「本質は同じ“モノづくり”だった」海運ルーツの老舗×アグリテックが生み出す新たな価値とは

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「本質は同じ“モノづくり”だった」海運ルーツの老舗×アグリテックが生み出す新たな価値とは

船舶や精密加工をはじめ、幅広い領域でグループ経営を行う株式会社カシワグループは、自律走行型農薬散布ロボットの開発と農薬散布代行サービスを手がけるスタートアップ、株式会社レグミンへ出資しました。

海と陸、異なる領域から出発している両社。どのような協業メリットを見出し、成約に至ったのでしょうか。カシワグループCOOの山下達郎氏と、レグミン代表取締役の野毛慶弘氏に、その経緯と決め手を伺いました。

プロフィール

株式会社カシワグループ 取締役 最高執行責任者 山下 達郎(やました・たつろう)

慶応義塾大学を卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。2005年にネバタ州立大学ラスベガス校でMBAとホテル経営学修士を取得。その後、米国のHyatt Hotelを経て、当時、ゴールドマンサックス子会社であった日本のホテルアセットマネジメント会社、ホテルオペレーション会社でホテルの業績向上を支援。2015年より、祖父三兄弟が創業した株式会社カシワテック(現カシワグループ)の子会社である株式会社シーメイトに入り、代表取締役社長に就任。現在はCEOである兄と共に、株式会社カシワグループのCOOとして、グループ企業の成長の伴走支援をしつつ、新たなグループ企業探しに取組む。

株式会社レグミン 代表取締役 野毛 慶弘(のげ・よしひろ)

静岡県出身。祖⽗⺟ともに農家の家系。慶應義塾⼤学商学部商学科専攻を卒業後、株式会社静岡銀⾏にて3基幹店舗を経験。退職後、⽇本国内(九州・四国)の農地を訪問。その後、実家の農作業を⾏う傍ら地元スーパー⻘果部に勤務し⻘果の取り扱いや販売等を学ぶ。2018年、成勢卓裕(現:代表取締役)と共にアグリテックスタートアップ、レグミンを立ち上げる。

独自技術とビジネスモデルで拓く農薬散布の新しい形

――レグミンでは、自律走行型農薬散布ロボットの開発だけでなく、農薬散布の代行まで行っているそうですね。

野毛:その通りです。私たちが目指すのは、あくまで農家の課題解決。ロボットを売り切りで販売しても、使ってもらえなければ意味がありません。それなら、自社でロボットを改良し続けながら農薬散布まで担当した方が、作業効率化や収穫量アップにつながりやすいと考えたんです。

――そのビジネスモデルが、特徴の一つといえそうですね。技術面での強みについても教えてください。

野毛:自律走行できる農薬散布ロボットとしては、先駆的な立ち位置にいると思います。核となっているのは、「畝検知走行」の技術です。LiDAR(レーザー距離計)で畝の形を読み取り、それに合わせて安定的に走行できるようにするもので、日本だけでなく米国や欧州でも特許を取得しています。

ほかにも、少し離れた場所からコントローラーで直感的に操作できたり、専用アプリで散布作業を管理できたりといった使いやすさも特徴ですね。ハードウェア設計から回路基板、ソフトウェア制御まで自社で行っているので、お客様のニーズを反映しやすいのも強みです。

――最近では、ドローンによる農薬散布も増えてきましたが。

野毛:対象作物や散布方法に違いがあるんです。ドローンでの散布は特に稲に向いていて、水面に薬剤を吹き付けることで広がっていきます。一方、当社ロボットが力を発揮するのは、ネギやキャベツ、ブロッコリーといった畑の作物。乾いた土の上でピンポイントに散布できるのが大きな強みです。露地野菜の生産者から「ドローンではうまくいかなかったので、ロボットを試してみたい」と相談をいただくことも多いですね。

――すでにかなりの引き合いがあるようですね。

野毛:ありがたいことに、問い合わせはどんどん増えています。自社だけでは対応しきれなくなりつつあるので、最近はプロパンガス会社と組んだフランチャイズ展開にも力を入れ始めました。プロパンガス会社は、農家が多い地域に展開していて、農薬散布の需要が高まる夏場はちょうど閑散期なんです。その時期に余るトラックや運転手などのリソースを生かしてロボットを運んでもらい、散布業務を担ってもらうという取り組みです。

