資本業務提携後に流通総額6倍成長。シーラ杉本氏が見込んだ20代起業家が語るアライアンス活用術
投資家:株式会社シーラテクノロジーズ
出資先:株式会社Unito
公開日:
2023年3月、米NASDAQ市場への上場を果たしたシーラテクノロジーズ。不動産業界でデベロッパーとして存在感を示し、近年はクラウドファンディング事業も急成長中の同社は、スタートアップへの出資やM&Aに積極的な企業でもあります。
「スマホで即日住めるセカンドハウス」をコンセプトに、フレキシブルな家賃システムを特徴とする部屋予約プラットフォーム「unito(ユニット)」を運営するUnitoも、シーラテクノロジーズから出資を受けた1社です。M&Aクラウドのサービスを活用して2021年11月に資本業務提携を結んだ後、急激に業績を伸ばし、月の流通総額は約6倍に達しています。
2社のこれまでの協業の軌跡と今後の展開について、シーラテクノロジーズ CEOの杉本 宏之氏(写真左)とUnito 代表取締役の近藤 佑太朗氏(写真右)に語っていただきました。
※杉本氏、近藤氏には成約後のインタビュー(2022年2月公開)にも登場いただいています。ぜひ併せてご覧ください。
https://macloud.jp/interviews/35
プロフィール
1977年神奈川県生まれ。高校卒業後、宅建主任者資格を取得し不動産会社に就職。2001年に独立し、エスグラントコーポレーションを設立。2005年業界史上最年少で上場。2010年シーラテクノロジーズを創業。2023年3月31日、プロップ(不動産)テック企業として、NASDAQ上場を果たす。現在の事業内容は、不動産クラウドファンディング事業、AIシステム開発、太陽光、デベロッパー事業などを手掛け、グループ売上高220億円までに成長させる。
1994年生まれ。東京都出身。幼少期の3年間、父の仕事の都合により東ヨーロッパのルーマニアで育つ。明治学院大学に入学し、クロアチア留学ではビジネススクール「ZSEM」にて観光学を勉強。その後国内スタートアップ「Airbnb Japan」で修行し、起業。 2020年2月総額1.2億円を調達し、帰らない日は家賃がかからない住まい「unito」を発表。 2022年には、総額2.5億円を調達し、東急と物件を共同開発するなどさらに事業を拡大し、2023年には、三井不動産、文部科学省などとの協業を発表。
資本関係があるからこそ、新規事業に共にチャレンジできる
――シーラさんとの資本業務提携後、Unitoさんの事業は急成長されているそうですね。
近藤:2021年当時、当社の月の流通総額は1,500~2,000万円程度でしたが、現在は1億円近くになっています。
当社のサービス「unito」は、物件の家賃設定をフレキシブルにすることで、ユーザーにとっても物件オーナーにとっても、合理的な仕組みを提供するものです。ユーザーが部屋に帰らない日があれば、オーナーはその分の家賃を割り引く代わりに、その日は部屋を宿泊用途で活用できる。マンションなどの居住用物件、ホテルなどの宿泊用物件のどちらにも対応しています。
コロナ影響で場所にとらわれない働き方をする人が増えたことに加え、最近はコロナが一段落し、海外からの旅行客が増えてきたことで、サービスのニーズはますます高まってきました。今はまだ中国からの航空便の数が戻り切っておらず、2023年中には100%戻ると見られています。宿泊需給の逼迫傾向はさらに続きそうですから、当社にとっては追い風です。ユーザー数は右肩上がりで伸びており、物件確保が追いつかないほどです。
――前回、調達した資金の使途を教えてください。Webサービスの場合、マーケティングに投資するスタートアップが多いと思いますが、Unitoさんの場合、ユーザーはオーガニックでも十分伸びている状況でしょうか?
近藤:マーケティング費用も増やしてはきましたが、お話ししたように需要が供給を上回っている状況なので、並行して物件の仕入れにも注力してきました。
当社ビジネスでは、居住用の物件から仕入れた部屋には、運用開始前に家具・家電を入れる必要があり、これらの購入費用にも調達した資金を充てています。ここは将来的には、プロジェクトファイナンスを組めるようになればベストですが、今は自己資金で賄っています。
他に、調達資金の使途で大きかったのはサービス開発費です。6月上旬にプレスリリースも出したように、「ホテルレジデンス」向けのチェックインシステムの開発にも取り組んできました。
――「ホテルレジデンス」とはどのようなものですか?
