「シナジーを数字だけで測らない」老舗厨房機器メーカーと産業DXスタートアップが成約に至るまで

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「シナジーを数字だけで測らない」老舗厨房機器メーカーと産業DXスタートアップが成約に至るまで

学校給食や外食チェーン、食品工場 向けに業務用厨房機器を製造・販売する株式会社中西製作所は、AI・IoT・ロボット開発を通じて産業DXを支援するスタートアップ、株式会社ASTINAへ出資を行いました。

領域の親和性が高い両社ですが、成約までには考え方の転換が必要だったと言います。最終的にどのような協業メリットを見出し、出資に至ったのでしょうか。中西製作所の経営企画室長兼経営・DX統括の吉川 日出行氏と、ASTINAの代表取締役である儀間 匠氏に、その経緯と決め手を伺いました。

プロフィール

株式会社中西製作所 取締役 執行役員 経営企画室長兼経営・DX統括 吉川 日出行(よしかわ・ひでゆき)

大学で計算機科学を専攻後にIT会社に入社。その後コンサルタント業務を経て、2020年より(株)中西製作所に入社し経営企画とDXを統括。2023年に厨房業界では初となるDX認定を取得。2025年より取締役執行役員へ就任。現在はM&Aやベンチャー出資も担当。

株式会社ASTINA 代表取締役 儀間 匠 (ぎま・たくみ)

新卒からの数年間、新日本製鐵株式会社(現:日本製鉄)でプラント設備の改良・設計に携わる。その後、アミューズメント開発企業にてゲーム機の設計開発に携わった後、コミュニケーションロボット開発企業の創業メンバーとして入社。ハードウェア部門の開発責任者として、要素技術の開発及び量産の立上げを担当。2017年にロボット/AI/IoTに特化した開発企業、ASTINAを設立。現在は作業自動化、業務効率化をハードウェア・ソフトウェアの両軸からサポートし、一貫した開発力に強みを持つ。対応領域は、コンサル・開発・量産と幅広く、特にAIとハードウェアを融合させた技術開発力には大手企業からも定評がある。

「汎用技術では勝てない」ASTINAが事業会社との連携を選んだ理由

——まず、ASTINAの事業内容を教えてください。

儀間:AI・IoT・ロボット技術を活用して、製造現場の省人化や品質向上といった産業DXを支援しています。主な事業は、企業の新製品・新サービス開発の支援と、これまで人が目視で行ってきた作業をAIで代替する自社プロダクト「OKIKAEシリーズ」の提供です。現在は、化粧品や化学製品などの異常を検出できる「OKIKAE AI外観検査」と、水産乾物やフリーズドライ野菜といった食品の異物を除去する「OKIKAE 検査ボックス」を展開しています。

AIの画像認識を使った検査ソリューション自体は世の中にたくさんありますが、当社のようにソフトウェアだけでなくハードウェアまで含めて開発できる企業はほとんどないはずです。

——ハードとソフト、両面でアプローチできるのが強みだということですね。明確なポジショニングができているように見えますが、今回の資金調達の目的は何だったのでしょうか。

儀間:事業会社との連携ですね。

当社はハードとソフトの両方を手がけているからこそ、エンジニア確保に加えて設備投資にも一定の資金が必要で、もともとVCなどの投資家から出資を受けてきました。他の投資先の事例を共有してもらったりして、いろいろな業界とタッチポイントができたのはありがたかったのですが、今回はむしろ「特定の業界と深くつながりたい」と思っていたんです。

AI・IoT・ロボット領域は国内外で競争がかなり激しくなっていて、汎用技術で幅広く勝負していては差別化できずに埋もれてしまいます。だからこそ、業界特有の課題に精通している企業と組み、その業界に最適化した技術や製品を一緒に作っていくことで、当社ソリューションの浸透スピードを上げたいと考えていました。

そんなときに、出資を検討している事業会社と出合えるサービスとして「資金調達クラウド」の存在を知りました。早速登録してみたところ、担当アドバイザーが連絡をくれて、一緒に資金調達活動を始めることになったんです。

出資の距離感”で進める中西製作所の協業戦略

——一方、中西製作所は1946年創業の老舗厨房機器メーカーで、まさに「業界課題に精通している」企業といえそうですね。これまでの事業の歩みを教えてください。

吉川:戦後まもない大阪で、学校給食用のアルミ食器を行商していたのが当社の始まりです。その後、学校から「食器を洗うのが大変だ」という声をもらったのをきっかけに食洗機の製造を始め、そこから厨房機器全般を取り扱う会社になっていきました。