――そんな中、資金調達クラウドに登録したきっかけを教えてください。

野毛:事業を本格的に拡大していくフェーズでは、単に資金を提供してもらうのでなく、事業面でも連携できるような会社と組みたいと思っていたときに、投資家から紹介されたんです。「そんなサービスがあるんだ」と思って、その日のうちに急いで登録しましたね。プラットフォームアドバイザーからもすぐに連絡をもらい、そこから相手企業探しが始まりました。

「売って終わりではない」両者をつないだモノづくりの本質

――今回の交渉は、レグミンからの打診をカシワグループが承諾したところからスタートしました。最初にレグミンの紹介を受けたときの印象はいかがでしたか。

山下:まさに「社会に新しい価値を提供する企業だな」と感じましたね。

カシワグループは、1911年創業の山下汽船合名会社をルーツに、船舶関連事業と精密加工事業を中心に展開しています。ただ、今目指しているのは、既存領域にとらわれず、あらゆる分野で新しい価値を提供する“コングロマリット”になること。その手段としてM&Aに軸足を置きつつ、スタートアップ出資も検討しているんです。

このように事業を多角化しようとしている最中なので、レグミンさんの事業領域が農業である点は全く問題ではありませんでした。むしろリアルテック領域の技術オリエンテッドな事業だからこそ、私たちにも理解しやすいと感じましたね。ITやSNSなどの領域は、ノウハウがないのでどうしても貢献しづらいのですが、モノづくりであれば、技術レベルもある程度判断できますし、相手の課題をサポートできる可能性も高いだろうなと。

――その後、面談に進まれたわけですが、互いにどのような印象を持ちましたか。

野毛:今回の資金調達でいろいろな企業と面談しましたが、事業について一番広く、そして深く質問してくれたのが山下さんでした。答えているうちに、自分でも解像度が低かった部分の理解がどんどん深まっていって、楽しかったですね。

たとえば、フランチャイズ展開におけるメンテナンス。これまでは開発者である私たちがロボットを扱ってきたわけですが、今後はプロパンガス会社の方々にも使いこなしてもらう必要があります。そのためには保守や運用、管理までサポートしなければなりません。私もその必要性はなんとなく理解していたつもりでしたが、カシワグループさんは船舶用消火設備などの導入からメンテナンスまで行っているからこそ、大事なポイントを一つひとつ丁寧に確認してくれたんです。そのおかげで、これから取り組むべき事柄がよりはっきりと見えるようになりました。

海か陸かの違いはあっても、同じ“モノづくり”。「売って終わりではない」という姿勢は共通なんだと気づきました。

山下:寿命が長くて価格も高い製品は、修理して使っていく前提ですから、アフターサービスが重要なんです。それに満足してもらえれば次の更新や口コミにつながりますが、そうでなければ別の製品に切り替えられる。その文脈で抽象化すると、消化装置もロボットも本質は同じなんですよね。

野毛さんの第一印象は「実直」。そして「今は体育会出身でも起業する人がいるんだな」と少し感慨深かったです。昔の体育会は「24時間戦える企業戦士の養成機関」というイメージでしたから(笑)。

野毛:確かに周りは大企業に就職した人が多いですし、私自身も新卒では銀行に入りました。でも、起業への思いはずっとあったんです。農業と並行して不動産業や部品加工業を手がけていた祖父の影響かもしれません。銀行時代も、担当先の社長たちを見る度に「楽しそうだな」と。羨ましい気持ちが募ったときに、「よし、起業だ!」と思い切って決断しました(笑)。家族や同僚からは「もったいない」と思われていたようですが。

山下:自分の意思を貫いて起業したそのマインドには、とても惹かれましたね。

事業面でも、まずSBIR制度(Small/Startup Business Innovation Research:スタートアップや中小企業の研究開発を促進し、成果の社会実装を後押しすることで、日本のイノベーション創出を加速するための制度)に採択された、いわば“国に期待されている技術”を持っていた点が魅力でした。

もう一つ良かったのが、その技術を実装してすでにマネタイズできていたこと。技術はあってもビジネスとして成立していないリアルテック企業は多いので、その意味でも評価が高かったですね。野毛代表のリーダーのもと、社員のまとまりも感じられ、事業を継続できるイメージを持てたので、交渉を進めることにしました。