近藤:当社が開発する「宿住一体型」の施設です。当社は従来、数室単位で物件を仕入れてきましたが、今後はより安定的に供給できる体制を構築すべく、1棟単位で仕入れるフェーズへと移行しようとしています。この一環で、デベロッパーと組んで新規物件を開発することにも取り組んでいるんです。
今夏には、東急さんと共同開発した「ホテルレジデンス大橋会館 by Re-rent Residence」を池尻大橋に開業予定です。1階にレストラン、2、3階にシェアオフィス、4、5階に60室ほどのホテルレジデンスが入っています。池尻大橋は渋谷から一駅という好立地でありながら、ユニークな個人店などが連なるどこか懐かしささえある穏やかなエリアですが、このホテルレジデンスをコミュニティ活性化の核として育てていければと考えています。
シーラさんとも同様のコンセプトで物件開発を進めるべく、最近は週次で会議もさせていただいています。シーラさんの上場関連プロジェクトが一段落したこともあり、2社の協業がいよいよ活発化しているんです。
――もう立地も決まっているのでしょうか?
近藤:まだそこまでは行っていませんが、シーラさんとはまずは新宿や渋谷でできれば嬉しいです。ビジネスモデルとしては本来、そもそも稼働率の高いエリアで、さらに稼働率を上げられるのが強みだと思っているので、そこを証明したいと思っています。
杉本:「unito」にはこれまで部屋単位でシーラの物件を提供してきた中で、稼働率の高さを実感しています。最初に提供した2物件は、若干特殊性の強い物件だったのですが、それでも「unito」で回した部屋の稼働は終始好調でした。3物件目は、いよいよシーラの本丸である都心のデザイナーズマンションから数室提供しています。
ただし、数あるプロップテック(不動産業界におけるデジタルソリューション)企業の中で、Unitoが存在感を示していくためには、ここからが正念場だと思います。
ホテルレジデンスは、実はシーラ社内でも一時計画していた事業でもあり、大きな可能性を感じています。これをうまく軌道に乗せることができれば、Unitoの次のステージが見えてくるでしょう。すでに「宿住一体型」の運営ノウハウを持っている近藤さんがオペレーションを担い、バランスシート上の資産は我々が持って一緒にやっていくことで、大きなチャレンジができるはずです。
後続の起業家育成に使命感。豊富な保有物件と顧客基盤を活かして
近藤:そこはまさに、資本業務提携を結んでいることのメリットだと思っています。資本関係のない業務提携先の場合、やはり着実にリターンの得られる仕組みづくりを求められる部分があって。新規の事業モデルに乗ってもらうとなると、ハードルが高いんです。
――Unitoさんは業務提携先も多いですよね。
近藤:当社に限らず、スタートアップ側としては、できれば出資もしてほしいのが本音だと思います。安心して長期目線の協業を進められる関係を築きたいですからね。ただ、不動産業界はコロナ禍による業績への影響が大きく、2021年時点ではまだその余波が残っていました。そうすると、やはり「業務提携で利益が出るのなら、あえてリスクを取って出資する必要はない」という判断になりますよね。そんな中、杉本さんの決断は本当にありがたかったです。
杉本:僕としては、あまり迷う余地もありませんでした。Unitoの事業は伸びると直感しましたし、それならアクセラレーターとして寄与できた方がシーラにとってもいいだろうと。プロップテックのプレイヤー間で熾烈な生き残り競争が繰り広げられている中で、近藤さんの「活きのよさ」に賭けた部分もあります(笑)。
当社には保有物件の積み上げがあり、不動産を核にしたクラウドファンディング事業「利回りくん」のアライアンスで獲得した膨大な顧客基盤もあります。これらを活用してもらえれば、スタートアップにとって大きな武器になるはずですし、当社自身も株を持たせてもらって同じ船に乗っていければ、お互いにメリットがあります。
今回、当社が上場したことで、NASDAQに日本のスタートアップ関係者からかなり問い合わせが来たらしく、NASDAQから謝意を伝えていただいたんです。当社のできる範囲で、後に続きたいと考えるスタートアップをサポートすべきという使命感も感じています。
――上場後、M&Aや出資の戦略に変化はありますか?