今も売上の約半分は学校給食用の食洗機や調理機器が占めています。児童数は減っていますが、学校の給食室から給食センターへの移行で大型機の需要は増えていて、そうした変化に対応しながら高いシェアを維持してきました。そのほかファストフード・レストランといった外食チェーンや、コンビニやスーパーなどの弁当製造工場にも展開しています。

——厨房機器メーカーとしての強みは何ですか。

吉川:トータルコーディネートですね。給食センターや食品工場を作るとなれば、当社の社員は企画構想段階から関与して 、土地選びや建物の構造設計、製造ライン・レイアウト設計、機器の選定・配置まで一気通貫でサポートを行います。最上流から関与することで、異物混入が起きにくく、衛生的で生産性の高い厨房を作ることができます。単なる機械メーカーというよりもSIerに近いといえます。

——そんな中、近年はスタートアップ出資にも積極的ですね。

吉川:前提として、トータルコーディネートをするには、自社製品だけだとどうしても足りないんです。当社は冷機器は作っていないですし、食品加工機械は多岐にわたって細分化されており、例えば野菜や魚の種類によって加工する機械は異なるのです。これら全ての工程の機械を自前で用意するのは現実的ではないので、他社製品と組み合わせて自動化や省力化を実現します。

その過程においては単なる製品の売買ではなく、前後のプロセスまで一貫して自社以外の機械メーカーともきちんと連携することが重要になります。ですから当社はこれまでもずっと当社にない製品や技術を持つ企業との協業を進めてきました。企業買収や事業譲受といったM&Aも過去に実行しています。

そうした中で常に意識しているのは、M&Aもあくまで手段の一つであるということです。企業買収という相手企業に大きく踏み込んで当社のやり方や企業風土に統合するのも一つの方法、出資という形で我々は黒子に回って新興企業には得意な分野を任せるのもひとつの方法、その時々の経営や環境の環境、相手の状況にあわせて柔軟に手段を選んでいます。直近では、出資や技術提携といった資本業務提携の方が、当社のニーズに合っているケースが多くなっています。ですから現時点では出資の比重が高くなりつつあるんです。

——マジョリティ取得に限らず、出資という形で進めるケースも増えているということですね。「資金調達クラウド」を使い始めたのはいつごろからなのですか。

吉川:M&AクラウドさんとはM&A案件仲介で接点がありました。そうした中で新しいサービスを始めるという案内を頂き直ぐに登録しました。本当に最初の資金調達企業が10社ほどしか掲載されていないくらいのときです。サービス立ち上げ期だったこともあり、サービスを利用する度に感想や要望をヒアリングされて、いろいろお伝えした記憶があります。一覧画面では「何をしている会社か直ぐに分かるような写真を選択して載せてほしい」「我々のようなニッチ企業でもマッチングがしやすいようにカテゴリを見直してほしい」など、細かい要望をお伝えした覚えがありますね。

「シナジーを数字だけで測らない」判断が、成約の分かれ目に

——両社のマッチングの経緯は、プラットフォーム上ではなかったそうですね。

吉川:そうなんです。「資金調達クラウド」の担当アドバイザーに声をかけてもらって、「リバースピッチ」に登壇したのがきっかけでした。従来のピッチとは逆に、出資側からスタートアップに自社の事業や課題、求めるソリューションなどを説明できる場で、そこに聞き手として参加していたうちの1社がASTINAさんでした。

儀間:食品業界については、開発支援実績も「OKIKAE検査ボックス」の導入実績もあったので、興味を持ってもらえるかもしれないと思って、アンケートに想定できるシナジーを書いた覚えがあります。

吉川:当社としても、食品工場の検品作業は自社機械の後工程にあたるので、もともと関心があったんですよね。食品加工の現場で画像認識技術を活用して人手を無くす 効率化が進んでいることも知っていましたし、当社のサービスの幅を広げる意味でも事業シナジーはありそうだと感じて、面談に進むことにしました。

——面談以降の経緯を教えてください。

吉川:初回にWebで互いに事業紹介をした後は、経営企画だけでなく、営業や工場の技術者も連れて何度かASTINAさんの事業所を訪問しました。ASTINAさんの製品を実際に売れるか、自社機械につなげられるかは、現場の担当者が見ないと分からないので。

訪問後は毎回、社員にASTINAさんの印象を聞いていたんですが、みんな「真面目な技術者集団だ」と口を揃えていましたね。儀間さんを含めて大手メーカーで経験を積んできたメンバーが多く、大企業の開発支援を手がけてきたというので、技術力が高いことはある程度想像していましたが、それ以上でした。