――その後、成約に至るまでの経緯を教えてください。

山下:レグミンの事業価値を正しく評価するために、既存の出資者や取引先などの関係者を紹介してもらってヒアリングしました。みなさんが口を揃えて「応援したい」とおっしゃっていたのが印象的でしたね。

ただ一つ気になったのは、プロパンガス会社との連携です。戦略として面白いですし、うまくいけば確かに事業は一気に広がるだろうとも感じましたが、「そもそもプロパンガス会社が本当に取り組みたいと思うか」が重要ではないかと。そこで、独自のルートでプロパンガス会社の一つにコンタクトを取ったところ、必ずしも「積極的に取り組みたい」という反応ではなかったんです。

思い切って野毛さんに、「もし連携がうまくいかなかったらどうしますか」と尋ねました。すると「その場合はこのような施策も考えています」としっかりと答えてくれた。現時点ではこの連携がうまくいっているので問題ありませんが、出資を決める上では「きちんとプランBも用意されている」という事実が大きかったですね。

部品加工を通して互いのモノづくりを高め合う

カシワグループ 山下氏、レグミン 野毛氏、M&Aクラウド プラットフォームアドバイザー 髙師
カシワグループ 山下氏、レグミン 野毛氏、M&Aクラウド プラットフォームアドバイザー 髙師

――今後、どのように協業しようと考えていらっしゃいますか。

山下:まずは私たちが持っている技術や知見を共有するところから始めたいと思っています。

その次に取引先の紹介ですね。先ほども言及した通り、当社は明治時代の半ばに創業した海運会社が起源。海運は当時の基幹産業でしたから、いろいろな産業界とコネクションを持っているんです。ちょうど今も、ポンプメーカーをおつなぎしようとしているところで。

野毛:スタートアップだと、メーカーから直接仕入れるのはなかなか難しくて。カシワグループさんは、消火装置にポンプを使っているとお聞きしたので、ご紹介をお願いしました。

当社としてはほかにも、メンテナンス体制の整備や、国内外での量産化の進め方など、アドバイスいただきたいことがたくさんあります。

山下:将来的には部品加工の分野でも協業したいですね。カシワグループには精密加工を営んでいる会社が2社あるので、レグミンさんのロボットの部品製造などにも貢献できればいいなと。

野毛:両社で力を合わせれば、新しい部品加工の形を作っていくこともできそうです。

というのも今、部品加工は大きな転換期を迎えていて、自動車や家電からロボットへとニーズが移りつつあるんです。この流れは、生成AIが身体性を持ち始めることで、さらに加速するはずです。

そんな状況下では、新しいニーズに応える新規開発と、売上を立てるための量産化の両輪が欠かせません。現場のニーズを当社が、量産化のノウハウをカシワグループさんがフィードバックすることで、互いのモノづくりを高め合えるのではないかと考えています。

――最後に、資金調達クラウドを利用した感想を教えてください。

山下:今回が資金調達クラウドで2度目の成約でしたが、毎回思うのは「時間がない企業にとって本当に助かるサービスだな」ということです。私たちはM&Aも出資も積極的に検討していますが、少人数で進めているのでどうしても限界があって。スタートアップの集まりやピッチイベントに足を運ぶ余裕もありません。

そんな中で資金調達クラウドは、プラットフォームアドバイザーが私たちのニーズを深く理解して、相性が良い企業を紹介してくれるのがありがたいです。M&Aや出資のいろはも教えてくれるので、経験が浅くても安心して交渉に臨めますし。今回も、当初の想定とは異なる出資形態になったんですが、その違いで何が変わるのかまで担当者が丁寧に教えてくれたので心強かったですね。

野毛:時間がないのは、実はスタートアップも同じなんですよね。それなのに、資金調達はどうしても時間がかかるのが悩みで。特に事業会社の場合、取引先や知人経由で紹介してもらっても、出資担当の部署に直接つながれる確率は低い。結局社内でつないでもらえず、決裁者まで辿り着けないまま終わってしまうケースも多いです。

その点、資金調達クラウドは、決裁者に直接つながれるのが大きなメリットです。もちろん、全社が出資してくれるわけではないんですが、出資の可否を早めに教えてもらえるだけでも、次のアクションに移れるので助かります。事業会社から出資を受けたいスタートアップは、絶対に使った方がいいと思いますね。

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