杉本:将来性あるプロップテック企業と組んでいく戦略自体は変わりません。ただ、当社は上場時にエクイティとデットで計40億円を調達し、一部をM&Aに使うことも併せて発表しています。資金の用意があることを社外にアピールしたことで、以前よりも規模感も大きく、かつ深みのあるアライアンスの提案が寄せられるようになったと感じています。
投資決定プロセスの面では、さすがに上場前と同じようにはいかなくなりましたが、5,000万円以下の出資であれば、今も投資委員会を通さずに判断できます。Unitoさんのケースのように、明らかに事業シナジーがあるものについては、素早い決断もしていくべきだと思っています。
――当社の「資金調達クラウド」はこの6月から新機能が加わり、出資企業側からのスカウトもできるようになりました。ソーシングにますます役立てていただければ幸いです。
杉本:Web上で出資先候補を絞り込み、オンラインで軽く面談し、いいと思ったらリアルで会える。これはまさに、あるべきサービスですよね。双方にとって効率的だと思います。出資側からもアプローチできれば、マッチングの可能性がさらに広がりますね。
近藤:出資側から声をかけてもらえるのは、調達側にとってとてもありがたいです。CFOがいる会社ならまだしも、代表が一人で何でも担っているようなスタートアップでは、ファイナンス中は事業成長が止まることも覚悟せざるを得ません。サービスに登録しておくだけで、スカウトをもらえるようになり、カンファレンスでネットワーキングしたりする負荷が減るメリットは大きいと思います。
出資側が起業家の“メンター”に。紹介起点で新たな出資や提携も
近藤:ちなみに、ファイナンス中に事業に集中できなくなることには、僕自身、大きなジレンマがありました。マインド面でも、つい長期ビジョンへの意識が薄れ、目先の数字にとらわれがちになってしまって……。
杉本:ただ、それも経営上大事なことですからね。自分のことを振り返っても、今回は2回目だったからこそ「大人の上場を目指す」と言ってきましたが、1回目はそれこそ死ぬ気でやってましたよ。スタートアップ経営って生易しいものじゃない。想定外のこともいろいろ起きる中、一瞬でも気を抜いたらおしまいです。
結局、大事なのはバランスだと思います。短期・中期・長期という視点をシームレスに行ったり来たりすることですね。
僕は自分自身、かつて短期的な数字を追うことだけに夢中になり、「売上300億円で経常利益24億円出してやった」と思った瞬間にリーマンショックで大打撃、という経験をしています。だからこそ、近藤さん含め出資先の方たちには、そういう失敗をしてほしくないなと。
近藤:杉本さんはまさにUnitoのメンター的存在で、僕以外のCXOも一緒に何度もランチをさせていただいています。杉本さん自身が常にビジョンを忘れない人なので、やっぱりかっこいいですよね。僕たちも「最終的にどんな世界をつくりたいんだっけ」という原点に立ち返らせてもらえます。
――「資金調達クラウド」では「事業会社から資金と事業シナジーを調達」をコンセプトに掲げています。シーラさんとUnitoさんの場合、それらに加えてメンタリングの機会も得られたわけですね。
杉本:でも、会うことで、僕も勉強させてもらってるんです。お互いに学びになる関係がベストだと思ってますから。面白いことをやっているなと思ったら、僕からもどんどん質問して、深掘りしています。
近藤:杉本さんにはもう一つ、経営者の紹介も随分していただいています。業務提携や出資に至ったケースも多く、シーラさんと一緒に出資いただいたベクトルさんとも、杉本さんのご紹介でつながりました。
杉本:近藤さんくらい「紹介してください」と言ってくる人はなかなかいないですからね(笑)。出資先の中には「何をしてあげたらいい?」と聞くと、黙ってしまう人もいます。でも、僕はむしろはっきりリクエストしてもらった方がありがたいんですよ。セイムボートに乗っているのですから、遠慮はいりません。
近藤:僕も最初はビビッてしまいましたが、今は何でも言わせていただいてます。結果でお返ししていかなければいけないですね。
杉本:期待していますよ。Unitoにはこれからまだまだ壁が現れると思いますが、新しい壁にぶつかるのは、前に進んでいる証拠です。大いに暴れてほしいですし、僕も助言ができる存在であり続けたいと思っています。
――Unitoさんの今後のビジョンをお聞かせください。
近藤:先ほどプロジェクトファイナンスの話に少し触れましたが、信用力が重要なビジネスだけに、早期のIPOを目指しています。リピーターが生まれやすい業態でもあり、成長力には自信があります。
今の当社にとって、2回の上場を経験した杉本さんからアドバイスをいただけるのは、本当にありがたい環境です。スタートアップってどうしても狭い世界にいる部分があって、その視界を超えたところから一言いただくことで、固定概念にとらわれていたことに気づかせてもらえるんです。
ホテルレジデンスを含め、今は都心を中心に実績を積み上げていきたいですが、将来的には地方にも展開することで、地域再生にも貢献できるビジネスモデルだと考えています。今日、杉本さんからお話しいただいたように、短期・中期・長期の視点をシームレスに行き来しつつ、アクセルを踏んでいきます!