特におしぼりを畳む機械を見たときは、当社の技術者たちも「仕組みが気になる」「自社機械の参考になるかも」とかなり食いついていたのを覚えています。

儀間:技術的に工夫しているポイントに気づいてもらえたのは嬉しかったですね。技術に対する熱い思いを共有できていたからか、会話もスムーズで、一緒にやっていきたい気持ちが高まりました。

吉川:まさにその「突き詰めて技術に向き合う姿勢」が、当社の技術者に通じていたわけです。結局、人柄が大切なんですよね。どれだけかっこいいことを言っていても、事業を途中で投げ出したり、誠実さに欠けるような人とは、怖くて一緒に事業はできない。つまり「真面目な技術者」というのは、当社における最高の褒め言葉なんです。

ただ、そのままスムーズに成約に至ったわけでもなくて。

——というと?

吉川:当社の事業規模全体との数字の比較で見ると、正直シナジーはそこまで大きくなかったんです。厨房機器の導入は新工場建設のタイミングが中心で、業界全体で考えてもそう頻繁にあるわけでは無く、「OKIKAE 検査ボックス」とのクロスセルの機会はかなり限られるなと。

——それでも出資を決めた理由は何だったのでしょうか。

吉川:今回は「直近の数字だけで判断すべきではない」という結論に至りました。トータルコーディネーターとして関われる工程が増えますし、自社機械の改良やサービス開発の際に技術面の相談ができるのは大きい。実務を担っていた当社の経営企画メンバーが製造業の出身で、ASTINAさんの技術価値を理解した上で、熱意を持って社内を説得しに回ったのも大きな後押しになりましたね。

儀間:実は私も早い段階で、中西製作所さんから「現時点での営業注力領域とはやや離れている」という話はいただいていました。ただ、技術面でお手伝いできる部分は多そうでしたし、業界の課題を共有してもらえれば当社も技術やサービスを磨いていけそうだったので、なんとかご一緒できないかなと。最終的にそれが叶い、素直に嬉しかったですね。

吉川:こういう協業の芽を取りこぼさないことが、当社にとっても重要です。そこから製品やサービスの広がりも生まれますし、断らないことで新たなご縁にもつながりますから。

営業・技術の両面で、現場発の協業を

ASTINA 儀間氏、中西製作所 吉川氏、M&Aクラウド 「資金調達クラウド」部長 井上
ASTINA 儀間氏、中西製作所 吉川氏、M&Aクラウド 「資金調達クラウド」部長 井上

——今後の目標を教えてください。

吉川:まずは社内広報ですね。まだ出資自体を知らない社員もいるので、ASTINAさんの技術や「OKIKAE 検査ボックス」をもっと知ってもらいたい。一度本社でセミナーをしてもらいましたが、今後はWeb開催や動画化も考えています。現場から自然と「一緒にこういうことができないか」というアイデアが出てくるような環境を作りたいです。

もう一つ検討しているのが展示会。FOOMA(アジア最大級の食品機械の総合展示会)を始めとして業界関係者の集まる展示会がいくつかあります。そこには、当社の営業担当やお客様が揃うので、自社機械と「OKIKAE 検査ボックス」をつなげて、一緒にブースを作ってみるのも面白そうです。

儀間:そのご提案はありがたいですね。技術自体はどうしても見えにくいので、製品として見せられる場があると、具体的に何に使えるのかイメージしてもらいやすいはずです。

当社としては、まずは現場の課題を教えてもらいたいなと。カジュアルにでも相談してもらえれば、一緒に対応策を考えられます。そうして私たちの技術を磨きながら、中西製作所さんの機械改善にも貢献していきたいです。

——最後に、「資金調達クラウド」を利用した感想を教えてください。

吉川:スタートアップ出資に特化している点が、私たちのニーズに合っていましたね。M&A前提の仲介会社がほとんどで、事業シナジーが薄い案件を構わず紹介されることも多い中で、出資を軸に自分たちでシナジーのありそうな企業を探せるのは大きなメリットでした。

あと、担当アドバイザーが「リバースピッチ」を提案してくれたのもよかったです。当社から探しに行くのではなく、スタートアップから来てくれたので、相手探しの負荷がかなり減って助かりました。

儀間:私たちの事業は専門的で、なかなか理解してもらえないことも多いんですが、「資金調達クラウド」のアドバイザーは、根気強くやり取りする中で事業の解像度を着実に上げて、結果的にピッタリな企業とつないでくれました。成約まで、当社にずっと期待して伴走し続けてくれたのがありがたかったです。

これからは作っていただいたご縁をしっかりと形にしていきたいです。

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