思います。諦めなければ必ず結果が出ます。

そして、調達した資金を大事に使うことが大切だと思います。私自身、これまでの資金の使い方を振り返ると、もっと効率良く使えたなという反省があります。例えば、シリーズAの時の数億円と、シードの時の1,000万円では、シードの時の方が圧倒的にROIは良かった。今後も初心を忘れずに、大事に資金を使っていきたいと思います。

――佐伯さん、工藤さん、本日はありがとうございました。

■本ディールの経緯
2021年8月3日 ecboが『M&Aクラウド』に登録
2021年8月11日 初回面談(WEB)
2021年8月24日 2回目面談(WEB)
2021年9月6日 3回目面談(WEB)
2021年10月7日 4回目面談(リアル)
2022年1月11日 契約締結



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本ページに掲載している情報には、M&Aが成立するに至る経緯に加え、インタビュー時点での将来展望に関する記述が含まれています。こうした記述は、リスクや不確実性を内包するものであり、環境の変化などにより実際の結果と異なる可能性があることにご留意ください。

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